StudyMed医師国家試験

腹部大動脈を上から下へ―椎体レベルで並べる分枝の地図

第111回医師国家試験 G問題 第37問

国試問題にチャレンジ

第111回 G問題 第37問

起始部が頭側 ―尾側の順に位置している組合せはどれか。2つ選べ。

  1. a.下腸間膜動脈 ―― 腎動脈
  2. b.下腸間膜動脈 ―― 精巣動脈
  3. c.下副腎動脈 ―― 下腸間膜動脈
  4. d.内腸骨動脈 ―― 精巣動脈
  5. e.腹腔動脈 ―― 上腸間膜動脈

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は腹部大動脈から出る枝が、どの高さで起始するかを問う解剖の問題だ。組合せの左側に書かれた動脈の起始部が、右側の動脈より頭側にあれば正解になる。左右というのは記載順のことで、体の左右とは関係ないから注意しよう。まずは主要な枝を上から順に並べられるかな。
医学生医学生
解剖学の講義で覚えたのは、腹腔動脈、上腸間膜動脈、腎動脈、下腸間膜動脈の順です。精巣動脈がどこに入るのかは自信がありません。
ドクタードクター
骨格はそれで合っているよ。椎体レベルで言うと、大動脈は第12胸椎の大動脈裂孔を通って腹腔に入り、腹腔動脈が第12胸椎下縁付近、上腸間膜動脈が第1腰椎付近、腎動脈が第1〜2腰椎付近、精巣動脈が第2腰椎付近、下腸間膜動脈が第3腰椎付近、そして第4腰椎付近で左右の総腸骨動脈に分かれる。もちろん個人差はあって、成書によって1椎体くらいの幅はある。
医学生医学生
精巣動脈は腎動脈のすぐ下なんですね。精巣は骨盤の下のほうにあるので、もっと下から出るイメージでした。
ドクタードクター
そこがこの問題の一番の落とし穴だね。精巣は胎生期に後腹壁の腎臓の近くで発生して、そこから陰嚢まで下降する。血管は発生した場所の近くから出たまま引き伸ばされるから、精巣動脈は高い位置から起始して長い道のりをたどるんだ。
医学生医学生
発生学で習った精巣下降と結びつくんですね。そうすると、下腸間膜動脈から精巣動脈という順は逆になりますね。
ドクタードクター
その通り。精巣動脈は第2腰椎付近、下腸間膜動脈は第3腰椎付近だから、下腸間膜動脈が先に来る組合せは頭側から尾側の順になっていない。同じ理由で、下腸間膜動脈から腎動脈という組合せも逆だ。腎動脈のほうが明らかに上だからね。
医学生医学生
内腸骨動脈から精巣動脈も逆ですよね。内腸骨動脈は総腸骨動脈のさらに先の枝なので。
ドクタードクター
そう。総腸骨動脈が仙腸関節の前、第5腰椎から第1仙椎付近で内腸骨動脈と外腸骨動脈に分かれる。第2腰椎付近の精巣動脈よりずっと下だ。では腹腔動脈から上腸間膜動脈はどうかな。
医学生医学生
腹腔動脈が消化管への枝で一番上なので、これは正しい順番です。
ドクタードクター
正解。腹腔動脈は臓側の不対枝で最も高位、上腸間膜動脈はその1cmほど下で起始する。残るのが下副腎動脈から下腸間膜動脈の組合せだ。ここで迷う人が多い。
医学生医学生
副腎の動脈って、腹部大動脈から直接出るのでしたっけ。CBTの勉強でも、上・中・下の区別があいまいでした。
ドクタードクター
副腎には3系統の動脈がある。上副腎動脈は下横隔動脈から、中副腎動脈は腹部大動脈から直接、下副腎動脈は腎動脈から分かれる。つまり下副腎動脈の起始部は腎動脈の高さ、第1〜2腰椎付近にあるわけだ。
医学生医学生
大動脈の直接の枝ではないけれど、起始の高さで比べれば下腸間膜動脈より上なので、頭側から尾側の順として正しいということですね。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。正解は、下副腎動脈から下腸間膜動脈と、腹腔動脈から上腸間膜動脈の2つになる。ここからは臨床とのつながりを見ておこう。消化管の3本の動脈は、腹腔動脈が前腸、上腸間膜動脈が中腸、下腸間膜動脈が後腸を灌流する。横行結腸の口側約3分の2までが上腸間膜動脈、残りが下腸間膜動脈の領域だ。
医学生医学生
消化器内科の実習で虚血性大腸炎の患者さんを担当したとき、脾彎曲部が好発部位だと教わりました。ちょうど境界領域だからでしょうか。
ドクタードクター
よく結びつけたね。灌流の境界は血流が乏しくなりやすい部位として知られている。ほかにも、上腸間膜動脈と大動脈の間を左腎静脈と十二指腸水平部が通るので、角度が狭いとナットクラッカー現象や上腸間膜動脈症候群が起こる。腹部大動脈瘤は腎動脈より下に生じることが多く、ステントグラフト治療では腎動脈との位置関係が重要になる。
医学生医学生
精巣静脈のほうも左右差がありましたよね。精索静脈瘤が左に多い理由だったと思います。
ドクタードクター
そう、左精巣静脈は左腎静脈にほぼ直角に注ぎ、右は下大静脈に直接注ぐ。左のほうが還流路が長く圧がかかりやすいから、精索静脈瘤は左に多い。血管の高さと走行を立体的にイメージできると、画像診断や手術の理解がぐっと楽になるよ。

まとめ

腹部大動脈の主な分枝は、頭側から腹腔動脈(第12胸椎付近)、上腸間膜動脈(第1腰椎付近)、腎動脈(第1〜2腰椎付近)、精巣・卵巣動脈(第2腰椎付近)、下腸間膜動脈(第3腰椎付近)の順に起始し、第4腰椎付近で総腸骨動脈に分かれ、内腸骨動脈はさらに第5腰椎〜第1仙椎付近で分岐します。精巣は腎臓近くで発生して下降するため精巣動脈は下腸間膜動脈より高位から出ること、下副腎動脈は腎動脈から分かれるため下腸間膜動脈より頭側にあることが判定のポイントです。消化管3動脈の灌流域や、上腸間膜動脈と左腎静脈・十二指腸の位置関係、腎動脈下に多い腹部大動脈瘤など、分枝の高さの知識は多くの疾患の理解につながります。椎体レベルという共通の物差しで血管を立体的に整理しておくことが、画像読影や手術解剖の基礎になります。

解答・解説

正解はc, eです

腹部大動脈(腹大動脈)から分かれる主要な枝の起始の高さ(椎体レベル)を問う問題である。設問は、各組合せの2つの動脈の起始部が「頭側→尾側」の順に並んでいるかを問うている。すなわち、組合せの前(「――」の左)に書かれた動脈の起始部が、後(「――」の右)に書かれた動脈の起始部より頭側(上方)にあれば正しい組合せとなる。ここでいう左・右は記載順のことであり、体の左右の位置関係は問われていない。

腹部大動脈の主な分枝と起始レベル(個人差あり)

腹部大動脈は横隔膜の大動脈裂孔(第12胸椎レベル)を通って腹腔に入り、第4腰椎レベルで左右の総腸骨動脈に分岐する。その間、頭側から順に次の枝を出す。 ・下横隔動脈:大動脈裂孔の直下(第12胸椎付近) ・腹腔動脈:第12胸椎下縁付近(臓側の不対枝で最も高位) ・上腸間膜動脈:第1腰椎付近 ・中副腎動脈:第1腰椎付近 ・腎動脈:第1〜2腰椎付近 ・精巣動脈(女性では卵巣動脈):第2腰椎付近(腎動脈のやや下) ・下腸間膜動脈:第3腰椎付近 ・総腸骨動脈への分岐:第4腰椎付近 さらに総腸骨動脈は仙腸関節の前(第5腰椎〜第1仙椎付近)で内腸骨動脈と外腸骨動脈に分かれる。 副腎へは上・中・下の3系統の副腎動脈が分布し、上副腎動脈は下横隔動脈から、中副腎動脈は腹部大動脈から直接、下副腎動脈は腎動脈から分かれる。 この順序を「腹腔動脈 → 上腸間膜動脈 → 腎動脈 → 精巣動脈 → 下腸間膜動脈 → 総腸骨動脈(→ 内腸骨動脈)」と覚えておけば、各組合せの上下関係を判定できる。

選択肢考察

  1. ×a.  下腸間膜動脈 ―― 腎動脈

    腎動脈は第1〜2腰椎付近、下腸間膜動脈は第3腰椎付近で腹部大動脈から分かれる。腎動脈の方が頭側にあるため、頭側→尾側の順としては逆である。

  2. ×b.  下腸間膜動脈 ―― 精巣動脈

    精巣動脈は腎動脈起始のやや下方、第2腰椎付近で腹部大動脈の前面から左右一対で分かれる。下腸間膜動脈(第3腰椎付近)より頭側に起始するため、順序が逆である。精巣は胎生期に後腹壁の腎臓近くで発生し、陰嚢へ下降するため、精巣動脈は高い位置から起始して長い経路をたどる。

  3. ○c.  下副腎動脈 ―― 下腸間膜動脈

    下副腎動脈は通常、腎動脈(第1〜2腰椎付近)から分かれる。したがってその起始部は、第3腰椎付近で腹部大動脈から出る下腸間膜動脈よりも頭側に位置する。下副腎動脈は腹部大動脈の直接の枝ではないが、起始部の高さで比較すれば頭側→尾側の順になっている。

  4. ×d.  内腸骨動脈 ―― 精巣動脈

    内腸骨動脈は、第4腰椎付近で大動脈から分かれた総腸骨動脈が、さらに仙腸関節の前(第5腰椎〜第1仙椎付近)で分岐したものである。精巣動脈は第2腰椎付近で腹部大動脈から起始するので、精巣動脈の方がはるかに頭側にあり、順序が逆である。

  5. ○e.  腹腔動脈 ―― 上腸間膜動脈

    腹腔動脈は第12胸椎下縁付近で腹部大動脈の前面から出る、腹部臓側枝のうち最も高位の枝である。上腸間膜動脈はその1cmほど下方、第1腰椎付近で起始する。したがって腹腔動脈→上腸間膜動脈は頭側→尾側の順として正しい。

腹部大動脈の分枝の分類

・不対性臓側枝(前面から出る消化管への枝):腹腔動脈、上腸間膜動脈、下腸間膜動脈 ・対性臓側枝:中副腎動脈、腎動脈、精巣(卵巣)動脈 ・壁側枝:下横隔動脈、腰動脈(4対)、正中仙骨動脈 ・終枝:左右の総腸骨動脈

消化管3動脈の灌流域

・腹腔動脈(前腸):胃、十二指腸の近位部、肝臓、胆嚢、膵臓の一部、脾臓。左胃動脈・総肝動脈・脾動脈の3枝に分かれる。 ・上腸間膜動脈(中腸):十二指腸遠位部から空腸、回腸、盲腸、上行結腸、横行結腸の口側約2/3まで。 ・下腸間膜動脈(後腸):横行結腸の肛門側約1/3、下行結腸、S状結腸、直腸上部。

臨床との関連

・上腸間膜動脈と腹部大動脈の間を左腎静脈と十二指腸水平部が通る。両動脈のなす角度が狭いと、左腎静脈が圧迫されるナットクラッカー現象や、十二指腸が圧迫される上腸間膜動脈症候群が生じる。 ・腹部大動脈瘤は腎動脈分岐部より下方(腎動脈下)に生じることが多く、ステントグラフト内挿術では腎動脈との位置関係が重要となる。 ・左精巣静脈は左腎静脈に、右精巣静脈は下大静脈に直接注ぐ。左側の方が還流路が長く、ほぼ直角に合流するため、精索静脈瘤は左側に多い。

POINT

・腹部大動脈の分枝の高さ:腹腔動脈(T12)→上腸間膜動脈(L1)→腎動脈(L1〜2)→精巣・卵巣動脈(L2)→下腸間膜動脈(L3)→総腸骨動脈への分岐(L4)。 ・内腸骨動脈は総腸骨動脈から第5腰椎〜第1仙椎付近で分かれる。 ・副腎動脈:上は下横隔動脈から、中は腹部大動脈から、下は腎動脈から分かれる。 ・精巣動脈は腎動脈のすぐ下で起始し、下腸間膜動脈より頭側である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。