血圧計のカフが暴いた低カルシウム―助産師手位と基底核石灰化が語る副甲状腺機能低下症
第108回医師国家試験 I問題 第55問
国試問題にチャレンジ
32歳の女性。手指のしびれ感とつっぱり感とを主訴に来院した。症状は数年前からあったというが,本日,いつも以上に強くなったため受診した。バイタルサイン測定時の写真(A)と頭部単純CT(B)とを別に示す。 異常所見が予想されるのはどれか。

- a.血清Ca
- b.血清Cl
- c.血清Na
- d.血糖
- e.脳波
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
血圧測定のカフ加圧で手指が助産師手位をとるTrousseau徴候は、イオン化Caの低下による神経筋興奮性亢進、すなわちテタニーのサインです。両側大脳基底核の対称性石灰化は慢性的な高リン血症を示唆し、腎機能障害がなければ、低Ca・高リンをきたす副甲状腺機能低下症が最も考えられるため、異常が予想されるのは血清Caです。PTHは術後性・特発性で低値、偽性副甲状腺機能低下症では高値となり、偽性1a型ではAlbright遺伝性骨異栄養症を伴います。過換気などのアルカローシスでは総Caが正常でもテタニーが起こること、低アルブミン血症では補正Caで評価することも重要です。慢性期は活性型ビタミンDとCa製剤で血清Caを基準値下限付近に保つのが基本で、身体所見と画像所見を電解質異常に結びつける力は内分泌疾患の診療全般に役立ちます。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・32歳女性。手指のしびれ感とつっぱり感が数年前から続いており、今回増悪した。慢性の経過であり、急性の脳血管障害などは考えにくい。 ・写真(A):血圧測定のためにマンシェット(カフ)を上腕に巻いて加圧した際、手指が伸展したまま中手指節(MP)関節で屈曲し、母指が内転した特徴的な手の形(助産師手位)をとっている。これはカフで上腕を圧迫・阻血したことで手の筋が攣縮したもので、Trousseau徴候陽性を意味する。 ・頭部単純CT(B):両側大脳基底核に左右対称性の石灰化がみられる。
診断へのプロセス
手指のしびれやつっぱり感の鑑別には、低Ca血症などによるテタニー、手根管症候群、糖尿病・アルコールなどによる末梢神経障害が挙がる。本例ではTrousseau徴候がみられることから、神経筋の興奮性が高まったテタニーの状態と判断できる。テタニーは、血中のイオン化Ca濃度の低下(低Ca血症やアルカローシス)や低Mg血症で起こる。 さらに、両側大脳基底核の石灰化は、長期にわたる高リン血症によってCaとリンの積が上昇し、異所性石灰化を生じたことを示唆する。「低Ca血症+高リン血症が慢性に続く」病態は、腎機能障害(慢性腎臓病)を除けば副甲状腺ホルモン(PTH)の作用不足、すなわち副甲状腺機能低下症(特発性、術後性、または偽性副甲状腺機能低下症)が代表的である。若年女性で数年来の症状という経過もこれに合う。
設問の考え方
副甲状腺機能低下症でPTHの作用が不足すると、骨からのCa動員・腎尿細管でのCa再吸収・活性型ビタミンD(1,25-(OH)2D)の産生を介した腸管Ca吸収がいずれも低下し、血清Caが低下する。一方、腎でのリン排泄が減るため血清リンは上昇する。したがって、選択肢のうち確実に異常を示すと予想されるのは血清Caである。
選択肢考察
- ○a. 血清Ca
正しい。Trousseau徴候を伴うテタニーと、慢性の高リン血症を反映する両側大脳基底核石灰化から副甲状腺機能低下症が考えられ、PTH作用の不足により血清Caは低値となる(基準値はおおむね8.5〜10.2 mg/dL)。なお、血清Caの約半分はアルブミンと結合しているため、低アルブミン血症があるときは補正Ca値(補正Ca=実測Ca+(4−血清アルブミン値))で評価する。本例では同時に血清リン高値が予想され、PTHは特発性・術後性では低値、偽性副甲状腺機能低下症では高値となる。
- ×b. 血清Cl
誤り。副甲状腺機能低下症で血清Clに明らかな異常が出ることは通常ない。むしろ原発性副甲状腺機能亢進症では、PTHが近位尿細管での重炭酸(HCO3−)再吸収を抑制するため高Cl性代謝性アシドーシスの傾向となり、Cl/P比が上昇(33以上)することが知られている。本例の診断では血清Clの異常は予想されない。
- ×c. 血清Na
誤り。副甲状腺機能低下症はNaの調節(抗利尿ホルモンやアルドステロンなど)に直接関わらないため、血清Naは正常と予想される。手指のしびれやけいれんを低Na血症で説明することもできるが、低Na血症ではTrousseau徴候や大脳基底核の石灰化はみられない。
- ×d. 血糖
誤り。本例に血糖値の異常を示唆する所見はない。糖尿病性末梢神経障害でも手足のしびれは生じるが、通常は下肢遠位から左右対称に始まる感覚障害であり、Trousseau徴候のような筋攣縮や大脳基底核石灰化は説明できない。副甲状腺機能低下症自体も血糖に影響しない。
- ×e. 脳波
誤り。低Ca血症が高度になるとけいれん発作を起こすことがあり、その際には脳波異常がみられることもある。しかし本例はしびれとつっぱり感(テタニー)を主訴としており、意識障害やけいれん発作の記載はない。テタニーは末梢神経・筋の興奮性の亢進によるもので、脳波異常が必発とはいえない。基底核石灰化があっても脳波が異常になるとは限らず、「異常所見が予想される」ものとしては血清Caが最も確実である。
テタニーとその誘発徴候
テタニーとは、神経・筋の興奮性が高まり、手足のしびれや筋の有痛性の攣縮(手足搐搦)が起こる状態である。細胞外のイオン化Caが低下すると、神経細胞膜のNaチャネルが開きやすくなり、興奮しやすくなる。 ・Trousseau徴候:上腕にマンシェットを巻き、収縮期血圧より高い圧で約3分間圧迫すると、手指が助産師手位(MP関節屈曲、指節間関節伸展、母指内転)をとる。 ・Chvostek徴候:耳の前方で顔面神経を軽く叩打すると、同側の口角や顔面筋が収縮する。 総Ca値が正常でも、過換気症候群などのアルカローシスではアルブミンへのCa結合が増えてイオン化Caが低下し、テタニーやTrousseau徴候が出現する。テタニーの本質はイオン化Caの低下である。また、低Mg血症はPTH分泌と作用を障害し、低Ca血症を招く。
副甲状腺機能低下症の病型
・術後性:甲状腺・副甲状腺手術後。最も頻度が高い。 ・特発性:自己免疫性(自己免疫性多内分泌腺症候群1型など)や、22q11.2欠失症候群(DiGeorge症候群)などの先天性のもの。 ・偽性副甲状腺機能低下症:PTHは分泌されるが、標的臓器(腎・骨)がPTHに反応しない。PTHは高値。Ellsworth-Howard試験(PTH負荷後に尿中cAMP・リン排泄が増えるかをみる)で病型を分ける。1a型では低身長、円形顔貌、第4・5中手骨短縮、肥満などのAlbright遺伝性骨異栄養症の特徴を伴う。
検査所見のまとめ
血清Ca低値、血清リン高値、PTHは特発性・術後性で低値、偽性で高値。腎機能は正常。
合併症
大脳基底核石灰化、白内障、心電図のQT延長、けいれん、歯牙の形成不全など。
治療
・急性のテタニー:グルコン酸カルシウムの緩徐な静注。 ・慢性期:活性型ビタミンD製剤(アルファカルシドールやカルシトリオール)とCa製剤の経口投与。高Ca尿症・腎結石を避けるため、血清Caは基準値の下限付近を目標に管理する。
POINT
・Trousseau徴候(カフ加圧で助産師手位)、Chvostek徴候は低Ca血症(イオン化Ca低下)によるテタニーのサイン。 ・両側大脳基底核石灰化は慢性の高リン血症を示唆し、副甲状腺機能低下症の重要な所見。 ・副甲状腺機能低下症:血清Ca低下、血清リン上昇。PTHは特発性・術後性で低値、偽性で高値。 ・総Ca正常でもアルカローシス(過換気)ではイオン化Caが低下しテタニーが起こる。
