高カルシウム+低リン+ALP高値―健診の数値が語る副甲状腺の暴走
第110回医師国家試験 I問題 第42問
国試問題にチャレンジ
43歳の女性。職場の健康診断で血清ALPと血清Caの異常を指摘されて来院した。特に自覚症状はない。血液生化学所見:ALP 548 IU/L(基準115~359),Ca 11.8 mg/dL,P 2.3 mg/dL。 最も考えられるのはどれか。
- a.家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症
- b.家族性低リン血症性骨軟化症
- c.原発性副甲状腺機能亢進症
- d.続発性副甲状腺機能亢進症
- e.ビタミンD過剰摂取
対話形式の解説
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ドクターまとめ
高カルシウム血症に低リン血症とALP高値(骨代謝回転の亢進)が加われば、PTH作用の過剰を示すパターンであり、無症状で健診時に見つかった場合は原発性副甲状腺機能亢進症をまず考えます。PTHは骨吸収を促し、腎ではカルシウム再吸収を増やしてリン再吸収を抑えるため、カルシウムとリンが逆向きに動くのが特徴です。ビタミンD過剰ではリンは低下せず、続発性副甲状腺機能亢進症ではカルシウムは低値から正常、家族性低リン血症性骨軟化症ではカルシウムは上がらず、FHHは軽度の高カルシウムで骨代謝亢進を伴いにくくCa/Crクリアランス比で鑑別します。確定にはintact PTHの測定と病変の局在診断を行い、適応があれば腺腫摘出が根治療法となり、術後はhungry bone症候群に注意します。PTHの作用から検査値の組み合わせを読み解く考え方は、カルシウム代謝異常全般を理解する基礎になります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・43歳女性、健康診断で偶然見つかった検査値異常で、自覚症状はない。 ・血清Ca 11.8 mg/dL:基準値(おおむね8.5〜10.2 mg/dL)を超える高カルシウム血症である。 ・血清P 2.3 mg/dL:基準値(おおむね2.5〜4.5 mg/dL)を下回る低リン血症である。 ・ALP 548 IU/L:基準上限を超える上昇である。ALPは肝・胆道系由来のほか骨芽細胞からも産生され、骨の代謝回転(骨吸収と骨形成)が亢進すると骨型ALPが増える。
診断へのプロセス
高カルシウム血症をみたら、まず副甲状腺ホルモン(PTH)が関与するものか否かを考える。外来で無症状の患者に見つかる高カルシウム血症の原因として最も多いのは原発性副甲状腺機能亢進症で、入院患者では悪性腫瘍に伴うものが多い。 PTHには次の作用がある。 ・骨:破骨細胞による骨吸収を促し、骨からCaとPを放出させる。骨代謝回転が上がり、骨型ALPが上昇する。 ・腎:遠位尿細管でのCa再吸収を増やし、近位尿細管でのP再吸収を抑える(尿中P排泄の増加)。また、近位尿細管で活性型ビタミンD[1,25(OH)2D]の産生を促す。 ・腸管:活性型ビタミンDを介してCa吸収を増やす。 その結果、PTHが過剰になると「高Ca血症+低P血症」の組み合わせとなり、骨病変を伴えばALPも上昇する。 本例の高Ca・低P・ALP高値はこのPTH過剰のパターンにそのまま合致する。ビタミンD過剰では腸管からのP吸収も増えるのでPは低下せず、続発性副甲状腺機能亢進症では血清Caは低値〜正常である。家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症も高Ca・低P傾向を示しうるが、高カルシウム血症は軽度で骨代謝回転の亢進は通常みられず、ALP上昇とは結びつかない。したがって、最も考えられるのは原発性副甲状腺機能亢進症である。 確定には、血清intact PTHが高Ca血症にもかかわらず高値(または不適切に抑制されていない)であることを確認する。さらに、尿中Ca排泄を評価して家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症を除外し、頸部超音波や99mTc-MIBIシンチグラフィで病変(腺腫など)の局在を調べる。
選択肢考察
- ×a. 家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症
誤り。家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(FHH)は、副甲状腺と腎尿細管(Henleループの太い上行脚など)にあるカルシウム感知受容体(CaSR)の機能低下型変異による常染色体優性遺伝の疾患である。血中Caが高くても高いと感知されないため、PTH分泌が抑制されず(PTHは正常〜軽度高値)、腎でのCa再吸収も続く。高Ca血症(多くは軽度)、P低め、尿中Ca排泄の低下を示す。原発性副甲状腺機能亢進症との鑑別には、Ca/Crクリアランス比(尿中Ca×血清Cr÷(血清Ca×尿中Cr))が有用で、0.01未満ならFHHを強く疑う。本症は骨代謝回転の亢進をきたすことはまれで、ALPが上昇するのは非典型的である。また合併症はほとんどなく、副甲状腺摘出術の適応にはならない。本例のALP高値は骨病変を伴う原発性副甲状腺機能亢進症の方がよく説明できる。
- ×b. 家族性低リン血症性骨軟化症
誤り。家族性低リン血症性くる病・骨軟化症の大部分はX連鎖性低リン血症(PHEX遺伝子異常)で、リン利尿ホルモンであるFGF23が過剰に作用し、腎からのP排泄が増えて低P血症となる。FGF23は活性型ビタミンDの産生も抑える。骨の石灰化が障害されるため、低P血症とALP高値は本例と共通するが、血清Caは正常(ときに低め)であり、高Ca血症は説明できない。通常は小児期にくる病(O脚、低身長など)として発症する。
- ○c. 原発性副甲状腺機能亢進症
正しい。副甲状腺自体の病変(約80〜90%は単発の腺腫、ほかに過形成、まれに癌)によりPTHが自律的に過剰分泌される疾患である。PTHの作用で骨吸収が亢進して血清Caが上昇し、腎でのP再吸収が抑えられて血清Pが低下する。骨代謝回転の亢進により骨型ALPも上昇する。中年以降の女性に多く、現在は本例のように健診で無症状の高Ca血症として見つかる例が大半を占める。本例の高Ca・低P・ALP高値はすべて本症で説明できる。
- ×d. 続発性副甲状腺機能亢進症
誤り。続発性副甲状腺機能亢進症は、慢性腎臓病やビタミンD欠乏などで血清Caが下がる(あるいは下がりやすい)状態に対し、それを補うためにPTH分泌が増えている状態である。血清Caは低値〜正常であり、高Ca血症にはならない。慢性腎臓病が原因の場合は腎からのP排泄が低下するため血清Pはむしろ高値となる。本例の高Ca血症とは合致しない。なお、続発性の状態が長く続き副甲状腺が自律的にPTHを分泌するようになると高Ca血症をきたすことがあり、これを三次性副甲状腺機能亢進症と呼ぶ。
- ×e. ビタミンD過剰摂取
誤り。ビタミンDは腸管からのCa吸収だけでなくP吸収も促進するため、ビタミンD過剰では高Ca血症とともに血清Pは正常〜高値となり、本例の低P血症とは合わない。また、高Ca血症によりPTH分泌は抑制される(低値となる)。
原発性副甲状腺機能亢進症の臨床像
古典的な症状は「骨・石・腹・心」と覚えるとよい。 ・骨:骨粗鬆症、骨痛、病的骨折、線維性骨炎(嚢胞性線維性骨炎)、指節骨の骨膜下吸収像、頭蓋骨のsalt and pepper像 ・石:尿路結石、腎石灰化症 ・腹:消化性潰瘍、急性膵炎、便秘、食欲低下 ・心(精神):抑うつ、倦怠感、意識障害 高Ca血症そのものによって多尿・口渇(腎性尿崩症様)、QT短縮などもきたす。尿中Ca排泄は増加することが多い。PTHの作用で近位尿細管での重炭酸再吸収が抑えられ、軽度の高Cl性代謝性アシドーシスを示すこともある。
治療
症候性の場合や、一定の基準(血清Caが基準上限より1 mg/dL以上高い、骨密度の著明な低下や椎体骨折、腎機能低下、尿路結石、若年など)を満たす無症候性の場合は、病変腺の摘出術が根治療法となる。手術ができない場合には、カルシウム感知受容体作動薬(シナカルセトなど)やビスホスホネートなどが用いられる。術後は骨への急速なCa取り込み(hungry bone症候群)による低Ca血症に注意する。
多発性内分泌腫瘍症との関連
若年発症や多腺性の過形成をみた場合は、多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1:副甲状腺、膵・消化管神経内分泌腫瘍、下垂体腫瘍)や2A型(MEN2A:甲状腺髄様癌、褐色細胞腫、副甲状腺機能亢進症)を考慮する。
高Ca血症の鑑別の整理
・PTH高値(または不適切に正常):原発性副甲状腺機能亢進症、FHH、三次性副甲状腺機能亢進症、リチウム内服 ・PTH低値:悪性腫瘍(PTH関連蛋白(PTHrP)産生腫瘍、骨転移、多発性骨髄腫)、ビタミンD過剰、サルコイドーシスなどの肉芽腫性疾患、甲状腺機能亢進症、長期臥床、サイアザイド系利尿薬など PTHrP産生腫瘍でもPTHと同様の作用で高Ca・低P血症となるが、PTHは抑制されている。
POINT
・高Ca血症+低P血症+ALP高値(骨代謝回転亢進)は、PTH作用の過剰を示し、原発性副甲状腺機能亢進症を第一に考える ・無症状で健診時に見つかる高Ca血症の原因として最も多いのは原発性副甲状腺機能亢進症。原因の大部分は単発の腺腫 ・PTH:骨吸収促進、腎でのCa再吸収促進・P再吸収抑制、活性型ビタミンD産生促進 ・ビタミンD過剰ではPは低下しない(高値傾向)、続発性ではCaは低値〜正常 ・FHHとの鑑別はCa/Crクリアランス比(0.01未満ならFHHを疑う)
