StudyMed医師国家試験

血液の源流をたどる―造血幹細胞は「最初から骨髄」にいたわけではない

第108回医師国家試験 B問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第108回 B問題 第7問

ヒト造血幹細胞について誤っているのはどれか。

  1. a.多分化能を有する。
  2. b.自己複製能を有する。
  3. c.胎生期初期は骨髄に存在する。
  4. d.細胞表面抗原はCD34陽性である。
  5. e.G-CSFの投与により末梢血中に増加する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、ヒト造血幹細胞の基本的な性質を問う問題だ。「誤っているのはどれか」の形式なので、幹細胞の定義、造血の場の変遷、表面マーカー、動員という4つの視点で各記述を確認していこう。まず、幹細胞であるための条件は何だったかな。
医学生医学生
いろいろな細胞に分化できることと、自分自身を増やせること、でしょうか。
ドクタードクター
その通り。多分化能と自己複製能の2つだね。造血幹細胞は、赤血球・顆粒球・単球・巨核球といった骨髄系から、T細胞・B細胞・NK細胞などのリンパ系まで、すべての血球系統に分化できる。骨髄移植で患者さんの造血系全体が置き換わるのは、この多分化能のおかげなんだ。
医学生医学生
自己複製能のほうは、分裂しても幹細胞が減らないという意味ですよね。
ドクタードクター
そう。分裂後も少なくとも一方の娘細胞が幹細胞の性質を保つから、幹細胞のプールが一生枯渇しない。ちなみに、分化能はあっても自己複製能を持たない細胞は前駆細胞と呼ばれて、幹細胞とは区別される。この2つの記述はどちらも正しいね。
医学生医学生
胎生期初期は骨髄に存在する、というのも自然に読めてしまいました。血液を作るのは骨髄というイメージが強くて。
ドクタードクター
そこが今回の落とし穴で、これが誤りの記述、つまり正解だ。発生学の講義を思い出してほしい。胎生初期にはまだ骨髄は形成されていないよね。
医学生医学生
そういえば、最初は卵黄嚢の血島で血液ができると習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。胎生3週ごろに卵黄嚢の血島で、主に原始赤血球をつくる一次造血が始まる。続いて胎児本体のAGM領域、つまり大動脈・生殖腺・中腎の領域で成体型の造血幹細胞が生じて、それが胎児肝臓へ移り、胎生中期の造血の中心になる。脾臓も一時的に関与する。骨髄が主座になるのは胎生後期で、出生後は骨髄だけが正常な造血の場になるんだ。
医学生医学生
卵黄嚢、AGM、肝臓・脾臓、骨髄の順ですね。CD34陽性というのは正しいですか。
ドクタードクター
正しい。CD34は造血幹細胞や未熟な前駆細胞に発現する表面糖タンパクで、分化が進むと消えていく。臨床では移植片中のCD34陽性細胞数をフローサイトメトリーで測って、幹細胞量の目安にしている。より厳密にはCD34陽性・CD38陰性・Lin陰性の分画に幹細胞が濃縮されるよ。
医学生医学生
血液内科の実習で、ドナーさんにG-CSFを打って末梢血から幹細胞を採取すると聞きました。
ドクタードクター
それが最後の記述の内容で、これも正しい。普段、造血幹細胞は骨髄のニッチにCXCL12とCXCR4の相互作用などでつなぎとめられていて、末梢血にはごくわずかしかいない。G-CSFを投与すると好中球系細胞が増え、放出されるプロテアーゼなどで係留が弱まり、幹細胞が末梢血へ出てくる。これを動員と呼び、アフェレーシスで集めるのが末梢血幹細胞移植だ。動員が不十分なときはCXCR4拮抗薬のプレリキサホルを併用する。
医学生医学生
胎生期の造血の場を知っていると、病気の理解にもつながりそうですね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。たとえば骨髄線維症で骨髄造血が障害されると、胎生期の造血部位だった肝臓や脾臓で造血が再開することがある。これが髄外造血で、著明な脾腫の原因になる。成人の正常造血は椎骨、胸骨、肋骨、骨盤など体幹骨の赤色髄が中心で、四肢の長管骨は加齢とともに脂肪髄に置き換わることも押さえておこう。
医学生医学生
骨髄穿刺で胸骨や腸骨を選ぶのもそのためなんですね。移植の種類も整理しておきたいです。
ドクタードクター
造血幹細胞移植には、全身麻酔下に腸骨から骨髄液を採る骨髄移植、G-CSFで動員して採る末梢血幹細胞移植、臍帯血移植がある。臍帯血はHLA不適合をある程度許容できるけれど、細胞数が少なく生着に時間がかかりやすい。幹細胞の性質が、そのまま移植医療の仕組みにつながっているんだ。

まとめ

造血幹細胞は、すべての血球系統へ分化できる多分化能と、分裂後も幹細胞性を保つ自己複製能を併せ持つ細胞で、ヒトではCD34陽性が代表的なマーカーです。胎生期の造血の場は卵黄嚢(胎生3週ごろ)→AGM領域→肝臓(脾臓)→骨髄と移り変わり、骨髄が主座となるのは胎生後期であるため、胎生期初期に骨髄に存在するという記述は誤りです。G-CSFの投与で幹細胞は骨髄ニッチから末梢血へ動員され、アフェレーシスで採取して末梢血幹細胞移植に用いられ、移植片のCD34陽性細胞数が幹細胞量の指標となります。骨髄線維症などで骨髄造血が障害されると胎生期の造血部位である肝臓・脾臓で髄外造血が起こることもあり、発生の知識は病態理解に直結します。幹細胞の基本的性質を押さえることは、造血幹細胞移植をはじめとする血液診療を理解する土台になります。

解答・解説

正解はcです

造血幹細胞(hematopoietic stem cell:HSC)の基本的な性質を問う問題である。「誤っているのはどれか」という形式なので、記述内容が事実と異なる選択肢を一つ選ぶ。 確認すべき要点は次の4つである。 1) 幹細胞の定義:「多分化能」と「自己複製能」を併せ持つ細胞である。 2) 造血の場の変遷:胎生期の造血は卵黄嚢から始まり、AGM領域、肝臓(および脾臓)を経て、最終的に骨髄へ移る。骨髄が造血の主座になるのは胎生中期以降である。 3) 表面マーカー:ヒト造血幹細胞はCD34陽性で、臨床ではCD34陽性細胞数が幹細胞量の指標として使われる。 4) 動員(mobilization):G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)の投与で幹細胞が骨髄から末梢血に出てくるため、これを採取して末梢血幹細胞移植に利用する。 このうち造血の場の変遷に関する知識と合わない記述が誤りとなる。

選択肢考察

  1. ×a.  多分化能を有する。

    記述は正しい。造血幹細胞は、赤血球・顆粒球・単球・巨核球(血小板)などの骨髄系と、T細胞・B細胞・NK細胞などのリンパ系の、すべての血球系統に分化できる。この「複数系統へ分化できる能力」が多分化能であり、自己複製能と並んで幹細胞であるための必須条件である。骨髄移植で患者の造血系全体が置き換わるのはこの性質による。

  2. ×b.  自己複製能を有する。

    記述は正しい。造血幹細胞は分裂した後も、少なくとも一方の娘細胞が幹細胞としての性質(未分化性と多分化能)を保つ。これを自己複製能という。この能力によって幹細胞のプールは生涯にわたって枯渇せず、一生血球を作り続けることができる。多分化能だけで自己複製能がない細胞は前駆細胞(progenitor)とよばれ、幹細胞とは区別される。

  3. ○c.  胎生期初期は骨髄に存在する。

    記述が誤っているため、これが正解である。胎生期初期には骨髄はまだ形成されておらず、造血は胎生3週ごろに卵黄嚢の血島で始まる(主に原始赤血球をつくる一次造血)。続いて胎児本体のAGM(aorta-gonad-mesonephros:大動脈・生殖腺・中腎)領域で成体型の造血幹細胞が生じ、これが胎児肝臓へ移って胎生中期の主な造血の場となる(脾臓も一時的に関与する)。骨髄での造血はその後に始まり、胎生後期に主座が骨髄へ移って出生後は骨髄が唯一の正常造血部位となる。したがって「胎生期初期に骨髄に存在する」は誤りである。

  4. ×d.  細胞表面抗原はCD34陽性である。

    記述は正しい。CD34は造血幹細胞や未熟な前駆細胞に発現する細胞表面の糖タンパクで、分化が進むと発現が失われる。臨床では、移植片に含まれるCD34陽性細胞数をフローサイトメトリーで測定して、幹細胞量の目安にしている。なお、より厳密にはヒト造血幹細胞はCD34陽性・CD38陰性・各系統マーカー陰性(Lin陰性)の分画に濃縮される。

  5. ×e.  G-CSFの投与により末梢血中に増加する。

    記述は正しい。定常状態では造血幹細胞は骨髄内の微小環境(ニッチ)に、CXCL12(SDF-1)とその受容体CXCR4などの相互作用によってつなぎとめられており、末梢血中にはごく少数しかいない。G-CSFを投与すると骨髄内で好中球系細胞が増え、放出されるプロテアーゼなどによってこの係留が弱まり、幹細胞が末梢血中へ多数出てくる(動員)。これをアフェレーシス(成分採血)で集めて移植するのが末梢血幹細胞移植である。動員が不十分な場合には、CXCR4拮抗薬のプレリキサホルが併用される。

造血の場の変遷

・卵黄嚢(胎生3週ごろ〜):血島で原始赤血球を中心とする一次造血が行われる。 ・AGM領域(胎生4〜5週ごろ):胎児本体で成体型(二次造血)の造血幹細胞が最初に生じる部位とされる。 ・肝臓(胎生6週ごろ〜):胎生中期の造血の中心。脾臓も一時的に造血に関与する。 ・骨髄(胎生後期〜出生後):胎生後期に造血の主座となり、出生後は骨髄のみで正常造血が行われる。 ・成人では造血は主に体幹骨(椎骨、胸骨、肋骨、骨盤など)の赤色髄で行われ、四肢の長管骨は加齢とともに脂肪髄に置き換わる。骨髄線維症などで骨髄造血が障害されると、胎生期の造血部位である肝臓や脾臓で造血が再開することがあり(髄外造血)、肝脾腫の原因となる。

造血幹細胞の性質

・多分化能と自己複製能を併せ持つ。 ・通常は大部分が細胞周期の休止期(G0期)にとどまり、必要に応じて増殖・分化する。 ・ヒトではCD34陽性、CD38陰性、Lin陰性の分画に含まれる。

造血幹細胞移植の種類

・骨髄移植:全身麻酔下に腸骨から骨髄液を採取する。 ・末梢血幹細胞移植:G-CSF(必要に応じてプレリキサホル)で動員した幹細胞をアフェレーシスで採取する。自家移植と同種移植の両方で広く用いられる。 ・臍帯血移植:臍帯血中の幹細胞を用いる。HLA不適合をある程度許容できるが、細胞数が少なく生着に時間がかかりやすい。

POINT

・幹細胞の条件は「多分化能」と「自己複製能」の両方をもつこと。 ・胎生期の造血の場は、卵黄嚢 → AGM領域 → 肝臓(脾臓)→ 骨髄の順に移る。胎生期初期に骨髄造血はない。 ・ヒト造血幹細胞のマーカーはCD34陽性。移植ではCD34陽性細胞数が幹細胞量の指標になる。 ・G-CSFで幹細胞を末梢血へ動員し、末梢血幹細胞移植に用いる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。