StudyMed医師国家試験

「おしるし」はまだ始まりではない―分娩開始を決める唯一の物差し、規則的子宮収縮

第109回医師国家試験 E問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第109回 E問題 第16問

陣痛発来とする所見はどれか。

  1. a.胎動減少
  2. b.胎児下降
  3. c.血性帯下増加
  4. d.子宮頸管短縮
  5. e.規則的子宮収縮

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は「いつから分娩が始まったとみなすのか」という、産科の基本中の基本を問う問題だ。選択肢はどれも分娩が近づくと見られるものばかりだけれど、その中で「定義」に使われるのはどれか、という視点で考えてほしい。
医学生医学生
どれも分娩の前に起こりそうで迷います。母性看護の講義では「おしるし」が分娩の始まりのサインだと聞いた気がするのですが。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。ただ、「前兆」と「開始の定義」は別物なんだ。わが国では陣痛発来をもって分娩開始とし、陣痛発来とは規則的な子宮収縮が周期10分以内、あるいは1時間に6回以上の頻度になった時点と定義されている。だから正解は規則的子宮収縮だ。
医学生医学生
なぜ収縮の頻度で決めるんでしょうか。おしるしのほうが妊婦さんにはわかりやすそうですが。
ドクタードクター
分娩第1期の長さなど、分娩所要時間はすべてこの開始時点から数えるからだよ。遷延分娩かどうかを判断するにも、開始時点を客観的に一つに決められる物差しが必要になる。収縮の間隔と回数は、陣痛計でも妊婦さんの自覚でも数えられるから基準にしやすいんだ。
医学生医学生
なるほど。では、血性帯下はどういう位置づけになりますか。
ドクタードクター
血性帯下は産徴、いわゆる「おしるし」で、子宮頸管の開大や卵膜の剥離に伴う少量の出血が粘液に混じったものだ。分娩が近いサインではあるけれど、出ない人もいるし、出てから陣痛が始まるまで数日かかることもある。だから開始の基準にはできない。
医学生医学生
胎児下降も同じ理屈ですか。初産婦さんだと「胃のつかえが取れた」と感じると習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。初産婦では分娩前から児頭が骨盤入口に固定して、上腹部が軽くなったり頻尿になったりする。でも経産婦では陣痛が始まるまで児頭が固定しないことも多いし、陣痛発来後は分娩の進行とともに下降していく。時期の個人差が大きいので、やはり指標にはならない。
医学生医学生
子宮頸管短縮も、内診で展退を評価するものですよね。進行の目安になりそうですが。
ドクタードクター
頸管は妊娠末期に軟化・展退・開大と熟化していき、Bishopスコアで評価する。陣痛発来後は急速に展退・開大するけれど、陣痛前から短くなっている人もいるから、短縮の程度だけで陣痛発来とは言えない。ちなみに妊娠中期に経腟超音波で頸管長が短いときは、早産のリスク因子として扱われるよ。
医学生医学生
胎動減少は、児頭が骨盤に入って動きにくくなるから分娩が近いサイン、という理解でいいですか。
ドクタードクター
そこは要注意だ。確かに妊娠末期は子宮内が相対的に狭くなって胎動を少なく感じることはある。でも胎動減少はむしろ胎児機能不全、つまり赤ちゃんが低酸素などで弱っているサインのことがある。分娩開始の定義とは無関係で、訴えがあればNSTなどで胎児の状態をきちんと評価しなければならない。
医学生医学生
「お産が近いから動かないんですね」で済ませると危ないということですね。産婦人科の臨床実習で、胎動が少ないと電話してきた妊婦さんにすぐ来院してもらっていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにその対応が正しい。もう一つ、規則的な収縮と区別すべきものがある。妊娠末期には不規則で間隔の一定しない前駆陣痛やBraxton Hicks収縮が起こる。これは休むと消えたりもするから、規則性と頻度で本当の陣痛と見分けるんだ。
医学生医学生
つまり「お腹が張る」だけでは不十分で、10分以内の間隔で規則的に来るかどうかがポイントなんですね。
ドクタードクター
その通り。発展として分娩経過の区分も確認しておこう。分娩第1期は陣痛発来から子宮口全開大まで、第2期は全開大から胎児娩出まで、第3期は胎児娩出から胎盤娩出までだ。第1期の起点がまさに今回の陣痛発来だね。
医学生医学生
破水も分娩開始の基準には入らないんですか。
ドクタードクター
入らない。破水は時期によって名前が変わり、陣痛発来前なら前期破水、陣痛発来後で子宮口全開大前なら早期破水、全開大時なら適時破水と呼ぶ。この分類自体が陣痛発来を基準にしていることからも、分娩開始の定義が規則的子宮収縮だとわかるだろう。前期破水は感染のリスクにつながるから、臨床では破水の時期と陣痛の有無を必ずセットで確認するんだ。

まとめ

わが国では陣痛発来をもって分娩開始とし、陣痛発来は規則的な子宮収縮が周期10分以内、または1時間に6回以上となった時点と定義されます。産徴(血性帯下)、胎児下降、子宮頸管の短縮・熟化は分娩の前兆や経過中の所見ですが、出現の有無や時期に個人差が大きいため開始の基準にはなりません。胎動減少は分娩の前兆ではなく胎児機能不全を示唆しうる重要な訴えであり、NSTなどによる評価が必要です。不規則な前駆陣痛やBraxton Hicks収縮とは規則性と頻度で区別し、分娩第1期の起点や破水の分類もこの定義を基準に組み立てられています。分娩開始を正確に定めることは、分娩進行の評価や異常の早期発見の土台となる知識です。

解答・解説

正解はeです

陣痛発来(=分娩開始)の定義を問う問題である。

分娩開始の定義

わが国では、陣痛発来をもって分娩開始とする。陣痛発来とは、規則的な子宮収縮(陣痛)が周期10分以内、あるいは1時間に6回以上の頻度で起こるようになった時点をいう(日本産科婦人科学会の定義)。分娩所要時間(分娩第1期の長さなど)もこの時点から起算するため、開始時点を客観的に一つに決められる指標が必要であり、規則的な子宮収縮の頻度がその基準として用いられている。

考え方

分娩が近づくと、胎児の下降、産徴(血性帯下)、子宮頸管の熟化・短縮、胎動の感じ方の変化など、さまざまな前兆がみられる。しかしこれらは陣痛発来の数日前から現れることもあれば、陣痛が始まってから進行することもあり、出現の有無や時期に個人差が大きい。したがって分娩開始の時点を定める所見にはならない。定義に用いられるのは規則的な子宮収縮のみである。

選択肢考察

  1. ×a.  胎動減少

    誤り。妊娠末期には子宮内のスペースが相対的に狭くなることや、児頭が骨盤内に固定(嵌入)することで、妊婦が胎動を少なく感じることがあるが、陣痛発来の定義とは無関係である。むしろ胎動減少は胎児機能不全(胎児の低酸素状態など)を示唆する重要な自覚症状であり、訴えがあればノンストレステスト(NST)などで胎児の状態を評価する必要がある。

  2. ×b.  胎児下降

    誤り。初産婦では分娩前から児頭が骨盤入口に進入・固定し、子宮底が下がって上腹部が軽くなる感じ(胃のつかえが取れる、頻尿になる等)を自覚することがあり、分娩の前兆の一つとされる。また陣痛発来後は分娩の進行に伴って胎児が下降する。しかし下降の時期には個人差があり、経産婦では陣痛が始まるまで児頭が固定しないことも多いため、分娩開始の指標にはならない。

  3. ×c.  血性帯下増加

    誤り。分娩が近づくと子宮頸管の開大や卵膜の剥離に伴い、少量の出血が粘液と混じった血性帯下がみられ、これを産徴(いわゆる「おしるし」)という。陣痛発来の前兆であるが、必ず出現するわけではなく、産徴から陣痛発来までに数日を要することもあるため、分娩開始の定義には用いられない。

  4. ×d.  子宮頸管短縮

    誤り。子宮頸管は妊娠末期に軟化・短縮(展退)・開大へと熟化し、陣痛発来後は分娩の進行とともに急速に展退・開大する。しかし陣痛発来前から短縮していることもあり、短縮の程度だけで陣痛発来を判断することはできない。なお妊娠中期に経腟超音波で頸管長が短縮している場合は、早産のリスク因子として評価される。

  5. ○e.  規則的子宮収縮

    正しい。陣痛発来は、規則的な子宮収縮が周期10分以内、または1時間に6回以上の頻度となった時点と定義され、この時点を分娩開始とする。妊娠末期にみられる不規則で間隔の一定しない収縮(前駆陣痛、Braxton Hicks収縮)とは、規則性と頻度によって区別される。

分娩の前兆(分娩開始前にみられうる徴候)

・前駆陣痛:不規則で痛みの弱い子宮収縮。規則性がなく、休息で消えることもある。 ・胎児下降感:児頭が骨盤内へ下降し、上腹部の圧迫感が軽くなる。膀胱が圧迫されて頻尿になることもある。 ・産徴(おしるし):頸管の開大・卵膜剥離に伴う少量の血性粘液。 ・子宮頸管の熟化:軟化・展退・開大(Bishopスコアで評価)。

分娩経過の区分

・分娩第1期(開口期):分娩開始(陣痛発来)から子宮口全開大まで。 ・分娩第2期(娩出期):子宮口全開大から胎児娩出まで。 ・分娩第3期(後産期):胎児娩出から胎盤娩出まで。

関連する用語

・破水:卵膜が破れて羊水が流出すること。陣痛発来前に起こるものを前期破水、子宮口全開大より前に起こるものを早期破水(陣痛発来後〜全開大前)、全開大時に起こるものを適時破水という。破水は分娩開始の定義には用いない。 ・胎動減少:胎児機能不全のサインとして重要で、NSTなどで評価する。

POINT

・陣痛発来=分娩開始。 ・定義:規則的な子宮収縮が周期10分以内、または1時間に6回以上となった時点。 ・産徴、胎児下降、頸管短縮、胎動の変化は前兆や経過中の所見であり、分娩開始の定義には用いない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。