そのほくろ、拡大すれば見えてくる―ダーモスコピーで読む悪性黒色腫のサイン
第107回医師国家試験 E問題 第20問
国試問題にチャレンジ
悪性黒色腫と良性の色素性病変との鑑別に有用な検査はどれか。
- a.硝子圧法
- b.皮膚描記法
- c.パッチテスト
- d.プリックテスト
- e.ダーモスコピー試験
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
悪性黒色腫と母斑細胞母斑などの良性色素性病変の鑑別には、拡大と乱反射の抑制によって表皮〜真皮浅層の色素分布や血管構造を観察するダーモスコピーが有用です。不規則な色素ネットワークや色素小点、青白色ベール、非対称な構造は悪性を示唆し、掌蹠では皮溝平行パターンが良性、皮丘平行パターンが早期悪性黒色腫を疑う所見となります。硝子圧法は紅斑と紫斑の鑑別、皮膚描記法は蕁麻疹・白色皮膚描記症・Darier徴候、パッチテストはIV型、プリックテストはI型アレルギーの検査であり、色素性病変の良悪性の判定には用いません。確定診断は病理組織検査で行い、悪性黒色腫が疑われる場合は原則として全切除生検とします。各検査が「何を見分けるためのものか」を対応づけて覚えることは、皮膚科診療の基本となる診断の組み立てに直結します。
解答・解説
正解はeです
皮膚科で行う代表的な検査と、それぞれが何を見分けるために使われるかの対応を問う問題である。 悪性黒色腫(メラノーマ)は、メラニンを作る色素細胞(メラノサイト)が悪性化した腫瘍である。早い時期にリンパ節や遠くの臓器へ転移しやすいため、早期に発見することが予後を大きく左右する。しかし初期の病変は、良性の母斑細胞母斑(いわゆるほくろ)、脂漏性角化症、血管腫、基底細胞癌など、ほかの色素性病変と肉眼では見分けにくいことが多い。 そこで役立つのが、病変を拡大して観察し、皮膚表面の光の乱反射を抑えることで表皮から真皮浅層にかけての色素分布や血管の構造を見る検査である。この検査なら痛みを伴わずに外来で繰り返し行え、切除して生検するかどうかを判断する材料になる。ほかの選択肢は、紅斑と紫斑の鑑別、皮膚の血管反応性の評価、アレルギーの原因物質の特定などを目的とする検査で、色素性病変の良悪性の鑑別には用いない。 最終的な確定診断は病理組織検査で行う。ただし悪性黒色腫が疑われる病変は部分生検を避け、原則として全切除生検とする。
選択肢考察
- ×a. 硝子圧法
誤り。硝子圧法(ディアスコピー)は、ガラス板や透明なプラスチック板で皮疹を押さえて色の変化を見る検査である。紅斑は真皮の血管が拡張して充血したものなので、押すと血液が押し出されて赤みが消える。一方、紫斑は血管の外に漏れ出た赤血球によるもので、押しても色は消えない。このため、紅斑と紫斑(出血斑)の鑑別に用いる。また、尋常性狼瘡(皮膚結核の一型)では、圧迫によって周囲の赤みが消えると、黄褐色の結節(いわゆるアップルゼリー様の色調)が透けて見える。この所見の確認にも使われる。メラニン色素は圧迫しても消えないため、色素性病変の良悪性の鑑別には役立たない。
- ×b. 皮膚描記法
誤り。皮膚描記法は、先の丸い器具で皮膚をこすり、その後の皮膚の反応を観察して血管の反応性を評価する検査である。蕁麻疹では、こすった線に沿って膨疹が盛り上がる(隆起性皮膚描記症)。アトピー性皮膚炎では、こすった部位が赤くならずにかえって白くなる(白色皮膚描記症)。また色素性蕁麻疹(皮膚肥満細胞症)では、皮疹そのものをこすると肥満細胞からヒスタミンなどが放出されて膨疹や発赤を生じる。これをDarier徴候という。いずれも色素性病変の良悪性とは関係しない。
- ×c. パッチテスト
誤り。パッチテスト(貼布試験)は、原因として疑われる物質を皮膚に貼り付け、48時間後に除去して判定し、その後72時間後や1週間後にも判定する検査である。Ⅳ型(遅延型、T細胞が関わる)アレルギーを調べるもので、アレルギー性接触皮膚炎の原因物質の特定に用いる。金属、化粧品、薬剤などが主な対象になる。腫瘍の診断には用いない。
- ×d. プリックテスト
誤り。プリックテストは、アレルゲン(アレルギーの原因物質)の液を皮膚に1滴のせ、専用の針で皮膚表面を浅く刺してしみ込ませ、約15〜20分後に膨疹や紅斑が出るかを判定する検査である。Ⅰ型(即時型、IgE抗体が関わる)アレルギーを調べるもので、食物アレルギー、薬剤アレルギー、花粉症やアレルギー性鼻炎などの原因の検索、接触蕁麻疹の診断などに用いる。色素性病変の鑑別とは無関係である。
- ○e. ダーモスコピー試験
正しい。ダーモスコピーは、ダーモスコープという拡大鏡(通常10倍程度)を使い、エコーゼリーなどを塗るか偏光を利用して角層での光の乱反射を抑えた状態で観察する検査である。これにより、肉眼では見えない表皮から真皮浅層までの色素の分布や血管の構造がわかる。悪性黒色腫を疑う所見は、色素ネットワークの不規則さ、不規則な色素小点・小球、不規則な線条、青白色ベール、左右非対称な構造、多彩な色調などである。手のひらや足の裏では、皮膚の溝(皮溝)に沿って色素が並ぶのは良性の母斑に多い所見(皮溝平行パターン)である。これに対し、皮膚の盛り上がった部分(皮丘)に沿って色素が並ぶ場合は早期の悪性黒色腫を強く疑う(皮丘平行パターン)。このように、痛みを伴わない非侵襲的な方法で悪性黒色腫と母斑細胞母斑などの良性の色素性病変を見分けられる。さらに基底細胞癌、脂漏性角化症、血管腫などの診断にも役立つ。
悪性黒色腫の概要
悪性黒色腫はメラノサイトに由来する悪性腫瘍で、皮膚癌のなかでも悪性度が高い。日本人では足の裏や手足の爪の周りなどの末端部に生じる末端黒子型が最も多い。臨床的には、次のABCDE基準が悪性を疑う目安として知られる。 A(Asymmetry):形が左右非対称 B(Border irregularity):輪郭が不整、または境界がにじんでいる C(Color variegation):色むらがある D(Diameter):直径6mmを超える E(Evolving):大きさ・形・色が変化していく 爪では、黒い縦の線(爪甲色素線条)の幅が広がる、色が濃淡不均一になる、周りの皮膚に色素がしみ出る(Hutchinson徴候)といった所見が悪性を疑うきっかけになる。
皮膚科の主な検査と目的
硝子圧法:紅斑と紫斑の鑑別、尋常性狼瘡の結節の確認 皮膚描記法:蕁麻疹(隆起性)、アトピー性皮膚炎(白色)、色素性蕁麻疹のDarier徴候 パッチテスト:Ⅳ型アレルギー(アレルギー性接触皮膚炎)の原因特定 プリックテスト・スクラッチテスト・皮内テスト:Ⅰ型アレルギーの原因特定 ダーモスコピー:色素性病変(悪性黒色腫、母斑細胞母斑、基底細胞癌、脂漏性角化症など)の診断 真菌直接鏡検(KOH法):白癬やカンジダ症の診断 Tzanck試験:ヘルペスウイルス感染症や天疱瘡の診断 Nikolsky現象:天疱瘡、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群などの評価
悪性黒色腫の確定診断
確定診断は病理組織検査による。悪性黒色腫が疑われるときは原則として病変全体を切除して調べる(全切除生検)。病期は、腫瘍の厚さ(Breslowの厚さ)、潰瘍の有無、センチネルリンパ節(がん細胞が最初に流れ着くリンパ節)への転移の有無などで決める。
POINT
・悪性黒色腫と良性の色素性病変(母斑細胞母斑など)の鑑別にはダーモスコピーが有用である。 ・掌蹠(手のひら・足の裏)では、皮溝平行パターンは良性、皮丘平行パターンは悪性黒色腫を示唆する。 ・硝子圧法は紅斑と紫斑の鑑別、皮膚描記法は蕁麻疹・アトピー性皮膚炎・Darier徴候、パッチテストはⅣ型アレルギー、プリックテストはⅠ型アレルギーの検査である。 ・悪性黒色腫が疑われる病変は、原則として全切除生検で確定診断する。
