毎年2月にやってくる鼻水と目の痒み―花粉症をI型アレルギーの仕組みから読み解く
第110回医師国家試験 E問題 第48問
国試問題にチャレンジ
25歳の男性。水様性鼻汁と眼の痒みとを主訴に来院した。2月中旬から水様性鼻汁,くしゃみ及び眼の痒みが出現するようになり,3月上旬から症状が増悪したため受診した。3年前から同様の症状を2月中旬から4月にかけて認めていた。症状は外出時に増悪する。体温36.5℃。眼球結膜の充血を認める。咽頭に発赤を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。 この患者の病態として正しいのはどれか。
- a.補体の低下を認める。
- b.Ⅳ型アレルギーである。
- c.IgM抗体が関与している。
- d.鼻汁中に好酸球が増加する。
- e.マクロファージが関与している。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
毎年2〜4月に繰り返し、外出で悪化する水様性鼻汁・くしゃみ・眼の痒みは、スギ花粉症(季節性アレルギー性鼻炎・結膜炎)を考えます。花粉症はI型アレルギーの代表で、特異的IgEが結合した肥満細胞からヒスタミンやロイコトリエンが放出される即時相反応に続き、IL-5などで好酸球が鼻粘膜に浸潤する遅発相反応が起こるため、鼻汁中の好酸球が増加し、診断にも用いられます。補体低下はII型・III型、IgMは初回応答やII型・III型、マクロファージと感作T細胞はIV型の特徴であり、花粉症の病態とは区別して整理しましょう。治療は抗原回避と薬物療法、特に飛散前からの初期療法が基本で、舌下免疫療法は自然経過を変えうる治療として位置づけられます。アレルギー反応の型と関与する細胞・抗体を対応させて理解しておくことは、鼻炎に限らず多くのアレルギー疾患を考える土台になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・25歳の男性で、水様性鼻汁、くしゃみ、眼の痒みがある。鼻の三主徴(くしゃみ、水様性鼻漏、鼻閉)のうち2つと、アレルギー性結膜炎を示す眼の痒み・結膜充血がそろっている。 ・症状は2月中旬から4月にかけて出現し、3年前から毎年同じ時期に繰り返している(季節性)。 ・外出時に増悪することから、屋外のアレルゲンが原因と考えられる。 ・発熱がなく(36.5℃)、咽頭発赤もないため、かぜ症候群(急性鼻咽頭炎)などの感染症は考えにくい。
診断へのプロセス
毎年2〜4月に再発する季節性のアレルギー性鼻炎・結膜炎であり、時期から考えてスギ花粉症(2月から4月がスギ花粉の飛散時期で、それに続いてヒノキ花粉が飛散する)が最も考えられる。 鑑別として、通年性アレルギー性鼻炎(主な原因はハウスダスト・ダニで、季節を問わず症状がある)、血管運動性鼻炎(寒暖差などで鼻症状が出るが、アレルゲンが同定されず、眼症状は通常みられない)、好酸球増多性鼻炎(鼻汁好酸球は増えるが、アレルゲンが同定されない)、感染性鼻炎(膿性鼻汁や発熱を伴う)などがある。
設問の考え方
花粉症はI型(即時型)アレルギーの代表的疾患である。花粉抗原に感作されると特異的IgE抗体がつくられ、鼻粘膜の肥満細胞(マスト細胞)の表面に結合する。再び花粉を吸い込むと、抗原がIgEを架橋して肥満細胞からヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質が放出され、くしゃみ・鼻汁・鼻閉が起こる(即時相反応)。さらに数時間後には好酸球などの炎症細胞が鼻粘膜へ浸潤し、鼻閉を主体とする遅発相反応が起こる。この好酸球浸潤を反映して鼻汁中の好酸球が増加し、これは診断にも用いられる。
選択肢考察
- ×a. 補体の低下を認める。
補体の消費による低下が起こるのは、補体が活性化されるII型(細胞傷害型)やIII型(免疫複合体型)アレルギーである。代表例は全身性エリテマトーデス、急性糸球体腎炎などである。花粉症はIgEと肥満細胞が中心のI型アレルギーであり、補体の活性化は病態の主役ではなく、血清補体価は低下しない。
- ×b. Ⅳ型アレルギーである。
IV型アレルギーは感作T細胞が起こす遅延型反応で、抗原に触れてから24〜72時間後に反応が現れる。ツベルクリン反応や接触皮膚炎が代表例である。花粉症は抗原に接触してから数分以内に症状が出る即時型の反応であり、I型アレルギーである。
- ×c. IgM抗体が関与している。
花粉症で関与するのは、花粉抗原に対する特異的IgE抗体である。血清特異的IgE抗体の検査や皮膚テスト(プリックテストなど)で原因抗原を同定する。IgMは初回の免疫応答で最初につくられる抗体で、II型・III型アレルギーや補体の活性化に関与するが、I型アレルギーには関与しない。
- ○d. 鼻汁中に好酸球が増加する。
I型アレルギーでは、肥満細胞から放出される化学伝達物質やTh2細胞が産生するサイトカイン(IL-5など)の作用で、好酸球が血中から鼻粘膜に動員される。そのため鼻汁中の好酸球が増加し、アレルギー性鼻炎の多くの症例で陽性となる。鼻汁好酸球検査は、皮膚テスト・血清特異的IgE抗体検査・誘発テストと並んでアレルギー性鼻炎の診断に用いられる重要な検査であり、感染性鼻炎(好中球主体)との鑑別にも役立つ。末梢血や涙液中の好酸球も増加しうる。
- ×e. マクロファージが関与している。
花粉症の症状を起こす中心となる細胞は、IgEを介して化学伝達物質を放出する肥満細胞と、遅発相反応を担う好酸球、さらに感作の過程でIgE産生を促すTh2細胞である。マクロファージは、活性化されたT細胞の指令で組織傷害を起こすIV型アレルギー(ツベルクリン反応、肉芽腫形成など)で主役となる細胞である。抗原提示細胞として感作の段階にわずかに関わりうるが、花粉症の病態を特徴づける細胞ではない。
アレルギー反応の分類(Coombs & Gell 分類)
・I型(即時型、アナフィラキシー型):IgE、肥満細胞・好塩基球。数分〜数十分で反応。例:花粉症、アレルギー性鼻炎、気管支喘息(アトピー型)、蕁麻疹、アナフィラキシー。 ・II型(細胞傷害型):IgG・IgM、補体。細胞表面の抗原に抗体が結合し、細胞が破壊される。例:自己免疫性溶血性貧血、不適合輸血、特発性血小板減少性紫斑病。受容体に対する抗体で機能が変化するBasedow病・重症筋無力症をV型として別に扱うこともある。 ・III型(免疫複合体型):IgG・IgM、補体。免疫複合体が組織に沈着し炎症を起こす。補体価が低下する。例:全身性エリテマトーデス、溶連菌感染後急性糸球体腎炎、血清病。 ・IV型(遅延型):感作T細胞、マクロファージ。24〜72時間後に反応。例:ツベルクリン反応、接触皮膚炎、移植片拒絶。
アレルギー性鼻炎の診断
・典型的な症状(くしゃみ、水様性鼻漏、鼻閉) ・鼻粘膜所見:蒼白・浮腫状の下鼻甲介、水様性分泌物 ・鼻汁好酸球検査 ・原因抗原の同定:皮膚テスト(スクラッチテスト、プリックテスト、皮内テスト)、血清特異的IgE抗体検査、鼻誘発テスト
スギ花粉症の治療
・抗原の回避:マスク、眼鏡、帰宅時に衣服の花粉を落とす、など ・薬物療法:第2世代抗ヒスタミン薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬、鼻噴霧用ステロイド薬、抗アレルギー点眼薬。飛散開始前(または症状がわずかに出た時点)から始める初期療法が有効である。重症例には抗IgE抗体(オマリズマブ)も用いられる。 ・アレルゲン免疫療法:スギ花粉エキスの舌下免疫療法は、自然経過を変えうる唯一の治療法とされ、数年間継続する。 ・手術療法:鼻閉の強い例に下鼻甲介粘膜の焼灼や切除などを行う。
POINT
・毎年同じ時期(2〜4月)に再発し、外出時に増悪する鼻炎・結膜炎 → スギ花粉症(季節性アレルギー性鼻炎)。 ・花粉症はI型アレルギー:特異的IgE+肥満細胞(ヒスタミン、ロイコトリエン)→ 即時相反応、好酸球浸潤 → 遅発相反応。 ・鼻汁好酸球の増加はアレルギー性鼻炎の診断に有用である。 ・補体低下はII型・III型、マクロファージ・T細胞はIV型の特徴である。
