StudyMed医師国家試験

600人のうち何人が「タバコのせい」?―相対危険度5倍から集団寄与危険を読み解く

第108回医師国家試験 B問題 第40問

国試問題にチャレンジ

第108回 B問題 第40問

ある地域における成人男性の肺癌罹患数は1年間に600名である。この地域の成人男性の喫煙率は50%で,喫煙による肺癌罹患の相対危険度は5倍である。  この地域の成人男性において喫煙により増加したと考えられる肺癌の罹患数はどれか。

  1. a.200
  2. b.250
  3. c.300
  4. d.400
  5. e.480

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は疫学の計算問題だ。テーマは「集団全体の患者のうち、喫煙がなければ生じなかった分はどれだけか」。つまり集団寄与危険の考え方だね。注目してほしいのは、喫煙率と相対危険度という2つの数字をどう組み合わせるかだ。まず直感でいいから、どう計算しようと思った?
医学生医学生
喫煙率が50%なので、600人の半分の300人が喫煙のせい……と一瞬思ったんですが、それだと相対危険度を使っていないですよね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。実はその300人という計算には誤りが2つ含まれている。1つ目は、喫煙者のほうが罹患率が高いから、患者の半分が喫煙者になるわけではないこと。2つ目は、喫煙者の患者でも全員が喫煙のせいで発症したわけではないことだ。喫煙しなくても一定の割合で肺癌にはなるからね。
医学生医学生
なるほど、二重に間違っていたんですね。じゃあどう考えればいいんでしょうか。
ドクタードクター
迷ったら文字を置いて具体的に計算するのが一番確実だ。成人男性の人数をN、非喫煙者の1年間の罹患率をrとしよう。喫煙者は0.5N人で罹患率は5r、非喫煙者は0.5N人で罹患率はrになる。罹患数を足すとどうなる?
医学生医学生
喫煙者が0.5N×5rで2.5Nr、非喫煙者が0.5Nrなので、合計3Nr=600。だからNrは200です。
ドクタードクター
そう。すると喫煙者の患者は500人、非喫煙者の患者は100人になる。ここで、喫煙者0.5N人がもしタバコを吸っていなかったら、罹患数は何人だったと思う?
医学生医学生
罹患率がrになるので、0.5Nrで100人……。実際は500人だから、差の400人が喫煙で増えた分ですね!
ドクタードクター
正解。別の見方をすると、誰も吸っていなければ集団全体の罹患数はNr=200人で、実際の600人との差が400人、と考えても同じだ。ちなみに200人という数字は「喫煙がなくても生じる罹患数」だから、増加分と取り違えないように。
医学生医学生
公衆衛生の講義でLevinの式というのを習った気がします。それでも解けますか。
ドクタードクター
解けるよ。曝露率をp、相対危険度をRRとすると、集団寄与危険割合はp(RR-1)/{1+p(RR-1)}。ここに0.5と5を入れると2/{1+2}で3分の2になる。600人に3分の2を掛ければ400人だ。
医学生医学生
式を覚えていれば速いですね。でも、(RR-1)/RRという式もあった気がして、それだと4/5で480人になってしまいます。
ドクタードクター
そこが典型的なひっかけなんだ。(RR-1)/RRは曝露群の寄与危険割合、つまり「喫煙者の患者のうち喫煙が原因の割合」だ。だから掛けるべきは喫煙者の患者500人で、500×0.8=400人。集団全体の600人に掛けると、非喫煙者の患者まで喫煙のせいにしてしまうことになる。
医学生医学生
どの集団に対する割合なのかを意識しないといけないんですね。CBTのときは式の丸暗記で乗り切っていたので、ちょっと反省です。
ドクタードクター
式は便利だけど、分母が何かを理解していればひっかからない。最後に指標を整理しておこう。相対危険は曝露群と非曝露群の罹患率の比で、個人にとってのリスクの大きさ、病因としての強さを表す。寄与危険はその差で、曝露によって曝露群で増えた罹患率だ。そして集団寄与危険は、曝露の頻度まで反映して「集団から曝露を完全になくせば理論上どれだけ減らせるか」を示す。
医学生医学生
相対危険が大きくても、曝露する人がほとんどいなければ、集団全体への影響は小さいということですか。
ドクタードクター
その通り。逆に喫煙のように相対危険が中等度でも曝露率が高い要因は、集団寄与危険が大きくなる。だから公衆衛生の政策では、どの対策を優先するかを決める指標として集団寄与危険が重視されるんだ。禁煙対策が重視される理由の一つもそこにある。ただし、あくまで因果関係を前提にした理論上の値である点は頭に置いておこう。
医学生医学生
臨床実習の外来で禁煙指導を見学したとき、患者さん一人の話だと思っていましたが、集団でみるとこんなに大きな数字になるんですね。
ドクタードクター
個人のリスクと集団へのインパクトを分けて考えられると、疫学の数字がぐっと身近になるよ。

まとめ

集団全体の罹患のうち曝露によって増えた分は集団寄与危険で表され、曝露率p、相対危険度RRから集団寄与危険割合p(RR-1)/{1+p(RR-1)}で求められます。喫煙率50%、RR5なら割合は3分の2で、600人×2/3=400人が喫煙による増加分です。人数Nと非曝露群の罹患率rを置いて、喫煙者500人と「喫煙しなかった場合」の100人を比較しても同じ答えになります。曝露群の寄与危険割合(RR-1)/RRを集団全体に掛ける誤りや、喫煙率をそのまま掛ける誤りに注意が必要です。相対危険が病因としての強さを示すのに対し、集団寄与危険は曝露の頻度も反映し、予防対策の優先度を判断する公衆衛生上の重要な指標となります。

解答・解説

正解はdです

本問は、集団全体で観察された肺癌罹患のうち、喫煙によって余分に生じた(喫煙がなければ生じなかった)罹患数を求める問題である。これは集団寄与危険(population attributable risk)の考え方にあたる。

解法1:人数を置いて具体的に計算する

地域の成人男性の人数をN、非喫煙者の肺癌罹患率(1年間)をrとおく。 ・喫煙率50%より、喫煙者0.5N人、非喫煙者0.5N人 ・相対危険度5より、喫煙者の罹患率は5r ・喫煙者の罹患数=0.5N×5r=2.5Nr、非喫煙者の罹患数=0.5N×r=0.5Nr ・合計が600名なので、2.5Nr+0.5Nr=3Nr=600、よってNr=200 ・喫煙者の罹患数は2.5×200=500名、非喫煙者の罹患数は0.5×200=100名 喫煙者0.5N人が仮に喫煙していなかったとすると、その罹患率はrとなり罹患数は0.5Nr=100名にとどまったはずである。したがって、喫煙によって増加した罹患数は500-100=400名となる。 (見方を変えると、誰も喫煙していなければ集団全体の罹患数はNr=200名であり、実際の600名との差400名が喫煙による増加分である。)

解法2:集団寄与危険割合(PAF)を用いる

集団寄与危険割合は、集団全体の罹患のうち曝露(喫煙)に起因する割合であり、曝露率をp、相対危険度をRRとすると、次の式(Levinの式)で求められる。 PAF=p(RR-1)/{1+p(RR-1)} 本問ではp=0.5、RR=5なので、 PAF=0.5×4/(1+0.5×4)=2/3 集団全体の罹患数600名に掛けると、600×2/3=400名となる。 罹患率を用いて確認すると、非喫煙者の罹患率をyとして集団全体の罹患率は0.5×5y+0.5×y=3yであり、PAF=(3y-y)/3y=2/3と同じ結果が得られる。

選択肢考察

  1. ×a.  200

    200名は、仮に集団の誰も喫煙していなかった場合に予想される肺癌罹患数(非喫煙者の罹患率を集団全体に当てはめた数)である。喫煙がなくても生じる罹患数であり、喫煙によって増加した数ではない。

  2. ×b.  250

    喫煙率50%、相対危険度5の条件から正しく計算すると、喫煙者の罹患数は500名、喫煙者が喫煙しなかった場合の罹患数は100名であり、喫煙による増加分は400名となる。250名という値は計算上得られない。

  3. ×c.  300

    全罹患数600名に喫煙率50%を単純に掛けた値である。喫煙者の方が罹患率が高いため、罹患者の半数が喫煙者になるわけではない(実際には600名中500名が喫煙者)。また、喫煙者の罹患のすべてが喫煙によるものでもないため、この計算は二重に誤っている。

  4. ○d.  400

    非喫煙者の罹患率をrとすると、喫煙者の罹患数は500名、喫煙者が喫煙しなかった場合に予想される罹患数は100名である。その差400名が喫煙によって増加した罹患数となる。集団寄与危険割合2/3を全罹患数600名に掛けても400名が得られる。

  5. ×e.  480

    曝露群(喫煙者)における寄与危険割合(RR-1)/RR=4/5=0.8を、集団全体の罹患数600名に掛けた値である。この割合は喫煙者の罹患に対してのみ適用できるものであり、非喫煙者の罹患を含む集団全体には使えない。喫煙者の罹患数500名に0.8を掛ければ、正しく400名が得られる。

疫学で用いるリスク指標の整理

曝露群の罹患率をIe、非曝露群の罹患率をIu、集団全体の罹患率をIpとする。 ・相対危険(RR)=Ie/Iu:曝露が罹患リスクを何倍にするか。因果関係の強さの指標。 ・寄与危険(AR、リスク差)=Ie-Iu:曝露によって曝露群で増えた罹患率。 ・寄与危険割合(曝露群)=(Ie-Iu)/Ie=(RR-1)/RR:曝露群の罹患のうち曝露による割合。 ・集団寄与危険=Ip-Iu:集団全体で曝露によって増えた罹患率。 ・集団寄与危険割合(PAF)=(Ip-Iu)/Ip=p(RR-1)/{1+p(RR-1)}:集団全体の罹患のうち曝露による割合。曝露を集団から完全に除けば理論上どれだけ罹患を減らせるかを示す。

公衆衛生上の意味

相対危険は個人にとってのリスクの大きさ(病因としての強さ)を示すのに対し、集団寄与危険(割合)は曝露の頻度も反映するため、集団に対する予防対策の優先度を判断する指標として重要である。相対危険が中等度でも曝露率が高い要因(喫煙など)は、集団寄与危険が大きくなる。

罹患率

罹患率は、一定期間内に新たに発生した患者数を、その期間の観察対象となった人口(または観察人年)で割ったものである。本問では人口が不明でも、比の関係だけで答えが求められる。

POINT

・集団寄与危険割合(PAF)=p(RR-1)/{1+p(RR-1)}(p:曝露率、RR:相対危険) ・喫煙率50%、RR=5ならPAF=2/3、600×2/3=400名 ・曝露群の寄与危険割合(RR-1)/RRを集団全体に掛けるのは誤り ・迷ったら人数と罹患率を文字で置き、「曝露がなかった場合」と比較して差を求める

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。