胎児の血は「脳ファースト」―3つの短絡路で読み解く胎児循環と出生時の切り替え
第109回医師国家試験 G問題 第22問
国試問題にチャレンジ
胎児・新生児期の循環で誤っているのはどれか。
- a.胎児の心臓は右室優位である。
- b.胎児の静脈管は生理的な短絡路である。
- c.左房圧の上昇によって卵円孔は閉鎖する。
- d.動脈血酸素分圧は上半身より下半身で高い。
- e.酸素濃度の上昇は動脈管閉鎖の要因である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
胎児では胎盤で酸素化された血液が臍帯静脈から静脈管を経て下大静脈・右房に入り、卵円孔を通って左心系から上行大動脈へ送られるため、脳や心筋など上半身に酸素の多い血液が優先的に分配されます。一方、上大静脈からの酸素の乏しい血液は右室から動脈管を経て下行大動脈へ流れるため、動脈血酸素分圧は下半身のほうが低くなります。胎児心は右室の拍出量が多い右室優位で、出生後は肺血管抵抗の低下による左房圧上昇で卵円孔が、酸素分圧上昇とPGE2低下で動脈管が閉鎖し、静脈管・卵円孔・動脈管はそれぞれ索状物や卵円窩となります。動脈管の閉鎖促進にはCOX阻害薬、開存維持にはPGE1製剤を用いる点や、遷延性肺高血圧症で上下肢のSpO2に差が出る点も臨床で重要です。血液の流れを一本の道筋として理解することが、新生児の循環管理や先天性心疾患を学ぶ土台になります。
解答・解説
正解はdです
胎児循環の流れと、出生に伴う循環の切り替わり(胎児循環から成人型循環への移行)を整理しておけば解ける問題である。
胎児循環の流れ
胎児は肺で呼吸しておらず、ガス交換は胎盤で行われる。胎盤で酸素化された血液は臍帯静脈を通って胎児に戻り、その多くは肝臓を迂回する静脈管(アランチウス管)を経て下大静脈に入り、右心房へ流入する。 右心房に入ったこの比較的酸素に富む血液は、下大静脈の開口部の向きと卵円孔の位置関係(下大静脈弁〈Eustachian 弁〉や心房中隔の形)によって優先的に卵円孔へ導かれ、左心房→左心室→上行大動脈へと送られる。上行大動脈から分岐する腕頭動脈・左総頸動脈・左鎖骨下動脈は、脳・冠動脈・上肢といった上半身を灌流する。 一方、上大静脈から戻る酸素の乏しい血液は主に三尖弁を通って右心室へ入り、肺動脈へ駆出される。胎児の肺は血管抵抗が高いため、肺には一部しか流れず、大部分は動脈管を通って下行大動脈に流れ込む。動脈管は左鎖骨下動脈の分岐より遠位で大動脈に合流するので、酸素の少ない右室由来の血液は下半身と臍帯動脈(→胎盤)へ向かう。
設問の考え方
この流れから、酸素分圧の高い血液ほど上半身(とくに脳・心筋)に優先的に配分され、下半身にはより低い酸素分圧の血液が届くことになる。よって「上半身より下半身で高い」という記述が誤りである。
選択肢考察
- ×a. 胎児の心臓は右室優位である。
正しい記述。胎児では左右の心室が並列に体循環を担っており、右室は肺動脈から動脈管を経て下行大動脈へ血液を送り、下半身と胎盤(臍帯動脈)への血流をまかなう。両心室を合わせた心拍出量のうち右室の拍出量のほうが多く(おおむね6割前後)、右室は高い肺血管抵抗・体血管抵抗に抗して拍出するため、壁も左室と同等に厚い。このため胎児心は右室優位といわれ、新生児の心電図で右軸偏位・右室優位の所見がみられるのもこの名残である。
- ×b. 胎児の静脈管は生理的な短絡路である。
正しい記述。静脈管は臍帯静脈と下大静脈を結ぶ血管で、胎盤で酸素化された臍帯静脈血の一部が肝臓の類洞を通らずに直接下大静脈へ流れ込むための短絡路である。胎児循環には静脈管、卵円孔、動脈管の3つの生理的短絡路がある。出生により臍帯血流が途絶えると静脈管は数日以内に機能的に閉鎖し、のちに静脈管索(肝臓の静脈管索裂に位置する索状物)となる。なお、臍帯静脈は臍静脈索を経て肝円索となる。
- ×c. 左房圧の上昇によって卵円孔は閉鎖する。
正しい記述。出生後、第一呼吸で肺が拡張し、肺胞内の酸素分圧上昇により肺血管が拡張して肺血管抵抗が急低下する。すると肺血流が急増し、肺静脈から左心房への還流量が増えて左房圧が上昇する。同時に臍帯血流の途絶により下大静脈からの還流が減り右房圧は低下する。左房圧が右房圧を上回ると、左房側にある一次中隔(卵円孔弁)が二次中隔に押し付けられ、卵円孔は機能的に閉鎖する。解剖学的に癒合して卵円窩となるのは生後数か月以降であり、成人の約4分の1では癒合が不完全な卵円孔開存が残る。
- ○d. 動脈血酸素分圧は上半身より下半身で高い。
誤った記述であり、これが正解である。静脈管を経て下大静脈から右房に入る酸素化された血液は、選択的に卵円孔を通って左房・左室へ流れ、上行大動脈から上半身(脳・冠動脈・上肢)に分布する。これに対し、上大静脈からの酸素の乏しい血液は右室から肺動脈・動脈管を経て、左鎖骨下動脈分岐部より遠位の下行大動脈に流入し、下半身へ向かう。したがって動脈血酸素分圧は上半身のほうが下半身より高い。新生児期に動脈管を介した右→左短絡が残る病態(新生児遷延性肺高血圧症など)では、右手(動脈管前)と下肢(動脈管後)で経皮的酸素飽和度に差が生じ、上肢のほうが高くなることもこの解剖に基づく。
- ×e. 酸素濃度の上昇は動脈管閉鎖の要因である。
正しい記述。胎児期の動脈管は、低酸素環境と、胎盤由来および肺での代謝が少ないことによる高濃度のプロスタグランジン E2(PGE2)によって開存が維持されている。出生後、呼吸開始により血中酸素分圧が上昇すると動脈管の平滑筋が収縮し、さらに胎盤の離脱と肺血流増加による PGE2 の分解促進で血中 PGE2 が低下するため、動脈管は通常生後数日以内に機能的に閉鎖する。のちに線維化して動脈管索となる。早産児で動脈管が閉じにくいのは平滑筋の酸素感受性が未熟なためであり、インドメタシンなどのシクロオキシゲナーゼ阻害薬による PGE2 低下で閉鎖を促す治療が行われる。逆に動脈管依存性の先天性心疾患では、PGE1 製剤で開存を維持する。
胎児循環の3つの短絡路
・静脈管: 臍帯静脈 → 下大静脈(肝臓を迂回)。出生後は静脈管索に。 ・卵円孔: 右心房 → 左心房(肺を迂回)。出生後は卵円窩に。 ・動脈管: 肺動脈 → 下行大動脈(肺を迂回)。出生後は動脈管索に。
胎児期の酸素化の程度(高い順のおおよそ)
臍帯静脈 > 静脈管・下大静脈(肝静脈・下半身からの血と合流後)> 左房・左室・上行大動脈(上半身へ)> 右室・肺動脈・動脈管 > 下行大動脈(下半身へ)> 臍帯動脈 胎児の血液は動脈血でも酸素分圧が低いが、胎児ヘモグロビン(HbF)が成人型ヘモグロビンより酸素親和性が高いことで酸素運搬を確保している。
出生時の循環の変化
1. 呼吸開始 → 肺血管抵抗低下 → 肺血流増加 → 左房圧上昇 2. 臍帯結紮 → 低抵抗の胎盤循環が除かれ体血管抵抗上昇、下大静脈還流減少 → 右房圧低下 3. 左房圧>右房圧 → 卵円孔の機能的閉鎖 4. 酸素分圧上昇・PGE2 低下 → 動脈管の収縮・閉鎖 5. 臍帯血流途絶 → 静脈管の閉鎖 これにより、左右の心室が並列に働く胎児循環から、右室が肺循環・左室が体循環を担う直列の成人型循環へ移行する。
POINT
・胎児循環の短絡路は静脈管・卵円孔・動脈管の3つ ・酸素に富む血液は卵円孔を通って左心系へ → 上半身(脳・心臓)へ優先的に供給。下半身は動脈管経由の低酸素血 ・胎児心は右室優位(右室拍出量が多い) ・卵円孔は左房圧>右房圧で機能的閉鎖、動脈管は酸素分圧上昇とPGE2低下で閉鎖 ・動脈管の閉鎖促進はインドメタシンなど、開存維持はPGE1製剤
