StudyMed医師国家試験

「あの日の午後を覚えていますか」―一過性のぼんやりに隠れた解離を見抜く最初の一問

第111回医師国家試験 I問題 第51問

国試問題にチャレンジ

第111回 I問題 第51問

17歳の女子。言動が不自然であることを心配した両親に連れられて来院した。高校1年生の頃から「学校が面白くない」と言って,学校に行かず家にいるか買い物などに出かけている日があった。一昨日は学校を休んで1人で自宅にいた。その日の午後,祖母が家に訪ねてきたが,ぼんやりしており会話が普段より遅くまとまりが悪かった。夕方に母親が帰宅したときは普段と変わりはなかった。  この患者にまず行う質問として,最も適切なのはどれか。

  1. a.「最近1年間で学校を何日休みましたか」
  2. b.「実際にはいない人の声が聴こえますか」
  3. c.「最近ストレスに感じていることはありますか」
  4. d.「今日の朝食のおかずの内容を覚えていますか」
  5. e.「一昨日,お祖母さんが来ていたのを覚えていますか」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は精神科の面接問題だ。診断名を答えるのではなく、「最初に何を聞くか」が問われている。注目してほしいのは、異常が数時間だけ現れて自然に元に戻ったという時間経過と、その背景にある学校生活への不適応だ。まず、このエピソードをどう捉えるかな。
医学生医学生
ぼんやりして会話のまとまりが悪かったので、最初は統合失調症の初期かと思いました。思春期ですし。
ドクタードクター
年齢的に頭に浮かぶのは自然だね。ただ、統合失調症なら症状はある程度持続し、生活機能も少しずつ落ちていくことが多い。今回は午後だけおかしくて、夕方にはすっかり普段通り。この「一過性で、自然に戻る」点がとても大事なんだ。
医学生医学生
数時間で戻るなら、意識の問題でしょうか。救急外来の実習で、てんかん発作後のもうろう状態の患者さんを見ました。
ドクタードクター
いい連想だ。一時的に意識が狭まったり変容したりした状態と考えられる。鑑別には、意識減損を伴う焦点てんかん発作、薬物やアルコール、低血糖などの器質的・物質的な原因が挙がる。そして、心理的葛藤を抱えた思春期の女性にストレス状況下で起こり、自然に回復したとなると、まず疑いたいのが解離性障害だ。
医学生医学生
解離って、講義では多重人格のイメージが強くて、正直つかみにくかったです。
ドクタードクター
本来はひとつにまとまっている意識・記憶・自己同一性・知覚などの統合が、一時的に失われる状態のことだよ。ポイントは、その間の出来事を本人が思い出せないことが多いこと。実はてんかん発作でも発作中の記憶は抜けやすい。だからどの原因を考えるにしても、異常があった時間帯を本人がどれだけ覚えているかが最初の手がかりになるんだ。
医学生医学生
それなら、一昨日お祖母さんが来ていたのを覚えているか尋ねる質問が正解ですね。
ドクタードクター
その通り。異常が見られた場面を具体的に挙げて記憶を確かめる質問だ。抜け落ちていれば解離や発作の可能性が高まり、覚えていれば、そのときの状況や気持ちを続けて聴くことで背景の葛藤に迫れる。責める響きがなく答えやすいのも、最初の質問として優れている点だね。
医学生医学生
学校を何日休んだかを聞くのは、不登校が背景にあるので大事そうに思えましたが。
ドクタードクター
受診理由はあくまで一昨日の言動の異常で、欠席日数を知っても病態は見えてこない。それに、いきなり休んだ日数を聞かれたら、本人は責められていると感じるかもしれない。ラポール形成の点でも最初には向かないね。
医学生医学生
OSCEの医療面接でも、最初は相手が話しやすい質問から入るように教わりました。幻聴の有無はどうでしょう。
ドクタードクター
幻聴の確認は統合失調症などの精神病性障害を疑うときには大切だけど、今回は持続的な陽性症状を示す情報がなく、数時間で完全に回復している。積極的に疑う根拠が乏しいから、まず聞くことではないんだ。
医学生医学生
ストレスを尋ねる質問は、解離の背景を探るなら一番直接的な気がします。
ドクタードクター
そこが落とし穴だね。解離では葛藤が無意識のうちに処理されていることが多く、本人は自覚していない。正面から聞いても有用な答えは得にくいんだ。いずれは聴取すべき情報だけど、順番としては後になる。今朝の朝食を覚えているかという質問はどうだろう。
医学生医学生
あれは長谷川式みたいに、認知症の近時記憶障害を評価するときの質問ですね。今回問題なのは一昨日の午後だけなので、ずれています。
ドクタードクター
完璧だ。発展として押さえておきたいのは、解離性障害の診断には器質的疾患の除外が欠かせないということ。脳波でてんかんを評価し、物質使用や低血糖なども確認する。DSM-5では解離性健忘、解離性同一症、離人感・現実感消失症などに分類され、心因性の失立失歩や失声は変換症として別の群に入る点も混同しやすいよ。
医学生医学生
治療はどうするんですか。
ドクタードクター
支持的精神療法が中心で、安心できる環境と治療関係を整え、背景のストレスへの対処を一緒に考えていく。症状を強く問い詰めたり、症状を出すことで得をする状況、いわゆる疾病利得を強めたりしないよう配慮することも大切だ。
医学生医学生
症状そのものを追及するのではなく、記憶の欠落をそっと確かめるところから始めるんですね。
ドクタードクター
そう。「何が起きていたか」をまず本人の記憶から確かめる。それが診断にも治療関係にもつながる第一歩なんだ。

まとめ

思春期の患者で、心理的葛藤を背景に一過性のぼんやりした状態やまとまりの悪さが生じ、数時間で自然に回復した場合は、解離性障害をまず考えます。最初に行うべきは、異常が見られた時間帯の出来事を本人が覚えているかを具体的に尋ね、健忘の有無を確かめることで、これはてんかん発作など器質的原因との鑑別にも役立ちます。幻聴の確認は統合失調症、直近の出来事の想起は認知症などの近時記憶障害の評価に用いる質問であり、ストレスの直接的な質問は本人が葛藤を自覚していないことが多いため最初には適しません。欠席日数のように責められていると感じさせる質問はラポール形成を妨げます。病態を見極める情報価値と患者の答えやすさの両方から最初の質問を選ぶ姿勢は、精神科に限らずあらゆる医療面接の基本となります。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・17歳女子。高校1年生の頃から「学校が面白くない」と言って登校しない日があり、学校生活への不適応、つまり何らかの心理的葛藤の存在がうかがわれる。 ・一昨日、学校を休んで1人で家にいた日の午後、訪ねてきた祖母から見て、ぼんやりしており、応答が遅く会話のまとまりが悪かった。 ・同じ日の夕方、母親の帰宅時には普段どおりに戻っていた。つまり数時間以内に自然に回復する一過性のエピソードである。

診断へのプロセス

一過性に「ぼんやりして反応が遅く、まとまりを欠く」状態は、意識の狭窄・変容が一時的に生じたことを示す。思春期で心理的葛藤を背景にもつ患者に、ストレス状況下で短時間このような状態が起こり自然に戻ったことから、まず解離性障害(解離症)が疑われる。解離とは、通常は一つにまとまっている意識・記憶・自己同一性・知覚などの統合が一時的に失われる状態であり、その間の出来事を本人が思い出せない(健忘を残す)ことが多い。 ただし一過性の意識変容の鑑別としては、意識減損を伴う焦点てんかん発作(いわゆる複雑部分発作)、薬物・アルコールなどの物質使用、低血糖なども挙がる。これらでも発作中の記憶は欠落しやすい。いずれにせよ、異常がみられた時間帯について本人が何を覚えているか(記憶の欠落の有無と範囲)を確かめることが、病態を見極める最初の手がかりとなる。

設問への考え方

「まず行う質問」は、最も重要な情報を得られ、かつ患者を責めずに答えやすい質問である。問題となっているのは一昨日午後の出来事なので、その場面の記憶を具体的に尋ねる質問が最優先となる。学校を休んだことの詮索や、根拠の乏しい症状(幻聴)の確認、本人が自覚しにくい心理的原因の追及は、初めに行う質問として適切ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  「最近1年間で学校を何日休みましたか」

    受診の理由は不登校そのものではなく、一昨日にみられた一過性の言動の異常である。欠席日数を最初に尋ねても今回のエピソードの病態は明らかにならない。また、責められていると患者が受け取れば信頼関係(ラポール)の形成を妨げるおそれがあり、最初の質問としてはふさわしくない。

  2. ×b.  「実際にはいない人の声が聴こえますか」

    幻聴の有無の確認は、統合失調症などの精神病性障害を疑う場合に重要な質問である。しかし本例のエピソードは数時間で完全に回復しており、持続的な陽性症状や生活機能の低下を示す情報もない。統合失調症を積極的に疑う根拠に乏しく、まず確認すべき事項ではない。

  3. ×c.  「最近ストレスに感じていることはありますか」

    解離性障害の背景には心理的葛藤やストレスがあり、いずれは聴取すべき情報である。しかし解離では葛藤が無意識のうちに処理されていることが多く、本人が自覚していないため、直接尋ねても有用な答えが得られにくい。まずは異常があった場面そのものの記憶を確認することが優先される。

  4. ×d.  「今日の朝食のおかずの内容を覚えていますか」

    直近の出来事を思い出せるかを問う質問で、認知症などに伴う近時記憶障害(新しいことを覚えて保持する力の低下)を評価する際に用いられる。本例で問題となっているのは一昨日午後の限られた時間帯の状態であり、今朝の記憶を尋ねてもそのエピソードの性質はわからない。

  5. ○e.  「一昨日,お祖母さんが来ていたのを覚えていますか」

    異常がみられた時間帯の出来事を本人が記憶しているかを具体的に確認する質問である。その時間帯の記憶が抜け落ちていれば、意識・記憶の統合が一時的に失われていた(解離していた)可能性が高まり、てんかん発作などとの鑑別を進めるうえでも重要な情報となる。覚えている場合は、そのときの状況や気持ちを続けて聴くことで、エピソードの性質や背景の葛藤に迫る糸口となる。責める響きがなく患者が答えやすい点でも、最初の質問として適切である。

解離性障害(解離症)の概要

心理的葛藤や心的外傷、強いストレスを背景に、意識・記憶・自己同一性・知覚・運動などの通常は統合されている機能が部分的または全体的に失われる病態である。思春期〜若年成人の女性に多い。DSM-5(米国精神医学会の診断基準)では主に以下に分類される。 ・解離性健忘:重要な個人的情報、特に外傷的・ストレスの強い出来事を思い出せない。遁走(目的なく放浪し、その間の記憶がない)を伴うことがある。 ・解離性同一症(かつての多重人格障害):二つ以上の別個の人格状態が存在し、日常的な出来事の想起に空白が生じる。 ・離人感・現実感消失症:自分が自分でない感覚、周囲が現実でないような感覚が持続・反復するが、現実検討能力は保たれる。 なお、身体の運動・感覚の機能障害として現れるもの(心因性の失立失歩や失声など)は、DSM-5では変換症(機能性神経症状症)として身体症状症の群に分類される。

一過性の意識・記憶の障害の鑑別

・てんかん(意識減損を伴う焦点発作):数十秒〜数分程度の動作停止や自動症、発作後のもうろう状態。脳波で評価する。 ・物質関連障害:アルコール、睡眠薬、市販薬の乱用など。 ・代謝性:低血糖など。 ・解離性障害:心理的誘因との関連、器質的異常を示す所見がないこと。 器質的疾患の除外は解離性障害の診断に欠かせない。

治療

支持的精神療法を中心に、安心できる環境と治療関係を整え、背景の葛藤やストレスへの対処を進める。症状自体を強く問い詰めたり、疾病利得を強化したりしないよう配慮する。

POINT

・思春期の患者で、心理的葛藤を背景に一過性の意識狭窄・まとまりの悪さが生じ自然に回復した場合、解離性障害をまず考える。 ・最初に確認すべきは、異常がみられた時間帯の記憶の有無(健忘の有無)である。 ・解離の背景にある葛藤は本人が自覚していないことが多く、ストレスを直接尋ねても答えが得られにくい。 ・幻聴の確認は統合失調症、直近の出来事の想起は近時記憶障害(認知症など)を評価する質問である。 ・てんかん発作など器質的原因の除外も忘れない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。