「ヘミ」が付くかで大違い―デスモソームで読み解く表皮の接着と水疱症
第108回医師国家試験 G問題 第8問
国試問題にチャレンジ
表皮細胞間接着に関与するのはどれか。
- a.アミロイド
- b.ケラチン
- c.セラミド
- d.デスモゾーム
- e.ヘミデスモゾーム
対話形式の解説
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ドクターまとめ
表皮の角化細胞同士をつなぐ細胞間接着の中心はデスモソーム(接着斑)で、デスモグレインやデスモコリンがカルシウム依存性に結合し、細胞内では裏打ち板を介してケラチン線維とつながっています。名前の似たヘミデスモソームは、基底細胞を基底膜に固定する細胞-基質間の接着装置であり、細胞間接着ではありません。ケラチンは細胞内の中間径フィラメント、セラミドは角質層の細胞間脂質としてバリアと保湿を担い、アミロイドは病的な沈着物です。デスモグレインに対する自己抗体では天疱瘡(表皮内水疱)、BP180やBP230に対する自己抗体では水疱性類天疱瘡(表皮下水疱)が生じます。接着装置の構造と部位を正しく区別することは、自己免疫性水疱症の病態、組織像、蛍光抗体法所見を理解する基盤になります。
解答・解説
正解はdです
表皮は重層扁平上皮であり、主体となる角化細胞(ケラチノサイト)同士は細胞間接着装置によって強固につなぎ留められている。この結合があるからこそ、表皮は摩擦や牽引などの機械的ストレスに耐えられる。 表皮の接着は大きく二つに分けて考えると整理しやすい。 ・角化細胞と角化細胞の間(細胞間接着):主役はデスモソーム(接着斑)である。ほかに接着結合(アドヘレンスジャンクション)、タイトジャンクション、ギャップ結合なども存在する。 ・基底細胞と基底膜の間(細胞-基質間接着):主役はヘミデスモソームである。 本問は「細胞間」の接着を問うているので、細胞同士を結ぶデスモソームを選ぶ。ヘミデスモソームは名前が似ているが、表皮と真皮の境界(基底膜)で細胞を基質に固定する構造であり、両者を取り違えないことが本問の要点である。さらに、それぞれの構成蛋白に対する自己抗体が生じると、デスモソームなら天疱瘡、ヘミデスモソームなら水疱性類天疱瘡という異なる自己免疫性水疱症になる、という臨床との結びつきも押さえておきたい。
選択肢考察
- ×a. アミロイド
アミロイドは、本来可溶性の蛋白が誤って折りたたまれ、βシート構造に富む不溶性の線維となって組織に沈着したものである。沈着によって臓器障害を起こす病態がアミロイドーシスで、皮膚では真皮乳頭層などに沈着する(皮膚アミロイドーシス)。コンゴーレッド染色で橙赤色に染まり、偏光顕微鏡下でアップルグリーンの複屈折を示すのが特徴である。病的な沈着物であり、正常な表皮の細胞間接着には関与しない。
- ×b. ケラチン
ケラチンは上皮細胞に特有の中間径フィラメント(細胞骨格)を構成する蛋白で、角化細胞の形を保ち機械的強度を与える。角質層、毛、爪の主要成分でもある。細胞内のケラチン線維はデスモソームやヘミデスモソームの細胞質側の裏打ち板に付着し、接着装置を介して隣の細胞や基底膜と張力を分担するが、ケラチン自体は細胞内の骨格であって、細胞と細胞をつなぐ接着分子ではない。なおケラチン5/14の遺伝子変異では基底細胞が壊れやすくなり単純型表皮水疱症となる。
- ×c. セラミド
セラミドはスフィンゴ脂質の一種で、顆粒層の層板顆粒から放出され、角質層の角質細胞のすき間を埋める細胞間脂質の主成分となる(ほかにコレステロール、遊離脂肪酸)。層状(ラメラ)構造をとって水分の蒸散を防ぎ、外来物質の侵入を妨げる皮膚バリア機能を担う。アトピー性皮膚炎では角質層のセラミドが減少していることが知られる。役割は保湿とバリアであり、角化細胞同士を機械的に結合させる接着装置ではない。
- ○d. デスモゾーム
デスモソーム(接着斑)は隣り合う角化細胞をボタンのように点状につなぎ留める細胞間接着装置であり、表皮細胞間接着の中心となる構造である。光学顕微鏡では有棘層の細胞間に見える棘状の「細胞間橋」に相当する。細胞外ではカドヘリンファミリーの膜貫通蛋白であるデスモグレイン(Dsg)とデスモコリンがカルシウム依存性に結合し、細胞内ではプラコグロビン、デスモプラキンなどから成る付着板(裏打ち板)を介してケラチン線維とつながる。デスモグレイン3に対する自己抗体で尋常性天疱瘡、デスモグレイン1に対する自己抗体で落葉状天疱瘡が起こり、細胞同士が離れる棘融解(アカントリシス)によって表皮内水疱が生じる。
- ×e. ヘミデスモゾーム
ヘミデスモソームはデスモソームを半分にしたような形の接着装置で、表皮基底細胞の底面を基底膜(基底板)に固定する細胞-基質間の接着構造である。BP180(XVII型コラーゲン)、BP230、インテグリンα6β4などから構成され、係留線維などを介して真皮側とも連結する。BP180やBP230に対する自己抗体で水疱性類天疱瘡が起こり、表皮下水疱が生じる。細胞同士の接着ではないため本問の答えにはならない。
表皮の構造
表皮は深部から基底層、有棘層、顆粒層、角質層(手掌・足底では顆粒層と角質層の間に淡明層)の順に重なる。基底層で分裂した角化細胞は約4週間かけて上方へ移動し、最終的に角質細胞となって剥がれ落ちる。有棘層の細胞間に見える棘状の突起がデスモソームであり、「有棘」の名はこれに由来する。
主な細胞接着装置
・タイトジャンクション(密着結合):細胞間の隙間をふさぐ。表皮では顆粒層に存在しバリアに関わる。 ・接着結合(アドヘレンスジャンクション):E-カドヘリンを介し、アクチン線維と連結する。 ・デスモソーム:デスモグレイン・デスモコリンを介し、ケラチン線維と連結する。細胞間の機械的結合の主役。 ・ギャップ結合:コネキシンから成るチャネルで、細胞間のイオンや小分子の移動を担う。 ・ヘミデスモソーム:細胞と基底膜をつなぐ。インテグリンα6β4、BP180などを介してケラチン線維と連結する。
接着分子と自己免疫性水疱症
・尋常性天疱瘡:抗デスモグレイン3抗体(粘膜皮膚型では抗デスモグレイン1抗体も)。口腔粘膜病変が目立つ。表皮内水疱、ニコルスキー現象陽性。 ・落葉状天疱瘡:抗デスモグレイン1抗体。表皮上層での浅い水疱・びらん。粘膜病変はまれ。 ・水疱性類天疱瘡:抗BP180抗体・抗BP230抗体。高齢者に多く、緊満性の表皮下水疱。 ・後天性表皮水疱症:抗VII型コラーゲン抗体(係留線維の成分)。 蛍光抗体直接法では、天疱瘡は表皮細胞間にIgGが網目状に、類天疱瘡は基底膜部に線状に沈着する。
POINT
・表皮細胞同士の接着=デスモソーム(デスモグレイン、デスモコリン) ・基底細胞と基底膜の接着=ヘミデスモソーム(BP180、BP230、インテグリンα6β4) ・デスモグレインに対する自己抗体→天疱瘡(表皮内水疱)、BP180/BP230に対する自己抗体→水疱性類天疱瘡(表皮下水疱) ・ケラチンは細胞内の中間径フィラメント、セラミドは角質層の細胞間脂質(バリア・保湿)、アミロイドは病的沈着物
