StudyMed医師国家試験

Basedow病の手術標本に潜んでいたもの―核で見抜く甲状腺乳頭癌

第108回医師国家試験 G問題 第46問

国試問題にチャレンジ

第108回 G問題 第46問

45歳の女性。汗をかきやすいことと体重減少とを主訴に来院した。甲状腺機能亢進症の診断で1年前から抗甲状腺薬を内服していたが,症状の改善がみられず,本人の希望もあり甲状腺摘出術が施行された。摘出組織のH-E染色標本(A)(B)を別に示す。  この病変の診断として最も考えられるのはどれか。

第108回 G問題 第46問の問題画像
  1. a.髄様癌
  2. b.乳頭癌
  3. c.濾胞癌
  4. d.未分化癌
  5. e.悪性リンパ腫

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、甲状腺機能亢進症で摘出した甲状腺に見つかった病変を、組織像から診断する問題だ。臨床経過は入口にすぎず、問われているのは標本に写った病変の正体。着目すべきは「増殖の構造」と「核の顔つき」の2つだよ。
医学生医学生
中年女性で抗甲状腺薬が効かず手術、となるとBasedow病ですよね。でも、Basedow病そのものは癌の選択肢には入っていないような…。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。中年女性の甲状腺機能亢進症で最も多いのはBasedow病で、薬で寛解しない場合や本人の希望があれば、放射性ヨウ素内用療法や手術が選ばれる。ただ、良性疾患で切除した甲状腺を詳しく調べると、術前に気づかれていなかった小さな癌が偶然見つかることがある。その代表が乳頭癌なんだ。
医学生医学生
偶発癌というものですね。では組織を見る前から乳頭癌を考えておく、という感じでしょうか。
ドクタードクター
頻度からはそう予想できるけれど、最後は標本で確かめる。弱拡大では、周囲の甲状腺との間に線維性の間質が目立つ小さな病変があって、その中で血管を含む線維性の芯を軸に、上皮が木の枝のように乳頭状に伸びている。強拡大では、腫瘍細胞の核が大きく、互いに重なり合い、中が淡く抜けて明るく見えるんだ。
医学生医学生
病理学の講義で出てきた「すりガラス状核」ですね。核溝や核内細胞質封入体もセットで覚えました。
ドクタードクター
その通り。核溝はコーヒー豆のような縦の切れ込み、核内細胞質封入体は細胞質が核に入り込んで丸く抜けて見えるもの。今回の写真でも、そうした所見がうかがわれる。乳頭状構造とこれらの核所見がそろうので、診断は乳頭癌だ。
医学生医学生
名前の通り、乳頭状の形が一番の決め手なんですか。
ドクタードクター
実はそこが落とし穴。乳頭癌の診断で決め手になるのは核所見なんだ。乳頭状構造がはっきりしない濾胞型乳頭癌でも、核所見があれば乳頭癌と診断される。だから細胞診でも核をしっかり見ることが大事なんだよ。では、ほかの選択肢も確認しよう。濾胞癌はどう違う?
医学生医学生
濾胞上皮由来なのは乳頭癌と同じですよね。濾胞をつくって増える、くらいしか覚えていません…。
ドクタードクター
基本はそれでいい。濾胞癌は大小の濾胞構造をつくり、乳頭癌のような特徴的な核所見を欠く。しかも良性の濾胞腺腫とは細胞の見た目だけでは区別できず、被膜浸潤、脈管侵襲、甲状腺外への転移のいずれかを確認して初めて癌と診断する。血行性に肺や骨へ転移しやすいのも特徴だ。
医学生医学生
髄様癌はC細胞由来で、カルシトニンが上がるんでしたね。CBTの勉強でMEN2型と一緒に覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。髄様癌は類円形〜紡錘形の細胞が充実性・胞巣状に増え、間質にCongo red染色陽性のアミロイドが沈着する。CEAも上昇し、遺伝性のものはRET遺伝子変異を伴う。乳頭状構造やすりガラス状核とは全く違う像だね。
医学生医学生
未分化癌は高齢者で、首が急に大きくなる怖い癌というイメージです。
ドクタードクター
そう、きわめて予後不良だ。組織では多形性の強い巨細胞や紡錘形細胞がばらばらに増え、核分裂像や壊死、周囲への破壊的浸潤が目立つ。今回のように分化した細胞が乳頭状に整然と並ぶ像とは違う。悪性リンパ腫は多くが橋本病を背景に高齢女性に生じ、異型リンパ球がびまん性に増えて濾胞上皮を壊していく。今回は上皮性の乳頭状増殖だから合わないね。
医学生医学生
構造で上皮性かどうかを見て、核所見で乳頭癌を確定する、という流れですね。
ドクタードクター
その通り。最後に発展知識を。乳頭癌は甲状腺悪性腫瘍の約9割を占め、30〜50歳代の女性に多い。リンパ節転移をきたしやすいけれど予後は良好だ。同心円状の石灰化である砂粒体や、BRAF遺伝子変異が多いことも特徴だよ。
医学生医学生
偶然見つかった小さな癌でも、全部手術が必要なんでしょうか。
ドクタードクター
最大径1 cm以下のものは微小乳頭癌と呼ばれ、多くは生命予後に影響しない。低リスクなら手術をせず超音波で経過をみる積極的経過観察も選択肢とされている。それから、Basedow病で手術をする際は、術前に抗甲状腺薬や無機ヨウ素で甲状腺機能を正常化して、甲状腺クリーゼを予防することも忘れないでほしい。

まとめ

Basedow病などの良性疾患で摘出した甲状腺には、術前に指摘されていなかった微小な乳頭癌が偶然見つかることがあります。甲状腺乳頭癌は甲状腺悪性腫瘍の約9割を占め、中年女性に多く、リンパ節転移をきたしやすいものの予後は良好です。組織では線維血管性の芯を持つ乳頭状増殖に加え、すりガラス状核・核溝・核内細胞質封入体・核の重なりがみられ、とくに核所見が診断の決め手となります。濾胞癌は被膜浸潤や脈管侵襲で診断し、髄様癌はC細胞由来でアミロイド沈着とカルシトニン上昇、未分化癌は高齢者で高度異型と急速増大、悪性リンパ腫は橋本病を背景とするびまん性のリンパ球増殖が特徴です。組織型ごとの由来・組織像・臨床像を対比して整理することが、甲状腺腫瘍の診断と治療方針を理解する土台になります。

解答・解説

正解はbです

臨床経過の整理

45歳女性で、発汗過多と体重減少があり、甲状腺機能亢進症として抗甲状腺薬を1年間内服していたが改善せず、手術(甲状腺摘出術)に至っている。中年女性の甲状腺機能亢進症で最も多いのはBasedow病(Graves病)であり、抗甲状腺薬で寛解しない場合や副作用で継続できない場合、本人が希望する場合などには、放射性ヨウ素内用療法や手術が選択される。 ただし本問で問われているのは、機能亢進症そのものではなく、摘出された甲状腺に見つかった「病変」の組織診断である。Basedow病や腺腫様甲状腺腫などの良性疾患で切除した甲状腺を詳しく調べると、術前に指摘されていなかった小さな癌(偶発癌)が見つかることがある。その代表が乳頭癌である。

組織像の読み方

・弱拡大(A):周囲の甲状腺組織との間に線維性の間質が目立つ比較的小さな病変があり、その中で線維血管性の芯(fibrovascular core)を軸に上皮が樹枝状・乳頭状に増殖している。 ・強拡大(B):乳頭状構造を覆う腫瘍細胞の核は大きく、互いに重なり合い、核内のクロマチンが淡く抜けて明るく見える(すりガラス状核)。核の縁に沿って切れ込み状の溝(核溝)や、核内に細胞質が入り込んで丸く抜けて見える核内細胞質封入体がうかがわれる。

診断

乳頭状増殖という構造所見と、すりガラス状核・核溝・核内細胞質封入体・核の重なりという特徴的な核所見がそろっており、甲状腺乳頭癌と診断できる。乳頭癌の診断はとくに核所見が決め手であり、乳頭状構造がはっきりしなくても(濾胞型乳頭癌など)核所見があれば乳頭癌と診断される点が重要である。

選択肢考察

  1. ×a.  髄様癌

    髄様癌は傍濾胞細胞(C細胞)由来の神経内分泌腫瘍で、腫瘍細胞は類円形~紡錘形で充実性・胞巣状に増殖し、間質にアミロイド沈着(Congo red染色陽性)を伴うのが特徴である。血中カルシトニンやCEA(癌胎児性抗原)が上昇し、約3割は遺伝性(RET遺伝子変異、多発性内分泌腫瘍症2型など)である。本症例の標本では乳頭状構造とすりガラス状核がみられ、充実性増殖やアミロイド沈着はないため合致しない。

  2. ○b.  乳頭癌

    線維血管性の芯を持つ乳頭状増殖(A)に加え、すりガラス状核、核溝(コーヒー豆様の切れ込み)、核内細胞質封入体、核の重なりといった乳頭癌に特徴的な核所見(B)がみられる。乳頭癌は甲状腺悪性腫瘍の約9割を占める最多の組織型で、中年女性に多く、リンパ節転移をきたしやすいが予後は良好である。Basedow病などで切除した甲状腺に偶然見つかる微小な癌としても最も頻度が高く、本症例の臨床経過とも矛盾しない。

  3. ×c.  濾胞癌

    濾胞癌は濾胞上皮由来の癌で、大小の濾胞構造を形成して増殖し、乳頭癌のような特徴的な核所見を欠く。良性の濾胞腺腫とは細胞の形態だけでは区別できず、腫瘍被膜への浸潤、脈管侵襲、甲状腺外への転移のいずれかを確認して初めて癌と診断される。血行性に肺・骨へ転移しやすい。本症例は乳頭状構造と乳頭癌型の核所見を示しており、濾胞癌ではない。

  4. ×d.  未分化癌

    未分化癌は高齢者に多く、急速に増大する頸部腫瘤として発症し、きわめて予後不良な癌である。組織学的には多形性の強い巨細胞や紡錘形細胞がばらばらに増殖し、核の大小不同・クロマチン増量・多数の核分裂像、壊死、周囲組織への破壊的浸潤がみられる。本症例の標本は乳頭状に整然と並ぶ分化した腫瘍細胞からなり、このような高度異型は認めない。

  5. ×e.  悪性リンパ腫

    甲状腺の悪性リンパ腫は多くが慢性甲状腺炎(橋本病)を背景に高齢女性に発生し、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫やMALTリンパ腫(粘膜関連リンパ組織型の節外性辺縁帯リンパ腫)が主体である。組織では異型リンパ球がびまん性に増殖し、濾胞上皮を置換・破壊する。本症例の標本は上皮性の乳頭状増殖であり、リンパ球系腫瘍細胞の増殖や背景の慢性甲状腺炎像はみられないため合致しない。

甲状腺悪性腫瘍の組織型と特徴

・乳頭癌:約90%。濾胞上皮由来。30~50歳代の女性に多い。リンパ行性転移が多いが予後良好。核所見(すりガラス状核、核溝、核内細胞質封入体)と乳頭状構造、砂粒体(psammoma body:同心円状の石灰化小体)が特徴。BRAF遺伝子変異が高頻度。 ・濾胞癌:約5%。濾胞上皮由来。被膜浸潤・脈管侵襲で診断。血行性転移(肺・骨)が多い。穿刺吸引細胞診では腺腫との区別が困難。 ・低分化癌:乳頭癌・濾胞癌と未分化癌の中間的な性質を示す。 ・髄様癌:1~2%。C細胞由来。カルシトニン・CEA上昇、アミロイド沈着。遺伝性のものはRET遺伝子変異を伴い、多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)の一部をなす。 ・未分化癌:1~2%。高齢者。急速増大、きわめて予後不良。 ・悪性リンパ腫:数%。橋本病を背景に高齢女性に多い。急速に増大する甲状腺腫で発症することがある。

乳頭癌の核所見

・すりガラス状核:クロマチンが核膜側に寄り、核内部が明るく抜けて見える。 ・核溝:核の長軸方向に走る切れ込みで、コーヒー豆のように見える。 ・核内細胞質封入体:細胞質が核内に陥入し、核内に円形の明るい領域として見える。 ・核の重なり、核の腫大・不整。 これらは穿刺吸引細胞診でも確認でき、術前診断に有用である。

偶発癌・微小乳頭癌

最大径1 cm以下の乳頭癌を微小乳頭癌という。良性疾患で摘出した甲状腺や剖検で比較的高頻度に見つかり、多くは生命予後に影響しない。低リスクの微小乳頭癌では、手術をせず超音波で経過を観察する積極的経過観察も選択肢とされている。

Basedow病の治療選択

抗甲状腺薬(チアマゾール、プロピルチオウラシル)が第一選択となることが多い。薬物で寛解しない、副作用で継続できない、甲状腺腫が大きい、早期に確実な治療を希望する、腫瘍の合併がある場合などには、放射性ヨウ素内用療法や甲状腺全摘術が選択される。手術前には抗甲状腺薬や無機ヨウ素で甲状腺機能を正常化し、甲状腺クリーゼを予防する。

POINT

・甲状腺乳頭癌は甲状腺悪性腫瘍で最多(約90%)、中年女性に多く、予後良好。 ・乳頭癌の診断の決め手は核所見(すりガラス状核、核溝、核内細胞質封入体、核の重なり)であり、乳頭状増殖・砂粒体も特徴。 ・濾胞癌は被膜浸潤・脈管侵襲で診断し、血行性転移が多い。 ・髄様癌はC細胞由来でアミロイド沈着、カルシトニン・CEA上昇、RET遺伝子変異。 ・未分化癌は高齢者で急速増大・高度異型・予後不良。悪性リンパ腫は橋本病が背景。 ・Basedow病などの良性疾患で切除した甲状腺に、偶発的に微小乳頭癌が見つかることがある。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。