足の裏の膿疱は無菌だった―掌蹠膿疱症の「火元」はタバコと歯にある
第111回医師国家試験 B問題 第49問
国試問題にチャレンジ
55歳の男性。両側の手掌と足底に半年前から認める皮疹を主訴に来院した。鱗屑の苛性カリ〈KOH〉直接鏡検法で真菌を認めない。初診時の右足底の写真を別に示す。 診断に有用なのはどれか。2つ選べ。

- a.喫煙歴
- b.飲酒歴
- c.海外渡航歴
- d.歯科治療歴
- e.ペット飼育歴
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
手掌・足底に限局して膿疱・痂皮・鱗屑が混在する皮疹が慢性に続き、KOH直接鏡検で真菌が否定されれば、無菌性膿疱を特徴とする掌蹠膿疱症を考えます。本症の発症・増悪因子として喫煙、扁桃・歯・副鼻腔などの病巣感染、歯科金属アレルギーが知られており、問診では喫煙歴と歯科治療歴が特に重要です。一方、飲酒は乾癬の増悪因子、海外渡航歴は輸入感染症、ペット飼育歴は人獣共通感染症の手がかりであり、本症とは関連しません。胸鎖関節周囲の痛みや異常骨化を伴う掌蹠膿疱症性骨関節炎の合併にも注意が必要です。禁煙指導や歯科での感染巣治療、金属パッチテストなど誘因への対処が治療の土台となるため、背景因子を意識した問診の意義を理解しておきましょう。
解答・解説
正解はa, dです
所見の整理
・55歳男性。両側の手掌と足底に半年前から続く皮疹がある。左右対称に手掌・足底に限局して慢性に経過している点が特徴である。 ・写真では、右足底の土踏まず付近を中心に、紅斑の上に小さな膿疱や、膿疱が乾いて生じた褐色の痂皮、鱗屑が混在して散在している。新旧の皮疹が同時にみられる像である。 ・鱗屑の苛性カリ(KOH)直接鏡検法で真菌を認めない。KOH法は角質を溶かして菌糸や胞子を顕微鏡で確認する検査で、陰性であることから足白癬(特に小水疱・膿疱を生じる小水疱型足白癬)は否定的である。
診断
手掌・足底に限局する無菌性の小膿疱が、紅斑・痂皮・鱗屑を伴って慢性・再発性に生じていることから、掌蹠膿疱症と診断する。鑑別として足白癬(KOH法で否定)、汗疱・異汗性湿疹(小水疱が主体で膿疱は目立たない)、接触皮膚炎、膿疱性乾癬などが挙がる。
設問の考え方
掌蹠膿疱症は原因が完全には解明されていないが、発症や増悪に関わる因子として、喫煙と、病巣感染(扁桃炎、歯周炎・う歯、副鼻腔炎などの慢性感染巣)、歯科金属アレルギーがよく知られている。したがって、診断・治療方針の決定に役立つ問診事項は喫煙歴と歯科治療歴である。これらを聴取することで、禁煙指導、歯科での感染巣治療、金属パッチテストといった原因への対処につなげることができる。
選択肢考察
- ○a. 喫煙歴
掌蹠膿疱症の患者には喫煙者が非常に多いことが疫学的に示されており、喫煙は最も重要な増悪因子の一つである。ニコチンなどの成分が汗管周囲の炎症に関与すると考えられている。禁煙により皮疹が改善することがあるため、喫煙歴の確認と禁煙指導は診療上重要である。
- ×b. 飲酒歴
飲酒は尋常性乾癬の増悪因子として挙げられることはあるが、掌蹠膿疱症の発症や診断に関わる因子としては重視されていない。本症の診断に役立つ問診事項ではない。
- ×c. 海外渡航歴
海外渡航歴は輸入感染症(マラリア、デング熱、皮膚幼虫移行症、皮膚リーシュマニア症など)を疑うときに重要な情報であるが、掌蹠膿疱症は感染症そのものではなく、渡航との関連はない。
- ○d. 歯科治療歴
う歯(虫歯)、根尖病巣、歯周炎(歯槽膿漏)などの歯性の慢性感染巣が病巣感染として掌蹠膿疱症の誘因になることがある。また、歯科治療で用いられた金属(パラジウム、ニッケル、コバルト、クロムなど)に対するアレルギーが関与する例もある。歯科治療歴を聴取し、必要に応じて歯科での感染巣の治療や金属パッチテスト、金属の除去を検討することで皮疹が改善する場合がある。
- ×e. ペット飼育歴
ペット飼育歴は、動物から感染する白癬(イヌ小胞子菌など)、疥癬、ネコひっかき病などの人獣共通感染症を疑う場合や、動物の毛などによるアレルギーを考える場合に重要である。本例はKOH法で真菌が否定されており、掌蹠膿疱症とペット飼育には関連がない。
掌蹠膿疱症の概要
・手掌と足底に無菌性の小膿疱が多発し、新旧の皮疹(小水疱、膿疱、痂皮、鱗屑、紅斑)が混在する慢性炎症性疾患。良くなったり悪くなったりを繰り返す。膿疱の内容は無菌であり、細菌培養は陰性である。 ・好発年齢は30〜50歳代の中年で、日本ではやや女性に多いとされる。 ・発症・増悪因子:喫煙、病巣感染(扁桃炎、う歯・歯周炎・根尖病巣、副鼻腔炎など)、金属アレルギー(主に歯科金属)。 ・掌蹠外の症状:爪の変形(点状陥凹、肥厚など)、肘・膝・下腿などの乾癬様皮疹(掌蹠外皮疹)がみられることがある。 ・合併症:掌蹠膿疱症性骨関節炎(PAO)。前胸部の胸鎖関節・胸肋鎖骨間の痛みや腫脹、異常骨化が特徴で、脊椎や仙腸関節にも病変が及ぶことがある。滑膜炎・痤瘡・膿疱症・骨肥厚・骨炎をまとめたSAPHO症候群の一部として扱われることもある。
診断の進め方
・臨床所見(掌蹠に限局する膿疱と痂皮・鱗屑の混在) ・KOH直接鏡検で足白癬を除外する(白癬でも小水疱・膿疱を生じるため必須) ・問診:喫煙歴、扁桃炎の既往、歯科治療歴(う歯、金属の使用) ・必要に応じ金属パッチテスト、歯科・耳鼻咽喉科での感染巣検索
治療
・原因への対処:禁煙、歯性感染巣の治療、扁桃摘出術(扁桃病巣感染が疑われる例)、原因金属の除去 ・外用療法:ステロイド外用薬、活性型ビタミンD3外用薬 ・光線療法:ナローバンドUVB、エキシマライトなど ・内服療法:エトレチナート(ビタミンA誘導体)、シクロスポリン、ビオチン療法など ・重症例・骨関節炎合併例:生物学的製剤(抗IL-23抗体のグセルクマブなど)
病巣感染(焦点感染)
扁桃、歯、副鼻腔などの慢性感染巣自体の症状は乏しいのに、離れた臓器に二次的な病変を起こす病態。皮膚では掌蹠膿疱症のほか、尋常性乾癬、結節性紅斑、慢性蕁麻疹など、腎ではIgA腎症との関連が知られる。
POINT
・手掌・足底に限局する無菌性膿疱が痂皮・鱗屑とともに混在し、KOH法陰性なら掌蹠膿疱症を考える。 ・増悪因子は喫煙、病巣感染(扁桃・歯・副鼻腔)、歯科金属アレルギー。問診では喫煙歴と歯科治療歴が重要。 ・掌蹠膿疱症性骨関節炎(胸鎖関節・胸肋鎖骨の痛みと異常骨化)の合併に注意。 ・足底の膿疱・水疱をみたら、まずKOH法で足白癬を除外する。
