StudyMed医師国家試験

心臓は正常なのに雑音がする―「流れすぎ」が生む機能性雑音を読み解く

第110回医師国家試験 D問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第110回 D問題 第19問

心疾患のない女性で,胸骨左縁第2肋間を最強点とする収縮早期雑音の原因となるのはどれか。3つ選べ。

  1. a.貧血
  2. b.妊娠
  3. c.脱水
  4. d.肥満
  5. e.甲状腺機能亢進症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、心臓そのものに病気がないのに聴こえる心雑音、つまり機能性雑音の原因を問う問題だ。着眼点は「どこで」「いつ」聴こえる雑音か。その2つを解釈できれば、答えは自然に絞れるよ。まず、胸骨左縁第2肋間はどの弁の聴診部位だったかな。
医学生医学生
OSCEの練習で何度もやりました。胸骨右縁第2肋間が大動脈弁、左縁第2肋間が肺動脈弁領域です。
ドクタードクター
その通り。では、収縮早期にピークがある雑音はどういうタイプかな。
医学生医学生
収縮期の前半に強くて後半に弱くなる…駆出性雑音でしょうか。
ドクタードクター
正解。心室から大血管へ血液が押し出されるときに、半月弁や右室の流出路で乱流が起きて生じる雑音だ。ここで大事なのは、弁が狭くなくても雑音は出るということ。流れる血液の量や速さが弁口の通過能力に対して多すぎると、相対的に狭いのと同じ状態、つまり相対的狭窄になるんだ。
医学生医学生
ということは、この問題は「心拍出量が増える状態はどれか」と言い換えられそうですね。
ドクタードクター
見事な言い換えだ。そういう状態を高心拍出状態と呼ぶ。では選択肢を順に見ていこう。貧血はどうかな。
医学生医学生
酸素を運ぶ力が落ちるので、心臓がたくさん拍出して補おうとする気がします。
ドクタードクター
そう。血液1 mLあたりの酸素量が減るから、心拍数と1回拍出量を増やして組織への酸素供給を保とうとする。さらに血液の粘稠度が下がって流速が上がり、乱流が起きやすくなる。だから貧血は機能性雑音の代表的な原因だ。
医学生医学生
妊娠も、循環血液量が増えるので当てはまりそうです。
ドクタードクター
その通り。妊娠中は循環血漿量が30週前後で非妊時の4〜5割ほど増え、末梢血管抵抗は下がり、心拍数も上がる。典型的な高心拍出状態で、妊婦さんの多くで収縮期の駆出性雑音が聴かれるのは生理的な所見なんだ。
医学生医学生
産科を回ったとき、妊婦健診で雑音があっても心エコーまでは要らないケースが多いと聞いて驚きました。
ドクタードクター
弱い収縮期雑音だけならね。ただ、あとで話す「機能性らしくない」特徴があれば精査が必要だよ。次に甲状腺機能亢進症はどうだろう。
医学生医学生
頻脈になりますし、代謝が亢進しているので心拍出量も増えそうです。
ドクタードクター
その通り。甲状腺ホルモンが心筋の収縮力と心拍数を高め、β受容体の感受性も上げる。さらに代謝亢進で末梢血管が拡張して血管抵抗が下がるから、心拍出量が大きく増える。若い女性で頻脈とこの雑音があれば、Basedow病を疑ってTSH、FT4、FT3、TRAbを測るきっかけにもなる。
医学生医学生
脱水も頻脈になるので、心拍出量が増えて雑音が出ると思ったんですが…。
ドクタードクター
そこがよくある誤解だ。脱水では循環血液量が減って静脈還流と前負荷が下がるから、1回拍出量はむしろ減る。頻脈はそれを補うための代償にすぎない。流出路を大量の血液が通る状況ではないから、相対的狭窄の雑音は出ないんだ。頻脈という見た目だけで判断しないことが大切だね。
医学生医学生
肥満は体が大きい分、心拍出量も多くなりそうですが。
ドクタードクター
絶対値は増えることがあるけれど、体表面積あたりの心拍出量、つまり心係数が増えるとは限らない。典型的な高心拍出状態とはいえないんだ。しかも厚い胸壁で心音や雑音はむしろ聴きにくくなる。だから原因として挙がるのは貧血、妊娠、甲状腺機能亢進症の3つだ。
医学生医学生
相対的狭窄という一つの理屈で、全部説明できるんですね。
ドクタードクター
そう。最後に臨床で大事な点をまとめよう。機能性雑音は収縮期の駆出性で、Levine分類でおおむね2度以下と弱く、スリルを伴わず、心音自体にも異常がないのが原則だ。拡張期雑音や全収縮期雑音、スリルを触れる雑音は器質的疾患を考えて心エコーで精査する。
医学生医学生
心房中隔欠損症でも肺動脈弁領域に駆出性雑音が出ると習いました。区別はどうすればいいですか。
ドクタードクター
いい質問だ。心房中隔欠損症は肺血流が増えて相対的な肺動脈弁狭窄の雑音が出るけれど、II音の固定性分裂を伴うのが特徴だ。だから雑音だけでなく心音の異常も必ず確認しよう。ほかに発熱、運動、脚気、透析用シャントなどの動静脈瘻も高心拍出状態の原因になるから、あわせて覚えておくといい。

まとめ

胸骨左縁第2肋間は肺動脈弁領域であり、心疾患がないのにここで収縮早期の駆出性雑音が聴かれる場合は、心拍出量の増加によって流出路の血流が多く速くなる「相対的狭窄」による機能性雑音を考えます。代表的な原因は貧血、妊娠、甲状腺機能亢進症などの高心拍出状態で、発熱、運動、脚気、動静脈瘻も同様の機序で雑音を生じます。脱水は頻脈を伴っても循環血液量と1回拍出量が減るため原因とならず、肥満も典型的な高心拍出状態ではありません。機能性雑音は弱い収縮期雑音でスリルや心音異常を伴わないのが原則で、拡張期雑音やII音の固定性分裂などがあれば器質的疾患を疑って精査します。聴診所見を部位・タイミング・血行動態と結びつけて解釈する力は、身体診察で不要な検査を避けつつ病気を見逃さないための土台となります。

解答・解説

正解はa, b, eです

問われていること

心臓そのものに器質的な異常(弁膜症や先天性心疾患など)がないにもかかわらず聴取される心雑音、すなわち機能性雑音(無害性雑音)の原因を問う問題である。

雑音の性状を読み解く

・胸骨左縁第2肋間:肺動脈弁領域(肺動脈弁口の聴診部位)にあたる。 ・収縮早期雑音:収縮期の前半にピークをもち、後半には減弱する駆出性雑音を指す。心室から大血管へ血液が押し出される際、半月弁(肺動脈弁・大動脈弁)や右室流出路を通る血流が速い、あるいは量が多いと乱流が生じて雑音となる。弁に狭窄がなくても、流量が弁口の通過能力に対して相対的に多すぎると「相対的狭窄」の状態となり雑音が出る。

考え方

したがって本問は「心疾患がなくても、心拍出量が増えて流出路の血流が速く・多くなる状態はどれか」と言い換えられる。このような病態を高心拍出状態(hyperdynamic state)とよび、代表例が貧血、妊娠、甲状腺機能亢進症、発熱、運動、脚気(ビタミンB1欠乏)、動静脈シャントなどである。逆に循環血液量が減る状態や、心拍出量の増加を必ずしも伴わない状態では、このような雑音の原因とはならない。

選択肢考察

  1. ○a.  貧血

    貧血では血液1 mLあたりが運べる酸素量が減るため、組織への酸素供給を保とうとして心拍数と1回拍出量が増え、心拍出量が増加する。加えて血液の粘稠度が低下するため血流速度が上がり、乱流が生じやすい。この結果、肺動脈弁口を大量・高速の血流が通過して相対的狭窄の状態となり、収縮早期にピークをもつ駆出性雑音が聴取される。

  2. ○b.  妊娠

    妊娠中は循環血漿量が増加し(妊娠30週前後で非妊時の約40〜50%増)、心拍出量も増える。末梢血管抵抗は低下し心拍数も増加するため、高心拍出状態となる。流出路を通過する血流量が増え相対的な肺動脈弁狭窄となり、胸骨左縁第2肋間を中心とする収縮期駆出性雑音を聴取することはまれではない。妊婦の多くで聴かれる生理的な所見である。

  3. ×c.  脱水

    脱水では循環血液量が減少し、静脈還流と前負荷が低下するため1回拍出量はむしろ減少する。代償として頻脈にはなるが、流出路を大量の血液が通過する状況ではないため、相対的狭窄による駆出性雑音の原因とはならない。

  4. ×d.  肥満

    肥満では体格に応じて循環血液量や心拍出量の絶対値が増えることはあるが、体表面積あたりの心拍出量(心係数)が増えるとは限らず、典型的な高心拍出状態ではない。さらに厚い皮下脂肪や胸壁により心音・心雑音はむしろ聴取しにくくなる。機能性収縮期雑音の原因として挙げられる病態ではない。

  5. ○e.  甲状腺機能亢進症

    甲状腺ホルモンの過剰は、心筋の収縮力・心拍数を増加させる(β受容体の感受性亢進も関与する)とともに、代謝亢進に伴う末梢血管拡張で血管抵抗を下げるため、心拍出量が大きく増える。こうした高心拍出状態により流出路の血流が速く多くなり、収縮早期の駆出性雑音が生じる。心疾患のない若い女性でこの雑音と頻脈を認めた場合、甲状腺機能亢進症(Basedow病など)を疑ってTSH、FT4、FT3、TRAb(TSH受容体抗体)を測定するきっかけとなる。

機能性(無害性)雑音の特徴

・収縮期の駆出性雑音であり、拡張期雑音や全収縮期雑音は機能性ではなく器質的疾患を考える。 ・強さはLevine分類でおおむね2度以下と弱く、スリル(触知できる振動)を伴わない。 ・Ⅱ音の分裂や心音そのものに異常を伴わない。 ・小児や若年者、やせ型の人、高心拍出状態でよく聴かれる。

高心拍出状態をきたす主な原因

貧血、妊娠、甲状腺機能亢進症、発熱、運動・興奮、脚気心(ビタミンB1欠乏)、動静脈瘻(透析用シャントなど)、Paget骨病、肝硬変など。

収縮期雑音のタイミングと代表疾患

・収縮早期〜中期(駆出性):機能性雑音、大動脈弁狭窄症・肺動脈弁狭窄症、閉塞性肥大型心筋症、心房中隔欠損症(肺血流増加による相対的肺動脈弁狭窄) ・収縮後期:僧帽弁逸脱症(収縮中期クリックに続く) ・全収縮期(逆流性):僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症、心室中隔欠損症

POINT

・胸骨左縁第2肋間=肺動脈弁領域。 ・心疾患がないのに聴こえる収縮期駆出性雑音は、心拍出量増加による相対的狭窄(機能性雑音)である。 ・高心拍出状態の代表:貧血、妊娠、甲状腺機能亢進症、発熱、脚気、動静脈シャント。 ・脱水は循環血液量・1回拍出量が減るため原因とならない。 ・機能性雑音は収縮期・弱い(Levine 2度以下)・スリルなし・心音異常なしが原則。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。