けいれんが止まっても終わらない―子癇の再発を防ぐ一手、硫酸マグネシウム
第108回医師国家試験 D問題 第35問
国試問題にチャレンジ
28歳の初妊婦。妊娠34週0日。妊婦健康診査で妊娠高血圧症候群と診断され入院中である。身長160 cm,体重62 kg。体温37.0℃。脈拍72/分,整。血圧154/106 mmHg。尿所見:蛋白3.5 g/日,糖(-)。内診所見で子宮口は1 cm開大,児頭下降度はSP -3 cmで未破水である。腹部超音波検査で胎児推定体重は1,980 g(-1.5 SD)で胎児形態異常は認めない。診察中に突然,強直性間代性けいれんを発症した。ジアゼパムの静注によって,けいれんは消失し意識も清明となった。帝王切開を決定しその準備を開始した。この時の胎児心拍数陣痛図を別に示す。 この時点で投与する薬剤として適切なのはどれか。

- a.ペンタゾシン
- b.硫酸マグネシウム
- c.炭酸水素ナトリウム
- d.ガベキサートメシル酸塩
- e.麦角アルカロイド(エルゴメトリン)
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
妊娠高血圧症候群の妊婦にほかに原因のないけいれんが起これば子癇と診断し、発作がジアゼパムなどでいったん止まっても再発しやすいため、再発予防の第一選択として硫酸マグネシウムを投与します。硫酸マグネシウムはジアゼパムやフェニトインより再発予防効果が高く、子宮収縮抑制作用もあり、根本治療である妊娠の終了(本例では帝王切開)の準備中から術後まで継続します。ペンタゾシンは抗けいれん作用がなく呼吸抑制の懸念があり、炭酸水素ナトリウムはルーチンには不要、ガベキサートはDICの所見がなければ適応がなく、麦角アルカロイドは児娩出前には禁忌です。投与中は膝蓋腱反射・呼吸数・尿量を監視し、中毒時にはグルコン酸カルシウムで拮抗するとともに、重症高血圧にはニカルジピンなどで降圧を行います。「けいれんを止める」と「再発を防ぐ」を分けて考える視点は、母体と胎児の両方を守る周産期救急の基本です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・28歳初妊婦、妊娠34週0日(早産期)。妊娠高血圧症候群で入院中である。 ・血圧154/106 mmHgと拡張期血圧が110 mmHgに近い高血圧があり、尿蛋白3.5 g/日の蛋白尿を伴う。妊娠20週以降に高血圧と蛋白尿を認めるので、病型は妊娠高血圧腎症である。 ・胎児推定体重は1,980 g(-1.5 SD)で、やや小さめであり、胎盤機能の低下が背景にあることがうかがえる。 ・子宮口1 cm開大、児頭はSP -3 cmと高く、未破水で、経腟分娩がすぐに進む状態ではない。 ・診察中に強直性間代性けいれんが出現し、ジアゼパム静注で消失、意識は回復した。妊娠高血圧症候群の妊婦に、ほかに原因のないけいれんが初めて起こったものであり、子癇と診断する。 ・胎児心拍数陣痛図(CTG)では、胎児心拍数基線が約180 bpmと頻脈(正常は110〜160 bpm)で、基線細変動は減少しており、一過性頻脈を認めない。下段の子宮収縮曲線では、数分ごとに子宮収縮が繰り返し出現している。子癇発作時の母体の低酸素や子宮収縮の亢進による胎児へのストレスを反映した所見であり、胎児の状態が良好とはいえない(胎児機能不全が疑われる)。
設問の考え方
子癇発作はいったん止まっても再発しやすく、再発を繰り返すと母体の脳出血・低酸素脳症や、胎盤早期剝離、胎児の低酸素症の危険が高まる。子癇の根本的な治療は妊娠の終了(児の娩出)であり、本例では帝王切開が決定されている。その準備の間、および術中・術後にわたって子癇の再発を防ぐ薬剤として第一選択となるのが硫酸マグネシウムである。ジアゼパムはけいれんを止める効果はあるが、再発予防効果は硫酸マグネシウムに劣り、母体・新生児の呼吸抑制も問題となるため、再発予防には硫酸マグネシウムを用いる。あわせて、重症高血圧(160/110 mmHg以上)が持続する場合にはニカルジピンやヒドララジンなどによる降圧を行い、脳出血を予防する。
選択肢考察
- ×a. ペンタゾシン
ペンタゾシンは非麻薬性のオピオイド鎮痛薬で、分娩時の鎮痛や術後疼痛などに用いられる。抗けいれん作用はなく、子癇の再発予防にはならない。さらに呼吸抑制を来しうるため、けいれん後の母体に使うとジアゼパムとの相乗で呼吸抑制を強め、胎盤を通過して胎児・新生児の呼吸抑制を起こすおそれもある。
- ○b. 硫酸マグネシウム
硫酸マグネシウムは子癇の再発予防および発症予防の第一選択薬であり、ジアゼパムやフェニトインよりも再発予防効果が高いことが大規模臨床試験で示されている。マグネシウムイオンは神経筋接合部でのアセチルコリン放出を抑え、中枢神経の興奮を抑制するほか、脳血管の攣縮を和らげる作用も考えられている。また子宮筋の収縮を抑える作用(子宮収縮抑制作用)もあり、本例のように子宮収縮がみられる状況にも適する。通常は初回量4 g程度を20分ほどかけて静注し、その後1〜2 g/時で持続投与し、分娩後も24時間程度継続する。帝王切開の準備中から投与を開始すべき薬剤である。
- ×c. 炭酸水素ナトリウム
炭酸水素ナトリウムは重度の代謝性アシドーシスの補正などに用いるアルカリ化剤である。けいれん直後には一時的に乳酸アシドーシスがみられることがあるが、けいれんが止まり呼吸・循環が保たれれば自然に改善するため、ルーチンに投与する必要はない。本例では意識も回復しており、子癇の再発予防には役立たない。
- ×d. ガベキサートメシル酸塩
ガベキサートメシル酸塩は合成タンパク分解酵素阻害薬で、播種性血管内凝固(DIC)や急性膵炎の治療に用いられる。妊娠高血圧症候群では常位胎盤早期剝離やHELLP症候群を合併してDICに至ることがあるが、本例では出血傾向や血小板減少などDICを示す所見は示されておらず、この時点で投与する理由はない。
- ×e. 麦角アルカロイド(エルゴメトリン)
エルゴメトリンなどの麦角アルカロイドは子宮筋を持続的に強く収縮させる子宮収縮薬で、胎盤娩出後の弛緩出血の予防・治療に用いる。児の娩出前に投与すると子宮の強直性収縮により胎児の低酸素を招くため禁忌である。また血管収縮作用により血圧を上昇させるので、妊娠高血圧症候群の患者では分娩後であっても慎重な使用が求められる。
妊娠高血圧症候群(HDP)の病型(日本産科婦人科学会 2018年改訂)
・妊娠高血圧腎症:妊娠20週以降に初めて高血圧を発症し、蛋白尿を伴うもの。蛋白尿がなくても、肝機能障害、腎機能障害、神経障害(子癇・視覚障害など)、血液凝固障害、子宮胎盤機能不全(胎児発育不全など)のいずれかを伴えば含まれる。 ・妊娠高血圧:妊娠20週以降に高血圧を発症し、上記の臓器障害を伴わないもの。 ・加重型妊娠高血圧腎症:妊娠前・妊娠20週までに高血圧や腎疾患があり、その後に増悪・臓器障害を来したもの。 ・高血圧合併妊娠。 重症は、収縮期160 mmHg以上または拡張期110 mmHg以上の高血圧、あるいは臓器障害(母体の臓器障害や子宮胎盤機能不全)を伴う場合と定義される。かつては蛋白尿2 g/日以上も重症の基準とされていたが、改訂により蛋白量は重症度の判定に用いないことになった。
子癇
妊娠20週以降に初めてけいれん発作を起こし、てんかんや脳出血など他の原因によらないもの。発症時期により妊娠子癇・分娩子癇・産褥子癇に分けられる。脳血管の自動調節能の破綻による血管性浮腫(可逆性後頭葉白質脳症〈PRES〉)が主な病態と考えられている。前兆として頭痛、視覚異常(眼華閃発)、上腹部痛などがみられることがある。
子癇発作時の対応の流れ
①気道確保・酸素投与、側臥位(誤嚥と仰臥位低血圧の防止)、外傷の防止 ②けいれんの停止:硫酸マグネシウム静注(ジアゼパムなどを用いることもある) ③再発予防:硫酸マグネシウム持続静注 ④降圧:重症高血圧にはニカルジピン、ヒドララジン、ラベタロールなどの静注。ACE阻害薬・ARBは胎児の腎障害などを起こすため妊娠中は禁忌である。 ⑤頭部CT・MRIで脳出血などを除外 ⑥母体の状態が安定したら、妊娠の終了(多くは帝王切開)
硫酸マグネシウムの管理
・治療域の血中マグネシウム濃度はおおむね4〜8 mg/dL程度である。 ・過量になると、膝蓋腱反射の消失(最初に現れる中毒徴候)、呼吸抑制、さらに心停止を来す。投与中は膝蓋腱反射、呼吸数、尿量(腎排泄のため乏尿で蓄積しやすい)を監視する。 ・中毒時の拮抗薬はグルコン酸カルシウムの静注である。 ・胎盤を通過するため、新生児の筋緊張低下や呼吸抑制に注意する。一方で、早産児の脳性麻痺の発症を減らす効果(胎児脳保護作用)も知られている。
POINT
・妊娠高血圧症候群の妊婦に起こった、ほかに原因のないけいれん → 子癇。 ・子癇の再発予防・発症予防の第一選択は硫酸マグネシウム(子宮収縮抑制作用もある)。 ・硫酸マグネシウム中毒の最初の徴候は膝蓋腱反射の消失、拮抗薬はグルコン酸カルシウム。 ・子癇の根本治療は妊娠の終了。母体の状態を安定させてから娩出する。 ・麦角アルカロイドは児娩出前は禁忌、高血圧の妊産婦にも慎重に。ACE阻害薬・ARBは妊娠中禁忌。
