Ⅱ音は「閉じる力」と「閉じるタイミング」で聴く―亢進と分裂の原理から病態を読む
第110回医師国家試験 E問題 第30問
国試問題にチャレンジ
心音のⅡ音について正しいのはどれか。
- a.高血圧症では亢進する。
- b.心嚢液貯留では亢進する。
- c.完全左脚ブロックでは生理的分裂を認める。
- d.肺動脈弁狭窄症〈PS〉では奇異性分裂を認める。
- e.心房中隔欠損症〈ASD〉では病的分裂を認める。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
Ⅱ音は大動脈弁成分(ⅡA)と肺動脈弁成分(ⅡP)からなり、その強さは下流血管の拡張期圧を反映するため、高血圧症ではⅡAが、肺高血圧症ではⅡPが亢進します。一方、心嚢液貯留や肥満、肺気腫では音の伝達が妨げられて心音全体が減弱し、心タンポナーデではBeckの三徴の一つとなります。分裂については、ⅡAが遅れる完全左脚ブロックや重症大動脈弁狭窄症で奇異性分裂、ⅡPが遅れる完全右脚ブロックや肺動脈弁狭窄症で病的分裂、心房中隔欠損症では呼吸で間隔が変わらない固定性分裂を呈します。「弁が閉じる力」と「閉じるタイミング」という原理から考えれば、丸暗記に頼らず病態と聴診所見を結びつけることができ、ベッドサイドでの身体診察の精度向上にもつながります。
解答・解説
正解はaです
問われていること
Ⅱ音の「強さ(亢進・減弱)」と「分裂のパターン」が、どの病態でどう変化するかを問う一般問題である。
Ⅱ音の成り立ち
Ⅱ音は心室の駆出が終わる時点で大動脈弁と肺動脈弁が閉じることで生じる音で、大動脈弁成分(ⅡA)と肺動脈弁成分(ⅡP)からなる。通常はⅡAがⅡPよりわずかに先行する。 ・強さ: 弁を閉じる力、すなわち弁の下流(大動脈・肺動脈)の拡張期圧が高いほど、弁は勢いよく閉じてⅡ音は大きくなる。逆に、心臓と胸壁の間に液体・空気・脂肪などが介在すると音は伝わりにくく小さくなる。 ・分裂: 吸気時には胸腔内圧が下がって右心への静脈還流が増え、右室の駆出時間が延びるのでⅡPが遅れる。同時に肺血管床に血液がたまり左心への還流がわずかに減るため、ⅡAはやや早まる。その結果、吸気時にⅡAとⅡPの間隔が広がり、呼気時には狭まって単一に聞こえる。これが生理的分裂である。
異常な分裂の4型
・病的(呼吸性)分裂: ⅡPの遅れ(またはⅡAの早まり)によって呼気時にも分裂が残り、吸気時にはさらに広がる。呼吸性変動は保たれる。 ・固定性分裂: 呼気・吸気で分裂間隔がほとんど変わらない。 ・奇異性分裂: ⅡAが遅れてⅡPより後ろに来るため、呼気時に分裂し、吸気時にはⅡPが遅れてⅡAに近づき単一化する。生理的分裂と逆の変動になる。 ・単一Ⅱ音: どちらかの成分が聞こえない、または完全に重なる。 以上の原理を各選択肢の病態にあてはめると、正しいのは高血圧症でⅡ音(ⅡA)が亢進するとするaである。
選択肢考察
- ○a. 高血圧症では亢進する。
正しい。体血圧が高いと大動脈の拡張期圧が上昇し、駆出終了時に大動脈弁が強い圧較差で押し戻されて勢いよく閉じるため、Ⅱ音の大動脈弁成分(ⅡA)が亢進する。ⅡAは第2肋間胸骨右縁(大動脈弁領域)でよく聴取される。同じ原理で、肺高血圧症では肺動脈の拡張期圧が上がり、肺動脈弁成分(ⅡP)が第2肋間胸骨左縁で亢進する。
- ×b. 心嚢液貯留では亢進する。
誤り。心膜腔に液体が貯留すると、心臓と胸壁の間に液層が介在して音の伝達が妨げられるため、Ⅰ音・Ⅱ音を含む心音は全体として減弱(遠く聞こえる)する。心タンポナーデでは、血圧低下・頸静脈怒張・心音減弱の組み合わせ(Beckの三徴)が知られる。なお、心膜炎で心膜表面に線維素が析出している段階では心膜摩擦音が聴取されることがあるが、液が多量にたまると摩擦音はむしろ消失しやすい。
- ×c. 完全左脚ブロックでは生理的分裂を認める。
誤り。完全左脚ブロックでは左室の興奮伝導が遅れ、左室の収縮と駆出の終了が遅れるため、大動脈弁閉鎖(ⅡA)が遅延してⅡPより後ろに来る。その結果、呼気時に分裂が聞こえ、吸気時にはⅡPが遅れてⅡAに近づくため分裂が狭まり単一化する奇異性分裂となる。奇異性分裂をきたす他の病態として、重症の大動脈弁狭窄症(左室駆出時間の延長)、右室ペーシング、動脈管開存症などがある。
- ×d. 肺動脈弁狭窄症〈PS〉では奇異性分裂を認める。
誤り。肺動脈弁狭窄症では狭い弁口を通して血液を送り出すために右室の駆出時間が延び、肺動脈弁閉鎖(ⅡP)が遅れる。ⅡAは通常の時期に生じるので、呼気時にもⅡAとⅡPが離れて聞こえ、吸気時にはさらに分裂が広がる病的(呼吸性)分裂となる。なお、狭窄が高度になるほど肺動脈圧が低くなるため、ⅡPは減弱する。ⅡPの遅延による病的分裂は完全右脚ブロックでもみられる。
- ×e. 心房中隔欠損症〈ASD〉では病的分裂を認める。
誤り。心房中隔欠損症では左房から右房への短絡血流によって右室の容量負荷が常に大きく、右室の駆出時間が延びてⅡPが遅れるため、呼気時から幅広い分裂がある。さらに、吸気時に体静脈からの還流が増えると左右の心房圧の差が小さくなって短絡量がその分減り、右室に入る血液の総量は呼吸でほとんど変わらない。また拡張した肺血管床は吸気による容量変化を吸収しやすい。このため分裂間隔が呼吸周期で変動しない固定性分裂となるのが特徴であり、呼吸性変動を保つ病的分裂とは区別される。
Ⅱ音の強さの変化
・ⅡA亢進: 高血圧症、大動脈拡張 ・ⅡA減弱: 大動脈弁狭窄症(弁の可動性低下)、大動脈弁閉鎖不全症(弁の接合不良) ・ⅡP亢進: 肺高血圧症(原発性、僧帽弁狭窄症に伴うもの、Eisenmenger症候群など) ・ⅡP減弱: 肺動脈弁狭窄症、Fallot四徴症 ・心音全体の減弱: 心嚢液貯留、肥満、肺気腫、左室収縮能の低下
Ⅱ音分裂の型と代表的病態
・生理的分裂: 健常者(特に若年者で聴取しやすい) ・病的(呼吸性)分裂: 完全右脚ブロック、肺動脈弁狭窄症(ⅡP遅延)、僧帽弁閉鎖不全症・心室中隔欠損症(左室駆出時間の短縮によるⅡA早期化) ・固定性分裂: 心房中隔欠損症、右心不全 ・奇異性分裂: 完全左脚ブロック、重症大動脈弁狭窄症、右室ペーシング ・単一Ⅱ音: Fallot四徴症、肺動脈閉鎖、総動脈幹症、高齢者
聴診部位
Ⅱ音は心基部(第2肋間胸骨右縁・左縁)で最もよく聴取される。分裂の評価は、ⅡPが聞こえやすい第2〜3肋間胸骨左縁で、呼吸に合わせて行う。
POINT
・Ⅱ音の強さは下流の血管の拡張期圧を反映する: 高血圧症でⅡA亢進、肺高血圧症でⅡP亢進。 ・心嚢液貯留では心音は減弱する(Beckの三徴の一つ)。 ・奇異性分裂=ⅡAの遅延(完全左脚ブロック、重症大動脈弁狭窄症)。 ・病的分裂=ⅡPの遅延(完全右脚ブロック、肺動脈弁狭窄症)。 ・固定性分裂=心房中隔欠損症。
