症状がなくても全員に測る―妊娠初期の血液検査は「スクリーニング」の発想で解く
第110回医師国家試験 G問題 第21問
国試問題にチャレンジ
妊婦健康診査で妊娠初期に行う血液検査項目はどれか。
- a.CRP
- b.血糖
- c.抗核抗体
- d.Dダイマー
- e.プロラクチン
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
妊娠初期の血液検査は、症状のない妊婦全員に行うスクリーニングであり、分娩・輸血や胎児・新生児溶血性疾患への備え(血液型、不規則抗体、血算)、母子感染症の把握(HBs抗原、HCV抗体、HIV、梅毒、風疹抗体など)、糖代謝異常の早期発見(血糖)が柱となります。血糖は妊娠初期と中期(24〜28週ごろ)の二段階でスクリーニングし、陽性なら75gOGTTで妊娠糖尿病を診断します。CRP・抗核抗体・Dダイマーは病態を疑ったときに行う検査で、Dダイマーは正常妊娠でも上昇しやすく、プロラクチンは妊娠中に生理的に上昇するため測定の意義がありません。「全員に測る意義があるか」「異常を見つけたら何ができるか」という視点で検査項目を整理することは、妊婦健診の理解だけでなく、スクリーニング検査全般を考える基礎になります。
解答・解説
正解はbです
妊婦健康診査(妊婦健診)は、母体と胎児の異常をできるだけ早く見つけ、適切な管理や治療につなげるために行う定期健診である。そのなかで妊娠初期に行う血液検査は、「症状のない妊婦全員に一律に行うスクリーニング」であるという点が重要である。つまり、特定の病気を疑ったときに行う検査ではなく、自覚症状がなくても見逃すと母児に重大な影響が出うる状態を拾い上げる検査が並ぶ。 妊娠初期のスクリーニングの主な目的は次の3つに整理できる。 1. 分娩・出血・輸血や胎児・新生児溶血性疾患に備える(血液型、不規則抗体、血算) 2. 母子感染を起こしうる感染症を把握する(B型肝炎、C型肝炎、HIV、梅毒、風疹抗体など) 3. 母体の代謝異常、特に妊娠中の糖代謝異常を早期に見つける(血糖) 選択肢のうち、この枠組みに入るのは血糖だけである。CRP・抗核抗体・Dダイマーは、それぞれ感染症・自己免疫疾患・血栓症などを疑ったときに必要に応じて行う検査であり、全妊婦に初期にルーチンで行うものではない。プロラクチンは妊娠中に生理的に上昇するため、測定しても判断材料にならず、妊婦健診の項目には含まれない。
選択肢考察
- ×a. CRP
誤り。CRP(C反応性蛋白)は炎症に反応して肝臓で作られる急性期蛋白で、細菌感染症などの炎症の有無や程度を評価する指標である。妊婦でも絨毛膜羊膜炎や腎盂腎炎などの感染症が疑われる場合には測定するが、症状のない妊婦全員に妊娠初期に一律に行うスクリーニング項目ではない。
- ○b. 血糖
正しい。妊娠中の糖代謝異常(妊娠糖尿病、妊娠中の明らかな糖尿病、糖尿病合併妊娠)は、巨大児、肩甲難産、新生児低血糖、妊娠高血圧症候群、羊水過多などの原因となるため、全妊婦を対象にスクリーニングを行う。日本では妊娠初期に随時血糖を測定し、さらに妊娠中期(24~28週ごろ)に随時血糖または50gグルコースチャレンジテスト(50gGCT)で再度スクリーニングする二段階方式が推奨されている。陽性の場合は75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)で診断を確定する。妊娠初期の検査は、妊娠前から存在していた未診断の糖尿病を早く見つける意味も大きい。
- ×c. 抗核抗体
誤り。抗核抗体は全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病・自己免疫疾患のスクリーニングに用いる検査である。習慣流産・不育症の精査や、関節痛・皮疹など自己免疫疾患を疑わせる症状がある場合には測定するが、全妊婦に対するルーチン検査ではない。なお、抗リン脂質抗体症候群の評価では抗カルジオリピン抗体やループスアンチコアグラントなどが別に測定される。
- ×d. Dダイマー
誤り。Dダイマーはフィブリンがプラスミンで分解されてできる産物で、体内で血栓が作られ溶かされていることを示す。深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症や播種性血管内凝固(DIC)が疑われる場合に測定する。妊娠中は凝固系が亢進するため、正常妊娠でも週数とともにDダイマーは上昇しやすく、スクリーニングとしての有用性は低い。全妊婦に初期に行う検査ではない。
- ×e. プロラクチン
誤り。プロラクチンは下垂体前葉から分泌され、乳汁産生を促すホルモンである。妊娠中はエストロゲンの作用で下垂体のプロラクチン産生細胞が増え、血中濃度は生理的に大きく上昇する。したがって妊娠中に測定しても異常の判断に役立たず、妊婦健診の検査項目ではない。高プロラクチン血症の評価は、無月経や乳汁漏出、不妊症などの精査として非妊娠時に行うものである。
妊娠初期に行う主な血液検査
・ABO式血液型、Rh(D)式血液型:輸血への備え。Rh(D)陰性妊婦では抗D抗体の産生による胎児・新生児溶血性疾患の予防(抗D免疫グロブリン投与)を考える。 ・不規則抗体スクリーニング(間接Coombs試験など):胎児・新生児溶血性疾患や輸血時の副作用のリスクを把握する。 ・血算:貧血や血小板減少の有無を確認する。 ・血糖:妊娠中の糖代謝異常のスクリーニング(妊娠中期にも再度行う)。 ・HBs抗原:B型肝炎ウイルスの母子感染予防(出生児へのHBグロブリンとHBワクチン投与)のため。 ・HCV抗体:C型肝炎ウイルスの感染を把握する。 ・HIVスクリーニング:陽性なら抗ウイルス療法、選択的帝王切開、人工栄養などで母子感染を大きく減らせる。スクリーニング陽性は偽陽性もあるため確認検査が必要である。 ・梅毒スクリーニング:先天梅毒の予防。妊娠中に治療すれば母子感染を防げる。 ・風疹抗体(HI法):抗体価が低い妊婦は妊娠中の感染に注意し、産後にワクチン接種を勧める(妊娠中は生ワクチンのため接種不可)。 ・HTLV-1抗体:成人T細胞白血病の原因ウイルスで、主に母乳を介して感染する。妊娠初期に限らず、妊娠30週ごろまでに行えばよいとされる。 ・トキソプラズマ抗体:施設によっては行われる。
血液検査以外のスクリーニング
・クラミジア:子宮頸管の分泌物で検査する(新生児の結膜炎・肺炎の原因)。 ・B群溶血性レンサ球菌(GBS):妊娠後期に腟・肛門周囲の培養で調べ、陽性なら分娩時に抗菌薬を投与する。 ・子宮頸がん検診(細胞診):妊娠初期に行う。
妊娠糖尿病の診断(75gOGTT)
空腹時92mg/dL以上、1時間値180mg/dL以上、2時間値153mg/dL以上のうち1点以上を満たすと妊娠糖尿病と診断する(ただし妊娠中の明らかな糖尿病の基準を満たすものは除く)。
POINT
・妊婦健診の初期血液検査は「全妊婦に行うスクリーニング」:血液型・不規則抗体・血算・血糖・感染症(HBs抗原、HCV抗体、HIV、梅毒、風疹抗体、HTLV-1抗体)。 ・血糖は妊娠初期と妊娠中期(24~28週ごろ)の2回スクリーニングし、陽性なら75gOGTTで診断する。 ・CRP、抗核抗体、Dダイマーは病態を疑ったときに行う検査で、ルーチン項目ではない。 ・プロラクチンは妊娠中に生理的に上昇するため測定しない。
