StudyMed医師国家試験

CD4が減ると何が起こる?―AIDSの併発疾患から「仲間はずれ」を見抜く

第108回医師国家試験 I問題 第27問

国試問題にチャレンジ

第108回 I問題 第27問

後天性免疫不全症候群〈AIDS〉の併発疾患でないのはどれか。

  1. a.サイトメガロウイルス感染症
  2. b.ニューモシスチス肺炎
  3. c.口腔内カンジダ症
  4. d.悪性リンパ腫
  5. e.プリオン病

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はAIDSに併発する疾患を問う問題だ。ポイントは、HIVが何を壊し、その結果どんな病気が出てくるのかという「発症機序」で選択肢を見分けること。まずはHIVの標的から確認しよう。HIVはどの細胞に感染するかな。
医学生医学生
CD4陽性T細胞、つまりヘルパーT細胞です。免疫学の講義で、受容体としてCD4とケモカイン受容体を使うと習いました。
ドクタードクター
その通り。ヘルパーT細胞が少しずつ破壊されることで、主に細胞性免疫が障害される。急性期のあと数年から10年ほどの無症候期があって、その間にCD4数がじわじわ下がっていく。そして健常者なら問題にならない病原体による日和見感染症や、ウイルスが関与する腫瘍が現れてくるんだ。日本ではHIV感染者が厚生労働省の定める23のAIDS指標疾患のどれかを発症した時点でAIDSと診断する。
医学生医学生
ということは、選択肢を「細胞性免疫の低下で起こるかどうか」で振り分ければいいんですね。
ドクタードクター
そう。まずサイトメガロウイルス感染症から考えてみよう。
医学生医学生
サイトメガロウイルスはヘルペスウイルス科なので、潜伏感染していたものが免疫低下で再活性化するんでしたっけ。
ドクタードクター
正解。多くの人が小児期までに不顕性感染していて、CD4が50/μL未満くらいの高度免疫不全になると網膜炎、腸炎、食道炎、脳炎などを起こす。特に網膜炎は失明につながるから、眼科との連携が欠かせない。肝・脾・リンパ節以外のサイトメガロウイルス感染症は指標疾患に含まれている。
医学生医学生
ニューモシスチス肺炎はAIDSといえばこれ、というくらい有名ですよね。
ドクタードクター
日本でAIDS発症時の指標疾患として最も多いものだ。原因は真菌のPneumocystis jiroveciiで、CD4が200/μL未満で起こりやすくなる。亜急性に進む乾性咳嗽と呼吸困難、CTでびまん性のすりガラス影、β-Dグルカン上昇が手がかりで、治療と予防の第一選択はST合剤だね。
医学生医学生
口腔内カンジダ症は、指標疾患のリストには入っていなかった気がするんですが、併発疾患ではないと考えるべきですか。
ドクタードクター
鋭い指摘だ。確かに指標疾患に入るのは食道・気管・気管支・肺のカンジダ症で、口腔内に限局したものは含まれない。でも細胞性免疫が下がると起こりやすく、HIV感染者ではCD4が比較的保たれた段階からしばしば見られる。だから「併発疾患でない」とはいえない。むしろ若い人の原因不明の鵞口瘡は、HIV感染を疑うきっかけになる大切な所見なんだ。
医学生医学生
悪性リンパ腫は腫瘍なので、感染症とは別枠という印象でした。
ドクタードクター
そこがよくある誤解だね。AIDSでは日和見腫瘍も重要で、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫やBurkittリンパ腫、中枢神経原発リンパ腫などの非Hodgkinリンパ腫が指標疾患に入っている。背景にはEBウイルスの関与が大きい。ほかの指標腫瘍として、ヒトヘルペスウイルス8型が関わるKaposi肉腫と、ヒトパピローマウイルスが関わる浸潤性子宮頸癌もセットで覚えよう。
医学生医学生
どれもウイルスが絡んでいて、免疫が監視できなくなるから腫瘍が出てくるんですね。そうなると残るプリオン病が答えですか。
ドクタードクター
その通り。プリオン病は正常プリオン蛋白が構造変化した異常プリオン蛋白が脳に蓄積して、神経細胞が脱落し海綿状変化をきたす病気だ。代表はCreutzfeldt-Jakob病で、孤発性が最も多く、ほかに遺伝性や、硬膜移植などによる獲得性がある。免疫不全が発症の背景になるわけではないから、AIDSの併発疾患ではない。
医学生医学生
神経内科の実習で、急速に進む認知症とミオクローヌスがあって、脳波で周期性同期性放電が出た患者さんを見ました。あれがプリオン病でした。
ドクタードクター
いい経験をしたね。MRI拡散強調像での皮質や線条体の高信号、髄液14-3-3蛋白の上昇も特徴だ。ただ、AIDSでも中枢神経の病気はいろいろ起こるから混同しないように。JCウイルスによる進行性多巣性白質脳症、トキソプラズマ脳症、クリプトコックス髄膜炎、HIV脳症などがそれにあたる。
医学生医学生
脳の病気というだけでAIDSと結びつけず、免疫不全で起こる感染症かどうかで考えるんですね。
ドクタードクター
そういうこと。最後に臨床で役立つ整理をしておこう。CD4数の目安で、500/μL前後から帯状疱疹、結核、口腔内カンジダ症、200/μL未満でニューモシスチス肺炎や食道カンジダ症、100/μL未満でトキソプラズマ脳症やクリプトコックス髄膜炎、50/μL未満でサイトメガロウイルス感染症、非結核性抗酸菌症、中枢神経原発リンパ腫といった具合だ。結核はCD4が比較的保たれていても起こるから、どの段階でも注意が必要だね。
医学生医学生
CD4数から予防投与を始めるタイミングも決まると聞きました。
ドクタードクター
その通りで、たとえばCD4が200/μLを切ったらST合剤によるニューモシスチス肺炎の予防を考える。いまは抗レトロウイルス療法で免疫を回復させることが治療の柱だけど、日和見感染症を見たらHIVを疑い、HIVを見たらCD4数に応じた合併症を想定する。この双方向の発想を持っておこう。

まとめ

AIDSは、HIVがCD4陽性T細胞を破壊して細胞性免疫が高度に低下し、23のAIDS指標疾患のいずれかを発症した状態です。サイトメガロウイルス感染症、ニューモシスチス肺炎、カンジダ症などの日和見感染症に加え、EBウイルスが関わる悪性リンパ腫やKaposi肉腫、浸潤性子宮頸癌といった日和見腫瘍が併発します。口腔内カンジダ症は指標疾患ではありませんが、HIV感染を疑う重要な手がかりです。一方、プリオン病は異常プリオン蛋白の蓄積による神経変性疾患で、免疫不全とは関係しないため併発疾患には当たりません。CD4数の低下段階ごとに出やすい合併症を整理しておくことは、診断のきっかけや予防投与の判断に直結します。

解答・解説

正解はeです

後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome:AIDS)は、ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)がCD4陽性Tリンパ球(ヘルパーT細胞)に感染してこれを破壊し続けることで細胞性免疫が高度に障害され、日和見感染症や日和見腫瘍を発症した状態である。 HIVに感染すると、急性期を経て数年〜10年程度の無症候期が続き、その間にCD4陽性リンパ球数が徐々に減少する。CD4陽性リンパ球数が低下するにつれ、健常者では問題にならない病原体による日和見感染症や、ウイルスが関与する腫瘍が現れる。日本では、HIV感染が確認された者が厚生労働省の定める23の指標疾患(AIDS指標疾患)のいずれかを発症した時点でAIDSと診断する。 本問では、選択肢のうちHIV感染による細胞性免疫低下と関連して発症する病態かどうかを判断すればよい。サイトメガロウイルス感染症・ニューモシスチス肺炎・カンジダ症・悪性リンパ腫はいずれも細胞性免疫低下に伴って起こる代表的な併発疾患である。一方、プリオン病は異常プリオン蛋白が脳に蓄積する疾患で、免疫不全とは発症機序が関係しない。

選択肢考察

  1. ×a.  サイトメガロウイルス感染症

    サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)はヘルペスウイルス科に属し、多くの人が小児期までに不顕性感染して体内に潜伏している。細胞性免疫が低下すると再活性化して発症する(回帰感染)。AIDSでは特にCD4陽性リンパ球数が50/μL未満の高度免疫不全で、網膜炎(失明の原因となる)、腸炎、食道炎、脳炎などを起こす。肝・脾・リンパ節以外のCMV感染症はAIDS指標疾患に含まれており、AIDSの併発疾患である。

  2. ×b.  ニューモシスチス肺炎

    ニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumonia:PCP)は真菌の一種であるPneumocystis jiroveciiによる肺炎で、CD4陽性リンパ球数が200/μL未満になると発症しやすくなる。日本ではAIDS発症時の指標疾患として最も多く、AIDSの代表的な併発疾患である。亜急性に進行する乾性咳嗽・発熱・呼吸困難、胸部CTでのびまん性すりガラス影、血清β-Dグルカン上昇、LDH上昇などが特徴で、治療・予防にはST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)が第一選択である。

  3. ×c.  口腔内カンジダ症

    口腔内カンジダ症(鵞口瘡)はCandida albicansなどによる口腔粘膜の感染症で、剥がれやすい白苔を形成する。細胞性免疫低下で起こりやすく、HIV感染者ではCD4陽性リンパ球数が比較的保たれた段階(おおむね200〜500/μL)からしばしば出現し、HIV感染を疑うきっかけとなる。なお、AIDS指標疾患に含まれるのは食道・気管・気管支・肺のカンジダ症であり、口腔内に限局したものは指標疾患ではないが、HIV感染症・AIDSに高頻度に併発する疾患であることに変わりはない。広域抗菌薬の使用による菌交代現象、ステロイド吸入、糖尿病、高齢者の義歯なども原因となる。

  4. ×d.  悪性リンパ腫

    悪性リンパ腫(主に非Hodgkinリンパ腫で、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、Burkittリンパ腫、中枢神経原発リンパ腫など)はAIDS指標疾患であり、AIDSの併発疾患である。Epstein-Barr(EB)ウイルスの関与が大きく、特に中枢神経原発リンパ腫はCD4陽性リンパ球数が50/μL未満の高度免疫不全で起こりやすい。AIDS指標疾患となる悪性腫瘍には、ほかにKaposi肉腫(ヒトヘルペスウイルス8型が関与)と浸潤性子宮頸癌(ヒトパピローマウイルスが関与)がある。

  5. ○e.  プリオン病

    プリオン病は、正常プリオン蛋白が構造変化した異常プリオン蛋白が脳内に蓄積し、神経細胞が変性・脱落して海綿状変化をきたす致死的な疾患である。代表はCreutzfeldt-Jakob病(CJD)で、原因により孤発性(最多)、遺伝性(プリオン蛋白遺伝子変異)、獲得性(ヒト乾燥硬膜移植などの医原性や、牛海綿状脳症〈BSE〉に感染した牛の摂取による変異型CJD)に分けられる。免疫不全が発症の背景になるわけではなく、AIDSの併発疾患ではない。よってこれが正解である。なお、AIDSでみられる中枢神経の感染症としては、JCウイルスによる進行性多巣性白質脳症(PML)やトキソプラズマ脳症、クリプトコックス髄膜炎などがあり、プリオン病と混同しないよう注意する。

CD4陽性リンパ球数と出現しやすい合併症の目安

・500/μL前後〜:帯状疱疹、結核、口腔内カンジダ症、口腔毛状白板症など ・200/μL未満:ニューモシスチス肺炎、食道カンジダ症、Kaposi肉腫など ・100/μL未満:トキソプラズマ脳症、クリプトコックス髄膜炎など ・50/μL未満:サイトメガロウイルス感染症(網膜炎など)、非結核性抗酸菌(MAC)症、中枢神経原発悪性リンパ腫、進行性多巣性白質脳症など (結核は免疫が比較的保たれた段階でも発症し、CD4数にかかわらず注意が必要である。)

AIDS指標疾患(23疾患)の主なもの

・真菌症:カンジダ症(食道・気管・気管支・肺)、クリプトコックス症(肺以外)、コクシジオイデス症、ヒストプラズマ症、ニューモシスチス肺炎 ・原虫症:トキソプラズマ脳症、クリプトスポリジウム症、イソスポラ症 ・細菌感染症:化膿性細菌感染症(13歳未満)、サルモネラ菌血症、活動性結核、非結核性抗酸菌症 ・ウイルス感染症:サイトメガロウイルス感染症、単純ヘルペスウイルス感染症、進行性多巣性白質脳症 ・腫瘍:Kaposi肉腫、原発性脳リンパ腫、非Hodgkinリンパ腫、浸潤性子宮頸癌 ・その他:反復性肺炎、リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成(13歳未満)、HIV脳症、HIV消耗性症候群

プリオン病の要点

孤発性CJDは中高年に発症し、急速に進行する認知症、ミオクローヌス、脳波での周期性同期性放電(PSD)、MRI拡散強調像での大脳皮質・線条体の高信号、髄液14-3-3蛋白・総タウ蛋白の上昇、RT-QuIC法による異常プリオン蛋白の検出が特徴である。通常の滅菌では不活化されにくく、感染症法の5類全数把握疾患である。

POINT

・AIDS=HIV感染+AIDS指標疾患(23疾患)の発症。 ・細胞性免疫低下に伴う日和見感染症(ニューモシスチス肺炎、CMV感染症、カンジダ症、トキソプラズマ脳症、クリプトコックス症、非結核性抗酸菌症、結核など)と日和見腫瘍(Kaposi肉腫、悪性リンパ腫、浸潤性子宮頸癌)が併発する。 ・CD4陽性リンパ球数の低下の程度で出現する疾患が異なる(PCPは200/μL未満、CMV・MACは50/μL未満)。 ・プリオン病は異常プリオン蛋白の蓄積による疾患で、免疫不全とは無関係。 ・口腔内カンジダ症は指標疾患ではない(指標疾患は食道・気管・気管支・肺カンジダ症)が、HIV感染を疑う重要な所見である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。