「何かが違う、不気味だ」―理由なく訪れる一次妄想・妄想気分を見抜く
第108回医師国家試験 F問題 第14問
国試問題にチャレンジ
家族から聴取した患者の言動のうち,一次妄想と考えられるのはどれか。
- a.「夜眠れるかいつも心配しています」
- b.「『自分の考えていることが抜き取られる』と言ってます」
- c.「『いつもとは何か違って不気味な感じがする』と言ってます」
- d.「『気が重くて,自分はつまらない人間だ』と嘆いてばかりです」
- e.「難しい哲学的な言葉が多くて,何を言いたいのかわかりません」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
一次妄想は、気分や状況などの心理的な契機から成り立ちをたどれない了解不能な妄想で、妄想気分・妄想知覚・妄想着想の3型があり、主に統合失調症でみられます。「いつもと何か違って不気味だ」という内容の定まらない緊迫感は妄想気分に当たり、統合失調症の発病初期にみられることが多い体験です。うつ病の抑うつ気分から生じる微小妄想は了解可能な二次妄想であり、思考奪取は自我障害、連合弛緩・滅裂思考は思考形式の異常として、それぞれ妄想とは区別します。思考の異常を内容・形式・体験に分け、妄想を了解可能性で一次と二次に分ける整理は、精神症状を正確に記述し、統合失調症の早期発見につなげるための基本となります。
解答・解説
正解はcです
テーマ
妄想の分類(一次妄想と二次妄想)と、それ以外の思考の異常(思考形式の異常・自我障害)を区別できるかを問う問題である。
妄想とは
妄想は、①内容が誤っている(現実と合わない)、②十分な根拠なしに強く確信されている、③反証や説得によっても訂正できない、という3つの特徴をもつ思考内容の異常である。
一次妄想と二次妄想
・一次妄想(真正妄想):心理的なきっかけなしに直接生じ、なぜその考えが生まれたのかを周囲が心理的にたどって理解できない(了解不能)妄想。ドイツの精神医学者ヤスパース(K. Jaspers)が整理した概念で、主に統合失調症でみられる。次の3型がある。 妄想気分:周囲の世界が何となく変わってしまい、不気味で、何か起こりそうな緊迫した感じを抱く。対象や内容はまだはっきりしない。 妄想知覚:実際に知覚したものに、本人にしかわからない特別な意味が確信をもって付与される(例:「赤い車を見た。自分は殺されるという合図だ」)。 妄想着想:知覚のきっかけなしに、ある考えが突然ひらめき、確信される(例:「自分は神の子だとふとわかった」)。 ・二次妄想(妄想様観念):気分・幻覚・状況などから、その発生が心理的に了解できる妄想。うつ病の抑うつ気分から生じる微小妄想(罪業・貧困・心気妄想)、躁病の爽快気分から生じる誇大妄想、幻聴から二次的に生じる被害妄想などが典型である。
解き方
選択肢を「そもそも妄想か」「妄想なら一次か二次か」「妄想でなく別の種類の思考の異常か」の順に整理する。「いつもと何か違って不気味な感じがする」は、内容が定まらないまま周囲の変容と不気味さを感じる体験であり、一次妄想の一型である妄想気分に当たる。
選択肢考察
- ×a. 「夜眠れるかいつも心配しています」
誤り。眠れるかどうかを気にするのは、不眠に悩む人に広くみられる予期不安であり、内容は現実にありうるもので不合理ではない。誤った内容の確信ではないため、妄想には当たらない。不眠症や不安障害などでみられる訴えである。
- ×b. 「『自分の考えていることが抜き取られる』と言ってます」
誤り。自分の考えが他者に抜き取られると体験するのは思考奪取(考想奪取)であり、自我障害(自分の思考や行為が自分のものだという感覚=自我意識の障害、思考体験の異常)に分類される。統合失調症に特徴的で、シュナイダーの一級症状にも含まれるが、妄想の分類上の一次妄想(妄想気分・妄想知覚・妄想着想)とは区別される。
- ○c. 「『いつもとは何か違って不気味な感じがする』と言ってます」
正しい。周囲の世界がいつもと違って感じられ、何となく不気味で意味ありげだが、具体的に何がどうなっているのかは定まらない、という体験は妄想気分である。心理的な契機から理解することができない了解不能な体験であり、妄想知覚・妄想着想とともに一次妄想に分類される。統合失調症の発病初期にみられることが多い。
- ×d. 「『気が重くて,自分はつまらない人間だ』と嘆いてばかりです」
誤り。「気が重い」は抑うつ気分、「自分はつまらない人間だ」は自己評価の低下(微小念慮)であり、うつ病でよくみられる訴えである。これが確信に至れば微小妄想となるが、落ち込んだ気分から心理的に導かれる内容で了解可能であるため、たとえ妄想であっても二次妄想に分類される。
- ×e. 「難しい哲学的な言葉が多くて,何を言いたいのかわかりません」
誤り。話の筋道がつながらず、何を言いたいのか伝わらないのは、思考の内容ではなく思考の進み方(思考形式・思考路)の異常であり、連合弛緩や、進行すれば滅裂思考(言葉のサラダ)にあたる。統合失調症でみられ、抽象的・哲学的な言葉を好んで用いる傾向を伴うこともある。妄想(思考内容の異常)とは区別される。
思考の異常の整理
・思考形式(思考路)の異常:考えの流れ・つながりの異常。観念奔逸(躁病:考えが次々に飛ぶ)、思考制止(うつ病:考えが進まない)、思考途絶(統合失調症:考えが突然止まる)、連合弛緩・滅裂思考(統合失調症)、迂遠(てんかん・認知症など:回りくどいが目的には達する)、保続など。 ・思考内容の異常:妄想、強迫観念、支配観念(優格観念)など。 ・思考体験の異常(自我障害):思考奪取、思考吹入(考えを吹き込まれる)、思考伝播(考えが他人に伝わる)、させられ体験(作為体験)など。
シュナイダーの一級症状(統合失調症に特徴的とされた症状)
考想化声、対話性幻聴、自分の行為を批評する幻聴、身体的被影響体験、思考奪取・思考吹入などの思考への干渉、考想伝播、妄想知覚、感情・衝動・意志の領域でのさせられ体験。妄想知覚は一次妄想でありながら一級症状にも含まれる点に注意する。
妄想の内容による分類と主な疾患
・被害妄想(被害・注察・関係・追跡・被毒妄想など):統合失調症、妄想性障害など。 ・微小妄想(罪業・貧困・心気妄想):うつ病。重症例では、自分の臓器がない、自分はすでに死んでいるといったコタール症候群に至ることもある。 ・誇大妄想(血統・発明・宗教妄想など):躁病、統合失調症、進行麻痺。 ・嫉妬妄想:アルコール使用障害など。 ・物盗られ妄想:アルツハイマー型認知症。
POINT
・一次妄想は了解不能な妄想で、妄想気分・妄想知覚・妄想着想の3型がある。 ・妄想気分:「何か違う、不気味だ」という、内容の定まらない緊迫感。統合失調症の初期に多い。 ・うつ病の微小妄想(罪業・貧困・心気)は気分から了解可能な二次妄想である。 ・思考奪取は自我障害(思考体験の異常)、滅裂思考・連合弛緩は思考形式の異常であり、いずれも妄想とは別に分類する。
