「4項目のうち2つ」を数えきれるか―SIRS離脱を見抜くバイタルの読み方
第110回医師国家試験 H問題 第20問
国試問題にチャレンジ
腎盂腎炎から全身性炎症反応症候群〈SIRS〉となった成人患者に補液と抗菌薬投与を開始した。治療開始から2日後の白血球数は6,600であった。 この時点のバイタルサインでSIRSから脱出できたと判断できるのはどれか。 体温 (℃) 脈拍 (/ 分) 血圧 (mmHg) 呼吸数 (/ 分) a 35.0 72 94/66 28 b 37.0 112 94/66 28 c 37.0 112 120/72 14 d 39.0 72 120/72 28 e 39.0 112 94/66 14
- a.35.0 72 94/66 28
- b.37.0 112 94/66 28
- c.37.0 112 120/72 14
- d.39.0 72 120/72 28
- e.39.0 112 94/66 14
対話形式の解説
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ドクターまとめ
SIRSは体温(38℃超または36℃未満)、心拍数(90/分超)、呼吸数(20/分超またはPaCO2 32 Torr未満)、白血球数(12,000/μL超、4,000/μL未満、または幼若球10%超)の4項目のうち2項目以上で診断し、1項目以下になればSIRSを脱したと判断できます。血圧はSIRSの基準に含まれず、また36℃未満の低体温も該当項目であり、重症感染症ではむしろ重症度の高さを示す点に注意が必要です。Sepsis-3以降、敗血症はSOFAスコアの2点以上の増加で示される臓器障害によって定義され、院外や病棟ではqSOFA(呼吸数22/分以上、意識変容、収縮期血圧100 mmHg以下)で拾い上げます。腎盂腎炎では尿路閉塞の合併で急速に重症化しうるため、ドレナージの必要性も念頭に置きます。基準の項目と数値を正確に押さえ、該当数を冷静に数える力は、救急・集中治療の現場で重症度を判断する基礎となります。
解答・解説
正解はcです
SIRS の診断基準
全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome:SIRS)は、感染や外傷・熱傷・膵炎などの侵襲をきっかけに、サイトカインが全身で過剰に放出された状態を指す概念である。次の 4 項目のうち 2 項目以上を満たすときに SIRS と診断する。 1. 体温:38℃を超える、または 36℃未満 2. 心拍数(脈拍):90/分を超える 3. 呼吸数:20/分を超える、または PaCO2(動脈血二酸化炭素分圧)が 32 Torr 未満 4. 白血球数:12,000/μL を超える、または 4,000/μL 未満、あるいは未熟な顆粒球(桿状核球などの幼若好中球)が 10%を超える
本問の考え方
SIRS から脱出したといえるのは、該当項目が 1 項目以下になったときである。 ・白血球数は治療 2 日後に 6,600/μL で、基準範囲(4,000〜12,000)に収まっているので該当しない。 ・したがって、残る体温・脈拍・呼吸数の 3 項目のうち、該当が 1 項目以下ならば SIRS を脱したと判断できる。 ・血圧は SIRS の診断基準に含まれない。表中の血圧(94/66 mmHg か 120/72 mmHg か)は判定に影響しない。 各選択肢について、体温(36℃未満または 38℃超か)、脈拍(90/分超か)、呼吸数(20/分超か)の該当数を数える。その結果、該当が 1 項目(脈拍のみ)にとどまるのは c だけである。
選択肢考察
- ×a. 35.0 72 94/66 28
体温 35.0℃は 36℃未満で低体温の基準に該当する。呼吸数 28/分も 20/分を超えており該当する。脈拍 72/分は該当しない。該当は 2 項目なので、なお SIRS の基準を満たす。重症感染症では発熱ではなく低体温を示すことがあり、低体温はむしろ重症度の高さを示唆する所見である。
- ×b. 37.0 112 94/66 28
体温 37.0℃は基準範囲内である。一方、脈拍 112/分(90/分超)と呼吸数 28/分(20/分超)の 2 項目が該当するため、SIRS の基準を満たしたままである。
- ○c. 37.0 112 120/72 14
体温 37.0℃は 36〜38℃の範囲内、呼吸数 14/分は 20/分以下で、いずれも該当しない。脈拍 112/分は 90/分を超えるので該当するが、白血球数 6,600/μL も基準範囲内である。該当は脈拍の 1 項目のみで、2 項目以上という SIRS の基準を満たさない。したがって SIRS から脱出したと判断できる。
- ×d. 39.0 72 120/72 28
体温 39.0℃(38℃超)と呼吸数 28/分(20/分超)の 2 項目が該当する。脈拍 72/分と血圧は正常でも、SIRS の基準を満たしたままである。
- ×e. 39.0 112 94/66 14
呼吸数 14/分は該当しない。しかし体温 39.0℃(38℃超)と脈拍 112/分(90/分超)の 2 項目が該当するため、SIRS の基準を満たしたままである。血圧 94/66 mmHg は SIRS の判定項目ではない。
SIRS の背景
SIRS は 1991 年に米国の学会合同会議で提唱された概念である。原因は感染症に限らず、外傷、熱傷、急性膵炎、大手術などの非感染性の侵襲でも生じる。腫瘍壊死因子(TNF-α)やインターロイキン(IL-1、IL-6 など)といった炎症性サイトカインが全身性に作用し、発熱、頻脈、頻呼吸、白血球数の変動として表れる。
敗血症の定義の変遷
・従来(Sepsis-1/2):感染症によって SIRS を呈した状態を敗血症と定義していた。本問の腎盂腎炎による SIRS は、この旧定義での敗血症にあたる。 ・現在(Sepsis-3、2016 年):敗血症は「感染症に対する生体反応の調節不全によって、生命を脅かす臓器障害が生じた状態」と定義が改められた。SIRS の基準は特異度が低く、軽い感染症でも満たしてしまうため、敗血症の定義には使われなくなった。臓器障害は SOFA スコア(呼吸・凝固・肝・循環・中枢神経・腎の 6 項目で評価)が 2 点以上増加したことで判断する。 ・qSOFA(quick SOFA):集中治療室外で敗血症を疑う患者を拾い上げる簡易指標である。呼吸数 22/分以上、意識変容、収縮期血圧 100 mmHg 以下の 3 項目のうち 2 項目以上で敗血症を疑う。SIRS と違い、血圧が評価項目に含まれる点に注意する。 ・敗血症性ショック:十分な輸液を行っても平均血圧 65 mmHg 以上を保つのに血管収縮薬が必要で、かつ血清乳酸値が 2 mmol/L を超える状態をいう。 SIRS の概念は現在も、全身の炎症反応の程度を表す指標として臨床や国家試験で扱われるため、4 項目と数値は正確に覚えておく必要がある。
腎盂腎炎
上行性の尿路感染で、起炎菌は大腸菌が最も多い。発熱、悪寒戦慄、患側の肋骨脊柱角(CVA)叩打痛が典型的な所見である。尿路閉塞(結石など)を伴う場合は急速に重症化しやすく、抗菌薬に加えてドレナージ(尿管ステント留置や腎瘻造設)が必要となる。
POINT
・SIRS は 4 項目(体温 >38℃ または <36℃、心拍数 >90/分、呼吸数 >20/分 または PaCO2 <32 Torr、白血球数 >12,000 または <4,000/μL または幼若球 >10%)のうち 2 項目以上で診断する。 ・血圧は SIRS の項目に含まれない(qSOFA には収縮期血圧 100 mmHg 以下が含まれる)。 ・低体温(36℃未満)も SIRS の項目に該当する。 ・Sepsis-3(2016 年)以降、敗血症の定義に SIRS は用いず、SOFA スコアで臓器障害を評価する。
