増えるもの、減るもの―多発性骨髄腫の検査所見を「方向」で読み解く
第110回医師国家試験 D問題 第14問
国試問題にチャレンジ
多発性骨髄腫でみられるのはどれか。2つ選べ。
- a.血小板数高値
- b.血清アルブミン高値
- c.血清カルシウム低値
- d.正常免疫グロブリン低値
- e.尿中Bence-Jones蛋白陽性
対話形式の解説
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ドクターまとめ
多発性骨髄腫は単クローン性の形質細胞が増殖する腫瘍で、M蛋白は増える一方、正常な免疫グロブリンは抑制されて低下し、易感染性の原因になります。過剰に作られた遊離軽鎖は糸球体を通過して尿中Bence-Jones蛋白として検出されますが、尿試験紙では見落としやすく免疫固定法での確認が必要です。総蛋白は上昇してもアルブミンは低下し、破骨細胞の活性化で高カルシウム血症、骨髄占拠で貧血や血小板減少をきたすため、アルブミン高値・カルシウム低値・血小板高値はいずれも逆方向です。CRAB(高カルシウム血症、腎障害、貧血、骨病変)を軸に、連銭形成や赤沈亢進、ISSでの予後評価まで押さえておくと理解が深まります。各所見を「増えるか減るか」の方向で病態から説明できるようにしておくことが、検査値問題を確実に解く力になります。
解答・解説
正解はd, eです
多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)は、抗体を産生する形質細胞が腫瘍性(単クローン性)に増殖する造血器腫瘍である。検査所見は、次の3つの病態に分けて整理すると覚えやすい。
1. 単クローン性の免疫グロブリン(M蛋白)の産生
腫瘍化した形質細胞は1種類の免疫グロブリン、またはその一部(軽鎖のみ)を大量に産生する。これをM蛋白(monoclonal protein)とよぶ。血清蛋白電気泳動ではγ〜β分画に幅の狭いピーク(Mピーク)が現れ、総蛋白は上昇するが、アルブミンはむしろ低下する(A/G比低下)。軽鎖は分子量が小さく糸球体を通過するため、尿中にBence-Jones蛋白(BJP)として出現する。一方で、腫瘍細胞の増殖により正常な形質細胞の抗体産生は抑制され、M蛋白以外の正常免疫グロブリンは低下する(免疫不全による易感染性の原因)。
2. 骨髄占拠による正常造血の障害
骨髄が腫瘍細胞に置き換わり、貧血(正球性正色素性が多い)を中心に、進行すれば白血球減少・血小板減少もきたす。
3. 骨病変と臓器障害
骨髄腫細胞が破骨細胞を活性化させ(RANKLの増加など)、骨融解(打ち抜き像)、病的骨折、高カルシウム血症を起こす。軽鎖による尿細管障害(骨髄腫腎、cast nephropathy)や高カルシウム血症によって腎障害も生じる。 したがって、各選択肢を「増えるか、減るか」の方向で判断すればよい。正常免疫グロブリン低値と尿中Bence-Jones蛋白陽性が多発性骨髄腫でみられる所見である。
選択肢考察
- ×a. 血小板数高値
誤り。骨髄が腫瘍性形質細胞で占められると正常な造血が障害されるため、血小板数は正常か低値となる。高値はみられない。血球減少のなかで最も高頻度なのは貧血であり、血小板減少は病勢が進行した例や化学療法中に目立つ。
- ×b. 血清アルブミン高値
誤り。M蛋白の増加で総蛋白は上昇するが、上がるのはグロブリン分画であり、アルブミンは低下する傾向にある。骨髄腫細胞の増殖を支えるIL-6(インターロイキン6)が肝でのアルブミン合成を抑えることなどが関与する。低アルブミン血症は予後不良因子であり、病期分類であるISS(International Staging System)にも血清アルブミン値(3.5 g/dL未満かどうか)が組み込まれている。
- ×c. 血清カルシウム低値
誤り。骨髄腫細胞が破骨細胞を活性化して骨吸収を亢進させるため、骨からカルシウムが溶け出し、血清カルシウムは高値となる。高カルシウム血症は多尿・脱水・意識障害・腎障害の原因となり、骨髄腫による臓器障害(CRAB症状)の一つとして診断・治療開始の基準にも含まれる。
- ○d. 正常免疫グロブリン低値
正しい。腫瘍細胞は単一の免疫グロブリン(M蛋白)を大量に作る一方で、正常な多クローン性の形質細胞の抗体産生は抑制される。そのため、M蛋白以外の免疫グロブリン(たとえばIgG型骨髄腫ならIgAやIgM)は低値となる。これは液性免疫の低下を意味し、肺炎球菌などによる細菌感染症を繰り返す原因となる。
- ○e. 尿中Bence-Jones蛋白陽性
正しい。Bence-Jones蛋白は単クローン性の免疫グロブリン軽鎖(κ鎖またはλ鎖)である。腫瘍細胞が重鎖に比べて軽鎖を過剰に作るため遊離した軽鎖が血中に増え、分子量が小さいことから糸球体で濾過されて尿中に出る。多くの症例で検出され、軽鎖のみを産生するBence-Jones型骨髄腫では血清M蛋白が目立たず、尿中BJPや血清遊離軽鎖(FLC)の測定が診断の手がかりになる。なお、尿試験紙法はアルブミンを主に検出するため軽鎖を見落としやすく、尿の免疫電気泳動(免疫固定法)で確認する。
多発性骨髄腫の概要
高齢者に多く、40歳未満はまれである。骨痛(特に腰背部痛)、貧血症状、易感染性、腎障害などで発見される。
臓器障害:CRAB
C(hyperCalcemia):高カルシウム血症 R(Renal insufficiency):腎障害 A(Anemia):貧血 B(Bone lesions):溶骨性病変 国際骨髄腫ワーキンググループ(IMWG)の基準では、骨髄中のクローナルな形質細胞10%以上(または形質細胞腫の生検証明)に加え、CRABのいずれか、あるいはSLiM(骨髄形質細胞60%以上、関与/非関与FLC比100以上、MRIで5mm以上の局所病変2個以上)のいずれかを満たすと、治療対象となる骨髄腫と診断する。
その他の代表的所見
・赤血球の連銭形成、赤沈の著明な亢進(M蛋白による) ・頭蓋骨の打ち抜き像(punched-out lesion) ・骨シンチグラフィでは集積が乏しいことが多い(骨形成が伴わないため)。骨病変の評価にはCT・MRI・PETが有用 ・IgA型・IgM型(M蛋白の大量産生)では過粘稠度症候群をきたしうる ・アミロイドーシス(ALアミロイドーシス)を合併することがある ・β2ミクログロブリン高値、LDH高値は予後不良の指標
病期分類:ISS
I期:血清β2ミクログロブリン3.5 mg/L未満かつアルブミン3.5 g/dL以上 III期:β2ミクログロブリン5.5 mg/L以上 II期:I期にもIII期にも該当しないもの (改訂版R-ISSではLDHと高リスク染色体異常も加味する)
POINT
・M蛋白(単クローン性免疫グロブリン)は増加し、正常免疫グロブリンは低下する ・尿中Bence-Jones蛋白(遊離軽鎖)が陽性となる ・高カルシウム血症、貧血、腎障害、溶骨性病変(CRAB) ・総蛋白は上昇するがアルブミンは低下(A/G比低下) ・骨髄占拠により血球(特に赤血球)は減少し、血小板が増えることはない
