「ゴボゴボ」で安心は禁物―経鼻胃管は写真で確かめるまで終わらない
第109回医師国家試験 F問題 第14問
国試問題にチャレンジ
経鼻胃管を挿入する際に正しいのはどれか。
- a.挿入時に患者の頸部を後屈する。
- b.噴門を通過するときに抵抗を感じる。
- c.成人男性では鼻孔から30 cmの深さまで挿入する。
- d.チューブ先端の位置を腹部エックス線写真で確認する。
- e.シリンジで送気し上腹部で水泡音が聴取されれば適正な位置である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
経鼻胃管で最も重大な合併症は気管・気管支への誤挿入と、それに続く栄養剤や薬剤の誤注入です。挿入時は頸部を軽く前屈して顎を引き、嚥下に合わせて進めます(頸部後屈は気管挿管の姿勢で、気道に迷入しやすくなります)。成人の挿入長は鼻孔からおよそ45〜55 cmで、鼻尖→耳朶→剣状突起の長さを目安にし、強い抵抗があれば無理に進めません。気泡音の聴取や胃内容物の吸引は補助的な確認にすぎず、先端位置の確定はエックス線写真で行うのが原則です。頭蓋底骨折疑いでの経鼻挿入の回避や留置後の目盛り確認も含め、「確実に確かめる」習慣は研修医として最初に身につけたい安全管理の基本です。
解答・解説
正解はdです
経鼻胃管(nasogastric tube:NGチューブ)挿入の基本手技と、留置位置の確認方法を問う問題である。 経鼻胃管の最大の危険は、チューブが食道ではなく気管・気管支に入ってしまう誤挿入(気道内迷入)である。意識障害や嚥下反射・咳嗽反射の低下した患者では、気道に入っても咳き込みなどのサインが出ないことがあり、そのまま栄養剤や薬剤を注入すると誤嚥性肺炎や窒息など致命的な事故につながる。したがって、手技のポイントは「気道に入りにくい姿勢で挿入すること」と「先端が胃内にあることを確実な方法で確認すること」の2点に集約される。 挿入姿勢については、頸部を軽く前屈させて顎を引いた位置にすると、喉頭が前方へ寄って気道の入り口が狭まり、チューブが後方の食道へ進みやすくなる。挿入長は個人の体格で異なり、成人ではおおむね鼻孔から45〜55 cmで先端が胃内に達する。位置確認には、胃内容物の吸引や送気音の聴取といったベッドサイドの方法があるが、これらは誤挿入を完全には否定できないため、最終確認はエックス線写真で行うのが原則である。 これらを踏まえて各選択肢を検討すると、エックス線写真で先端位置を確認するとした記述が正しい。
選択肢考察
- ×a. 挿入時に患者の頸部を後屈する。
誤り。頸部を後屈し下顎を挙上する姿勢は、口腔・咽頭・喉頭の軸を一直線に近づけて気道を開く姿勢であり、気管挿管や気道確保の際に用いる。胃管挿入時にこの姿勢をとると、チューブが気管に入りやすくなってしまう。胃管は、頸部を軽く前屈させて顎を引いた姿勢(意識があればファウラー位などの上体を起こした体位)で挿入し、咽頭に達したら患者に嚥下してもらうタイミングに合わせて進めると食道に誘導しやすい。
- ×b. 噴門を通過するときに抵抗を感じる。
誤り。食道には生理的狭窄部(食道入口部、気管分岐部・大動脈弓交差部、横隔膜貫通部)があり、噴門付近の横隔膜貫通部はその一つであるため、チューブがつかえることはありうる。しかし、通常の挿入で噴門通過時に毎回はっきりした抵抗を感じるわけではない。むしろ挿入中に強い抵抗を感じた場合は、無理に押し進めず、チューブのとぐろ巻き、粘膜損傷、通過障害(狭窄・腫瘍など)の可能性を考えていったん抜去・再挿入を検討すべきである。
- ×c. 成人男性では鼻孔から30 cmの深さまで挿入する。
誤り。成人では鼻孔から胃内までの距離はおよそ45〜55 cmであり、30 cmでは先端は食道の中部(気管分岐部の高さ付近)にとどまる。この位置で注入すると逆流・誤嚥の危険が高い。挿入長の目安は、鼻尖→耳朶→剣状突起までの体表の長さを実測する方法(NEX法)が用いられ、患者ごとに挿入前に測定しておく。
- ○d. チューブ先端の位置を腹部エックス線写真で確認する。
正しい。エックス線写真はチューブ全体の走行と先端位置を直接確認でき、留置位置確認の最も確実な方法である。写真では、チューブが気管・気管支の走行に沿わず食道に沿って正中を下行していること、横隔膜を越えて先端が胃内(通常は左上腹部)に位置していることを確認する。特に栄養剤や薬剤の注入を開始する前には、エックス線による確認を行うことが安全管理上推奨されている。
- ×e. シリンジで送気し上腹部で水泡音が聴取されれば適正な位置である。
誤り。シリンジで空気を注入して心窩部〜上腹部で気泡音(ゴボゴボという音)を聴取する方法は、ベッドサイドで日常的に行われる補助的な確認法である。しかし、チューブ先端が下部食道や気管支内にあっても上腹部に音が伝わることがあり、この方法だけでは胃内に正しく留置されていると判定できない。胃内容物の吸引(吸引物のpHが酸性であることの確認を含む)も補助的手段にとどまり、確定にはエックス線写真での確認が必要である。
経鼻胃管の主な適応
・経口摂取ができない患者への経腸栄養や薬剤投与(長期にわたる場合は胃瘻造設を検討する) ・消化管の減圧:腸閉塞、術後の胃内容停滞などで胃内容や空気を排出する ・胃洗浄:服毒・薬物中毒で胃内に残る薬毒物を回収する(適応は限られる) ・上部消化管出血の有無・程度の評価など
主な禁忌・慎重適応
・頭蓋底骨折が疑われる場合(頭蓋内への迷入の危険があるため経鼻は避け、必要なら経口で挿入する) ・顔面中央部の高度外傷、高度の鼻腔閉塞 ・食道静脈瘤、食道狭窄などでは慎重に判断する
挿入の手順の要点
1. 体位:可能なら上体を起こし、頸部は軽く前屈させて顎を引く。 2. 挿入長の測定:鼻尖→耳朶→剣状突起の長さを目安とする(成人でおよそ45〜55 cm)。 3. 先端に潤滑剤を付け、鼻腔底に沿って水平方向(顔面に垂直な方向)に進める。 4. 咽頭に達したら嚥下を促し、そのタイミングでチューブを進める。 5. 咳嗽、嗄声、呼吸困難、SpO2低下がみられたら気道迷入を疑い、直ちに抜去する。 6. 胃内容の吸引・気泡音の聴取で一次確認を行い、エックス線写真で最終確認する。 7. 固定後は挿入長(鼻孔部の目盛り)を記録し、使用のたびにずれがないか確認する。
留置中の合併症
鼻翼・鼻腔の圧迫潰瘍、副鼻腔炎、誤嚥性肺炎、自己抜去、チューブの位置ずれなどがある。
POINT
・胃管挿入は頸部を軽く前屈(顎を引く)して行う。後屈は気管挿管の姿勢であり、気道迷入を招く。 ・成人での挿入長は鼻孔から約45〜55 cm(鼻尖→耳朶→剣状突起で測定)。30 cmでは食道中部にとどまる。 ・気泡音の聴取や吸引は補助的確認にすぎず、先端位置の確定はエックス線写真で行う。 ・最も重大な合併症は気管・気管支への誤挿入とそれに続く誤注入である。
