「大きさ」ではなく「厚さ」で測る―悪性黒色腫の診断と病期を正しく押さえる
第109回医師国家試験 A問題 第3問
国試問題にチャレンジ
悪性黒色腫について正しいのはどれか。
- a.放射線感受性が高い。
- b.日本人では結節型が多い。
- c.部分生検によって診断する。
- d.TNM病期分類のpTは原発巣の大きさで判定する。
- e.センチネルリンパ節生検はリンパ節郭清の適応決定に有用である。
対話形式の解説
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医学生まとめ
悪性黒色腫はメラノサイト由来の転移しやすい腫瘍で、日本人では足底や爪部に生じる末端黒子型が最多、白人では表在拡大型が最多です。診断は病変全体を切除する全切除生検が原則で、部分生検は全切除が困難な場合の例外にとどまります。T分類は直径ではなく腫瘍の厚さ(Breslowの深達度)と潰瘍の有無で決まり、厚さが最重要の予後因子です。放射線抵抗性のため治療の主体は外科的切除であり、センチネルリンパ節生検で微小転移を評価してリンパ節郭清や術後補助療法の適応、病期を判断します。進行例や術後補助療法では免疫チェックポイント阻害薬やBRAF阻害薬+MEK阻害薬が用いられ、診断から治療までの流れを理解することが早期発見と適切な治療選択の基盤になります。
解答・解説
正解はeです
テーマ
悪性黒色腫(メラノーマ)は、色素細胞(メラノサイト)が悪性化した腫瘍で、皮膚悪性腫瘍の中でも特に転移しやすく予後の悪い疾患である。本問では、病型の疫学、診断のための生検法、病期分類の基準、放射線感受性、そしてセンチネルリンパ節生検の役割という、悪性黒色腫の基本事項が横断的に問われている。
正解を導く考え方
各選択肢を次の知識と照らし合わせればよい。 ・日本人に最も多い病型は、足底や手指・足趾の爪などの末端部に生じる末端黒子型である。 ・診断は原則として病変全体を切除する全切除生検で行う。 ・原発巣のT分類は、腫瘍の「大きさ(直径)」ではなく「厚さ(Breslowの深達度)」と潰瘍の有無で決まる。 ・放射線感受性は低い(放射線抵抗性)。 ・センチネルリンパ節生検は、所属リンパ節への微小転移を調べる検査であり、リンパ節郭清の必要性の判断や病期決定に用いられる。 これらを押さえていれば、正しい記述は一つに絞られる。
選択肢考察
- ×a. 放射線感受性が高い。
悪性黒色腫は放射線抵抗性の腫瘍として知られ、通常の分割照射では効果が乏しいため、根治治療の主体は外科的切除である。放射線治療が用いられるのは、脳転移に対する定位放射線照射や、骨転移の疼痛緩和、切除困難例などに限られる。放射線感受性が高い腫瘍の代表は悪性リンパ腫、セミノーマ、小細胞肺癌などであり、悪性黒色腫はこれに含まれない。
- ×b. 日本人では結節型が多い。
日本人を含む東アジア人で最も多いのは末端黒子型であり、全体のおよそ4〜5割を占める。足底、手掌、爪部(爪甲の黒色線条として始まる)などの末端部に好発する。一方、白人では体幹や四肢の日光露出部に生じる表在拡大型が最も多い。結節型は早期から垂直方向に増殖し予後不良な病型であるが、日本人で最多の病型ではない。
- ×c. 部分生検によって診断する。
悪性黒色腫が疑われる病変は、周囲に数mm程度の正常皮膚をつけて病変全体を切除する全切除生検で診断するのが原則である。全体を切除することで、診断の確実性が増し、病期分類に必要な腫瘍の厚さを正確に測定できる。部分生検では最も厚い部分を評価できず、過小評価のおそれがある。かつては部分生検が転移を誘発するとして禁忌とされたが、現在では部分生検そのものが予後を悪化させるという明確な根拠はないとされ、顔面の広範な病変や巨大な病変など全切除が困難な場合には部分生検も許容される。ただし、あくまで例外的な方法であり、「部分生検によって診断する」という記述は誤りである。
- ×d. TNM病期分類のpTは原発巣の大きさで判定する。
悪性黒色腫のT分類は、原発巣の直径ではなく、腫瘍の厚さ(tumor thickness:表皮顆粒層の上端から最深部までの垂直距離、Breslowの深達度)と潰瘍の有無で判定する。現行のAJCC第8版では、T1は1.0mm以下、T2は1.0mm超2.0mm以下、T3は2.0mm超4.0mm以下、T4は4.0mm超であり、それぞれ潰瘍の有無でa・bに細分される(T1は厚さ0.8mm未満かつ潰瘍なしがT1a)。腫瘍が厚いほど転移の頻度が上がり予後が悪くなるため、厚さが最も重要な予後因子とされる。
- ○e. センチネルリンパ節生検はリンパ節郭清の適応決定に有用である。
センチネルリンパ節とは、原発巣からのリンパ流が最初に到達するリンパ節であり、ここに転移がなければそれより先のリンパ節への転移の可能性は低いと考えられる。原発巣周囲にラジオアイソトープや色素を注入してセンチネルリンパ節を同定・摘出し、病理学的に転移の有無を調べる。触診や画像で転移がはっきりしない症例でも微小転移を見つけられるため、転移陰性であれば不要な郭清を避けられ、陽性であれば郭清を含む追加治療を検討できる。この意味で、リンパ節郭清の適応決定に有用である。なお、近年の大規模臨床試験では、センチネルリンパ節陽性例に一律に郭清を追加しても生存期間は延長しないことが示され、現在では超音波による経過観察と術後補助療法を選ぶことも多くなっている。そのため、センチネルリンパ節生検は病期決定や術後補助療法の適応判断のための検査としての意義も大きい。
悪性黒色腫の4病型(Clark分類)
・末端黒子型:足底、手掌、爪部に好発。日本人で最多。初期は不整な色素斑として水平方向に広がる ・表在拡大型:体幹や四肢に好発。白人で最多。間欠的な強い日光曝露と関連する ・悪性黒子型:高齢者の顔面など、長期の日光曝露部に生じる。進行は緩徐 ・結節型:初めから隆起した結節として生じ、垂直方向に増殖するため予後不良 このほか、口腔・鼻腔・外陰部などの粘膜に生じる粘膜型もあり、日本人では比較的多い。
臨床診断のポイント
色素性母斑(ほくろ)との鑑別には、ABCDE基準が用いられる。A(Asymmetry:非対称)、B(Border irregularity:境界不整)、C(Color variegation:色調の多彩さ)、D(Diameter:直径6mm以上)、E(Evolving:大きさや形の変化)である。ダーモスコピー(拡大鏡で色素の分布を観察する検査)も有用で、足底では皮丘(皮膚の盛り上がった部分)に色素がある皮丘平行パターンが悪性黒色腫を示唆する。
治療
・原発巣:腫瘍の厚さに応じた切除マージン(おおむね1〜2cm)をつけて拡大切除する ・所属リンパ節:センチネルリンパ節生検で評価。臨床的に明らかなリンパ節転移があれば郭清を行う ・薬物療法:かつてはダカルバジンを中心とした化学療法やインターフェロンが用いられたが効果は限定的であった。現在は、免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体のニボルマブ・ペムブロリズマブ、抗CTLA-4抗体のイピリムマブ)や、BRAF遺伝子変異陽性例に対するBRAF阻害薬とMEK阻害薬の併用療法が中心である。これらは進行例だけでなく術後補助療法にも用いられる ・放射線治療:放射線抵抗性のため補助的な位置づけ。脳転移、骨転移などに用いる
予後因子
腫瘍の厚さ、潰瘍の有無、リンパ節転移の有無、遠隔転移の有無が主な予後因子である。腫瘍マーカーとしては5-S-シスチニルドーパ(5-S-CD)や血清LDHが用いられ、LDH高値は遠隔転移例の予後不良因子である。
POINT
・日本人に最も多い病型は末端黒子型(足底・爪部など)、白人では表在拡大型。 ・診断は原則として全切除生検で行う。部分生検は全切除困難時の例外。 ・T分類は腫瘍の厚さ(Breslowの深達度)と潰瘍の有無で決まり、直径ではない。 ・放射線抵抗性であり、治療の主体は外科的切除。 ・センチネルリンパ節生検は微小転移の有無を調べ、リンパ節郭清や追加治療の適応判断、病期決定に用いる。 ・進行例や術後補助療法には免疫チェックポイント阻害薬やBRAF阻害薬+MEK阻害薬が用いられる。
