ひとつだけ右肩下がりの線―グラフが語る交通事故死の減少と事故別の予防策
第109回医師国家試験 B問題 第5問
国試問題にチャレンジ
不慮の事故のうち,「交通事故」,「転倒・転落」,「溺死及び溺水」,「窒息」,「中毒」の5種類における死亡数の年次推移を図に示す。 ①の予防になるのはどれか。

- a.高温での長湯を避ける。
- b.容器のラベルをよく読む。
- c.階段では手すりにつかまる。
- d.シートベルト装着を遵守する。
- e.食べ物は小さく切ってよくかんで食べる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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ドクターまとめ
人口動態統計でみると、不慮の事故のうち1990年代以降に一貫して大きく減少しているのは交通事故であり、シートベルト着用の義務化・普及、飲酒運転の厳罰化、車両の安全性向上、救急医療の進歩などが背景にあります。一方、窒息、転倒・転落、溺死及び溺水は高齢者が大半を占め、人口の高齢化とともに増加・横ばいで推移しており、現在はいずれも交通事故より多くなっています。予防策は、交通事故にはシートベルト、浴槽内の溺水には高温での長湯を避けること、転倒・転落には手すり、窒息には食物を小さく切ってよくかむこと、中毒には容器のラベル確認と元の容器での保管が対応します。交通事故死者数は警察庁統計(24時間以内)と人口動態統計(1年以内)で集計基準が異なる点も押さえておきましょう。統計の推移を社会背景と結びつけて読み解く力は、高齢者の事故予防を含めた予防医学の実践に直結します。
解答・解説
正解はdです
本問は、人口動態統計にみる不慮の事故の種類別死亡数の推移を読み取り、グラフ中の①がどの事故かを判断したうえで、その予防策を選ぶ問題である。
グラフの読み方
5種類の中で、1990年代半ば以降に一貫して大きく減少しているのは交通事故だけである。交通事故死は1970年前後をピークに一度減少し、1980年代後半〜1990年代前半に再び増加(第二次交通戦争)したが、その後は道路交通環境の整備、シートベルト着用の義務化・普及、飲酒運転の厳罰化、車両の安全性能の向上、救急医療の進歩などにより大きく減少し続けている。したがって、右肩下がりの①は交通事故と判断できる。 一方、窒息、転倒・転落、溺死及び溺水は、主に高齢者の死亡が多いため人口の高齢化とともに増加・横ばい傾向を示しており、中毒は5種類の中で最も少なく推移している。本問が出題された当時のデータ(2012年)では、窒息約10,300人、溺死及び溺水約8,000人、転倒・転落約7,800人、交通事故約6,400人、中毒約800人であった。
設問の考え方
①=交通事故であるから、交通事故による死亡の予防策を選ぶ。各選択肢は5種類の事故それぞれの予防策に対応しており、交通事故に対応するのはシートベルト着用の遵守である。
選択肢考察
- ×a. 高温での長湯を避ける。
溺死及び溺水の予防策である。日本では不慮の溺死の多くが高齢者の家庭の浴槽内で起こる。熱い湯に長く浸かると、血管拡張による血圧低下や脱水、体温上昇(熱中症様の状態)で意識障害を起こし、そのまま溺水に至る。冬季の脱衣所・浴室の寒さによる急激な血圧変動(いわゆるヒートショック)も関与する。湯温を41℃以下にし、入浴時間を短めにすること、脱衣所を暖めること、飲酒後や食後すぐの入浴を避けることなどが推奨される。交通事故の予防ではない。
- ×b. 容器のラベルをよく読む。
中毒の予防策である。薬品・洗剤・農薬などを誤って飲んだり、別の容器に移し替えたものを飲み物と誤認したりする事故を防ぐため、容器の表示を確認し、元の容器のまま保管することが重要である。交通事故の予防ではない。
- ×c. 階段では手すりにつかまる。
転倒・転落の予防策である。高齢者は筋力・バランス能力の低下、視力障害、服薬(睡眠薬・降圧薬など)の影響で転倒しやすく、骨粗鬆症のため大腿骨近位部骨折や頭部外傷から死亡や寝たきりに至ることがある。手すりの設置・使用のほか、段差の解消、照明の工夫、運動による筋力・バランスの維持などが有効である。交通事故の予防ではない。
- ○d. シートベルト装着を遵守する。
シートベルトは衝突時に乗員が車内で強く打ちつけられたり車外へ放出されたりするのを防ぎ、自動車乗員の死亡・重傷を大きく減らす。日本では運転席・助手席の着用が1985年(高速道路等)と1986年(一般道路)に義務化され、2008年には後部座席も義務化された。チャイルドシートの使用(6歳未満で義務)も同じ趣旨の対策である。①は1990年代以降に著明に減少している交通事故であり、その予防策として正しい。
- ×e. 食べ物は小さく切ってよくかんで食べる。
窒息の予防策である。窒息死は咀嚼・嚥下機能が低下した高齢者に圧倒的に多く、餅などの食物による気道閉塞が典型である。乳幼児でも小さな食品(ナッツ類、ミニトマト、ぶどう等)や玩具による窒息が問題となる。食物を小さく切る、よくかむ、食事中の見守りなどが予防になる。交通事故の予防ではない。
不慮の事故死亡の概要(人口動態統計)
・不慮の事故は死因順位で上位10位前後に位置し、年間約4万人が亡くなっている。 ・種類別では、窒息、転倒・転落・墜落、溺死及び溺水、交通事故が上位を占める。本問出題時点では窒息が最多であったが、その後は転倒・転落・墜落が最多となっている。いずれも高齢者が大部分を占める。 ・交通事故死は長期的に減少が続き、現在は不慮の事故の中で転倒・転落、窒息、溺死より少ない。 ・年齢別では、乳児(0歳)では窒息が多く、幼児〜若年層では交通事故や溺死が相対的に目立つ。高齢者では窒息、転倒・転落、浴槽内での溺死が多い。
交通事故死者数の統計の違い
・警察庁の交通事故統計:事故発生から24時間以内の死者数(国際比較のため30日以内死者数も公表)。 ・人口動態統計(厚生労働省):事故から1年以内に死亡し、死因が交通事故とされたもの。対象が広いため、警察庁の24時間死者数より多くなる。 いずれの統計でも長期的な減少傾向は共通している。
事故の種類と主な予防策のまとめ
・交通事故:シートベルト・チャイルドシート着用、飲酒運転の禁止、ヘルメット着用(二輪車・自転車)、高齢運転者対策 ・転倒・転落:手すり設置、段差解消、照明、運動器の機能維持、転倒リスクのある薬剤の見直し ・溺死及び溺水:入浴時の湯温・時間に注意、脱衣所の保温、飲酒後の入浴を避ける、小児の浴槽・水辺の見守り ・窒息:食物を小さく切る、よくかむ、嚥下機能に応じた食形態、乳幼児の誤嚥しやすい物の管理 ・中毒:容器の表示確認、元の容器で保管、小児の手の届かない場所に保管
POINT
・不慮の事故のうち、1990年代以降に明らかに減少し続けているのは交通事故である。 ・窒息、転倒・転落、溺死及び溺水は高齢化に伴い多く、いずれも高齢者が大半を占める。 ・予防策の対応:交通事故=シートベルト、転倒・転落=手すり、溺死=長湯を避ける、窒息=小さく切ってよくかむ、中毒=容器のラベル確認。 ・交通事故死者数は警察庁(24時間以内)と人口動態統計(1年以内)で集計基準が異なる。
