「治療が終わってから」も予防は続く―がんの三次予防を時間軸で見分ける
第111回医師国家試験 E問題 第18問
国試問題にチャレンジ
一般市民を対象にした「がん」の教育講演を行った。 三次予防について述べているのはどれか。
- a.「禁煙や適度な運動はがんの予防に役立ちます」
- b.「日常生活を向上させるため手術後も治療を行うことがあります」
- c.「リスクファクターがある人は頻回に検診を行う必要があります」
- d.「大腸ポリープは悪性でなくても予防的に摘出することがあります」
- e.「遺伝子検査でがん発生確率が高い場合は予防的に手術する人もいます」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
疾病予防は、病気の発生を防ぐ一次予防、無症状のうちに見つけて早く治療する二次予防、診断・治療後に再発や機能障害の進行を防ぎ生活機能の回復と社会復帰を図る三次予防の3段階に分けられます。がんでは、禁煙・運動などの生活習慣改善、HPVワクチンやピロリ菌除菌、前がん病変である大腸腺腫の切除、BRCA1/2病的バリアント保持者のリスク低減手術が一次予防、がん検診が二次予防、術後の後遺症・合併症対策やリハビリテーション、就労支援が三次予防にあたります。「予防的」「手術」といった言葉に惑わされず、介入の時点でがんが存在するか、すでに診断・治療されたかという時間軸で判断することが要点です。治療後の人生が長くなった現代のがん医療では、三次予防の視点が患者の生活の質を支える基盤となります。
解答・解説
正解はbです
疾病予防は、病気の自然経過のどの段階に働きかけるかによって、一次予防・二次予防・三次予防の3段階に分けられる(Leavell と Clark の提唱した考え方がもとになっている)。 ・一次予防:病気がまだ発生していない段階で、発生そのものを防ぐ。生活習慣の改善などの健康増進と、予防接種や危険因子の除去などの特異的予防が含まれる。 ・二次予防:病気がすでに発生しているが自覚症状が乏しい段階で、早期に発見し早期に治療して、重症化や進行を防ぐ。検診(スクリーニング)がその代表である。 ・三次予防:病気が発症・治療された後の段階で、機能障害や合併症の進行を抑え、再発を防ぎ、リハビリテーションによって生活機能の回復と社会復帰を図る。 がんに当てはめると、禁煙・食生活・運動・感染対策・前がん病変の切除・リスクの高い臓器の予防的切除などが一次予防、がん検診による早期発見・早期治療が二次予防、治療後の再発予防・合併症対策・リハビリテーション・社会復帰支援が三次予防となる。 見分けるポイントは「がんがまだできていないか(一次)」「できているがまだ見つかっていないか(二次)」「すでに診断・治療されたあとか(三次)」という時間軸である。選択肢のうち、手術というがん治療を受けた後に、日常生活の質を高める目的で治療を続けることを述べているものが三次予防にあたる。
選択肢考察
- ×a. 「禁煙や適度な運動はがんの予防に役立ちます」
一次予防である。喫煙は肺癌をはじめ多くのがんの最大の危険因子の一つであり、運動不足も大腸癌などのリスクを高める。生活習慣を改善してがんの発生そのものを防ぐ取り組みであり、一次予防のうち健康増進(および危険因子の除去)に該当する。
- ○b. 「日常生活を向上させるため手術後も治療を行うことがあります」
三次予防である。手術によってがんの治療を受けた後に、機能の回復や合併症・後遺症への対処を通じて日常生活の質を高めようとするものであり、リハビリテーションや社会復帰の支援にあたる。病気が発症し治療を受けた後の段階で、障害の進行を防ぎ生活機能を回復させることが三次予防の目的である。例えば乳癌術後の上肢リンパ浮腫への対策や、喉頭摘出後の代用音声訓練などが該当する。
- ×c. 「リスクファクターがある人は頻回に検診を行う必要があります」
二次予防である。検診はがんを発生させないためのものではなく、すでに存在するが症状のないがんを早い段階で見つけ出し、早期に治療につなげるためのものである。リスクの高い人に検診を頻回に行うのも早期発見・早期治療を目的としており、二次予防に該当する。
- ×d. 「大腸ポリープは悪性でなくても予防的に摘出することがあります」
一次予防である。大腸癌の多くは腺腫性ポリープ(腺腫)から段階的に癌化して生じると考えられている(adenoma-carcinoma sequence)。癌になる前の前がん病変を切除して大腸癌の発生を防ぐことは、がんに対する発生予防であり一次予防に位置づけられる。
- ×e. 「遺伝子検査でがん発生確率が高い場合は予防的に手術する人もいます」
一次予防である。例えば遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)の原因となるBRCA1/2遺伝子に病的バリアントを持つ人では、がんが発生する前に乳房や卵巣・卵管を予防的に切除する選択肢がある。がんがまだ存在しない段階で発生を防ぐための手術であるため、一次予防に該当する。
予防の3段階の整理
・一次予防(発生予防) 健康増進:健康教育、栄養改善、運動、禁煙、節酒など 特異的予防:予防接種、危険因子の除去、職業病対策など がんの例:禁煙、HPVワクチン(子宮頸癌)、B型肝炎ワクチン(肝細胞癌)、ヘリコバクター・ピロリ除菌(胃癌)、前がん病変の切除、遺伝性腫瘍に対するリスク低減手術 ・二次予防(早期発見・早期治療) スクリーニング、健康診断、がん検診 がんの例:胃癌・大腸癌・肺癌・乳癌・子宮頸癌の検診 ・三次予防(重症化・再発予防とリハビリテーション) 機能障害の進行防止、再発予防、合併症対策、リハビリテーション、社会復帰支援 がんの例:術後の補助療法や経過観察、リハビリテーション、ストーマケア、就労支援、緩和ケアによる生活の質の維持
補足
「予防的」という言葉が付いていても、その時点でがんが発生していない段階での介入であれば一次予防と考える。一方、「検診」「早期発見」は二次予防、「治療後」「社会復帰」「機能回復」は三次予防のキーワードである。
POINT
・一次予防=発生予防(健康増進・特異的予防):禁煙、運動、ワクチン、前がん病変の切除、予防的手術 ・二次予防=早期発見・早期治療:検診、スクリーニング ・三次予防=治療後の重症化・再発予防、リハビリテーション、社会復帰 ・判断の軸は「がんが発生する前か、発生して未発見か、診断・治療後か」
