胃を切っても5年は持つ―ビタミンB12の長い旅路をたどる
第109回医師国家試験 G問題 第32問
国試問題にチャレンジ
ビタミンB12の代謝について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.主に空腸上部で吸収される。
- b.成人の1日必要量は約2 mgである。
- c.血中ではトランスコバラミンと結合する。
- d.胃壁細胞から分泌される外因子と結合する。
- e.胃全摘後に補充しなければ約5年で欠乏する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ビタミンB12は胃でハプトコリンと結合した後、十二指腸で胃壁細胞由来の内因子と結合し、回腸末端のキュビリンを介して吸収され、血中ではトランスコバラミンと結合して肝臓や骨髄へ運ばれます。1日必要量は数μgに過ぎない一方、体内には主に肝臓に2〜5 mgが貯蔵されているため、胃全摘で内因子が失われても欠乏症が現れるまで約5年かかります。欠乏すると巨赤芽球性貧血や亜急性連合性脊髄変性症をきたし、ホモシステインとメチルマロン酸の上昇が葉酸欠乏との鑑別に役立ちます。吸収経路の各段階と障害される病態を対応させて理解することは、胃切除後や回腸病変の患者を長期に診療する際の補充判断に直結します。
解答・解説
正解はc, eです
ビタミンB12(コバラミン)が食物から摂取され、吸収・運搬・貯蔵される流れを正確に理解しているかを問う問題である。
吸収から貯蔵までの流れ
①摂取:ビタミンB12は動物性食品(肉、魚介、卵、乳製品)に含まれ、植物性食品にはほとんど含まれない。食物中では蛋白質と結合している。 ②胃:胃酸とペプシンにより蛋白質から遊離したB12は、まず唾液や胃液に含まれるハプトコリン(R結合蛋白)と結合する。 ③十二指腸:膵液の蛋白分解酵素がハプトコリンを分解してB12が遊離し、胃の壁細胞が分泌した内因子と結合する。 ④回腸末端:B12-内因子複合体は、回腸末端の粘膜にある受容体(キュビリン)に結合して吸収される。 ⑤血中:吸収されたB12は輸送蛋白であるトランスコバラミンと結合し、肝臓・骨髄などの組織へ運ばれる。 ⑥貯蔵:体内貯蔵量は2~5 mg程度で、その多くは肝臓にある。1日の必要量は数μgと貯蔵量に比べてごくわずかである。 この流れのどこが障害されてもB12欠乏が起こりうる。胃全摘後は内因子が失われるため吸収がほぼできなくなるが、貯蔵量が1日必要量の1,000倍以上あるため、欠乏症状が現れるまでには数年(概ね5年前後)を要する。 以上から、血中でトランスコバラミンと結合すること、胃全摘後に補充しなければ約5年で欠乏することが正しい。
選択肢考察
- ×a. 主に空腸上部で吸収される。
ビタミンB12は内因子と複合体を形成したうえで、回腸末端で吸収される。回腸末端にはB12-内因子複合体の受容体(キュビリン)が存在するためである。そのため、クローン病などによる回腸末端の病変や、回腸切除後でもB12欠乏が起こる。なお、空腸上部(および十二指腸)で主に吸収されるのは葉酸、鉄(十二指腸)などである。
- ×b. 成人の1日必要量は約2 mgである。
成人の1日必要量はμg単位であり、mg単位ではない。日本人の食事摂取基準(2020年版)では、成人の推定平均必要量は約2.0 μg/日、推奨量は2.4 μg/日とされていた。2 mgは必要量の約1,000倍にあたり、むしろ体内貯蔵量(2~5 mg)の桁である。単位の取り違えに注意する。
- ○c. 血中ではトランスコバラミンと結合する。
回腸末端の上皮細胞内で内因子から離れたB12は、トランスコバラミン(かつてトランスコバラミンⅡと呼ばれた蛋白)と結合して門脈血中に出る。トランスコバラミンと結合したB12(ホロトランスコバラミン)は細胞表面の受容体を介して肝臓、骨髄などの細胞に取り込まれ、利用される。なお、血中B12の大部分はハプトコリン(かつてのトランスコバラミンⅠ・Ⅲ)と結合しているが、こちらは組織への供給にはほとんど関与しない。
- ×d. 胃壁細胞から分泌される外因子と結合する。
胃の壁細胞(胃底腺に存在し塩酸も分泌する細胞)が分泌する糖蛋白は「内因子(intrinsic factor)」である。ビタミンB12はこの内因子と結合して回腸末端で吸収される。歴史的には、食物中の抗悪性貧血因子を「外因子」、胃液中の因子を「内因子」と呼び、のちに外因子の実体がビタミンB12と判明した経緯がある。つまり外因子はB12そのものを指す語であり、胃壁細胞から分泌されるものではない。
- ○e. 胃全摘後に補充しなければ約5年で欠乏する。
胃全摘術を受けると内因子を分泌する壁細胞がなくなり、ビタミンB12をほとんど吸収できなくなる。しかし肝臓を中心に2~5 mgの貯蔵があり、1日の喪失量はごくわずかであるため、貯蔵が枯渇して欠乏症(巨赤芽球性貧血、亜急性連合性脊髄変性症など)が現れるのは術後おおむね4~5年経過してからである。そのため胃全摘後は定期的にB12値を確認し、筋注などで補充する。
ビタミンB12の働き
ビタミンB12は、ホモシステインからメチオニンを作る反応(メチオニン合成酵素、葉酸代謝と連動)と、メチルマロニルCoAをスクシニルCoAに変える反応の補酵素として働く。前者の障害でDNA合成が障害されて巨赤芽球性貧血が生じ、後者の障害で神経のミエリン形成が障害されると考えられている。このため欠乏時には血中ホモシステインとメチルマロン酸がともに上昇する(葉酸欠乏ではメチルマロン酸は上昇しない)。
ビタミンB12欠乏の原因
・内因子の欠乏:悪性貧血(抗内因子抗体・抗壁細胞抗体による自己免疫性萎縮性胃炎)、胃全摘後 ・回腸末端の吸収障害:回腸切除、クローン病、盲係蹄症候群(腸内細菌によるB12の消費)、広節裂頭条虫症 ・摂取不足:厳格な菜食主義 ・薬剤:メトホルミン、プロトンポンプ阻害薬の長期使用など
欠乏症状
・巨赤芽球性貧血(大球性貧血、汎血球減少、間接ビリルビン・LD上昇〈骨髄内での無効造血〉) ・ハンター舌炎(舌の萎縮・発赤・疼痛) ・亜急性連合性脊髄変性症(脊髄後索・側索の障害による深部感覚障害、痙性麻痺)、末梢神経障害、認知機能低下
治療
内因子欠乏による吸収障害が原因のことが多いため、ビタミンB12の筋注が基本である。大量の経口投与でも、内因子を介さない受動拡散によりわずかに吸収されるため、有効とされる。葉酸のみを投与すると貧血は改善しても神経症状が進行しうるので注意する。
POINT
・ビタミンB12は胃壁細胞が分泌する内因子と結合し、回腸末端で吸収される。 ・血中ではトランスコバラミンと結合して組織へ運ばれる。 ・1日必要量は数μg、体内貯蔵量は2~5 mg(主に肝臓)。 ・胃全摘後は補充しなければ約5年で欠乏し、巨赤芽球性貧血や神経障害をきたす。 ・葉酸は空腸上部、B12は回腸末端で吸収される。
