StudyMed医師国家試験

似た構造の取り違えに要注意―冠静脈洞・弁・刺激伝導系で心臓解剖を総点検

第110回医師国家試験 B問題 第29問

国試問題にチャレンジ

第110回 B問題 第29問

心臓について正しいのはどれか。

  1. a.冠静脈洞は右房に開口する。
  2. b.大動脈弁には腱索が付着する。
  3. c.洞結節は心房中隔下端に位置する。
  4. d.Valsalva洞は肺動脈の起部に位置する。
  5. e.心筋への冠動脈血流は主に収縮期に流れる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は心臓の肉眼解剖と冠循環の生理をまとめて確認する問題だ。選択肢は、静脈の還流経路、弁の構造、刺激伝導系の位置、大動脈基部の構造、冠血流の時相という5つの論点に分かれている。ポイントは「どの構造がどこにあって、何とつながるか」を正確に思い浮かべられるかどうか。似た構造同士をすり替えた誤りが並んでいるから、対になる構造をセットで考えていこう。
医学生医学生
解剖実習で心臓を剖出したとき、後面に太い静脈が走っていたのを覚えています。あれが冠静脈洞ですよね。
ドクタードクター
そう、それが冠静脈洞だ。心臓後面の冠状溝、つまり左房と左室の境目の溝を走る太い静脈で、大心臓静脈・中心臓静脈・小心臓静脈・左室後静脈などが合流する。心筋を灌流した静脈血の大部分、特に左室からの血液がここに集まるんだ。では、最終的にどこへ注ぐと思う?
医学生医学生
左室の血を集めているなら、左房に戻るような気もしてしまいます……。
ドクタードクター
そこが引っかけやすいところだね。心筋を通った血液は酸素を失った静脈血だから、全身の静脈血と同じく右房に戻る。冠静脈洞は右房の後下部、下大静脈の開口部と三尖弁輪の間に開口していて、入口には冠静脈洞弁(Thebesius弁)という小さな弁がある。だから「冠静脈洞は右房に開口する」が正しい記述だ。
医学生医学生
静脈血なので右房、と考えれば自然ですね。ほかの静脈はどうなっていますか。
ドクタードクター
右室前面の前心臓静脈は冠静脈洞を経由せず右房へ直接注ぐ。さらに、心筋内から各心腔へ直接注ぐ細小心臓静脈(Thebesius静脈)というごく細い静脈もある。主役は冠静脈洞、と押さえておけば十分だよ。次は弁だ。大動脈弁に腱索は付いているかな。
医学生医学生
腱索と乳頭筋は僧帽弁と三尖弁、つまり房室弁のものだと習いました。
ドクタードクター
正解。房室弁の弁尖は腱索を介して乳頭筋とつながっていて、心室が収縮するときに乳頭筋も収縮して腱索を引き、弁尖が心房側にめくれ返るのを防いでいる。一方、大動脈弁と肺動脈弁は3枚のポケット状の弁尖からなる半月弁で、腱索も乳頭筋もない。拡張期に逆流しようとする血液がポケットにたまって、弁尖同士が閉じ合わさる仕組みなんだ。
医学生医学生
循環器内科の実習で、心筋梗塞後に乳頭筋断裂で急性の僧帽弁逆流になった症例の話を聞きました。腱索がある弁だからこそ起こる合併症なんですね。
ドクタードクター
その通り、構造と病態がつながっているね。続いて刺激伝導系。洞結節が心房中隔の下端にある、という記述はどうだろう。
医学生医学生
洞結節は右房の上のほう、上大静脈の入口付近だったと思います。心房中隔の下にあるのは房室結節では?
ドクタードクター
よく区別できている。洞結節は右房上部、上大静脈が流入する付近の心外膜下にあって、正常のペースメーカーとして働く。心房中隔の下部にあるのは房室結節で、冠静脈洞開口部・三尖弁中隔尖の付着部・Todaro索で囲まれたKoch三角の頂点付近に位置する。興奮は洞結節から心房、房室結節、His束、左右の脚、Purkinje線維へと伝わっていくよ。
医学生医学生
Valsalva洞は、冠動脈の起始部があるところですよね。だとすると肺動脈ではなく大動脈のはずです。
ドクタードクター
そう、Valsalva洞は大動脈の起始部で、3枚の大動脈弁尖それぞれの背後で壁が外側にふくらんだ部分だ。右冠尖の洞から右冠動脈、左冠尖の洞から左冠動脈が出て、冠動脈の出ない洞は無冠尖洞と呼ばれる。肺動脈の基部にも小さな膨らみはあるけれど、Valsalva洞といえば大動脈の構造だ。臨床的には、ここが瘤状に拡張して右室や右房へ破れるValsalva洞動脈瘤破裂が重要だね。
医学生医学生
最後の冠血流ですが、心臓が血液を送り出す収縮期に一番流れそうなイメージがあります。
ドクタードクター
直感的にはそう思えるよね。でも冠動脈から心筋の中へ入っていく枝は、収縮期には収縮した心筋に締め付けられて抵抗が大きくなり、血流がほとんど流れない。心筋がゆるむ拡張期に抵抗が下がり、大動脈の拡張期圧で血液が流れ込むんだ。この傾向は壁内圧の高い左室で特に強く、とりわけ心内膜下層が虚血に陥りやすい。右室は壁内圧が低いので、右冠動脈では収縮期にもある程度血流が保たれる。
医学生医学生
生理学の講義で、冠血流の波形が拡張期に山になる図を見たのを思い出しました。だから頻脈で拡張期が短くなると狭心症が起こりやすいんですね。
ドクタードクター
まさにそこが臨床とのつながりだ。冠灌流圧はおおよそ「大動脈拡張期圧から左室拡張末期圧を引いたもの」と考えられるから、頻脈のほか、大動脈弁閉鎖不全症で拡張期血圧が下がるときや、左室の拡張期圧が上がるときも冠灌流は悪くなる。逆にこの性質を利用したのが大動脈内バルーンパンピングで、拡張期にバルーンを膨らませて拡張期圧を高めて冠血流を増やし、収縮期の直前にしぼませて後負荷を減らすんだ。
医学生医学生
解剖の知識がそのまま治療にも生きるんですね。冠静脈洞も何かに使われていますか。
ドクタードクター
いい質問だね。心臓再同期療法では、左室リードを冠静脈洞から左室側壁の静脈へ進めて留置する。また房室結節は多くが右冠動脈から栄養されるので、下壁梗塞では房室ブロックを合併しやすい。こうした解剖と臨床の結びつきを意識すると、記憶がぐっと定着するよ。

まとめ

冠静脈洞は心臓後面の冠状溝を走り、心筋からの静脈血の大部分を集めて右房(下大静脈開口部と三尖弁輪の間)に開口します。腱索・乳頭筋をもつのは房室弁(僧帽弁・三尖弁)で、半月弁である大動脈弁にはなく、洞結節は右房上部の上大静脈流入部付近、心房中隔下部のKoch三角にあるのは房室結節です。Valsalva洞は大動脈起始部にあって左右の冠動脈がここから起こり、冠血流は心筋内血管が圧迫される収縮期ではなく主に拡張期に流れ、特に左室で顕著です。頻脈や拡張期血圧の低下で冠灌流が悪化すること、IABPや心臓再同期療法がこうした解剖・生理を利用していることも合わせて押さえましょう。似た構造を対にして整理する習慣は、解剖の正確な理解と循環器疾患の病態把握の土台になります。

解答・解説

正解はaです

心臓の肉眼解剖と冠循環の生理を横断的に問う基本問題である。選択肢は (1) 静脈還流の経路(冠静脈洞)、(2) 弁の構造(房室弁と半月弁の違い)、(3) 刺激伝導系の位置(洞結節と房室結節)、(4) 大動脈基部の構造(Valsalva 洞)、(5) 冠血流の時相、という 5 つの論点に分かれている。 それぞれ「どの構造がどこにあり、何とつながるか」を正確に思い浮かべられれば判断できる。特に、似た構造同士の取り違え(洞結節と房室結節、大動脈と肺動脈、房室弁と半月弁)を狙った誤りの選択肢が並んでいるので、対になる構造をセットで覚えておくことが大切である。冠血流の時相については、収縮期に心筋内の血管が圧迫されるという機序から考えると理解しやすい。

選択肢考察

  1. ○a.  冠静脈洞は右房に開口する。

    冠静脈洞は心臓後面の冠状溝(左房と左室の境界の溝)を走る太い静脈で、大心臓静脈・中心臓静脈・小心臓静脈・左室後静脈などが合流する。心筋を灌流した静脈血の大部分、特に左室からの静脈血はここに集まり、右房の後下部、下大静脈開口部と三尖弁輪の間に開口する。開口部には小さな弁(冠静脈洞弁、Thebesius 弁)がある。なお、右室前面の前心臓静脈は右房に直接注ぎ、ごく一部は細小心臓静脈(Thebesius 静脈)として各心腔へ直接注ぐ。

  2. ×b.  大動脈弁には腱索が付着する。

    腱索が付着するのは房室弁(僧帽弁と三尖弁)である。房室弁の弁尖は腱索を介して心室壁の乳頭筋とつながっており、心室収縮時に乳頭筋も収縮して腱索を引き、弁尖が心房側へ反転(逸脱)するのを防いでいる。一方、大動脈弁と肺動脈弁は 3 枚のポケット状の弁尖からなる半月弁で、腱索も乳頭筋も持たない。拡張期に血液が逆流しようとするとポケットに血液がたまって弁尖同士が閉じ合わさることで、逆流を防いでいる。

  3. ×c.  洞結節は心房中隔下端に位置する。

    洞結節(洞房結節)は右房の上部、上大静脈が右房に流入する部位の近く(分界稜の上端付近)の心外膜下に位置し、正常な心拍のペースメーカーとして働く。心房中隔の下端付近にあるのは房室結節で、冠静脈洞開口部・三尖弁中隔尖の付着部・Todaro 索で囲まれた Koch 三角の頂点付近に位置する。興奮は洞結節→心房→房室結節→His 束→左右の脚→Purkinje 線維と伝わる。

  4. ×d.  Valsalva洞は肺動脈の起部に位置する。

    Valsalva 洞(大動脈洞)は大動脈の起始部にあり、3 枚の大動脈弁尖それぞれの背後で大動脈壁が外側へふくらんだ部分である。右冠尖の洞から右冠動脈が、左冠尖の洞から左冠動脈が起始し、冠動脈の出ない洞は無冠尖洞と呼ばれる。臨床的には、この部分が瘤状に拡張して破裂する Valsalva 洞動脈瘤破裂(多くは右室や右房へ穿破する)が重要である。肺動脈基部にも弁尖の背後にわずかな膨らみ(肺動脈洞)はあるが、Valsalva 洞といえば大動脈の構造を指す。

  5. ×e.  心筋への冠動脈血流は主に収縮期に流れる。

    冠動脈血流は主に拡張期に流れる。冠動脈の太い枝は心外膜表面を走るが、そこから心筋の中へ入り込む枝は、収縮期には収縮した心筋に締め付けられて血管抵抗が大きく上がり、血流がほとんど流れなくなる。心筋が弛緩する拡張期に抵抗が下がり、大動脈の拡張期圧によって血液が流れ込む。この傾向は壁内圧が高い左室で特に顕著で、とりわけ心内膜下層は虚血に陥りやすい。右室は壁内圧が低いため、右冠動脈では収縮期にも比較的血流が保たれる。

冠循環の要点

・冠動脈は大動脈起始部の Valsalva 洞から起こる。左冠動脈主幹部はすぐに左前下行枝と左回旋枝に分かれ、右冠動脈は右房室間溝を走る。 ・心筋は安静時から血液中の酸素を高率に取り込んでいる(冠静脈血の酸素飽和度は低い)。そのため、酸素需要が増えたときは酸素の取り込み率をあまり上げられず、冠血流量を増やして対応する。 ・頻脈では拡張期が短縮して冠血流が得にくくなる。大動脈弁閉鎖不全症で拡張期血圧が下がる場合や、拡張期の左室内圧が上がる場合も冠灌流は悪化する。冠灌流圧はおおよそ「大動脈拡張期圧 − 左室拡張末期圧」で考えられる。 ・大動脈内バルーンパンピング(IABP)は、拡張期にバルーンを膨らませて拡張期圧を高め(diastolic augmentation)冠血流を増やし、収縮期直前にしぼませて後負荷を減らす。冠血流が拡張期主体であることを利用した治療である。

心臓の静脈系

・冠静脈洞系:大心臓静脈(前室間溝を上行し冠状溝へ)、中心臓静脈(後室間溝)、小心臓静脈、左室後静脈、左房斜静脈などが合流し、右房へ開口する。 ・前心臓静脈:右室前面から右房へ直接注ぐ。 ・細小心臓静脈(Thebesius 静脈):心筋内から各心腔へ直接注ぐ。 ・臨床との関連:心臓再同期療法(CRT)では、左室リードを冠静脈洞を経由して左室側壁の静脈に留置する。左上大静脈遺残では冠静脈洞が拡大する。

刺激伝導系の位置

・洞結節:右房上部、上大静脈の流入部付近。主に右冠動脈から栄養される(洞結節枝)。 ・房室結節:心房中隔の下部、Koch 三角の頂点付近。多くは右冠動脈から栄養されるため、下壁梗塞では房室ブロックを合併しやすい。 ・His 束は膜性中隔の下を通って心室中隔の頂上で左脚・右脚に分かれる。

弁の比較

・房室弁(僧帽弁:2 尖、三尖弁:3 尖):腱索・乳頭筋を持つ。乳頭筋断裂(心筋梗塞の機械的合併症)や腱索断裂で急性の弁逆流をきたす。 ・半月弁(大動脈弁・肺動脈弁:ともに通常 3 尖):腱索・乳頭筋を持たない。

POINT

・冠静脈洞は心臓後面の冠状溝を走り、右房(下大静脈開口部と三尖弁輪の間)に開口する。 ・腱索・乳頭筋を持つのは房室弁(僧帽弁・三尖弁)で、半月弁(大動脈弁・肺動脈弁)にはない。 ・洞結節は右房上部の上大静脈流入部付近、房室結節は心房中隔下部(Koch 三角)にある。 ・Valsalva 洞は大動脈起始部にあり、左右冠動脈がここから起こる。 ・冠血流は主に拡張期に流れ、特に左室で顕著である。頻脈や拡張期血圧の低下は冠灌流を悪化させる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。