StudyMed医師国家試験

晴れた体育大会で目がチカチカ―集団発生が指し示す光化学スモッグ

第107回医師国家試験 B問題 第41問

国試問題にチャレンジ

第107回 B問題 第41問

13歳の女子。呼吸困難を主訴に来院した。通学する中学校で体育大会に参加していた。午前11時ころ,次の競技に参加するため集合していたところ,目のチカチカ,流涙およびのどや鼻の痛みを自覚し,しばらくすると息苦しさを覚えたという。天気は晴れ。気温28℃,湿度55%。風は穏やかであった。意識は清明。体温36.8℃。脈拍72/分,整。血圧102/72 mmHg。呼吸数16/分。皮膚は軽度湿潤している。眼球結膜は充血している。咽頭には発赤がみられる。同様の症状を訴える生徒が他に数名いるという。  原因として最も考えられるのはどれか。

  1. a.花粉
  2. b.暑熱環境
  3. c.一酸化炭素
  4. d.心理的ストレス
  5. e.光化学オキシダント

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、屋外で複数の生徒が同時に体調を崩した場面から原因を推定する問題だ。注目点は3つ、同じ場所で何人も同時に発症していること、症状の性質、そして天気の条件だよ。
医学生医学生
何人も同時に、というと食中毒みたいな集団発生をまず思い浮かべます。
ドクタードクター
発想はいいね。同じ時間・同じ場所で複数人が同じ症状を呈したら、個人の病気よりもその場に共通する原因、つまり環境中の物質や気象条件を考える。食中毒なら消化器症状が中心になるけど、今回はどうかな。
医学生医学生
目のチカチカ、涙、のどや鼻の痛みが先に出て、そのあと息苦しくなっています。
ドクタードクター
そこが大事なポイント。眼、鼻、咽頭という外界に触れる粘膜の刺激症状が先行している。結膜充血や咽頭発赤という客観的な炎症所見もある。これは空気中の刺激性物質が粘膜に直接作用したことを示しているんだ。
医学生医学生
体育大会で気温28℃なら、熱中症もありそうに思えました。
ドクタードクター
運動中の集団熱中症は実際に起こるから、迷うのは自然だよ。でも体温は平熱で、脈も血圧も落ち着いていて、脱水や循環不全の所見がない。それに熱中症では眼やのどの刺激症状は説明できない。
医学生医学生
花粉はどうでしょう。目の症状と鼻の症状がそろっているので。
ドクタードクター
花粉症はI型アレルギーで、主役は眼の強いかゆみ、くしゃみ、水様性鼻汁だ。感作された人に個別に起こるから、その場の生徒が同じ時刻に一斉に発症するのは考えにくい。今回はかゆみより「チカチカ」「痛み」という刺激症状が主体なのも違う点だね。
医学生医学生
一酸化炭素は中毒の講義で習いましたが、屋外のグラウンドでは考えにくいですよね。
ドクタードクター
その通り。COは換気の悪い屋内での不完全燃焼などで発生し、無色・無臭で刺激性がない。ヘモグロビンに酸素よりはるかに強く結合して酸素運搬を妨げるから、頭痛や悪心、重症では意識障害が出る。粘膜刺激がない点で今回とは症状の性質がまったく違うんだ。
医学生医学生
競技前の緊張で過換気になって、それが周りに広がった、という可能性は?
ドクタードクター
集団心因性反応も現実にあるから、良い鑑別だね。ただ過換気なら呼吸数が増えて手足や口周りのしびれを伴うことが多いのに、今回の呼吸数は正常だ。しかも結膜充血や咽頭発赤という客観的所見があるから、心理的要因だけでは説明がつかない。
医学生医学生
そうすると、晴れていて風が弱い日の屋外で、刺激性の物質……光化学オキシダントですね。
ドクタードクター
正解。光化学オキシダントは、自動車や工場から出る窒素酸化物と揮発性有機化合物が太陽の紫外線で光化学反応を起こしてできる二次汚染物質で、大部分はオゾンだ。それが滞留した状態が光化学スモッグ。日差しが強く、気温が高めで、風が弱い日の日中に濃度が上がりやすい。強い酸化作用で眼や気道の粘膜を刺激するんだ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、光化学スモッグ注意報が出ると学校が屋外活動を中止すると習いました。季節は夏が多いんですか。
ドクタードクター
春から夏にかけて、昼前から夕方に多い。環境基準は1時間値0.06 ppm以下で、0.12 ppm以上になりその状態が続くと見込まれると注意報が出る。対応としては屋内に移動させて洗眼とうがいをし、安静にする。呼吸困難が強ければ医療機関で酸素投与などの対症療法を行う。重症例では頭痛やしびれ、意識障害まで起こりうるから油断は禁物だよ。
医学生医学生
集団発生では、刺激症状があるかどうかで原因の方向性がかなり絞れるんですね。
ドクタードクター
そう。粘膜刺激が主体なら光化学オキシダントや塩素ガス、二酸化硫黄などの刺激性ガス、刺激症状がなく頭痛や意識障害なら一酸化炭素のような窒息性ガス、高体温や脱水なら熱中症、呼吸数増加としびれで客観所見に乏しければ過換気や心因性反応、と整理できる。ほかの大気汚染物質として、四日市ぜんそくの原因となった二酸化硫黄や、肺の奥まで届くPM2.5もあわせて覚えておこう。

まとめ

晴天・やや高い気温・弱風の日中に、屋外で複数人が同時に眼のチカチカ、流涙、咽頭痛、呼吸困難を訴え、結膜充血や咽頭発赤を認める場合は、光化学スモッグ(光化学オキシダント)による健康被害を考えます。光化学オキシダントは窒素酸化物と揮発性有機化合物が紫外線で反応して生じる二次汚染物質で、主成分はオゾンであり、強い酸化作用で粘膜を刺激します。熱中症は高体温や脱水、一酸化炭素中毒は刺激症状を欠く頭痛や意識障害、花粉症はかゆみ・くしゃみ主体の個別発症、過換気は呼吸数増加としびれ、という特徴の違いから鑑別できます。集団発生では共通曝露を想定し、症状の性質と環境条件を組み合わせて原因を絞り込む視点が、救急や学校保健、公衆衛生の現場で役立ちます。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・発症状況:晴天、気温28℃、湿度55%、風は穏やか。午前11時ころ、屋外(中学校の体育大会)で発症。 ・症状:目のチカチカ感、流涙、のどや鼻の痛み、その後の息苦しさ。 ・身体所見:意識清明、体温36.8℃、脈拍72/分・整、血圧102/72 mmHg、呼吸数16/分とバイタルサインはほぼ正常。皮膚は軽度湿潤。眼球結膜の充血と咽頭の発赤を認める。 ・集団発生:同じ場所にいた生徒数名に同様の症状がある。

診断へのプロセス

同じ時間・同じ場所で複数人が同時に同様の症状を呈していることから、個人の疾患よりも、その場の環境にある共通の原因(大気中の物質や気象条件など)を第一に考える。 次に症状の性質をみると、眼・鼻・咽頭という外界に接する粘膜の刺激症状が先に出現し、その後に呼吸困難が加わっている。他覚的にも眼球結膜の充血と咽頭発赤という粘膜の炎症所見がある。これは空気中の刺激性物質が粘膜に直接作用したことを示す。一方、発熱や頻脈、意識障害はなく、全身性の障害(熱中症や中毒による酸素運搬障害など)を示す所見は乏しい。 さらに気象条件は、日差しが強い晴天、やや高い気温、弱い風という組み合わせであり、これは大気汚染物質が紫外線による光化学反応で二次的に生成され、拡散されずに地表付近にとどまる典型的な条件である。 以上から、光化学スモッグの主成分である光化学オキシダントによる健康被害と考えるのが最も妥当である。

選択肢考察

  1. ×a.  花粉

    花粉症はI型(即時型)アレルギーであり、症状の中心はくしゃみ・水様性鼻汁・鼻閉と、眼の強いかゆみ・流涙・結膜充血である。スギ・ヒノキ(春)、イネ科(初夏〜夏)、ブタクサ・ヨモギ(秋)など、原因植物の飛散時期に一致して繰り返し発症し、感作された個人ごとに症状が出るため、その場にいた生徒が一斉に同じ時刻に発症するという経過とは合わない。本例ではかゆみやくしゃみの記載がなく、「目のチカチカ」「のどの痛み」という刺激症状が主体である点もアレルギー性の反応とは異なる。

  2. ×b.  暑熱環境

    熱中症は高温多湿の環境で体温調節が破綻して生じ、軽症ではめまい・立ちくらみ・筋肉のこむら返り・大量の発汗、中等症では頭痛・悪心・嘔吐・倦怠感、重症では意識障害・けいれん・高体温などを呈する。気温28℃は熱中症が起こりうる条件であり、運動中の集団発生も実際にみられるが、本例は体温36.8℃、脈拍72/分、血圧も保たれており、脱水や循環不全を示す所見がない。また、眼の刺激感や咽頭痛、結膜充血・咽頭発赤という粘膜刺激症状は熱中症では説明できない。

  3. ×c.  一酸化炭素

    一酸化炭素(CO)は、換気の悪い屋内での燃焼器具・練炭・炭火の不完全燃焼や、閉め切った車内・車庫での排気ガスなどで発生する。無色・無臭で刺激性がないため、吸入しても眼や咽頭の刺激症状は起こらない。COはヘモグロビンと酸素の約200倍以上の親和性で結合して酸素運搬を妨げ、頭痛・めまい・悪心・嘔吐から、重症では意識障害・けいれん・昏睡に至る。風のある屋外のグラウンドで高濃度となることは考えにくく、症状の性質も本例と一致しない。

  4. ×d.  心理的ストレス

    競技前の緊張などの心理的ストレスでも、息苦しさや過換気症候群を起こすことはあり、集団内で症状が連鎖する集団心因性反応(いわゆる集団ヒステリー)もありうる。しかし過換気であれば呼吸数が増加し、手足のしびれや口周囲のしびれなどを伴うことが多いが、本例の呼吸数は16/分と正常である。さらに、眼球結膜の充血や咽頭の発赤という客観的な粘膜の炎症所見があり、心理的要因だけでは説明できない。環境中の刺激物質による器質的な障害をまず考えるべきである。

  5. ○e.  光化学オキシダント

    光化学オキシダントは、工場や自動車から排出される窒素酸化物(NOx)と揮発性有機化合物(VOC)が、太陽の紫外線を受けて光化学反応を起こすことで二次的に生成される酸化性物質の総称で、大部分をオゾンが占め、ほかにペルオキシアセチルナイトレート(PAN)などを含む。これが大気中に滞留して白くもやがかかったような状態になったものが光化学スモッグである。日差しが強く、気温が高めで、風の弱い日の日中(特に昼過ぎ)に濃度が上がりやすく、春から夏にかけて多い。強い酸化作用により眼や気道の粘膜を刺激し、目のチカチカ・流涙・結膜充血、咽頭痛・咽頭発赤、咳、呼吸困難などを起こす。屋外で運動中の児童・生徒に集団で発生しやすいことも特徴で、本例の気象条件、症状、身体所見、集団発生のいずれとも合致する。

光化学スモッグの要点

・原因物質(一次汚染物質):窒素酸化物(NOx)と揮発性有機化合物(VOC)。主な発生源は自動車の排気ガスや工場・事業場の排煙、塗料・溶剤など。 ・生成物(二次汚染物質):光化学オキシダント(主成分はオゾン、ほかにPANなど)。 ・発生しやすい条件:晴天で日射が強い、気温が高い、風が弱い(汚染物質が拡散しにくい)。季節は春〜夏、時間帯は昼前〜夕方に多い。 ・症状:軽症では眼の刺激感(チカチカ)、流涙、眼の充血、咽頭痛、咳。重症例では呼吸困難、頭痛、めまい、手足のしびれ、嘔吐、意識障害などを起こしうる。皮膚の発赤がみられることもある。 ・対応:屋内に移動し、洗眼・うがいを行い、安静にさせる。呼吸困難など症状が強い場合は医療機関で酸素投与などの対症療法を行う。 ・行政の対応:光化学オキシダントの環境基準は「1時間値が0.06 ppm以下」である。濃度が0.12 ppm以上となり、その状態が続くと見込まれる場合には都道府県知事などが光化学スモッグ注意報を発令し、学校では屋外活動の中止などの措置がとられる。

集団発生した急性症状の鑑別の視点

・同一時刻・同一場所での複数人発症 → 環境要因(大気汚染物質、有毒ガス、気象)や食中毒などの共通曝露を考える。 ・粘膜刺激症状(眼・鼻・咽頭)が主体 → 刺激性ガス(光化学オキシダント、塩素ガス、二酸化硫黄など)。 ・頭痛・悪心・意識障害が主体で刺激症状なし → 一酸化炭素などの窒息性ガス。 ・高体温・脱水・循環不全 → 熱中症。 ・呼吸数増加・しびれ・客観的所見に乏しい → 過換気症候群や集団心因性反応。

主な大気汚染物質と健康影響

・二酸化硫黄(SO2):化石燃料の燃焼で発生し、気管支炎・喘息を悪化させる(四日市ぜんそく)。 ・二酸化窒素(NO2):自動車・工場から排出され、呼吸器を刺激する。光化学オキシダントの原料にもなる。 ・微小粒子状物質(PM2.5):粒径2.5 μm以下の粒子で、肺の奥まで到達し呼吸器・循環器疾患のリスクを高める。 ・一酸化炭素(CO):不完全燃焼で発生し、酸素運搬を障害する。

POINT

・晴天・高めの気温・弱風の日中に、屋外で複数人が同時に眼の刺激感・流涙・咽頭痛・呼吸困難を訴えたら、光化学スモッグ(光化学オキシダント)を考える。 ・光化学オキシダントはNOxとVOCが紫外線で反応して生じる二次汚染物質で、主成分はオゾンである。 ・所見は眼球結膜充血・咽頭発赤などの粘膜刺激症状が中心。熱中症(高体温・脱水)や一酸化炭素中毒(刺激症状なし、頭痛・意識障害)とは症状の性質で区別する。 ・環境基準は1時間値0.06 ppm以下、0.12 ppm以上で注意報。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。