鼻茸と嗅覚障害の先にある喘息―「one airway, one disease」で読む好酸球性副鼻腔炎
第110回医師国家試験 E問題 第47問
国試問題にチャレンジ
42歳の女性。臭いがわかりにくいことを主訴に来院した。半年前から臭いがわかりにくくなり,また両側の鼻閉も出現してきたため受診した。左鼻腔内視鏡写真(A)と副鼻腔CT(B)とを別に示す。 この患者で注意すべき合併症はどれか。

- a.肺気腫
- b.肺化膿症
- c.気管支喘息
- d.特発性肺線維症
- e.アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
成人発症で両側性に多発する鼻茸、早期からの嗅覚障害、CTで篩骨洞優位の陰影を認める慢性副鼻腔炎は、好酸球性副鼻腔炎を考えます。上気道と下気道に共通する2型(好酸球性)炎症が背景にあるため、気管支喘息、とくに成人発症喘息やアスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)の合併が多く、両者は互いに増悪させ合います。一方、好中球主体で上顎洞優位、マクロライドが有効な非好酸球性副鼻腔炎は、びまん性汎細気管支炎などの副鼻腔気管支症候群と関連する点で対照的です。好酸球性副鼻腔炎はステロイドが有効ですが術後も再発しやすく、難治例では生物学的製剤も用いられます。鼻と気管支を一つの気道として捉える視点は、副鼻腔炎の病型診断だけでなく、喘息患者の評価やNSAIDs処方時の安全確認にも直結します。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・42歳の女性で、半年前からの嗅覚障害(臭いがわかりにくい)と両側の鼻閉がある。成人発症で、嗅覚障害が前面に出ている点が手がかりになる。 ・左鼻腔内視鏡写真(A)では、鼻腔内に表面平滑で半透明の、ぶどうの房状の腫瘤がみられる。これは鼻茸(鼻ポリープ)である。 ・副鼻腔CT(B)では、両側の副鼻腔に軟部組織陰影があり、特に篩骨洞の陰影が目立つ(上顎洞よりも篩骨洞の病変が優位)。
診断へのプロセス
両側性の副鼻腔病変に鼻茸を伴うことから、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎と考える。鑑別として、鼻腔・副鼻腔腫瘍(乳頭腫や悪性腫瘍)は一側性が多く、進行すると周囲の骨を圧排・破壊する点で異なる。アレルギー性鼻炎単独で鼻茸ができることはまれである。 慢性副鼻腔炎は、組織への好酸球浸潤の程度により好酸球性副鼻腔炎と非好酸球性副鼻腔炎に大別される。本例は、成人発症、両側性、多発する鼻茸、早期からの嗅覚障害、CTで篩骨洞優位の陰影という特徴をそろえており、好酸球性副鼻腔炎が最も考えられる。
設問の考え方
好酸球性副鼻腔炎は、上気道と下気道を一つの気道としてとらえる「one airway, one disease」の考え方を代表する疾患で、2型炎症(Th2型の好酸球性炎症)が鼻・副鼻腔と気管支の双方に起こる。そのため気管支喘息、とくに成人発症の喘息やアスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)の合併が多い。喘息を合併すると副鼻腔炎も重症・難治となりやすく、逆に副鼻腔炎の悪化が喘息の増悪を招く。したがって本患者で注意すべき合併症は気管支喘息である。
選択肢考察
- ×a. 肺気腫
肺気腫は主に喫煙によって肺胞壁が破壊される疾患で、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の一病型である。好酸球性副鼻腔炎との関連はない。なお、慢性副鼻腔炎と下気道の慢性炎症(慢性気管支炎、びまん性汎細気管支炎、気管支拡張症)が合併する病態を副鼻腔気管支症候群と呼ぶが、これは好中球性炎症が主体の非好酸球性副鼻腔炎で問題になるものであり、本例の病態とは異なる。
- ×b. 肺化膿症
肺化膿症(肺膿瘍)は細菌感染により肺実質が壊死して膿瘍を形成する疾患で、口腔内細菌の誤嚥などが原因となる。感染性・好中球性の副鼻腔炎から細菌が下気道へ流れ込むことは理論上ありうるが、好酸球性副鼻腔炎は感染ではなく2型炎症が病態の中心であり、肺化膿症との関連はない。
- ○c. 気管支喘息
好酸球性副鼻腔炎は、上気道と下気道に共通する2型炎症(好酸球性炎症)を背景とする疾患で、気管支喘息の合併が多い。特に成人発症の喘息や、NSAIDsで発作が誘発されるアスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)では、鼻茸を伴う好酸球性副鼻腔炎と嗅覚障害の合併が高率にみられる。喘息を合併した例は副鼻腔炎も重症・易再発性で、両者を一体として管理する必要がある。
- ×d. 特発性肺線維症
特発性肺線維症は、原因不明の特発性間質性肺炎の中で最も頻度が高い病型で、高齢の喫煙男性に多く、乾性咳嗽、労作時呼吸困難、捻髪音(fine crackles)、ばち指を特徴とする。好酸球性副鼻腔炎との関連はない。
- ×e. アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)は、気道内に定着したアスペルギルスに対するI型(IgE介在性)およびIII型アレルギー反応によって起こり、主に気管支喘息や嚢胞性線維症の患者に生じる。中枢性気管支拡張、粘液栓、末梢血好酸球増多、血清総IgE高値が特徴である。喘息を介して間接的に関連しうるが、好酸球性副鼻腔炎そのものの合併症として最も注意すべきものではない。副鼻腔側で真菌が関与する病態としてはアレルギー性真菌性副鼻腔炎があるが、一側性で骨の菲薄化・膨隆を伴うことが多い点で、好酸球性副鼻腔炎とは異なる。
慢性副鼻腔炎の分類
・非好酸球性副鼻腔炎(従来型):好中球主体の炎症。上顎洞優位の陰影が多く、膿性鼻漏・後鼻漏が主症状。マクロライド少量長期療法が有効で、手術後の経過も比較的良好。下気道の慢性好中球性炎症と合併すると副鼻腔気管支症候群(びまん性汎細気管支炎など)となる。 ・好酸球性副鼻腔炎:好酸球主体の2型炎症。成人発症、両側性、多発性の鼻茸、早期からの嗅覚障害、篩骨洞優位の陰影、粘稠な鼻汁(ニカワ状)、末梢血好酸球増多が特徴。マクロライドは効きにくく、副腎皮質ステロイドが有効だが、手術後も再発しやすい難治性疾患である。気管支喘息・アスピリン喘息の合併が多い。2015年に指定難病となった。
好酸球性副鼻腔炎の診断(JESREC Study に基づく基準)
両側性病変、鼻茸の存在、CTでの篩骨洞優位の陰影、末梢血好酸球比率をスコア化し、一定点数以上のものを疑い例とする。確定診断には鼻茸などの組織での好酸球浸潤(400倍視野で70個以上)の確認が必要である。さらに気管支喘息、アスピリン不耐症、NSAIDsアレルギーの有無などを加味して重症度を分類する。
治療
・内視鏡下鼻副鼻腔手術で鼻茸と病的粘膜を除去し、副鼻腔を開放する。 ・副腎皮質ステロイド(経口・点鼻)。 ・再発・難治例では、2型炎症を標的とする生物学的製剤(抗IL-4受容体α抗体のデュピルマブなど)が用いられる。
アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)
シクロオキシゲナーゼ(COX)-1阻害作用をもつNSAIDsによって喘息発作や鼻症状が誘発される。成人発症喘息の5〜10%程度を占め、女性にやや多い。鼻茸を伴う好酸球性副鼻腔炎と嗅覚障害の合併が高率で、喘息・鼻茸・アスピリン不耐症の三徴はサムター(Samter)三徴と呼ばれる。
POINT
・成人発症、両側性の鼻茸、早期からの嗅覚障害、CTで篩骨洞優位の陰影 → 好酸球性副鼻腔炎。 ・好酸球性副鼻腔炎は気管支喘息、とくにアスピリン喘息の合併が多い(上気道・下気道の共通の2型炎症)。 ・非好酸球性副鼻腔炎(上顎洞優位、膿性鼻漏、マクロライド有効)は副鼻腔気管支症候群と関連する。 ・好酸球性副鼻腔炎はマクロライドが効きにくく、ステロイドが有効、術後も再発しやすい。
