StudyMed医師国家試験

ヒューヒューは肺だけの音じゃない―心臓喘息を見抜く「Ⅳ音」という手がかり

第111回医師国家試験 C問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第111回 C問題 第15問

聴診上wheezesのある患者の病態として気管支喘息よりうっ血性心不全を疑わせる所見はどれか。

  1. a.Ⅳ音の出現
  2. b.咳嗽の増加
  3. c.頸静脈の虚脱
  4. d.呼吸数の増加
  5. e.起坐呼吸の出現

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、wheezesを聴取した患者で、気管支喘息ではなくうっ血性心不全を疑わせる所見を選ぶ問題だ。着眼点は「両方の病態に共通する所見」と「心臓にしか由来しない所見」を区別すること。まず、wheezesはどういう仕組みで生じる音だったかな。
医学生医学生
気道が狭くなったところを空気が通るときの、高調な連続性ラ音です。喘息の代表的な所見ですよね。
ドクタードクター
その通り。ただ、うっ血性心不全でもwheezesが聴かれることがある。肺うっ血や間質の浮腫で気管支壁がむくむと、気道が狭くなるからなんだ。これを心臓喘息と呼ぶ。
医学生医学生
呼吸器内科の講義で名前だけ聞きました。心臓の病気なのに「喘息」なんですね。
ドクタードクター
症状が喘息発作そっくりだからね。特に高齢者では両者の区別が難しい。しかも治療が全く違う。喘息なら気管支拡張薬やステロイド、心不全なら利尿薬や血管拡張薬が中心だ。だから見分ける所見を知っておくことが大切なんだ。では、心不全を疑わせる所見はどれだと思う?
医学生医学生
起坐呼吸でしょうか。左心不全の典型症状として習いました。
ドクタードクター
そこが落とし穴だね。確かに起坐呼吸は、臥位で静脈還流が増えて肺うっ血が悪化するため坐位を好むという左心不全の典型症状だ。でも、重症の喘息発作やCOPDの患者さんも座りたがるんだよ。
医学生医学生
あ、臨床実習の救急外来で、喘息発作の患者さんが前かがみに座って肩で息をしていました。
ドクタードクター
まさにそれ。坐位のほうが横隔膜や呼吸補助筋を使いやすく、痰も出しやすいからだ。だから起坐呼吸は心不全に特徴的とはいえても、喘息との区別の決め手にはならない。同じ考え方で、咳嗽の増加はどうかな。
医学生医学生
喘息は気道の炎症で咳が出るし、心不全も肺うっ血で咳が出ますね。どちらも夜間に悪化しやすいので、区別には使えなさそうです。
ドクタードクター
正解。呼吸数の増加も同じで、低酸素血症や呼吸仕事量の増加を反映する非特異的な所見だから、両方でみられる。では頸静脈の虚脱はどうだろう。
医学生医学生
心不全なら頸静脈は怒張するはずなので、虚脱は逆ですよね。
ドクタードクター
そう。右心系の圧が上がって静脈還流がうっ滞するから、心不全では頸静脈は怒張する。虚脱は脱水や出血などで循環血液量が減っているときの所見だ。もし選択肢が「頸静脈怒張」なら、心不全を疑う根拠になっていたね。
医学生医学生
となると残るのはⅣ音ですね。でも、Ⅳ音がどうして心不全を示すのか、いまいち説明できません。
ドクタードクター
そこを整理しよう。Ⅳ音は拡張末期、心房が収縮して血液を硬くなった心室へ押し込むときに生じる低調な音で、心房音とも呼ばれる。左室肥大や虚血性心疾患などで心室のコンプライアンス、つまり伸びやすさが落ちているときに聴かれるんだ。健常成人ではほとんど聴こえない。
医学生医学生
心臓そのものの異常を示す音だから、喘息では起こりえない、ということですね。
ドクタードクター
その通り。呼吸器の病気では出ない、心臓由来の所見だからこそ鑑別の決め手になる。ちなみに心房の収縮が必要なので、心房細動ではⅣ音は消えることも覚えておこう。
医学生医学生
Ⅲ音との違いもよく混乱します。OSCEの心音聴取でもベル型で聴くように言われました。
ドクタードクター
いい復習だね。Ⅲ音は拡張早期、心室への急速流入時に生じる低調音で、容量負荷や心室拡大を伴う心不全で聴かれる。ただし若年者や妊婦では生理的にも聴かれることがある。Ⅳ音は成人では原則として病的だ。どちらも低調だから、ベル型で心尖部を聴くのがコツだよ。
医学生医学生
実際の臨床では、聴診以外にどんなところを見て心臓喘息を疑えばいいですか。
ドクタードクター
心疾患や高血圧の既往、頸静脈怒張、下腿浮腫、肝腫大、水泡音の併存、ピンク色泡沫状痰などが手がかりになる。検査では胸部X線の心拡大・肺うっ血・胸水、そしてBNPやNT-proBNPの上昇が有用だ。逆に、若い頃からの発作の反復やアレルギー歴、気管支拡張薬への良好な反応は気管支喘息を示唆する。高齢者のwheezesを見たら、すぐに喘息と決めつけずに心臓の評価もする習慣をつけておこう。

まとめ

wheezesは気道狭窄で生じる音で気管支喘息の代表的所見ですが、うっ血性心不全でも気管支壁の浮腫によって生じることがあり、これを心臓喘息と呼びます。咳嗽、頻呼吸、起坐呼吸は両疾患に共通してみられるため鑑別の決め手にならず、心臓そのものの異常を示す所見を探すことが重要です。Ⅳ音は拡張末期の心房収縮時に硬くなった心室へ血液が流入して生じる音で、健常成人ではほとんど聴かれず、聴取されれば心疾患を示唆します(心房細動では消失)。ほかにⅢ音、頸静脈怒張、下腿浮腫、胸部X線での心拡大・肺うっ血、BNP上昇なども心不全を支持します。治療方針が大きく異なる両者を見分けるため、「共通する所見」と「心臓特有の所見」を分けて考える姿勢は、呼吸困難の患者を診る際の基本となります。

解答・解説

正解はaです

wheezes(笛音、連続性ラ音の一種で高調な「ヒューヒュー」という音)は、気道が狭くなった部分を空気が通過するときに生じる音であり、気管支喘息の代表的な所見である。しかし、うっ血性心不全でも肺うっ血や間質の浮腫によって気管支壁がむくみ、気道が狭くなるため、wheezes が聴かれることがある。この状態は心臓喘息(cardiac asthma)と呼ばれ、特に高齢者では気管支喘息との区別が問題になる。 両者は治療が大きく異なる(気管支喘息には気管支拡張薬・ステロイド、心不全には利尿薬・血管拡張薬など)ため、wheezes をみたときには「心臓に原因があることを示す所見」を探すことが重要である。本問では、呼吸器疾患ではみられず心疾患に特有の所見を選ぶ必要がある。 咳嗽、頻呼吸、起坐呼吸といった呼吸器症状は両疾患に共通してみられ、区別の決め手にならない。一方、Ⅲ音・Ⅳ音などの過剰心音(ギャロップ)や頸静脈怒張、下腿浮腫などは心臓の異常や体液貯留を示し、心不全を疑う根拠となる。この観点から、正解はⅣ音の出現である。

選択肢考察

  1. ○a.  Ⅳ音の出現

    Ⅳ音は拡張末期、心房収縮によって血液が硬くなった心室に勢いよく流入する際に生じる低調な心音である(心房音とも呼ばれる)。左室肥大(高血圧性心疾患、大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症)や虚血性心疾患などで心室のコンプライアンス(伸展性)が低下しているときに聴取される。健常成人ではほぼ聴かれないため、聴取されれば心疾患の存在を示唆する。気管支喘息では生じない所見であり、wheezes の原因として心不全を疑う根拠となる。したがって正しい。なお、心房収縮が必要なため心房細動ではⅣ音は聴かれない。

  2. ×b.  咳嗽の増加

    咳嗽は気管支喘息では気道の炎症・過敏性により、うっ血性心不全では肺うっ血により生じ、いずれの疾患でもみられる。両疾患とも夜間から早朝に悪化しやすい点も共通しており、咳嗽の増加は両者を区別する所見とはならない。したがって誤りである。

  3. ×c.  頸静脈の虚脱

    うっ血性心不全では、右心系の圧が上昇して静脈還流がうっ滞するため、頸静脈は虚脱ではなく怒張する。頸静脈の虚脱は脱水や出血などによる循環血液量の減少を示唆する所見である。したがって誤りである。

  4. ×d.  呼吸数の増加

    呼吸数の増加(頻呼吸)は低酸素血症や呼吸仕事量の増加を反映する非特異的な所見であり、喘息発作でもうっ血性心不全の増悪でもみられる。両疾患の区別には役立たないため誤りである。

  5. ×e.  起坐呼吸の出現

    起坐呼吸は、臥位で静脈還流が増えて肺うっ血が悪化するため坐位を好むという左心不全の典型的症状である。しかし、重症の喘息発作や COPD(慢性閉塞性肺疾患)でも、坐位のほうが横隔膜や呼吸補助筋を動かしやすく、気道分泌物も喀出しやすいため起坐呼吸がみられる。したがって気管支喘息より心不全を疑わせる決め手にはならず、誤りである。

心臓喘息と気管支喘息の比較

・共通点:夜間〜早朝の呼吸困難、wheezes、咳嗽、頻呼吸、起坐呼吸。 ・心臓喘息を示唆する所見:心疾患(虚血性心疾患、高血圧、弁膜症など)の既往、Ⅲ音・Ⅳ音(ギャロップ)、頸静脈怒張、下腿浮腫、肝腫大、水泡音(coarse crackles)の併存、ピンク色泡沫状痰、胸部X線での心拡大・肺うっ血・胸水、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)や NT-proBNP の上昇。 ・気管支喘息を示唆する所見:若年からの発作の反復、アレルギー歴、呼気延長、気管支拡張薬への良好な反応、好酸球増多。

過剰心音

・Ⅲ音:拡張早期、心室への急速流入時に生じる低調音。容量負荷・心室拡大を伴う心不全で聴かれる(若年者や妊婦では生理的にも聴かれることがある)。 ・Ⅳ音:拡張末期(前収縮期)、心房収縮時に生じる低調音。心室の硬さ(コンプライアンス低下)を反映し、成人では原則として病的である。心房細動では消失する。 ・いずれも低調であり、聴診器のベル型で心尖部を聴取すると聴き取りやすい。

Framingham 基準での心不全所見(例)

大項目には発作性夜間呼吸困難、頸静脈怒張、ラ音、心拡大、急性肺水腫、Ⅲ音、静脈圧上昇などがあり、小項目には下腿浮腫、夜間咳嗽、労作時呼吸困難、肝腫大、胸水、頻脈などが含まれる。咳嗽や呼吸困難などの症状は他疾患でも生じるため、心臓由来の所見と組み合わせて判断する。

POINT

・うっ血性心不全でも気管支壁浮腫により wheezes を生じる(心臓喘息)。 ・咳嗽、頻呼吸、起坐呼吸は喘息・心不全の両方でみられ、鑑別の決め手にならない。 ・Ⅲ音・Ⅳ音(ギャロップ)、頸静脈怒張、下腿浮腫、BNP 上昇は心不全を示唆する。 ・Ⅳ音は心室コンプライアンス低下を反映し、健常成人では聴かれない。心房細動では消失する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。