溶接の光と雪山の照り返し―紫外線が狙う「眼の表面」を見抜く
第111回医師国家試験 G問題 第3問
国試問題にチャレンジ
紫外線が原因となるのはどれか。
- a.白血病
- b.熱中症
- c.電気性眼炎
- d.消化管出血
- e.アレルギー性結膜炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
紫外線は非電離放射線であり、皮膚や眼の表層でほぼ吸収されるため、障害は皮膚・角膜・結膜・水晶体に限られます。電気性眼炎は溶接のアーク光や殺菌灯、雪面の反射(雪眼)などで生じる急性の紫外線角膜炎で、曝露から数時間後に両眼の強い眼痛・羞明・流涙が出現し、多くは1〜2日で治癒します。白血病は電離放射線やベンゼン、抗癌薬などが原因であり、熱中症は熱バランスの破綻、アレルギー性結膜炎はⅠ型アレルギーによるもので、いずれも紫外線は原因になりません。紫外線の障害は、急性(日焼け・電気性眼炎)と慢性(光老化・皮膚癌・白内障・翼状片)に分けて整理しましょう。「どこまで届くか」という視点は、職業性疾患や環境要因による疾患を理解するうえでの基本になります。
解答・解説
正解はcです
テーマ
紫外線は可視光線より波長の短い(およそ100~400nm)電磁波で、物質を電離させる力はもたない非電離放射線に分類される。波長によって長い順にUVA(315~400nm)、UVB(280~315nm)、UVC(100~280nm)に分けられる。波長の短い紫外線ほど組織の浅いところで吸収されるため、影響は主に皮膚と眼の表面(角膜・結膜)、さらに水晶体に現れる。
正解を導く考え方
紫外線による健康障害は、急性のものと慢性のものに分けて整理するとよい。 ・急性:皮膚の日焼け(サンバーン)、眼の電気性眼炎(紫外線角膜炎) ・慢性:皮膚の光老化・日光角化症・皮膚癌、眼の白内障・翼状片 このほか、紫外線によって誘発・増悪する疾患(光線過敏症、色素性乾皮症、全身性エリテマトーデスなど)もある。 選択肢の中で紫外線を直接の原因とするのは、角膜上皮が紫外線で障害される電気性眼炎である。白血病は電離放射線との関連が知られるが、紫外線は電離放射線ではない点で区別する。
選択肢考察
- ×a. 白血病
紫外線は原因とならない。白血病の危険因子として知られるのは、電離放射線への被曝(原爆被爆者で増加したことが知られる)、ベンゼンなどの化学物質、アルキル化薬やトポイソメラーゼII阻害薬などの抗癌薬(治療関連白血病)、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1:成人T細胞白血病・リンパ腫の原因)、Down症候群などの先天異常である。紫外線は透過力が弱く皮膚の表層で吸収されるため、骨髄に影響を及ぼすことはない。
- ×b. 熱中症
紫外線は原因とならない。熱中症は、高温・多湿の環境や激しい運動によって体内で熱の産生と放散のバランスが崩れ、体温調節や循環・水分電解質の調節が破綻して起こる障害である。晴天下の屋外では日射も熱中症の誘因になるが、体を温めるのは主に赤外線や気温・湿度であり、紫外線が原因なのではない。
- ○c. 電気性眼炎
正しい。電気性眼炎は、強い紫外線(主にUVB・UVC)が角膜上皮に吸収されて上皮細胞が障害される急性の表層角膜炎(紫外線角膜炎)である。電気溶接のアーク光、殺菌灯のほか、雪面や水面に反射した日光(雪山で起こるものは雪眼〈雪目〉とよばれる)が原因となる。曝露直後には症状がなく、数時間(おおむね6~12時間)たってから、強い眼痛、異物感、羞明(まぶしさ)、流涙、結膜充血、眼瞼のけいれんが両眼に起こる。フルオレセイン染色で角膜に点状の表層角膜炎がみられる。上皮は再生が速いため、眼軟膏の点入や眼帯などで1~2日程度で治癒することが多い。遮光眼鏡やゴーグルの着用で予防できる。
- ×d. 消化管出血
紫外線は原因とならない。紫外線は皮膚と眼の表層で吸収され、消化管には届かない。消化管出血の原因としては、胃・十二指腸潰瘍(ピロリ菌感染や非ステロイド性抗炎症薬などによる)、食道・胃静脈瘤、悪性腫瘍、Mallory-Weiss症候群、大腸憩室出血、虚血性腸炎などが重要である。
- ×e. アレルギー性結膜炎
紫外線は原因とならない。アレルギー性結膜炎は、花粉(季節性)やダニ・ハウスダスト(通年性)などの抗原に対するⅠ型(即時型)アレルギー反応によって結膜に炎症が起こる疾患で、強いかゆみ、充血、流涙、眼脂を特徴とする。
紫外線の分類と到達部位
・UVA(315~400nm):オゾン層でほとんど吸収されずに地表に届く。真皮まで到達し、皮膚の光老化や即時型の黒化(色素沈着)に関与する。眼では水晶体まで届く。 ・UVB(280~315nm):大部分はオゾン層で吸収されるが、一部が地表に届く。表皮で吸収され、日焼けによる紅斑(サンバーン)、DNA損傷を介した皮膚癌の主な原因となる。眼では角膜炎や白内障に関与する。皮膚でのビタミンD合成にも必要である。 ・UVC(100~280nm):オゾン層で吸収され地表にはほとんど届かないが、殺菌灯や溶接のアーク光で発生し、人工光源による角膜障害の原因となる。
紫外線と関係する主な疾患
・眼:電気性眼炎(雪眼)、白内障、翼状片、瞼裂斑など。 ・皮膚:日焼け、光老化、日光角化症、基底細胞癌・有棘細胞癌・悪性黒色腫などの皮膚癌。 ・紫外線で誘発・増悪する疾患:色素性乾皮症(DNA修復の遺伝的異常があり、若年で皮膚癌が多発する)、ポルフィリン症、薬剤性光線過敏症、全身性エリテマトーデスの皮疹など。
電離放射線と非電離放射線の区別
X線やγ線などの電離放射線は、組織の奥深くまで透過してDNAを直接傷つけ、白血病や固形癌、急性放射線症候群の原因となる。紫外線・可視光線・赤外線・マイクロ波などは非電離放射線であり、健康影響は主に照射を受けた表層組織や熱作用に限られる。赤外線は白内障(ガラス工白内障)の原因として知られる。
POINT
・電気性眼炎は紫外線による急性の表層角膜炎で、溶接のアーク光や雪面の反射(雪眼)で起こる。 ・曝露後数時間たってから強い眼痛・羞明・流涙が両眼に出現し、1~2日程度で治癒することが多い。 ・紫外線による眼障害:電気性眼炎、白内障、翼状片。皮膚障害:日焼け、光老化、皮膚癌。 ・紫外線は非電離放射線であり、白血病の原因となる電離放射線とは区別する。
