StudyMed医師国家試験

グラフの「形」が語る癌の正体―若い世代にも広がり、年々増える女性の乳癌

第109回医師国家試験 E問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第109回 E問題 第7問

 我が国におけるある疾患の人口10万人当たりの死亡率の推移を年齢階級別に示す。  この疾患はどれか。

第109回 E問題 第7問の問題画像
  1. a.女性の胃癌
  2. b.男性の肝癌
  3. c.女性の乳癌
  4. d.女性の食道癌
  5. e.男性の前立腺癌

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、年齢階級別の死亡率の推移を示したグラフから、どの癌かを当てる問題だ。数値を暗記していなくても、グラフの「形」を読めば答えにたどり着ける。注目点は、時代とともに増えているか減っているか、若い世代にも死亡があるか、年齢による差が大きいか、そして死亡率の絶対値の4つだ。
医学生医学生
まず時代的な推移を見ると、50歳代以上のどの年齢階級でも1980年から2010年にかけて右肩上がりですね。
ドクタードクター
その通り。50歳代以上ではおよそ2倍近くに増えている。だからまず「近年増えている癌」を選べばいい。選択肢の中で減っている癌はどれだろう。
医学生医学生
胃癌はピロリ菌の感染率が下がって減っていると、消化器の講義で聞きました。
ドクタードクター
そうだね。衛生環境の改善でピロリ菌感染が減り、冷蔵庫の普及で塩蔵食品の摂取も減った。検診や内視鏡治療の進歩もあって、胃癌の死亡率は男女とも長期的に大きく下がっている。肝癌はどうかな。
医学生医学生
肝癌はC型肝炎が背景に多いので……増えているイメージがありました。
ドクタードクター
そこは少し注意が必要だ。男性の肝癌死亡率は1990年代後半から2000年前後をピークに減少に転じている。輸血用血液のスクリーニングで新規感染が減ったことや、抗ウイルス療法の進歩が背景にある。2010年まで一貫して増えるこのグラフとは合わないんだ。
医学生医学生
なるほど、ピークを越えて減っているんですね。女性の食道癌も、食道癌自体が男性に多いので違いそうです。
ドクタードクター
いい判断だ。食道癌は男女比がおよそ5〜6対1と男性に圧倒的に多く、日本では飲酒と喫煙が主な危険因子の扁平上皮癌が中心。女性の死亡率は低い水準で横ばいから減少傾向だから、人口10万対30〜40台に達するこのグラフとは合わない。
医学生医学生
そうすると、残るのは乳癌と前立腺癌ですね。どちらも増えている癌なので、ここで迷いました。
ドクタードクター
ここからが本題だ。次の着眼点、若い世代と年齢による差を見てみよう。このグラフでは30歳代でも少し、40歳代でははっきり死亡がみられ、50歳代から70歳代の線はほぼ同じ高さで重なっている。80歳代でやや高いけれど、それでも人口10万対45程度だね。
医学生医学生
前立腺癌なら、泌尿器科の実習で患者さんがほとんど高齢の方だったので、若い世代の死亡はほぼないはずです。
ドクタードクター
その感覚は正しい。前立腺癌は典型的な高齢者の癌で、50歳未満の死亡はきわめて少なく、年齢とともに急激に死亡率が上がり、80歳代では人口10万対100を大きく超える。グラフの線が年齢階級ごとにはっきり離れて、高齢ほど跳ね上がる形になるはずなんだ。
医学生医学生
一方で乳癌は30〜40歳代から発症するので、若い世代にも死亡があって、中高年では年齢による差が小さいということですね。
ドクタードクター
正解。乳癌は罹患のピークが40歳代後半から60歳代と、ほかの多くの癌より若い年代にある。だから高齢になるほど急増するという形をとらない。そして増加の背景には、初経の早期化や閉経の遅延、出産経験の減少や初産年齢の上昇、授乳期間の短縮など、エストロゲンへの曝露期間を長くする要因の増加と、食生活の欧米化がある。
医学生医学生
増加傾向で、若い世代にも死亡があって、年齢差が小さい。全部の特徴が女性の乳癌に当てはまりますね。
ドクタードクター
その通り。ここで発展知識として、なぜ年齢階級別に示すのかも押さえておこう。粗死亡率は人口の高齢化だけで上昇してしまうから、時代比較には年齢調整死亡率や年齢階級別死亡率を使う。年齢階級ごとに見て増えているなら、高齢化の影響ではなく本当に増えていると言えるんだ。
医学生医学生
CBTの勉強で、粗死亡率と年齢調整死亡率の違いは何度も出てきました。こういうグラフで生きてくるんですね。
ドクタードクター
そうなんだ。臨床面では、乳癌は女性の部位別罹患数で第1位の癌で、対策型検診として40歳以上の女性に2年に1回のマンモグラフィが推奨されている。働き盛りや子育て世代にも起こる癌だから、検診の受診勧奨や、しこりを自覚したときにすぐ受診してもらう啓発が大切だ。なお、こうした統計は年次とともに変わりうるので、具体的な数値よりグラフを読む考え方を身につけておこう。

まとめ

年齢階級別死亡率のグラフは、時代的に増加か減少か、若年層に死亡があるか、年齢階級間の差が大きいか、絶対値の水準はどうかという4つの視点で読むと、癌の種類を推定できます。胃癌はピロリ菌感染の減少などで、男性の肝癌は肝炎ウイルス対策の進歩などで減少しており、女性の食道癌はもともと低い水準なので、増加傾向のグラフとは合いません。前立腺癌も増加していますが、高齢で死亡率が急峻に上がり80歳代で人口10万対100を超えるのに対し、乳癌は30〜40歳代から死亡がみられ中高年で年齢差が小さいため、このグラフは女性の乳癌と判断できます。乳癌の増加にはエストロゲン曝露期間の延長や食生活の欧米化が関わり、40歳以上の女性には2年に1回のマンモグラフィ検診が推奨されています。粗死亡率ではなく年齢階級別・年齢調整死亡率で時代比較をする考え方は、疫学データを正しく解釈するための基本です。

解答・解説

正解はcです

本問は、1980~2010年の年齢階級別死亡率(人口10万対)のグラフから、どの癌かを推定する問題である。グラフの「形」から読み取れる特徴を整理し、各癌の疫学的特徴と照らし合わせて絞り込む。

グラフから読み取れる特徴

1. 時代的推移:50歳代以上の各年齢階級で、1980年の約18~22から2010年には約33~44へと、ほぼ一貫して上昇している。つまり「近年増えている癌」である。 2. 若い年齢層での死亡:30歳代で約4、40歳代で約11~16と、比較的若い世代にも一定の死亡がみられる。 3. 年齢による差が小さい:50歳代・60歳代・70歳代の死亡率はほぼ同じ水準で重なり合っており、80歳代でやや高い程度である(2010年で約45)。高齢になるほど急峻に死亡率が跳ね上がる、という形ではない。 4. 絶対値:最も高い80歳代でも人口10万対45程度にとどまる。

絞り込みの考え方

・まず「増加傾向」という条件で、減少傾向にある女性の胃癌、男性の肝癌、女性の食道癌が除外される。 ・残るのは女性の乳癌と男性の前立腺癌で、いずれも増加傾向の癌である。 ・前立腺癌は典型的な高齢者の癌で、50歳未満の死亡はきわめて少なく、年齢とともに急激に死亡率が上昇し、80歳代では人口10万対100を大きく超える。グラフの「30~40歳代でも死亡がある」「50~70歳代で死亡率がほぼ同じ」「80歳代でも45程度」という特徴と合わない。 ・乳癌は30~40歳代から発症し、罹患のピークが中年期にあるため、若年層にも死亡がみられ、中高年で年齢による差が小さい。グラフの特徴とよく一致する。 したがって、女性の乳癌と判断する。 なお本問は2010年頃までの統計に基づく出題であり、各癌の死亡率の推移は年次とともに変化しうる。現在の統計の数値そのものを問う形での再出題は考えにくいが、「年齢階級別の形」と「時代的推移」から癌を推定する考え方は現在も有用である。

選択肢考察

  1. ×a.  女性の胃癌

    誤り。胃癌の死亡率は、Helicobacter pylori(ピロリ菌)感染率の低下(衛生環境の改善による)、冷蔵庫の普及に伴う塩蔵食品摂取の減少、検診や内視鏡治療の進歩などにより、男女とも長期的に大きく減少している。グラフのように一貫して増加する推移とは逆である。

  2. ×b.  男性の肝癌

    誤り。我が国の肝細胞癌の多くはC型・B型肝炎ウイルスの持続感染を背景とする。男性の肝癌死亡率は1990年代後半から2000年前後をピークに減少に転じており、2010年まで一貫して増加するグラフとは合わない。減少の背景には、輸血用血液のスクリーニングによる新規感染の減少や、抗ウイルス療法の進歩がある。また、若年層の死亡は少なく、男性では死亡率の水準もより高い。

  3. ○c.  女性の乳癌

    正しい。乳癌の死亡率は、食生活の欧米化、初経の早期化・閉経の遅延、出産経験の減少や初産年齢の上昇、授乳期間の短縮など、エストロゲンへの曝露期間を長くする要因の増加を背景に、我が国では長期的に上昇してきた。また、乳癌は30~40歳代から発症し、罹患のピークが40歳代後半~60歳代にあるため、他の多くの癌に比べて若い年齢層にも死亡がみられ、中高年の年齢階級間で死亡率の差が小さい。グラフの「一貫した増加」「30~40歳代にも死亡がある」「50~70歳代でほぼ同じ水準」という特徴とよく一致する。

  4. ×d.  女性の食道癌

    誤り。食道癌は男性に圧倒的に多く(男女比はおよそ5~6:1)、女性の死亡率は低い水準で横ばい~減少傾向にある。グラフのような人口10万対30~40台の水準や増加傾向とは合わない。我が国の食道癌の多くは扁平上皮癌であり、飲酒と喫煙が主な危険因子である。

  5. ×e.  男性の前立腺癌

    誤り。前立腺癌の死亡率は増加傾向にある点ではグラフと一致する。しかし、前立腺癌は高齢男性に多い癌で、50歳未満での死亡はきわめて少なく、年齢とともに死亡率が急峻に上昇し、80歳代では人口10万対100を超える。グラフでは30~40歳代にも死亡がみられ、50~70歳代の死亡率がほぼ同じで、80歳代でも45程度にとどまっているため、前立腺癌の年齢分布とは合わない。

主な癌の死亡率の長期的推移(我が国)

・増加傾向:女性の乳癌、男性の前立腺癌、膵癌(男女)など。肺癌・大腸癌も長期的には増加してきたが、年齢調整死亡率では近年横ばい~減少傾向にある。 ・減少傾向:胃癌(男女)、肝癌(1990年代後半~2000年前後をピークに減少)、子宮頸癌を除く子宮癌全体はほぼ横ばい、など。 ※粗死亡率は人口の高齢化の影響で上昇しやすいため、時代比較では年齢調整死亡率や年齢階級別死亡率で評価することが重要である。本問のように年齢階級ごとに示されたグラフは、高齢化の影響を除いて真の増減をみることができる。

乳癌の疫学

・女性の部位別罹患数で第1位の癌である。 ・罹患のピークは40歳代後半~60歳代で、他の多くの癌より若い年代に多い。 ・危険因子:初経が早い、閉経が遅い、出産経験がない・初産年齢が高い、授乳経験が少ない、閉経後の肥満、飲酒、ホルモン補充療法、乳癌の家族歴(BRCA1/2遺伝子変異など)。 ・対策型検診:40歳以上の女性に対し、2年に1回のマンモグラフィ検査が推奨されている。

前立腺癌の疫学

・高齢になるほど罹患・死亡が急増する典型的な高齢者の癌である。 ・前立腺特異抗原(PSA)検査の普及により罹患数は大きく増加し、男性の部位別罹患数で上位を占める。

年齢階級別グラフの読み方のコツ

・若年層に死亡があるか(乳癌、子宮頸癌などは若年層にもみられる) ・高齢層で急峻に増えるか(前立腺癌、胃癌、肺癌などは高齢で急増する) ・時代的に増加か減少か ・絶対値の水準(死亡率の桁)

POINT

・年齢階級別死亡率のグラフは「時代的推移」「若年層の死亡の有無」「年齢による差」「絶対値」で読む ・増加傾向の癌:乳癌、前立腺癌、膵癌など/減少傾向の癌:胃癌、肝癌 ・乳癌は30~40歳代から死亡がみられ、中高年で年齢階級間の差が小さい ・前立腺癌は高齢で急増し、80歳代では死亡率が人口10万対100を超える ・時代比較には粗死亡率ではなく年齢調整死亡率・年齢階級別死亡率を用いる

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。