分葉核が語る自然免疫の最前線―好中球は「駆けつけて、食べる」細胞
第108回医師国家試験 G問題 第36問
国試問題にチャレンジ
末梢血塗抹May-Giemsa染色標本を別に示す。 矢印で示す血球で正しいのはどれか。2つ選べ。

- a.抗体を産生する。
- b.貪食能を有する。
- c.遊走能を有する。
- d.細胞性免疫に関与する。
- e.ウイルス感染細胞を傷害する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
末梢血塗抹May-Giemsa染色で、赤血球の約2倍の大きさをもち、核が3〜5個に分葉して細胞質が淡染性の細胞は分葉核好中球です。好中球は自然免疫の中心を担う食細胞で、C5aやIL-8などの走化因子に向かって血管外へ移動する遊走能と、細菌・真菌を取り込んで活性酸素やミエロペルオキシダーゼで殺菌する貪食能が二大機能です。抗体産生はB細胞・形質細胞、細胞性免疫はT細胞、ウイルス感染細胞の傷害は細胞傷害性T細胞とNK細胞の役割であり、好中球の機能ではありません。慢性肉芽腫症や白血球接着不全症などの好中球機能異常症も、殺菌と遊走のどこが障害されるかで理解できます。血球の形態と機能を結びつけて整理することは、血液像の判読や易感染性患者の評価に直結する基礎力となります。
解答・解説
正解はb, cです
標本の読み取り
末梢血塗抹標本をMay-Giemsa染色(メイ・ギムザ染色:血液像の観察に用いる標準的な普通染色)したものである。矢印の細胞は赤血球の約2倍(直径およそ12〜15μm)の大きさで、核が細いくびれでつながった3〜5個の分葉を示し、細胞質は淡いピンク〜薄紫色で、目立った大型の顆粒を持たない。これは成熟した好中球(分葉核好中球)の典型像である。
鑑別の視点
同じ顆粒球でも、好酸球は橙赤色の粗大な顆粒が細胞質を埋め、核は2分葉のことが多い。好塩基球は暗紫色の粗大顆粒が核に重なるほど充満している。リンパ球は赤血球よりやや大きい程度で、円形の濃い核が細胞の大部分を占め、細胞質はわずかである。単球は最も大きく、腎形〜馬蹄形の核と灰青色の細胞質をもつ。これらとの比較から、矢印の細胞は好中球と判断できる。
設問の考え方
好中球は自然免疫(生まれつき備わった非特異的な防御機構)の中心を担う食細胞である。感染局所から出される走化因子に向かって血管外へ移動する「遊走」と、細菌などを取り込んで殺菌する「貪食」が二大機能である。一方、抗体産生・細胞性免疫・ウイルス感染細胞の傷害は、主にリンパ球系(B細胞、T細胞、NK細胞)が担う獲得免疫あるいはリンパ球系の機能であり、好中球の役割ではない。
選択肢考察
- ×a. 抗体を産生する。
抗体(免疫グロブリン)を産生するのはB細胞と、B細胞が抗原刺激を受けて最終分化した形質細胞である。好中球には抗体産生能はない。なお好中球は表面にFc受容体をもち、抗体が結合した微生物(オプソニン化された微生物)を効率よく貪食するという形で抗体を「利用」するが、自ら作るわけではない。
- ○b. 貪食能を有する。
好中球は代表的な食細胞であり、細菌や真菌を細胞膜で包み込んで取り込み(貪食)、ファゴソームを形成する。そこへ顆粒内容物が放出されてファゴリソソームとなり、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)による次亜塩素酸の生成や、NADPHオキシダーゼによる活性酸素の産生(呼吸バースト)、リゾチームなどの酵素によって殺菌する。貪食能をもつ細胞には、好中球のほか単球・マクロファージ、樹状細胞などがある。
- ○c. 遊走能を有する。
好中球は細菌由来のペプチド(fMLPなど)、補体成分C5a、インターロイキン8(IL-8)などの走化因子を感知し、その濃度勾配に沿って移動する(走化性)。血管内皮上でのローリング、接着分子を介した強固な接着を経て、内皮細胞の間隙をすり抜けて血管外へ出て、感染巣に集まる。好中球は炎症局所に最初に到達する細胞であり、この遊走能は貪食と並ぶ本質的な機能である。
- ×d. 細胞性免疫に関与する。
細胞性免疫とは、抗体ではなく細胞そのものが主体となる獲得免疫で、ヘルパーT細胞(CD4陽性)や細胞傷害性T細胞(CD8陽性)などのT細胞が中心を担う。ツベルクリン反応などのIV型(遅延型)アレルギーもT細胞による反応である。好中球は自然免疫の細胞であり、細胞性免疫の担い手ではない。
- ×e. ウイルス感染細胞を傷害する。
ウイルス感染細胞を認識して傷害するのは、主に細胞傷害性T細胞(CTL:MHCクラスIに提示されたウイルス抗原を認識する)とナチュラルキラー(NK)細胞(MHCクラスIの発現が低下した細胞を攻撃する)である。これらはパーフォリンやグランザイムを放出して標的細胞をアポトーシスに導く。好中球は主に細菌・真菌の貪食殺菌を担い、ウイルス感染細胞の排除の主役ではない。
白血球の種類と主な機能
・好中球:白血球の約40〜70%を占める最多の白血球。細菌・真菌に対する初期防御を担い、遊走・貪食・殺菌を行う。細菌感染で増加し、未熟な桿状核球が増える状態を「核の左方移動」という。 ・好酸球:寄生虫感染やI型アレルギー(気管支喘息、アトピー性皮膚炎など)で増加する。顆粒に含まれる主要塩基性蛋白(MBP)などが寄生虫を傷害する。 ・好塩基球:表面の高親和性IgE受容体にIgEが結合し、抗原で架橋されると脱顆粒してヒスタミンなどを放出し、即時型アレルギーを起こす。組織に存在する肥満細胞と性質が似る。 ・単球/マクロファージ:単球は血管外に出てマクロファージへ分化する。貪食に加え、抗原をT細胞に提示し、サイトカインを産生する。 ・リンパ球:B細胞(抗体産生=液性免疫)、T細胞(細胞性免疫、B細胞の補助)、NK細胞(ウイルス感染細胞・腫瘍細胞の傷害)に分かれる。
好中球機能異常症の例
・慢性肉芽腫症:NADPHオキシダーゼの欠損により活性酸素を作れず、貪食はできても殺菌できない。カタラーゼ陽性菌(黄色ブドウ球菌など)や真菌(アスペルギルス)の感染を反復する。 ・白血球接着不全症:接着分子(CD18など)の異常により好中球が血管外へ遊走できず、末梢血好中球は増加するが感染巣に膿が形成されにくい。 ・Chédiak-Higashi症候群:巨大顆粒を特徴とし、遊走能・殺菌能の低下と部分白皮症をきたす。
POINT
・分葉した核と淡染性の細胞質をもつ白血球=好中球。 ・好中球の二大機能は「遊走(走化性)」と「貪食・殺菌」で、自然免疫の担い手である。 ・抗体産生=B細胞・形質細胞、細胞性免疫=T細胞、ウイルス感染細胞の傷害=細胞傷害性T細胞・NK細胞と整理しておく。
