StudyMed医師国家試験

血圧計のカフが暴いた低カルシウム―助産師手位と基底核石灰化が語る副甲状腺機能低下症

第108回医師国家試験 I問題 第55問

国試問題にチャレンジ

第108回 I問題 第55問

32歳の女性。手指のしびれ感とつっぱり感とを主訴に来院した。症状は数年前からあったというが,本日,いつも以上に強くなったため受診した。バイタルサイン測定時の写真(A)と頭部単純CT(B)とを別に示す。  異常所見が予想されるのはどれか。

第108回 I問題 第55問の問題画像
  1. a.血清Ca
  2. b.血清Cl
  3. c.血清Na
  4. d.血糖
  5. e.脳波

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、慢性の手指のしびれとつっぱり感から、背景にある電解質異常を見抜く問題だ。注目してほしいのは2枚の画像。血圧を測ったときの手の形と、頭部CTに写っている白い影。この2つが同じ病態を指していることに気づけるかがカギになる。
医学生医学生
手のしびれと聞くと、まず手根管症候群や糖尿病の末梢神経障害を思い浮かべてしまいます。
ドクタードクター
鑑別として自然な発想だね。ただ写真をよく見てほしい。上腕にカフを巻いて加圧したところ、手指はまっすぐ伸びたまま付け根のMP関節で曲がり、母指が内側に入り込んでいる。これを助産師手位と呼ぶ。
医学生医学生
カフで腕を締めたら手が勝手にこの形になった、ということは、Trousseau徴候ですか。
ドクタードクター
その通り。上腕を圧迫して阻血すると、興奮しやすくなっている末梢神経が刺激されて手の筋が攣縮する。神経筋の興奮性が高まった状態、つまりテタニーのサインなんだ。手根管症候群や糖尿病性神経障害では感覚が鈍ることはあっても、こういう筋の攣縮は起こらない。
医学生医学生
生理学の講義で、細胞外のCaが下がると神経が興奮しやすくなると習いました。でも、Caが下がるのに興奮性が上がるのが、いつも逆のように感じてしまって。
ドクタードクター
そこはつまずきやすいところだね。細胞外のイオン化Caは、神経細胞膜のNaチャネルを開きにくくする「安定剤」のように働いている。それが減るとNaチャネルが開きやすくなって、少しの刺激で発火してしまう。だから低Ca血症ではしびれや攣縮が起こるんだ。
医学生医学生
なるほど、ブレーキが外れるイメージですね。もう一枚のCTはどう読めばいいですか。
ドクタードクター
頭部単純CTでは、両側の大脳基底核に左右対称の石灰化がみられる。これは長いあいだ血清リンが高い状態が続き、Caとリンの積が上がって組織に沈着したことを示唆する所見だ。つまり低Caと高リンが慢性に続いている、と読める。
医学生医学生
低Caと高リンの組み合わせというと、まず慢性腎臓病が浮かびます。
ドクタードクター
いい連想だね。腎機能障害を除けば、代表的なのは副甲状腺ホルモン、PTHの作用不足、すなわち副甲状腺機能低下症だ。PTHが働かないと、骨からのCa動員、尿細管でのCa再吸収、活性型ビタミンDを介した腸管からのCa吸収がすべて落ちて血清Caが下がる。一方で腎からのリン排泄が減るので血清リンは上がる。若い女性で数年来の症状という経過にもよく合う。
医学生医学生
だから異常が予想されるのは血清Caなんですね。ほかの選択肢も一応確認したいです。血清Clはどうでしょう。
ドクタードクター
副甲状腺機能低下症でClがはっきり動くことは通常ない。むしろ逆の原発性副甲状腺機能亢進症で、PTHが近位尿細管での重炭酸再吸収を抑えるため高Cl性の代謝性アシドーシス傾向になり、Cl/P比が上がることが知られている。対比で覚えておくといいね。
医学生医学生
血清Naは、低Na血症でも神経症状が出ると思いますが。
ドクタードクター
低Na血症で意識障害やけいれんが起こることはあるけれど、Trousseau徴候や基底核石灰化は説明できない。PTHはNaの調節に直接関わらないので、Naは正常と予想される。血糖も同じで、糖尿病性神経障害は下肢遠位から左右対称に始まる感覚障害が典型だし、副甲状腺機能低下症自体は血糖に影響しない。
医学生医学生
脳波は、低Caでけいれんが起こるなら異常が出そうな気もします。
ドクタードクター
鋭い指摘だね。確かに高度の低Ca血症ではけいれん発作を起こし、脳波異常を伴うことがある。ただ本例はテタニー、つまり末梢神経と筋の興奮性亢進が主体で、意識障害やけいれんの記載はない。脳波異常が必発とはいえないから、確実に異常が予想されるのは血清Caのほうだ。
医学生医学生
CBTの問題集でChvostek徴候もセットで出てきました。頬を叩くとピクッとするやつですよね。
ドクタードクター
そう、耳の前で顔面神経を軽く叩くと同側の口角や顔面筋が収縮する。Trousseau徴候とあわせてテタニーの誘発徴候として押さえておこう。発展として、副甲状腺機能低下症の病型も整理しておきたい。最も多いのは甲状腺や副甲状腺の手術後に起こる術後性。ほかに自己免疫性や22q11.2欠失症候群などの特発性、そしてPTHは出ているのに腎や骨が反応しない偽性副甲状腺機能低下症がある。
医学生医学生
偽性ならPTHはむしろ高いんですね。
ドクタードクター
その通り。特発性・術後性ではPTH低値、偽性では高値になる。偽性の1a型では低身長、円形顔貌、第4・5中手骨の短縮といったAlbright遺伝性骨異栄養症の特徴を伴う。それから臨床で大事な注意点を2つ。1つは、総Caが正常でも過換気などのアルカローシスではアルブミンへのCa結合が増えてイオン化Caが下がり、同じようにテタニーが起こること。もう1つは、低アルブミン血症があると総Caが見かけ上低くなるので補正Ca値で評価することだ。
医学生医学生
救急外来の実習で過換気の患者さんが手をこわばらせていたのも、同じ仕組みだったんですね。治療はどうなりますか。
ドクタードクター
急性のテタニーにはグルコン酸カルシウムをゆっくり静注する。慢性期は活性型ビタミンD製剤とCa製剤の内服が中心で、高Ca尿症や腎結石を避けるため、血清Caは基準値の下限付近を目標に管理する。合併症として基底核石灰化のほか、白内障や心電図のQT延長にも注意が必要だ。

まとめ

血圧測定のカフ加圧で手指が助産師手位をとるTrousseau徴候は、イオン化Caの低下による神経筋興奮性亢進、すなわちテタニーのサインです。両側大脳基底核の対称性石灰化は慢性的な高リン血症を示唆し、腎機能障害がなければ、低Ca・高リンをきたす副甲状腺機能低下症が最も考えられるため、異常が予想されるのは血清Caです。PTHは術後性・特発性で低値、偽性副甲状腺機能低下症では高値となり、偽性1a型ではAlbright遺伝性骨異栄養症を伴います。過換気などのアルカローシスでは総Caが正常でもテタニーが起こること、低アルブミン血症では補正Caで評価することも重要です。慢性期は活性型ビタミンDとCa製剤で血清Caを基準値下限付近に保つのが基本で、身体所見と画像所見を電解質異常に結びつける力は内分泌疾患の診療全般に役立ちます。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・32歳女性。手指のしびれ感とつっぱり感が数年前から続いており、今回増悪した。慢性の経過であり、急性の脳血管障害などは考えにくい。 ・写真(A):血圧測定のためにマンシェット(カフ)を上腕に巻いて加圧した際、手指が伸展したまま中手指節(MP)関節で屈曲し、母指が内転した特徴的な手の形(助産師手位)をとっている。これはカフで上腕を圧迫・阻血したことで手の筋が攣縮したもので、Trousseau徴候陽性を意味する。 ・頭部単純CT(B):両側大脳基底核に左右対称性の石灰化がみられる。

診断へのプロセス

手指のしびれやつっぱり感の鑑別には、低Ca血症などによるテタニー、手根管症候群、糖尿病・アルコールなどによる末梢神経障害が挙がる。本例ではTrousseau徴候がみられることから、神経筋の興奮性が高まったテタニーの状態と判断できる。テタニーは、血中のイオン化Ca濃度の低下(低Ca血症やアルカローシス)や低Mg血症で起こる。 さらに、両側大脳基底核の石灰化は、長期にわたる高リン血症によってCaとリンの積が上昇し、異所性石灰化を生じたことを示唆する。「低Ca血症+高リン血症が慢性に続く」病態は、腎機能障害(慢性腎臓病)を除けば副甲状腺ホルモン(PTH)の作用不足、すなわち副甲状腺機能低下症(特発性、術後性、または偽性副甲状腺機能低下症)が代表的である。若年女性で数年来の症状という経過もこれに合う。

設問の考え方

副甲状腺機能低下症でPTHの作用が不足すると、骨からのCa動員・腎尿細管でのCa再吸収・活性型ビタミンD(1,25-(OH)2D)の産生を介した腸管Ca吸収がいずれも低下し、血清Caが低下する。一方、腎でのリン排泄が減るため血清リンは上昇する。したがって、選択肢のうち確実に異常を示すと予想されるのは血清Caである。

選択肢考察

  1. ○a.  血清Ca

    正しい。Trousseau徴候を伴うテタニーと、慢性の高リン血症を反映する両側大脳基底核石灰化から副甲状腺機能低下症が考えられ、PTH作用の不足により血清Caは低値となる(基準値はおおむね8.5〜10.2 mg/dL)。なお、血清Caの約半分はアルブミンと結合しているため、低アルブミン血症があるときは補正Ca値(補正Ca=実測Ca+(4−血清アルブミン値))で評価する。本例では同時に血清リン高値が予想され、PTHは特発性・術後性では低値、偽性副甲状腺機能低下症では高値となる。

  2. ×b.  血清Cl

    誤り。副甲状腺機能低下症で血清Clに明らかな異常が出ることは通常ない。むしろ原発性副甲状腺機能亢進症では、PTHが近位尿細管での重炭酸(HCO3−)再吸収を抑制するため高Cl性代謝性アシドーシスの傾向となり、Cl/P比が上昇(33以上)することが知られている。本例の診断では血清Clの異常は予想されない。

  3. ×c.  血清Na

    誤り。副甲状腺機能低下症はNaの調節(抗利尿ホルモンやアルドステロンなど)に直接関わらないため、血清Naは正常と予想される。手指のしびれやけいれんを低Na血症で説明することもできるが、低Na血症ではTrousseau徴候や大脳基底核の石灰化はみられない。

  4. ×d.  血糖

    誤り。本例に血糖値の異常を示唆する所見はない。糖尿病性末梢神経障害でも手足のしびれは生じるが、通常は下肢遠位から左右対称に始まる感覚障害であり、Trousseau徴候のような筋攣縮や大脳基底核石灰化は説明できない。副甲状腺機能低下症自体も血糖に影響しない。

  5. ×e.  脳波

    誤り。低Ca血症が高度になるとけいれん発作を起こすことがあり、その際には脳波異常がみられることもある。しかし本例はしびれとつっぱり感(テタニー)を主訴としており、意識障害やけいれん発作の記載はない。テタニーは末梢神経・筋の興奮性の亢進によるもので、脳波異常が必発とはいえない。基底核石灰化があっても脳波が異常になるとは限らず、「異常所見が予想される」ものとしては血清Caが最も確実である。

テタニーとその誘発徴候

テタニーとは、神経・筋の興奮性が高まり、手足のしびれや筋の有痛性の攣縮(手足搐搦)が起こる状態である。細胞外のイオン化Caが低下すると、神経細胞膜のNaチャネルが開きやすくなり、興奮しやすくなる。 ・Trousseau徴候:上腕にマンシェットを巻き、収縮期血圧より高い圧で約3分間圧迫すると、手指が助産師手位(MP関節屈曲、指節間関節伸展、母指内転)をとる。 ・Chvostek徴候:耳の前方で顔面神経を軽く叩打すると、同側の口角や顔面筋が収縮する。 総Ca値が正常でも、過換気症候群などのアルカローシスではアルブミンへのCa結合が増えてイオン化Caが低下し、テタニーやTrousseau徴候が出現する。テタニーの本質はイオン化Caの低下である。また、低Mg血症はPTH分泌と作用を障害し、低Ca血症を招く。

副甲状腺機能低下症の病型

・術後性:甲状腺・副甲状腺手術後。最も頻度が高い。 ・特発性:自己免疫性(自己免疫性多内分泌腺症候群1型など)や、22q11.2欠失症候群(DiGeorge症候群)などの先天性のもの。 ・偽性副甲状腺機能低下症:PTHは分泌されるが、標的臓器(腎・骨)がPTHに反応しない。PTHは高値。Ellsworth-Howard試験(PTH負荷後に尿中cAMP・リン排泄が増えるかをみる)で病型を分ける。1a型では低身長、円形顔貌、第4・5中手骨短縮、肥満などのAlbright遺伝性骨異栄養症の特徴を伴う。

検査所見のまとめ

血清Ca低値、血清リン高値、PTHは特発性・術後性で低値、偽性で高値。腎機能は正常。

合併症

大脳基底核石灰化、白内障、心電図のQT延長、けいれん、歯牙の形成不全など。

治療

・急性のテタニー:グルコン酸カルシウムの緩徐な静注。 ・慢性期:活性型ビタミンD製剤(アルファカルシドールやカルシトリオール)とCa製剤の経口投与。高Ca尿症・腎結石を避けるため、血清Caは基準値の下限付近を目標に管理する。

POINT

・Trousseau徴候(カフ加圧で助産師手位)、Chvostek徴候は低Ca血症(イオン化Ca低下)によるテタニーのサイン。 ・両側大脳基底核石灰化は慢性の高リン血症を示唆し、副甲状腺機能低下症の重要な所見。 ・副甲状腺機能低下症:血清Ca低下、血清リン上昇。PTHは特発性・術後性で低値、偽性で高値。 ・総Ca正常でもアルカローシス(過換気)ではイオン化Caが低下しテタニーが起こる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。