StudyMed医師国家試験

破れて散る薄皮のびらん―表皮の「浅さ」が教える落葉状天疱瘡

第111回医師国家試験 A問題 第34問

国試問題にチャレンジ

第111回 A問題 第34問

55歳の男性。全身の皮疹を主訴に来院した。1か月前から頭部,顔面,頸部および体幹に皮疹が出現し,徐々に拡大してきた。胸部の写真(A)と皮膚生検のH-E染色標本(B)とを別に示す。  診断として最も考えられるのはどれか。

第111回 A問題 第34問の問題画像
  1. a.疱疹状皮膚炎
  2. b.尋常性天疱瘡
  3. c.落葉状天疱瘡
  4. d.水疱性類天疱瘡
  5. e.後天性表皮水疱症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、全身に広がる皮疹の臨床写真と皮膚生検の組織像から、自己免疫性水疱症の病型を見分ける問題だ。着眼点は2つ。皮疹がどんな部位に、どんな見た目で出ているか。そして組織で「どの深さで」表皮が剥がれているか。まず写真の印象から聞いてみよう。
医学生医学生
水疱症の問題なのに、ぱんぱんに張った水疱はあまり見えません。紅斑の上に薄いかさぶたや鱗屑がのって、浅いびらんが散らばっている感じです。
ドクタードクター
よく観察できているね。緊満性の水疱が目立たないこと自体が大事なヒントなんだ。水疱の天井がごく薄いと、できた瞬間にすぐ破れてしまい、薄い鱗屑や痂皮が葉っぱのように散った像になる。分布も見てほしい。頭部、顔面、頸部、体幹というのは、どういう場所だろう。
医学生医学生
皮脂腺が多い、いわゆる脂漏部位ですね。最初は脂漏性皮膚炎かと思ってしまいました。
ドクタードクター
その連想は自然だよ。ただ、脂漏性皮膚炎は通常びらんや痂皮をつくらない。ここで組織を見よう。H-E染色では、角層のすぐ下から顆粒層あたりの、表皮のかなり上のほうに裂け目がある。その周りには、細胞同士の接着が外れて丸くなった細胞が浮いている。
医学生医学生
病理の講義で習った棘融解細胞ですね。表皮の中で裂けているので、表皮内水疱ということになりますか。
ドクタードクター
その通り。自己免疫性水疱症は、まず「表皮内水疱」か「表皮下水疱」かで大きく二分すると整理しやすい。表皮内で棘融解を伴うのが天疱瘡群で、表皮細胞同士をつなぐデスモソームのデスモグレインに対する自己抗体が原因。表皮下水疱は類天疱瘡群などで、基底膜部の分子が標的になる。
医学生医学生
天疱瘡というと、まず尋常性天疱瘡を思い浮かべます。これは違うんですか。
ドクタードクター
そこが一番の鑑別だね。尋常性天疱瘡は抗Dsg3抗体が主体で、口腔粘膜のびらんがほぼ必発、しかも初発症状になることが多い。組織では基底層のすぐ上で裂けて、基底細胞が基底膜上に一列に残る「墓石状」の像になる。今回は口腔病変の記載がなく、裂隙が表皮の上層にあるから合わない。
医学生医学生
裂け目が浅くて粘膜がやられていない、だから落葉状天疱瘡ということですね。
ドクタードクター
正解。落葉状天疱瘡は抗Dsg1抗体によるもので、Dsg1は皮膚の表皮上層に多く発現している。脂漏部位に鱗屑・痂皮を伴うびらんが出て、粘膜病変を欠くという臨床像も、表皮上層の棘融解という組織像も、すべて合致するんだ。
医学生医学生
でも、Dsg1が粘膜にもあるなら、粘膜もやられそうな気がします。
ドクタードクター
いい疑問だね。それを説明するのがデスモグレイン代償説だ。粘膜ではDsg3が全層に多く、Dsg1は少ない。だから抗Dsg1抗体だけなら、粘膜はDsg3で接着が保たれて病変が出ない。逆に皮膚の上層にはDsg3が少ないので代償がきかず、そこで剥がれる。抗Dsg3抗体だけなら粘膜優位、両方あれば粘膜と皮膚の両方が障害される、という理屈だ。
医学生医学生
抗体の種類で剥がれる深さと部位が決まるわけですね。CBTの勉強では丸暗記していたので、やっと腑に落ちました。残りの表皮下水疱の疾患もまとめて確認したいです。
ドクタードクター
水疱性類天疱瘡は、ヘミデスモソームのBP180やBP230に対する自己抗体による。高齢者に多く、浮腫性紅斑と緊満性水疱が強いかゆみを伴って多発し、組織は好酸球浸潤を伴う表皮下水疱だ。後天性表皮水疱症は係留線維のVII型コラーゲンが標的で、手背や肘、膝など外力のかかる部位に水疱ができ、瘢痕や稗粒腫を残しやすい。
医学生医学生
皮膚科の実習で、食塩水剥離皮膚を使った蛍光抗体法で両者を分けると教わりました。
ドクタードクター
よく覚えているね。1M食塩水で表皮と真皮を剥がすと、水疱性類天疱瘡では表皮側、後天性表皮水疱症では真皮側に抗体が反応する。疱疹状皮膚炎は表皮トランスグルタミナーゼなどに対するIgA抗体が関与し、セリアック病と関連する。肘や膝、殿部に強いかゆみのある小水疱が集簇し、真皮乳頭部に好中球の微小膿瘍と顆粒状のIgA沈着をみる。日本ではまれな疾患だ。どれも表皮下水疱だから、今回の像とは異なる。
医学生医学生
確定診断には、組織以外に何を調べればいいですか。
ドクタードクター
直接蛍光抗体法で表皮細胞間にIgGやC3が網目状に沈着していること、そして血清の抗Dsg1抗体をELISAなどで検出することだ。抗体価は病勢の指標にもなる。ベッドサイドでは、一見正常な皮膚をこすると表皮が剥がれるNikolsky現象や、水疱底を擦過して棘融解細胞を探すTzanck試験も参考になる。
医学生医学生
治療はステロイドでしょうか。
ドクタードクター
副腎皮質ステロイドの全身投与が中心で、必要に応じて免疫抑制薬、血漿交換、免疫グロブリン大量静注療法、抗CD20抗体のリツキシマブなどを組み合わせる。落葉状天疱瘡は尋常性天疱瘡に比べて比較的軽症のことが多いけれど、長期管理が必要な疾患だ。もう一つ覚えておきたいのが、表皮上層が剥がれる病気の仲間。ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群は、表皮剥脱毒素がDsg1を切断して起こる。つまり落葉状天疱瘡と同じ分子が、自己抗体ではなく細菌毒素で壊されているんだ。
医学生医学生
同じDsg1でも、壊し方が違うだけで剥がれる深さは同じになるんですね。面白いです。
ドクタードクター
そう、分子と深さを結びつけておけば、初めて見る皮疹でも組織から逆算できるようになるよ。

まとめ

脂漏部位に鱗屑・痂皮を伴う浅いびらんが多発し、粘膜病変を欠き、組織で表皮上層(角層下〜顆粒層)の棘融解を伴う裂隙を認めれば、抗Dsg1抗体による落葉状天疱瘡を考えます。尋常性天疱瘡は抗Dsg3抗体が主体で口腔粘膜病変がほぼ必発、組織では基底層直上で裂けるため、裂隙の深さと粘膜病変の有無で区別できます。水疱性類天疱瘡(BP180/BP230)、後天性表皮水疱症(VII型コラーゲン)、疱疹状皮膚炎(IgA沈着)はいずれも表皮下水疱です。粘膜と皮膚でのDsg1・Dsg3の分布の違いから病型を説明するデスモグレイン代償説を理解すれば、標的分子と水疱の深さ、臨床像を一貫して結びつけられます。確定には蛍光抗体法と血清抗体の測定を用い、治療はステロイド全身投与を中心に組み立てます。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・55歳男性。1か月前から頭部、顔面、頸部、体幹に皮疹が出現し、次第に拡大している。 ・病変の分布は頭部・顔面・前胸部・背部といった、皮脂腺の多い脂漏部位に一致している。口腔粘膜病変の記載はない。 ・胸部の写真(A)では、はっきりした緊満性水疱は目立たず、紅斑の上に薄い鱗屑・痂皮と浅いびらんが多発している。破れやすい弛緩性水疱が速やかに破れ、葉っぱが散るように薄い痂皮・鱗屑を付けた状態と考えられる。 ・H-E染色(B)では表皮の上層、角層直下から顆粒層付近に裂隙(水疱)がみられ、その周囲には細胞同士の接着が外れて丸くなった棘融解細胞がみられる。

診断へのプロセス

水疱・びらんをきたす自己免疫性水疱症は、組織学的に「表皮内水疱」か「表皮下水疱」かで大きく二分される。 ・表皮内水疱(棘融解を伴う):天疱瘡群。表皮細胞同士をつなぐデスモソームの構成タンパクであるデスモグレイン(Dsg)に対する自己抗体による。 ・表皮下水疱:類天疱瘡群、後天性表皮水疱症、疱疹状皮膚炎など。表皮と真皮をつなぐ基底膜部の分子が標的となる。 本例は表皮内、しかも表皮上層の裂隙と棘融解であり、天疱瘡群の中でも落葉状天疱瘡が考えられる。臨床的にも、脂漏部位に分布する鱗屑・痂皮を伴うびらんで、粘膜病変がない点が落葉状天疱瘡に合致する。 臨床像だけでは脂漏性皮膚炎や伝染性膿痂疹とも紛らわしいが、脂漏性皮膚炎は通常びらん・痂皮を形成せず、伝染性膿痂疹は主に小児の疾患である。最終的には組織像と、蛍光抗体法(表皮細胞間へのIgG沈着)や血清の抗Dsg1抗体の検出で確定する。

選択肢考察

  1. ×a.  疱疹状皮膚炎

    表皮トランスグルタミナーゼなどに対するIgA抗体が関与し、グルテン過敏性腸症(セリアック病)と関連する疾患である。肘頭・膝・殿部などに強いかゆみを伴う小水疱が環状・集簇性に出現する。組織では真皮乳頭部の好中球の微小膿瘍と表皮下水疱を示し、蛍光抗体法で真皮乳頭部に顆粒状のIgA沈着をみる。棘融解を伴う表皮内水疱ではなく、日本ではまれである。

  2. ×b.  尋常性天疱瘡

    Dsg3(粘膜優位型)またはDsg3とDsg1の両方(粘膜皮膚型)に対する自己抗体による。口腔粘膜のびらんがほぼ必発で、初発症状となることが多い。組織では基底層直上の裂隙と棘融解を示し、基底細胞が基底膜に一列に残る「墓石状」所見がみられる。本例は口腔病変の記載がなく、裂隙が表皮上層にあるため合わない。

  3. ○c.  落葉状天疱瘡

    Dsg1に対するIgG自己抗体による。Dsg1は表皮の上層に多く発現しており、粘膜では他のデスモグレイン(Dsg3)が接着を補うため、表皮上層(角層下〜顆粒層)に裂隙が生じ、粘膜病変は通常みられない。水疱は非常に浅く弛緩性ですぐ破れ、頭部・顔面・胸背部などの脂漏部位に、鱗屑・痂皮を伴う紅斑・びらんとして現れる。本例の分布、粘膜病変を欠く点、表皮上層の棘融解を伴う裂隙という組織像のすべてに合致する。

  4. ×d.  水疱性類天疱瘡

    ヘミデスモソームの構成タンパクであるBP180(XVII型コラーゲン)やBP230に対する自己抗体による。高齢者に多く、浮腫性紅斑と緊満性水疱が体幹・四肢に多発し、強いかゆみを伴う。組織は好酸球浸潤を伴う表皮下水疱で、蛍光抗体法では基底膜部に線状のIgG・C3沈着、1M食塩水剥離皮膚では表皮側に反応する。表皮内水疱である本例とは異なる。

  5. ×e.  後天性表皮水疱症

    基底膜直下の係留線維の主成分であるVII型コラーゲンに対する自己抗体による。外力を受けやすい手背・肘・膝などに水疱が生じ、治癒後に瘢痕や稗粒腫を残しやすい。組織は表皮下水疱で、1M食塩水剥離皮膚を用いた蛍光抗体法では真皮側に反応する点で水疱性類天疱瘡と区別される。表皮内水疱の本例とは異なる。

表皮の接着構造と自己免疫性水疱症

・表皮細胞(ケラチノサイト)同士はデスモソームで接着し、その主要構成分子がデスモグレイン(Dsg)である。表皮基底細胞と基底膜はヘミデスモソームで接着し、さらに係留線維(VII型コラーゲン)が真皮とつなぐ。 ・どの分子に自己抗体ができるかで、水疱のできる深さが決まる。

Dsgの分布と天疱瘡の病型(デスモグレイン代償説)

・皮膚:Dsg1は表皮全層(特に上層)、Dsg3は基底層付近に主に発現する。 ・粘膜:Dsg3が全層に多く、Dsg1は少ない。 ・抗Dsg1抗体のみ(落葉状天疱瘡):皮膚の上層ではDsg3による代償がないため表皮上層で剥離する。粘膜はDsg3で接着が保たれるため病変が出ない。 ・抗Dsg3抗体のみ(尋常性天疱瘡・粘膜優位型):粘膜は障害されるが、皮膚はDsg1で代償されるため皮疹は軽い。 ・抗Dsg1と抗Dsg3の両方(尋常性天疱瘡・粘膜皮膚型):粘膜と皮膚の両方に病変が出て、皮膚では基底層直上で剥離する。

天疱瘡の共通事項

・Nikolsky現象(一見正常な皮膚をこすると表皮が剥がれる)が陽性となる。 ・Tzanck試験(水疱底の擦過細胞診)で棘融解細胞を認める。 ・直接蛍光抗体法で表皮細胞間にIgG・C3が網目状に沈着する。血清抗Dsg1/Dsg3抗体はELISAなどで測定し、抗体価は病勢の指標となる。 ・治療の中心は副腎皮質ステロイドの全身投与で、免疫抑制薬、血漿交換療法、免疫グロブリン大量静注療法、抗CD20抗体リツキシマブなどを組み合わせる。落葉状天疱瘡は尋常性天疱瘡に比べて比較的軽症のことが多い。 ・その他の病型として、悪性リンパ腫などに伴う腫瘍随伴性天疱瘡、尋常性天疱瘡の亜型である増殖性天疱瘡、落葉状天疱瘡の亜型である紅斑性天疱瘡などがある。

水疱の深さによる整理

・角層下〜顆粒層:落葉状天疱瘡、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS。表皮剥脱毒素がDsg1を切断する)、伝染性膿痂疹 ・基底層直上:尋常性天疱瘡 ・表皮下:水疱性類天疱瘡、粘膜類天疱瘡、後天性表皮水疱症、疱疹状皮膚炎、線状IgA水疱性皮膚症

POINT

・天疱瘡=表皮内水疱+棘融解、抗デスモグレイン抗体(IgG)。 ・落葉状天疱瘡:抗Dsg1抗体、表皮上層(角層下)の裂隙、脂漏部位の鱗屑・痂皮を伴うびらん、粘膜病変なし。 ・尋常性天疱瘡:抗Dsg3(±Dsg1)抗体、基底層直上の裂隙、口腔粘膜病変がほぼ必発。 ・水疱性類天疱瘡(BP180/BP230)と後天性表皮水疱症(VII型コラーゲン)は表皮下水疱。食塩水剥離皮膚で前者は表皮側、後者は真皮側に反応。 ・疱疹状皮膚炎はIgA沈着、表皮下水疱、セリアック病と関連。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。