若い女性の急な高血圧、その陰に「数珠」あり―線維筋性異形成による腎血管性高血圧
第108回医師国家試験 D問題 第28問
国試問題にチャレンジ
33歳の女性。2か月前の健康診断で高血圧を指摘され来院した。1年前の健康診断時は正常血圧であった。既往歴と家族歴とに特記すべきことはない。脈拍76/分,整。血圧180/110 mmHg。尿所見:蛋白(-),糖(-),潜血(-)。血液所見:赤血球455万,Hb 12.8 g/dL,Ht 38%,白血球5,800。血液生化学所見:総蛋白6.7 g/dL,アルブミン4.3 g/dL,尿素窒素14 mg/dL,クレアチニン0.8 mg/dL,総コレステロール208 mg/dL,Na 143 mEq/L,K 3.6 mEq/L,Cl 102 mEq/L,ACTH 14.4 pg/mL(基準60以下),コルチゾール8.3 μg/dL(基準5.2~12.6),アルドステロン15 ng/dL(基準5~10),血漿レニン活性51 ng/mL/時間(基準1.2~2.5)。CRP 0.2 mg/dL。腹部大動脈造影像(A)と左腎動脈造影像(B)とを別に示す。 この病態について正しいのはどれか。

- a.粥状硬化が原因となる。
- b.好酸球増多症がみられる。
- c.経皮的血管形成術の適応となる。
- d.尿中カリウム排泄が低下している。
- e.アンジオテンシン変換酵素〈ACE〉阻害薬投与でレニンは低下する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
若年発症・急な発症・高度の高血圧は二次性高血圧を疑う手がかりであり、高レニン・高アルドステロン(続発性アルドステロン症)の組み合わせは腎血管性高血圧を示唆します。危険因子のない若年女性で炎症所見がなく、腎動脈の中〜遠位部に数珠状(string of beads)の狭窄を認める場合は、非動脈硬化性・非炎症性の線維筋性異形成が原因と考えられ、中高年の粥状硬化や炎症を伴う高安動脈炎と区別します。治療は経皮的腎動脈形成術(原則バルーン拡張のみ)が第一選択で、高血圧の治癒や大幅な改善が期待できます。アルドステロン過剰では尿中K排泄が増加し、ACE阻害薬はアンジオテンシンⅡによる負のフィードバックを外すためレニンを上昇させること、両側腎動脈狭窄ではACE阻害薬・ARBが原則禁忌であることも重要です。レニン・アルドステロンのパターンから二次性高血圧を整理する視点は、「治せる高血圧」を見逃さないための基本となります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・33歳女性。1年前は正常血圧だったが、短期間で180/110 mmHg(Ⅲ度高血圧:収縮期180以上または拡張期110以上)に達している。若年での発症、急な発症、高度の高血圧は、いずれも二次性高血圧(原因となる疾患がある高血圧)を疑う手がかりである。 ・尿蛋白・潜血は陰性、クレアチニン0.8 mg/dLで、腎実質性高血圧(慢性糸球体腎炎など)は考えにくい。 ・ACTH・コルチゾールは基準範囲内で、Cushing症候群を示す所見はない。 ・血漿レニン活性51 ng/mL/時間と著明に上昇し、アルドステロン15 ng/dLも上昇している。K 3.6 mEq/Lは基準範囲の下限付近である。 ・CRP 0.2 mg/dLで、全身性の炎症所見に乏しい。
診断のプロセス
アルドステロンが高い場合、まずレニンとの関係をみる。原発性アルドステロン症ではアルドステロンが自律的に過剰分泌されるため、レニンは抑制されて低値になる。本例はレニンが著明に高く、それに引きずられてアルドステロンが上昇している(続発性アルドステロン症)。高レニン性の高血圧の代表は腎血管性高血圧であり、腎動脈狭窄で腎血流が低下すると、傍糸球体装置が「血圧が低い」と感知してレニンを過剰に分泌し、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAA)系が亢進して高血圧となる。 腹部大動脈造影と左腎動脈造影では、左腎動脈に狭窄病変を認め、腎血管性高血圧と診断できる。腎動脈狭窄の原因は主に、粥状動脈硬化(中高年・男性、喫煙・脂質異常症・糖尿病など危険因子をもつ人、腎動脈起始部)、線維筋性異形成(若年〜中年女性、腎動脈の中〜遠位部)、高安動脈炎(若年女性、炎症反応上昇、大動脈やその主要分枝の病変)の三つである。本例は動脈硬化の危険因子のない若年女性で、CRPは正常、大動脈自体に病変を認めないことから、線維筋性異形成(FMD)による腎血管性高血圧と考えられる。
設問の考え方
線維筋性異形成の病因、腎血管性高血圧の検査所見(RAA系亢進とその帰結)、治療方針、RAA系阻害薬投与時のホルモン変化を、それぞれ正しく理解しているかが問われている。
選択肢考察
- ×a. 粥状硬化が原因となる。
線維筋性異形成は、動脈壁(主に中膜)の線維組織や平滑筋が異常に増生・配列異常を起こす、非動脈硬化性・非炎症性の血管疾患である。原因は明らかでなく、遺伝的素因、女性ホルモン、喫煙などの関与が推定されている。粥状硬化による腎動脈狭窄は高齢者や動脈硬化の危険因子をもつ人に多く、腎動脈の起始部に好発する点で、本例とは異なる。
- ×b. 好酸球増多症がみられる。
線維筋性異形成はアレルギーや血管炎とは関係せず、好酸球増多はみられない。好酸球増多を伴う血管病変としては、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)や、動脈硬化の強い高齢者でカテーテル操作後などに生じるコレステロール塞栓症が知られるが、本例の臨床像や造影所見はこれらに合致しない。
- ○c. 経皮的血管形成術の適応となる。
線維筋性異形成による腎動脈狭窄は、経皮的腎動脈形成術(PTRA:カテーテルの先端のバルーンで狭窄部を内側から拡張する治療)のよい適応であり、治療の第一選択である。粥状硬化性狭窄と異なりバルーン拡張のみで良好な開存が得られることが多く、原則としてステント留置は要しない。若年で高血圧の罹病期間が短い本例のような患者では、血行再建によって高血圧の治癒や大幅な改善が期待できる。PTRAが困難な病変(分枝に及ぶ病変、動脈瘤合併など)では外科的血行再建が選択される。
- ×d. 尿中カリウム排泄が低下している。
腎血管性高血圧ではRAA系が亢進し、アルドステロンが増加している。アルドステロンは集合管でNaの再吸収とKの分泌を促進するため、尿中K排泄はむしろ増加する。本例の血清Kが3.6 mEq/Lと基準下限付近であるのもそのためであり、症例によっては低K血症を呈する。
- ×e. アンジオテンシン変換酵素〈ACE〉阻害薬投与でレニンは低下する。
アンジオテンシンⅡには、傍糸球体細胞からのレニン分泌を抑える負のフィードバック作用がある。ACE阻害薬でアンジオテンシンⅡの産生を抑えると、このフィードバックが外れるため、レニン(血漿レニン活性)はむしろ上昇する。一方、アルドステロンは低下する。なお、ACE阻害薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)は腎血管性高血圧の降圧に有効だが、両側腎動脈狭窄や単腎の腎動脈狭窄では糸球体濾過量が急激に低下して腎機能が悪化するおそれがあり、原則禁忌である。
線維筋性異形成(FMD)の概要
・中小の筋型動脈に生じる、非動脈硬化性・非炎症性の血管疾患である。腎動脈に最も多く、次いで内頸動脈・椎骨動脈に多い。複数の血管に病変をもつこともある。 ・若年〜中年の女性に多い。 ・病理学的には中膜型(medial fibroplasia)が大部分を占め、血管造影で狭窄と拡張が交互に並ぶ「数珠状(string of beads)」の所見を呈する。腎動脈の中〜遠位部に好発する。 ・治療は経皮的腎動脈形成術(バルーン拡張)が第一選択で、再狭窄は少ないが経過観察を要する。
腎血管性高血圧の特徴
・腎動脈狭窄による腎灌流低下 → レニン分泌亢進 → アンジオテンシンⅡ・アルドステロン増加 → 血管収縮とNa貯留による高血圧(高レニン・高アルドステロン)。 ・臨床的な手がかり:若年発症や急な発症・急な増悪、治療抵抗性の高血圧、腹部(臍周囲〜側腹部)の血管雑音、低K血症、ACE阻害薬・ARB投与後の急な腎機能悪化、腎サイズの左右差(1.5 cm以上)。 ・検査:腎動脈超音波(狭窄部の血流速度上昇)、CT血管造影(CTA)、MR血管造影(MRA)でスクリーニングし、確定と治療は血管造影で行う。レノグラムでのカプトプリル負荷試験なども用いられる。
腎動脈狭窄の原因別比較
・粥状動脈硬化:高齢者・男性、危険因子あり、腎動脈起始部。血行再建の有効性は限定的で、薬物療法が基本となることが多い。 ・線維筋性異形成:若年〜中年女性、腎動脈中〜遠位部、数珠状。PTRA(ステントなし)が第一選択。 ・高安動脈炎(大動脈炎症候群):若年女性、発熱・CRP上昇・赤沈亢進などの炎症所見、大動脈や弓部分枝の病変、脈拍の左右差。まずステロイドなどで炎症を鎮める。
二次性高血圧のレニン・アルドステロンによる整理
・高レニン・高アルドステロン:腎血管性高血圧、レニン産生腫瘍、悪性高血圧。 ・低レニン・高アルドステロン:原発性アルドステロン症。 ・低レニン・低アルドステロン:Cushing症候群、偽性アルドステロン症(甘草)、Liddle症候群、アルドステロン以外の鉱質コルチコイド過剰など。
POINT
・若年女性の急な高血圧+高レニン・高アルドステロン → 腎血管性高血圧、原因として線維筋性異形成を考える。 ・線維筋性異形成は非動脈硬化性・非炎症性で、造影で数珠状(string of beads)を示す。 ・治療は経皮的腎動脈形成術(バルーン拡張)が第一選択。 ・アルドステロン増加 → 尿中K排泄増加(低K傾向)。 ・ACE阻害薬はアンジオテンシンⅡによる負のフィードバックを外すためレニンが上昇する。両側腎動脈狭窄ではACE阻害薬・ARBは原則禁忌。
