新生児の緑色の嘔吐と血便―中腸軸捻転は時間との勝負
第107回医師国家試験 I問題 第60問
国試問題にチャレンジ
生後15日の新生児。昨夜からの胆汁性嘔吐と血便とを主訴に来院した。上部消化管造影像を別に示す。 この患児について正しいのはどれか。

- a.腹部に腫瘤を触知する。
- b.緊急手術が必要である。
- c.虫垂は右下腹部にある。
- d.下部消化管造影が必要である。
- e.腹部超音波検査でtarget signがみられる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
新生児の胆汁性嘔吐は閉塞がVater乳頭より肛門側にあることを示し、中腸軸捻転を否定できるまで外科的緊急疾患として扱います。上部消化管造影で十二指腸空腸移行部が正中を越えず右側にとどまり、Treitz靱帯の形成不全を認めれば腸回転異常症であり、血便は捻転による中腸の虚血を示すため、ただちにLadd手術を行います。回転異常では盲腸・虫垂が右下腹部に固定されず、腫瘤触知は肥厚性幽門狭窄症や腸重積症、target signは腸重積症の所見で、中腸軸捻転の超音波所見はwhirlpool signです。診断後に下部消化管造影などで時間を費やすと壊死範囲が広がり短腸症候群につながるため、発生学に基づく病態理解と迅速な判断が予後を左右します。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・生後15日:出生直後から症状があったわけではなく、哺乳が進んでから発症している。先天的な消化管閉鎖(多くは生後早期に発症する)よりも、もともとある形態異常に後から捻転や圧迫が加わった病態を考える。 ・胆汁性嘔吐:胆汁が十二指腸乳頭(Vater乳頭、十二指腸下行脚に開口)から流れ出ているのに吐物に混じるということは、閉塞部位が乳頭より肛門側にあることを示す。新生児の胆汁性嘔吐は外科的緊急疾患を疑う重要なサインである。 ・血便:腸管の血流障害(虚血)により粘膜が傷害されたことを示唆する。 ・上部消化管造影:胃から十二指腸へ造影剤が進むが、十二指腸は通過障害を示し、正中を越えて左上方(左上腹部のTreitz靱帯の位置)へ上行する正常の走行(C字状のループ)が確認できない。十二指腸空腸移行部が正中より右側にとどまり、空腸・小腸は右側腹部に集まっている。すなわちTreitz靱帯が形成されておらず、小腸が右側に偏在する像である。
診断
以上から、腸回転異常症に中腸軸捻転を合併したものと診断できる。腸回転異常症では、腸間膜の付着部(根部)が狭く短いため、中腸(十二指腸下部から横行結腸中部まで)全体が上腸間膜動脈(SMA)を軸にしてねじれやすい。捻転すると十二指腸の閉塞による胆汁性嘔吐が起こり、さらにSMAの血流が途絶えると中腸の広範な虚血をきたして血便が出る。
設問への考え方
中腸軸捻転は、時間がたつと小腸のほぼ全長が壊死し、救命できても短腸症候群を残す、新生児で最も緊急性の高い外科疾患の一つである。血便は既に虚血が進んでいる徴候であり、診断がつき次第ただちに手術を行う。各選択肢では、腸回転異常症の解剖(虫垂・盲腸の位置)、他の新生児・乳児の消化管疾患(肥厚性幽門狭窄症、腸重積症)との鑑別、追加検査の要否が問われている。
選択肢考察
- ×a. 腹部に腫瘤を触知する。
中腸軸捻転は腸管の捻れによる閉塞と虚血が本態であり、通常、はっきりとした腹部腫瘤は触れない。十二指腸で閉塞するため、初期にはむしろ下腹部は膨満せず平坦なことも多い。新生児・乳児で腹部腫瘤を触れる消化管疾患としては、右上腹部にオリーブ様の腫瘤を触れる肥厚性幽門狭窄症(無胆汁性の噴水状嘔吐)や、ソーセージ様腫瘤を触れる腸重積症が代表的である。
- ○b. 緊急手術が必要である。
胆汁性嘔吐と血便を伴う中腸軸捻転は、放置すると中腸全体が壊死する。捻転を解除して血流を回復させるため、緊急手術(Ladd手術)が必要である。手術では、捻転を反時計回りに戻して整復し、十二指腸を圧迫するLadd靱帯(盲腸から右後腹壁へ走る異常な索状物)を切離し、狭い腸間膜根部を広げて再捻転を起こしにくくする。小腸を右側、結腸を左側に置いた「non-rotation」の配置とし、将来の診断の混乱を避けるため虫垂切除も併せて行うことが多い。壊死腸管があれば切除する。
- ×c. 虫垂は右下腹部にある。
正常では、中腸は胎生期に上腸間膜動脈を軸として反時計回りに合計270°回転し、盲腸と虫垂は右下腹部に固定される。腸回転異常症ではこの回転と固定が途中で止まるため、盲腸・虫垂は右下腹部に下降せず、上腹部の正中付近や左側にとどまることが多い。このため、成長後に虫垂炎を起こすと非典型的な部位の痛みとなり診断が遅れやすい。
- ×d. 下部消化管造影が必要である。
臨床症状と上部消化管造影で十二指腸の通過障害とTreitz靱帯の形成不全が確認されれば、腸回転異常症と中腸軸捻転の診断は確定し、手術に進むべきである。下部消化管造影は盲腸の位置異常を示せるが、盲腸の位置は正常例でも個人差があって診断能は上部消化管造影に劣る。血便があり虚血が進行している状況で追加検査に時間を費やすことは、腸管壊死を広げるだけである。
- ×e. 腹部超音波検査でtarget signがみられる。
target sign(腸管の横断像で同心円状に層が重なって見える像)は、腸管が腸管に嵌入する腸重積症の超音波所見である(縦断像ではpseudokidney sign)。中腸軸捻転の超音波所見は、上腸間膜静脈(SMV)と腸間膜が上腸間膜動脈(SMA)の周囲に渦巻き状に巻き付くwhirlpool sign(通常は時計回り)である。また、正常ではSMVはSMAの右側にあるが、腸回転異常症ではSMVがSMAの左側や前方に位置する(SMA・SMVの位置関係の逆転)。
腸回転異常症の発生
胎生期、中腸は臍帯内に生理的に脱出し、上腸間膜動脈を軸に反時計回りに回転しながら腹腔内へ戻る。回転は合計270°で、その結果、十二指腸はSMAの背側を通って左上腹部のTreitz靱帯で空腸につながり、盲腸は右下腹部に固定される。この過程が途中で止まったり異常な方向に進んだりしたものが腸回転異常症である。 ・腸間膜根部が狭く短いため、中腸軸捻転を起こしやすい。 ・盲腸から右後腹壁に向かうLadd靱帯(異常な腹膜の索状物)が十二指腸を横切って圧迫し、閉塞の原因となる。
臨床像
・多くは新生児期(特に生後1か月以内)に胆汁性嘔吐で発症するが、乳児期以降や成人になってから腹痛・嘔吐で見つかることもある。回転異常そのものは無症状のこともある。 ・十二指腸閉鎖症、腹壁破裂、臍帯ヘルニア、先天性横隔膜ヘルニアなどに合併しやすい。
画像所見
・腹部単純X線:十二指腸の閉塞によりdouble bubble sign(胃泡と拡張した十二指腸球部のガス)を示すことがあるが、不完全閉塞ではガスが下部腸管に進み、所見が乏しいことも多い。 ・上部消化管造影:診断の基本。十二指腸空腸移行部(Treitz靱帯)が正中より右側で低位にあること、十二指腸・空腸が右側腹部にあることを確認する。捻転があると、十二指腸遠位部から空腸がらせん状に走る像(corkscrew sign)や、造影剤が途絶する像(beak sign)がみられる。 ・超音波検査:whirlpool sign、SMVとSMAの位置関係の逆転。
新生児・乳児の嘔吐をきたす代表的外科疾患
・肥厚性幽門狭窄症:生後2〜3週以降、無胆汁性の噴水状嘔吐、右上腹部にオリーブ様腫瘤、低クロール性代謝性アルカローシス。 ・十二指腸閉鎖症:生後早期の胆汁性嘔吐(閉鎖部位が乳頭より肛門側の場合)、double bubble sign、Down症候群との関連。 ・腸回転異常症(中腸軸捻転):胆汁性嘔吐、血便、緊急手術。 ・腸重積症:生後6か月〜2歳に多く、間欠的な啼泣、イチゴゼリー状の粘血便、ソーセージ様腫瘤、超音波でtarget sign。
POINT
・新生児の胆汁性嘔吐は、中腸軸捻転を否定できるまで外科的緊急疾患として扱う。 ・胆汁性嘔吐+血便+上部消化管造影でTreitz靱帯の形成不全(十二指腸空腸移行部が正中より右)→ 腸回転異常症に伴う中腸軸捻転 → 緊急手術(Ladd手術)。 ・腸回転異常症では盲腸・虫垂が右下腹部になく、上腹部正中付近にあることが多い。 ・超音波所見:中腸軸捻転はwhirlpool sign、腸重積症はtarget sign。 ・右上腹部のオリーブ様腫瘤は肥厚性幽門狭窄症(嘔吐は無胆汁性)。
