StudyMed医師国家試験

凸レンズが指し示す動脈―側頭部の急性硬膜外血腫と中硬膜動脈

第109回医師国家試験 I問題 第24問

国試問題にチャレンジ

第109回 I問題 第24問

頭部外傷患者の受傷後4時間の頭部単純CTを別に示す。  出血源として最も考えられるのはどれか。

第109回 I問題 第24問の問題画像
  1. a.架橋静脈
  2. b.後大脳動脈
  3. c.中大脳動脈
  4. d.中硬膜動脈
  5. e.上矢状静脈洞

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は頭部外傷後のCTから血腫の種類を見極め、その出血源を答える問題だ。ポイントは血腫の「形」と「場所」。この2つから、頭蓋内のどの層に出血しているのかを推理していこう。まずCTを見て、どんな印象を持ったかな。
医学生医学生
右の側頭部、頭蓋骨のすぐ内側に白い塊があります。内側に向かってぷっくり膨らんだ形ですね。
ドクタードクター
そう。急性期の血液はCTで高吸収、つまり白く写る。そして内側に凸の両凸レンズ型で、側頭部に限局している。正中構造も反対側へ押されていて、血腫がそれなりの圧迫をかけていることがわかる。この形から何の血腫を考える?
医学生医学生
脳神経外科の講義で「凸レンズは硬膜外、三日月は硬膜下」と習いました。なので急性硬膜外血腫でしょうか。
ドクタードクター
正解。では、なぜ形が違うのかも説明できるかな。
医学生医学生
えっと……出血の量が違うから、ですか?
ドクタードクター
惜しいけど、本質は「層」の違いなんだ。硬膜は頭蓋骨の縫合線のところで骨に強く付着している。だから頭蓋骨と硬膜の間に溜まる硬膜外血腫は縫合線を越えて広がりにくく、硬膜を押しはがしながら局所的に膨らむので凸レンズ型になる。一方、硬膜とくも膜の間の硬膜下血腫は、そうした制約がないから脳表に沿って薄く広がり三日月型になるんだ。
医学生医学生
なるほど、形は解剖の結果なんですね。では、頭蓋骨と硬膜の間を走る血管が出血源ということになりますか。
ドクタードクター
その発想が大事。硬膜外血腫の多くは頭蓋骨骨折を伴い、骨折線の直下の血管が裂けて生じる。側頭部で最も代表的なのが中硬膜動脈だ。外頸動脈系の顎動脈から分かれ、棘孔を通って頭蓋内に入り、頭蓋骨の内面に溝をつくりながら硬膜の外側を走っている。
医学生医学生
解剖実習で頭蓋骨の内側に木の枝みたいな溝があったのを覚えています。あれが中硬膜動脈の跡なんですね。
ドクタードクター
よく観察していたね。側頭骨の鱗部は薄くて骨折しやすく、しかも動脈が骨に密着しているから、骨折すると一緒に裂けやすい。動脈性なので血腫は短時間で大きくなる。だから中硬膜動脈が答えになる。ほかの選択肢も整理しておこう。架橋静脈はどうかな。
医学生医学生
架橋静脈は脳表から静脈洞へ渡る静脈なので、切れると硬膜下に出血します。高齢者の慢性硬膜下血腫の原因でしたよね。
ドクタードクター
その通り。急性硬膜下血腫の出血源にもなるけれど、どちらも三日月型の血腫をつくる層の血管だ。では中大脳動脈と後大脳動脈は?
医学生医学生
どちらも硬膜より内側、脳の血管ですよね。中大脳動脈の穿通枝のレンズ核線条体動脈は被殻出血、後大脳動脈の枝は視床出血の原因だったと思います。
ドクタードクター
完璧。中大脳動脈の分岐部は脳動脈瘤の好発部位で、破裂すればくも膜下出血になる。いずれも硬膜の内側での出血だから、硬膜外血腫の出血源にはならない。最後に上矢状静脈洞はどうだろう。
医学生医学生
硬膜静脈洞なので、硬膜外血腫を起こすこともありそうですが……。
ドクタードクター
鋭いね。実際、頭頂部正中の骨折で上矢状静脈洞が損傷されると、正中付近に硬膜外血腫をつくることがある。ただ今回の血腫は側頭部にあって、場所が合わない。出血源は「血腫の位置」とセットで考えるのがコツだ。
医学生医学生
形で層を決めて、位置で血管を絞る、という順番ですね。
ドクタードクター
その通り。臨床で特に大事なのは経過だ。硬膜外血腫では、受傷直後に一時的に意識を失ったあと、いったん意識が戻る意識清明期を経て、血腫の増大とともに再び悪化する経過が典型的とされる。進行すると鉤ヘルニアを起こし、患側の瞳孔散大や対側の片麻痺、血圧上昇と徐脈のCushing現象がみられる。
医学生医学生
救急外来で、受傷直後は普通に話せていた人でも安心できないということですね。
ドクタードクター
そう。だから受傷早期のCTで目立った所見がなくても、数時間後の再検査や神経所見の経時的な観察が欠かせない。血腫が厚い、正中偏位が強い、症状が進行するといった場合は緊急開頭血腫除去術を行う。脳実質の損傷が少ないことが多いので、早く手術できれば予後は比較的よい。逆に急性硬膜下血腫は脳挫傷を伴いやすく、受傷直後から意識障害が強くて予後も悪い傾向がある、と対比して覚えておこう。

まとめ

頭部外傷後のCTで、頭蓋骨直下に凸レンズ型の高吸収域を認めれば急性硬膜外血腫を考えます。硬膜が縫合線で頭蓋骨に強く付着しているため血腫は限局し、側頭部では骨の内面を走る中硬膜動脈が骨折に伴って破綻するのが最も代表的な出血源です。三日月型の急性硬膜下血腫は架橋静脈や脳挫傷部の皮質血管から生じ、中大脳動脈・後大脳動脈の穿通枝は高血圧性脳出血の出血源、上矢状静脈洞は頭頂部正中の硬膜外血腫の原因となります。硬膜外血腫は意識清明期の後に急変しうるため、経時的な観察と迅速な開頭血腫除去術が予後を左右します。血腫の形から層を、位置から血管を推定する考え方は、頭部外傷の画像診断の基本となります。

解答・解説

正解はdです

画像所見

受傷後4時間の頭部単純CTで、右側頭部の頭蓋骨直下に、内側へ凸の両凸レンズ状(凸レンズ型)の高吸収域がみられる。血腫による圧排で正中構造が反対側(左)へ偏位している(正中偏位:midline shift)。急性期の血腫はCTで高吸収(白)に写る。

診断の考え方

外傷性の頭蓋内血腫は、形と位置から出血のある層を推定できる。 ・急性硬膜外血腫:頭蓋骨と硬膜の間の血腫。硬膜は頭蓋骨の縫合線部で強く付着しているため、血腫は縫合線を越えて広がりにくく、限局した凸レンズ型になる。 ・急性硬膜下血腫:硬膜とくも膜の間の血腫。縫合線の制約を受けずに脳表に沿って広がるため、三日月型になる。 本例は凸レンズ型で側頭部に限局しており、急性硬膜外血腫と診断できる。

設問の考え方

急性硬膜外血腫の多くは頭蓋骨骨折に伴って生じ、出血源は骨折線の直下を走る血管である。側頭部の硬膜外血腫で最も多い出血源は、側頭骨の内面を走行する中硬膜動脈である。側頭部の骨(鱗部)は薄く骨折しやすいうえ、中硬膜動脈は骨の内面の溝(血管溝)に密着して走るため、骨折で損傷を受けやすい。動脈性の出血のため血腫は短時間で増大し、早期の外科的治療が必要になりやすい。

選択肢考察

  1. ×a.  架橋静脈

    架橋静脈(bridging vein)は大脳皮質表面から硬膜下腔を横切って上矢状静脈洞などの静脈洞へ流入する静脈である。頭部の回転加速度などで引き伸ばされて破綻すると、硬膜下腔に出血して急性硬膜下血腫(三日月型の高吸収域)をきたす。高齢者では脳萎縮で架橋静脈が伸展されているため、軽微な外傷でも慢性硬膜下血腫の原因となる。本例の凸レンズ型の硬膜外血腫の出血源としては考えにくい。

  2. ×b.  後大脳動脈

    後大脳動脈は脳底動脈の終枝で、後頭葉、側頭葉内側下面、視床などを栄養する。その穿通枝(視床穿通動脈・視床膝状体動脈など)は高血圧性脳出血のうち視床出血の出血源となる。脳実質内やくも膜下腔の血管であり、頭蓋骨と硬膜の間に出血する硬膜外血腫の原因にはならない。

  3. ×c.  中大脳動脈

    中大脳動脈は内頸動脈から分かれ、大脳半球外側面の前頭葉・側頭葉・頭頂葉の皮質と、穿通枝であるレンズ核線条体動脈を介して被殻・尾状核・内包などを栄養する。レンズ核線条体動脈は高血圧性脳出血で最も多い被殻出血の出血源である。また中大脳動脈分岐部は脳動脈瘤の好発部位で、破裂するとくも膜下出血をきたす。いずれも硬膜の内側の出血であり、硬膜外血腫の出血源ではない。

  4. ○d.  中硬膜動脈

    中硬膜動脈は外頸動脈の枝である顎動脈から分かれ、中頭蓋窩の棘孔を通って頭蓋内に入り、頭蓋骨内面と硬膜の間を走って硬膜を栄養する。側頭骨から頭頂骨の内面に血管溝をつくって走行するため、単純エックス線写真では骨折線がこの血管溝を横切っていると硬膜外血腫を警戒する。側頭部の骨折で中硬膜動脈が破綻すると、本例のような側頭部の凸レンズ型急性硬膜外血腫が生じる。急性硬膜外血腫の最も代表的な出血源である。

  5. ×e.  上矢状静脈洞

    上矢状静脈洞は大脳鎌の上縁に沿って頭頂部正中を前後に走る硬膜静脈洞で、架橋静脈や板間静脈などからの血液を受ける。正中部の骨折で損傷されると、頭頂部の正中付近(静脈洞の上や両側にまたがる部位)に硬膜外血腫をつくることがある。しかし本例の血腫は側頭部にあり、部位が一致しない。

急性硬膜外血腫の特徴

・病態:頭蓋骨と硬膜の間に出血が貯まる。90%前後に頭蓋骨骨折を伴い、骨折線直下の血管(中硬膜動脈・中硬膜静脈、静脈洞、板間静脈など)が出血源となる。好発部位は側頭部。 ・好発:若年者に多い。高齢者では硬膜が頭蓋骨に強く癒着しているため生じにくい。 ・臨床経過:受傷直後の一時的な意識障害の後、いったん意識が回復する意識清明期(lucid interval)を経て、血腫の増大とともに再び意識が低下する経過が典型的である。進行するとテント切痕ヘルニア(鉤ヘルニア)を起こし、患側の瞳孔散大、対側の片麻痺、Cushing現象(血圧上昇・徐脈)などがみられる。受傷直後に意識が保たれていても急変しうるため、数時間後の再CTなど経時的な評価が重要である。本問のように受傷後数時間で撮影されたCTで血腫が明らかになることもある。 ・CT所見:凸レンズ型の高吸収域。骨縫合線を越えにくい。骨条件で骨折線を確認する。 ・治療:血腫の厚さや量が大きい、正中偏位が強い、意識障害や神経症状が進行する場合は緊急開頭血腫除去術を行う。脳実質損傷が少ないことが多いため、早期に手術できれば予後は比較的良好である。

急性硬膜下血腫との比較

・部位:硬膜とくも膜の間。 ・出血源:架橋静脈や脳挫傷部の皮質動静脈。 ・CT:三日月型の高吸収域で、縫合線を越えて広がる。 ・特徴:脳挫傷などの脳実質損傷を伴うことが多く、受傷直後から意識障害が強いことが多い。予後は硬膜外血腫より不良である。

外傷以外での選択肢の血管の意義

・レンズ核線条体動脈(中大脳動脈の穿通枝):被殻出血 ・視床穿通動脈・視床膝状体動脈(後大脳動脈の枝):視床出血 ・脳動脈瘤破裂:くも膜下出血

POINT

・凸レンズ型の高吸収域=急性硬膜外血腫、三日月型=急性硬膜下血腫。 ・急性硬膜外血腫の代表的な出血源は中硬膜動脈(側頭骨骨折に伴う)。頭頂部正中では上矢状静脈洞も原因となる。 ・急性硬膜下血腫の出血源は架橋静脈や脳挫傷部の皮質血管。 ・急性硬膜外血腫は意識清明期の後に急速に悪化しうるため、経時的なCTと迅速な開頭血腫除去術が重要。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。