StudyMed医師国家試験

増えるもの、減るもの―多発性骨髄腫の検査所見を「方向」で読み解く

第110回医師国家試験 D問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第110回 D問題 第14問

多発性骨髄腫でみられるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.血小板数高値
  2. b.血清アルブミン高値
  3. c.血清カルシウム低値
  4. d.正常免疫グロブリン低値
  5. e.尿中Bence-Jones蛋白陽性

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は多発性骨髄腫で見られる検査所見を選ぶ問題だ。選択肢はどれも「高値」「低値」「陽性」と方向が書かれている。病態から考えて、それぞれ増えるのか減るのかを判断できれば迷わないよ。まず、多発性骨髄腫はどんな病気だったかな。
医学生医学生
形質細胞が腫瘍性に増える病気です。抗体を作る細胞なので、免疫グロブリンが増えるんですよね。
ドクタードクター
半分正解。正確には、腫瘍化した1つのクローンが同じ免疫グロブリン、あるいはその一部だけを大量に作る。これがM蛋白だ。血清蛋白電気泳動ではγ〜β分画に幅の狭いMピークが立つ。では、正常な免疫グロブリンはどうなると思う?
医学生医学生
全体として免疫グロブリンが増えているなら、正常なものも多いのでは……と思ってしまいます。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴だね。腫瘍細胞が骨髄で増えると、正常な形質細胞の抗体産生は抑えられる。だからM蛋白以外の免疫グロブリン、例えばIgG型骨髄腫ならIgAやIgMは低下する。量は多くても中身は役に立たない1種類だけ、というイメージだ。
医学生医学生
だから骨髄腫の患者さんは肺炎を繰り返しやすいんですね。血液内科の実習で、肺炎球菌性肺炎で入院していた骨髄腫の方を担当しました。
ドクタードクター
まさにそれ。液性免疫が落ちるから、肺炎球菌のような莢膜をもつ細菌の感染が問題になる。次はBence-Jones蛋白。これは何だったかな。
医学生医学生
免疫グロブリンの軽鎖でしたよね。κかλのどちらか一方だけです。
ドクタードクター
その通り。腫瘍細胞は重鎖に比べて軽鎖を過剰に作るので、余った遊離軽鎖が血中に増える。軽鎖は分子量が小さいから糸球体を通過して尿に出てくる。これが尿中Bence-Jones蛋白だ。軽鎖だけを作るBence-Jones型では血清のMピークが目立たないこともあるから、尿や血清遊離軽鎖の測定が診断の手がかりになる。
医学生医学生
尿試験紙で蛋白が陰性なら、Bence-Jones蛋白もないと考えていいですか。
ドクタードクター
そこは注意が必要だよ。尿試験紙は主にアルブミンを検出するので、軽鎖は見落としやすい。疑ったら尿の免疫固定法で確認する。では、残りの選択肢を見ていこう。血清アルブミンはどうだろう。
医学生医学生
M蛋白で総蛋白が上がるので、アルブミンも高くなるのかと思いました。
ドクタードクター
総蛋白が上がるのは正しいけれど、増えるのはグロブリン分画で、アルブミンはむしろ下がる傾向にある。骨髄腫細胞の増殖を支えるIL-6が肝臓でのアルブミン合成を抑えることなどが関わっている。A/G比が低下するのが典型だ。低アルブミン血症は予後不良因子で、病期分類のISSにもβ2ミクログロブリンと並んで組み込まれている。
医学生医学生
カルシウムは、骨が溶けるので高くなるはずですね。低値は逆です。
ドクタードクター
正解。骨髄腫細胞はRANKLを介するなどして破骨細胞を活性化し、骨吸収を進める。打ち抜き像や病的骨折、そして高カルシウム血症が起こる。高カルシウム血症は多尿や脱水、意識障害、腎障害の原因になるから、見逃せない所見だ。
医学生医学生
血小板は、骨髄が腫瘍細胞で埋まるなら、むしろ減る方向ですか。
ドクタードクター
そう。正常な造血が押しのけられるので、最も多いのは正球性正色素性の貧血で、進行すれば白血球や血小板も減る。血小板が高値になることはないと考えていい。
医学生医学生
CRABでまとめると、高カルシウム血症、腎障害、貧血、骨病変ですね。CBTの前にこの語呂で覚えました。
ドクタードクター
いいね。CRABは骨髄腫による臓器障害を示し、治療対象となる骨髄腫の診断基準にも使われる。骨髄中のクローナルな形質細胞が10%以上で、CRABのいずれか、あるいはSLiMと呼ばれる進行の高リスク所見があれば治療を考える。
医学生医学生
ほかに骨髄腫らしい所見で覚えておくべきものはありますか。
ドクタードクター
赤血球の連銭形成と赤沈の著明な亢進は代表的だね。M蛋白で赤血球同士がくっつきやすくなるんだ。それから骨病変の評価では、骨形成を伴わないため骨シンチグラフィでは集積が乏しいことが多く、CTやMRI、PETが有用だ。軽鎖による骨髄腫腎やALアミロイドーシスの合併、IgA型やIgM型での過粘稠度症候群にも気をつけよう。
医学生医学生
高齢の方の腰痛で、貧血と総蛋白高値があったら骨髄腫を疑うべきということですね。
ドクタードクター
その通り。腰痛はありふれた症状だからこそ、貧血、腎機能障害、高カルシウム血症、総蛋白とアルブミンの乖離といったサインに気づけるかが大切だ。

まとめ

多発性骨髄腫は単クローン性の形質細胞が増殖する腫瘍で、M蛋白は増える一方、正常な免疫グロブリンは抑制されて低下し、易感染性の原因になります。過剰に作られた遊離軽鎖は糸球体を通過して尿中Bence-Jones蛋白として検出されますが、尿試験紙では見落としやすく免疫固定法での確認が必要です。総蛋白は上昇してもアルブミンは低下し、破骨細胞の活性化で高カルシウム血症、骨髄占拠で貧血や血小板減少をきたすため、アルブミン高値・カルシウム低値・血小板高値はいずれも逆方向です。CRAB(高カルシウム血症、腎障害、貧血、骨病変)を軸に、連銭形成や赤沈亢進、ISSでの予後評価まで押さえておくと理解が深まります。各所見を「増えるか減るか」の方向で病態から説明できるようにしておくことが、検査値問題を確実に解く力になります。

解答・解説

正解はd, eです

多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)は、抗体を産生する形質細胞が腫瘍性(単クローン性)に増殖する造血器腫瘍である。検査所見は、次の3つの病態に分けて整理すると覚えやすい。

1. 単クローン性の免疫グロブリン(M蛋白)の産生

腫瘍化した形質細胞は1種類の免疫グロブリン、またはその一部(軽鎖のみ)を大量に産生する。これをM蛋白(monoclonal protein)とよぶ。血清蛋白電気泳動ではγ〜β分画に幅の狭いピーク(Mピーク)が現れ、総蛋白は上昇するが、アルブミンはむしろ低下する(A/G比低下)。軽鎖は分子量が小さく糸球体を通過するため、尿中にBence-Jones蛋白(BJP)として出現する。一方で、腫瘍細胞の増殖により正常な形質細胞の抗体産生は抑制され、M蛋白以外の正常免疫グロブリンは低下する(免疫不全による易感染性の原因)。

2. 骨髄占拠による正常造血の障害

骨髄が腫瘍細胞に置き換わり、貧血(正球性正色素性が多い)を中心に、進行すれば白血球減少・血小板減少もきたす。

3. 骨病変と臓器障害

骨髄腫細胞が破骨細胞を活性化させ(RANKLの増加など)、骨融解(打ち抜き像)、病的骨折、高カルシウム血症を起こす。軽鎖による尿細管障害(骨髄腫腎、cast nephropathy)や高カルシウム血症によって腎障害も生じる。 したがって、各選択肢を「増えるか、減るか」の方向で判断すればよい。正常免疫グロブリン低値と尿中Bence-Jones蛋白陽性が多発性骨髄腫でみられる所見である。

選択肢考察

  1. ×a.  血小板数高値

    誤り。骨髄が腫瘍性形質細胞で占められると正常な造血が障害されるため、血小板数は正常か低値となる。高値はみられない。血球減少のなかで最も高頻度なのは貧血であり、血小板減少は病勢が進行した例や化学療法中に目立つ。

  2. ×b.  血清アルブミン高値

    誤り。M蛋白の増加で総蛋白は上昇するが、上がるのはグロブリン分画であり、アルブミンは低下する傾向にある。骨髄腫細胞の増殖を支えるIL-6(インターロイキン6)が肝でのアルブミン合成を抑えることなどが関与する。低アルブミン血症は予後不良因子であり、病期分類であるISS(International Staging System)にも血清アルブミン値(3.5 g/dL未満かどうか)が組み込まれている。

  3. ×c.  血清カルシウム低値

    誤り。骨髄腫細胞が破骨細胞を活性化して骨吸収を亢進させるため、骨からカルシウムが溶け出し、血清カルシウムは高値となる。高カルシウム血症は多尿・脱水・意識障害・腎障害の原因となり、骨髄腫による臓器障害(CRAB症状)の一つとして診断・治療開始の基準にも含まれる。

  4. ○d.  正常免疫グロブリン低値

    正しい。腫瘍細胞は単一の免疫グロブリン(M蛋白)を大量に作る一方で、正常な多クローン性の形質細胞の抗体産生は抑制される。そのため、M蛋白以外の免疫グロブリン(たとえばIgG型骨髄腫ならIgAやIgM)は低値となる。これは液性免疫の低下を意味し、肺炎球菌などによる細菌感染症を繰り返す原因となる。

  5. ○e.  尿中Bence-Jones蛋白陽性

    正しい。Bence-Jones蛋白は単クローン性の免疫グロブリン軽鎖(κ鎖またはλ鎖)である。腫瘍細胞が重鎖に比べて軽鎖を過剰に作るため遊離した軽鎖が血中に増え、分子量が小さいことから糸球体で濾過されて尿中に出る。多くの症例で検出され、軽鎖のみを産生するBence-Jones型骨髄腫では血清M蛋白が目立たず、尿中BJPや血清遊離軽鎖(FLC)の測定が診断の手がかりになる。なお、尿試験紙法はアルブミンを主に検出するため軽鎖を見落としやすく、尿の免疫電気泳動(免疫固定法)で確認する。

多発性骨髄腫の概要

高齢者に多く、40歳未満はまれである。骨痛(特に腰背部痛)、貧血症状、易感染性、腎障害などで発見される。

臓器障害:CRAB

C(hyperCalcemia):高カルシウム血症 R(Renal insufficiency):腎障害 A(Anemia):貧血 B(Bone lesions):溶骨性病変 国際骨髄腫ワーキンググループ(IMWG)の基準では、骨髄中のクローナルな形質細胞10%以上(または形質細胞腫の生検証明)に加え、CRABのいずれか、あるいはSLiM(骨髄形質細胞60%以上、関与/非関与FLC比100以上、MRIで5mm以上の局所病変2個以上)のいずれかを満たすと、治療対象となる骨髄腫と診断する。

その他の代表的所見

・赤血球の連銭形成、赤沈の著明な亢進(M蛋白による) ・頭蓋骨の打ち抜き像(punched-out lesion) ・骨シンチグラフィでは集積が乏しいことが多い(骨形成が伴わないため)。骨病変の評価にはCT・MRI・PETが有用 ・IgA型・IgM型(M蛋白の大量産生)では過粘稠度症候群をきたしうる ・アミロイドーシス(ALアミロイドーシス)を合併することがある ・β2ミクログロブリン高値、LDH高値は予後不良の指標

病期分類:ISS

I期:血清β2ミクログロブリン3.5 mg/L未満かつアルブミン3.5 g/dL以上 III期:β2ミクログロブリン5.5 mg/L以上 II期:I期にもIII期にも該当しないもの (改訂版R-ISSではLDHと高リスク染色体異常も加味する)

POINT

・M蛋白(単クローン性免疫グロブリン)は増加し、正常免疫グロブリンは低下する ・尿中Bence-Jones蛋白(遊離軽鎖)が陽性となる ・高カルシウム血症、貧血、腎障害、溶骨性病変(CRAB) ・総蛋白は上昇するがアルブミンは低下(A/G比低下) ・骨髄占拠により血球(特に赤血球)は減少し、血小板が増えることはない

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。