StudyMed医師国家試験

昆布の食べすぎで甲状腺が働かなくなる?―ヨウ素過剰とWolff-Chaikoff効果

第111回医師国家試験 I問題 第59問

国試問題にチャレンジ

第111回 I問題 第59問

52歳の女性。生来健康であったが,1週間前の健康診断でコレステロール高値と甲状腺腫とを指摘され来院した。「1か月前に郷里の親戚が昆布を大量に送ってきたので毎日沢山食べていた」とのことである。  予想される検査所見はどれか。

  1. a.CK低値
  2. b.FT4低値
  3. c.TSH低値
  4. d.TRAb陽性
  5. e.抗TPO抗体と抗サイログロブリン抗体がともに陰性

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、食生活のエピソードから甲状腺機能の変化を予測する問題だ。注目してほしいのは「昆布を毎日大量に食べていた」という病歴と、健診で見つかった「コレステロール高値」と「甲状腺腫」の組み合わせ。この3つをつなぐ病態を考えてみよう。
医学生医学生
昆布はヨウ素が多いですよね。ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料なので、たくさん摂ればホルモンが増えて機能亢進になるのかと思いました。
ドクタードクター
多くの人がそう考えるところだね。でも実際は逆のことが起こりうる。血中のヨウ素濃度が急に大きく上がると、甲状腺内でヨウ素をサイログロブリンのチロシン残基に結合させる「有機化」が抑えられて、ホルモン合成がかえって低下するんだ。これをWolff-Chaikoff効果という。
医学生医学生
生理学の講義で名前だけ聞いた覚えがあります。でも、それなら昆布を食べる日本人はみんな機能低下になりませんか。
ドクタードクター
鋭い疑問だ。正常な甲状腺は数日から数週で、ヨウ素の取り込み自体を減らしてこの抑制から抜け出す。これをエスケープ現象と呼ぶ。ところが慢性甲状腺炎、つまり橋本病のように甲状腺に基礎疾患があると、エスケープがうまく働かず、ヨウ素過剰が続くあいだ機能低下が続いてしまうんだ。
医学生医学生
なるほど、もともと橋本病の素地がある人が昆布をたくさん食べると、表に出てくるわけですね。では、コレステロール高値と甲状腺腫はどう説明できますか。
ドクタードクター
甲状腺ホルモンが減ると肝臓のLDL受容体の発現が下がって、LDLの取り込みが減るから、LDLコレステロールが上がる。そしてホルモン低下に反応して下垂体がTSHを多く出し、その刺激で甲状腺が腫れる。どちらも原発性甲状腺機能低下症でよく説明できる所見なんだ。
医学生医学生
ということは、FT4は低値になっているはずですね。
ドクタードクター
その通り、FT4低値が予想される所見で、これが正解だ。ほかの選択肢も確認しよう。TSH低値はどうかな。
医学生医学生
原発性の機能低下ならネガティブフィードバックが外れてTSHは上がるので、低値は合わないと思います。
ドクタードクター
正解。TSH低値はBasedow病などの甲状腺中毒症や、下垂体・視床下部が原因の中枢性甲状腺機能低下症でみられる所見だ。同じ理由で、TRAb陽性も合わない。TRAbはTSH受容体を刺激してホルモンを過剰に作らせるBasedow病の自己抗体で、Basedow病ならむしろコレステロールは下がるし、動悸や体重減少が出てくる。
医学生医学生
CK低値も機能亢進側の所見でしたよね。CBTの勉強で、機能低下症ではCKが上がると覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。甲状腺機能低下症では筋からCKが漏れやすくなり、クリアランスも遅くなるので血清CKは上昇しやすい。CKが低くなりやすいのは甲状腺機能亢進症のほうだ。では、抗TPO抗体と抗サイログロブリン抗体がともに陰性、という選択肢はどう考える?
医学生医学生
ヨウ素を食べただけで自己抗体ができるわけではないので、陰性でもおかしくない気がしますが……。
ドクタードクター
そこが考えどころだ。確かにヨウ素が抗体を作るわけではない。でも、ヨウ素過剰で機能低下が持続して甲状腺腫まで出ているということは、エスケープを妨げる橋本病が背景にある可能性が高い。だから両抗体がともに陰性とは予想しにくく、むしろ陽性を想定して検査すべきなんだ。
医学生医学生
背景疾患まで推測して検査結果を予想する、という発想ですね。治療はやっぱりホルモン補充ですか。
ドクタードクター
まずはヨウ素の摂取を控えることが基本で、それだけで多くは甲状腺機能が回復する。補充療法が必要かどうかは、その後の経過を見て判断することになる。
医学生医学生
内分泌内科の実習で、うがい薬を毎日使っていた患者さんがTSH高値だったのを思い出しました。あれも同じ仕組みでしょうか。
ドクタードクター
いい連想だ。ポビドンヨードのうがい薬、ヨード造影剤、アミオダロンなどヨウ素を多く含む薬剤でも甲状腺機能異常は起こりうる。逆にヨウ素欠乏地域の結節性甲状腺腫などでは、ヨウ素を大量に与えると甲状腺中毒症になることがあり、これはJod-Basedow現象と呼ばれる。また、無機ヨウ素がBasedow病の甲状腺クリーゼや術前処置に使われるのは、まさにWolff-Chaikoff効果を利用したものなんだ。問診で海藻の摂取量や使用している薬剤を確認する習慣をつけておこう。

まとめ

昆布などによるヨウ素の過剰摂取では、Wolff-Chaikoff効果によって甲状腺ホルモンの合成が抑制されます。正常な甲状腺ではエスケープ現象で回復しますが、橋本病など基礎疾患があると機能低下が持続し、FT4低値・TSH高値に加え、LDLコレステロール上昇、CK上昇、TSH刺激による甲状腺腫がみられます。TSH低値、TRAb陽性、CK低値、コレステロール低値はBasedow病など甲状腺中毒症側の所見であり、背景に橋本病が多いことから甲状腺自己抗体は陽性を想定して検査します。治療はまずヨウ素摂取の制限で、多くは可逆的です。ヨウ素が甲状腺機能を抑制にも亢進にも傾けうることを理解しておくと、食事歴や薬剤歴から甲状腺機能異常を見抜く臨床力につながります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・52歳女性。健康診断でコレステロール高値と甲状腺腫を指摘された。 ・1か月前から昆布を毎日大量に食べている。昆布はヨウ素(ヨード)を非常に多く含む食品である。

病態の考え方

甲状腺ホルモン(T4、T3)はヨウ素を材料として甲状腺で合成される。しかし血中のヨウ素濃度が急に大きく上がると、甲状腺内でのヨウ素の有機化(サイログロブリンのチロシン残基にヨウ素を結合させる反応)が抑えられ、ホルモン合成がかえって低下する。これをWolff-Chaikoff効果という。正常な甲状腺では数日~数週で、ヨウ素の取り込み自体を減らすことによりこの抑制から抜け出す(エスケープ現象)ため、機能低下は持続しない。一方、慢性甲状腺炎〈橋本病〉などで甲状腺に基礎疾患があるとエスケープがうまく働かず、ヨウ素過剰が続く間、甲状腺機能低下症が起こる。日本人は海藻からのヨウ素摂取が多く、昆布の過食による甲状腺機能低下症はよく知られている。 甲状腺ホルモンが減ると、肝臓のLDL受容体の発現が低下してLDLの取り込みが減るため、LDLコレステロールが上昇する。また、ホルモン低下に反応して下垂体からTSH〈甲状腺刺激ホルモン〉の分泌が増え、その刺激で甲状腺が腫大する。本例のコレステロール高値と甲状腺腫は、ヨウ素過剰による甲状腺機能低下症でよく説明できる。

予想される検査所見

原発性甲状腺機能低下症のパターンとして、FT4〈遊離サイロキシン〉低値とTSH高値が予想される。ほかに、CK〈クレアチンキナーゼ〉上昇、LDLコレステロール上昇がみられやすい。背景に橋本病があることが多いため、抗TPO抗体〈抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体〉や抗サイログロブリン抗体が陽性になっている可能性も高い。治療は、まずヨウ素の摂取を控えることであり、多くは甲状腺機能が回復する。

選択肢考察

  1. ×a.  CK低値

    甲状腺機能低下症では筋の代謝が変化して筋細胞からCKが漏れ出しやすくなり、またCKの代謝(クリアランス)も遅くなるため、血清CKは上昇することが多い。CKが低値になりやすいのは、逆に甲状腺機能亢進症である。本例で予想されるのはCK高値であり、CK低値ではない。

  2. ○b.  FT4低値

    大量のヨウ素摂取によりWolff-Chaikoff効果が働き、甲状腺ホルモンの合成が低下している状態と考えられる。コレステロール高値と甲状腺腫という甲状腺機能低下症を示唆する所見とも合致し、FT4は低値になっていると予想される。

  3. ×c.  TSH低値

    甲状腺自体のホルモン合成が落ちる原発性甲状腺機能低下症では、ネガティブフィードバックが弱まるため下垂体からのTSH分泌が増え、TSHは高値になる。TSH低値は、Basedow病などの甲状腺中毒症や、下垂体・視床下部の障害による中枢性甲状腺機能低下症でみられる所見であり、本例には合わない。

  4. ×d.  TRAb陽性

    TRAb〈TSH受容体抗体〉はBasedow病で陽性となる自己抗体で、TSH受容体を刺激して甲状腺ホルモンの過剰産生を起こす。Basedow病ではむしろコレステロールが低下し、動悸・体重減少・発汗などの症状がみられる。生来健康で、ヨウ素過剰摂取という病歴とコレステロール高値からは甲状腺機能低下症が考えられ、TRAb陽性は予想されない。

  5. ×e.  抗TPO抗体と抗サイログロブリン抗体がともに陰性

    抗TPO抗体と抗サイログロブリン抗体は、橋本病で陽性となる甲状腺自己抗体である。ヨウ素の摂取自体が抗体を作るわけではないが、ヨウ素過剰で機能低下が持続して甲状腺腫まで出現する例では、エスケープ現象を妨げる橋本病が背景にあることが多い。したがって両抗体がともに陰性であるとは予想しにくく、むしろ陽性である可能性を考えて検査する。

ヨウ素と甲状腺機能

・Wolff-Chaikoff効果:ヨウ素の大量摂取で甲状腺ホルモン合成が一時的に抑制される現象。正常甲状腺ではエスケープ現象により数日~数週で回復する。 ・ヨウ素誘発性甲状腺機能低下症:橋本病、甲状腺の手術後や放射性ヨウ素治療後など、甲状腺に基礎疾患があるとエスケープできず機能低下が持続する。ヨウ素制限で改善することが多い。 ・Jod-Basedow現象:逆に、ヨウ素欠乏地域の結節性甲状腺腫などでは、ヨウ素を大量に与えると甲状腺ホルモンが過剰に作られて甲状腺中毒症が起こることがある。 ・臨床での応用:無機ヨウ素(ヨウ化カリウム)はWolff-Chaikoff効果を利用して、Basedow病の甲状腺クリーゼや術前処置に用いられる。ヨウ素を多く含む薬剤(アミオダロン、ヨード造影剤、ポビドンヨードのうがい薬)でも甲状腺機能異常が起こりうる。

原発性甲状腺機能低下症の検査所見

・FT4低値、TSH高値(潜在性甲状腺機能低下症ではFT4正常でTSHだけ高値) ・CK上昇、LDLコレステロール上昇、AST・LDの上昇、低ナトリウム血症、貧血など ・原因が橋本病なら抗TPO抗体・抗サイログロブリン抗体陽性

主な症状

寒がり、易疲労感、体重増加、便秘、皮膚乾燥、粘液水腫(圧痕を残さない浮腫)、嗄声、徐脈、アキレス腱反射の弛緩相遅延、月経異常など。

甲状腺中毒症との対比

Basedow病:FT4高値、TSH低値、TRAb陽性、コレステロール低値、CK低値になりやすい。

POINT

・昆布などによるヨウ素の過剰摂取 → Wolff-Chaikoff効果で甲状腺ホルモン合成が低下 → 甲状腺機能低下症(とくに橋本病が背景にある人)。 ・原発性甲状腺機能低下症:FT4低値、TSH高値、CK高値、LDLコレステロール高値。 ・TSH低値・TRAb陽性・CK低値・コレステロール低値は甲状腺機能亢進症(Basedow病)の所見。 ・治療はまずヨウ素の摂取制限であり、多くは可逆的である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。