StudyMed医師国家試験

3歳児に何の検査を使う?―「何を測るか」と「対象年齢」で選ぶ発達検査

第107回医師国家試験 B問題 第25問

国試問題にチャレンジ

第107回 B問題 第25問

言語と認知の発達の遅れが疑われる3歳の女児の検査として適切なのはどれか。

  1. a.Rorschachテスト
  2. b.津守・稲毛式発達検査
  3. c.標準型失語症検査〈SLTA〉
  4. d.Wechsler児童用知能検査〈WISCR-Ⅲ〉
  5. e.Mini-Mental State Examination〈MMSE〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、言語と認知の発達の遅れが疑われる3歳児にどの検査を使うかという問題だ。心理・発達・知能の検査はたくさんあるけれど、整理の軸は2つ。「その検査は何を測るのか」と「何歳が対象なのか」。この2軸で選択肢を見ていこう。
医学生医学生
知能を測るならWechslerのWISCが有名なので、まずそれが浮かびました。
ドクタードクター
多くの人がそう考えるね。でもWISCの対象年齢を思い出してほしい。日本版ではおおむね5歳から16歳、つまり学齢期が中心なんだ。3歳は対象に入らない。
医学生医学生
あ、そうでした。Wechsler系は年齢で分かれていて、成人はWAISでしたね。幼児用もありましたっけ。
ドクタードクター
あるよ。幼児を対象にしたのがWPPSI。幼児はWPPSI、学齢期はWISC、成人はWAISと年齢で使い分ける。今回の選択肢には幼児用のWechsler検査はないから、別の検査を探すことになる。
医学生医学生
では津守・稲毛式発達検査でしょうか。小児科の講義で乳幼児の発達検査として名前が出ていました。
ドクタードクター
正解。津守・稲毛式は乳幼児精神発達診断法とも呼ばれ、0〜7歳が対象だ。母親など養育者に日常の行動を質問して、運動、探索・操作、社会、食事・排泄・生活習慣、理解・言語の5領域の発達段階を評価する。
医学生医学生
子ども本人に課題をやらせなくていいのは、3歳児にはありがたいですね。小児科実習で診察に協力してもらうだけでも大変でした。
ドクタードクター
実感がこもっているね。3歳児は長い課題に集中したり、複雑な言葉で答えたりするのが難しい。養育者への聞き取りで評価できるから、発達の遅れがある児でも実施しやすい。しかも領域ごとに発達年齢が出るから、言語や認知の遅れがどこに偏っているかもわかる。
医学生医学生
Rorschachテストは精神科の講義で習いました。インクのしみが何に見えるかを答えるものですよね。
ドクタードクター
そう、投影法の人格検査で、反応から思考過程や情緒、人格特徴を推測する。発達や知能の水準を測るものではないし、見えたものを言葉で説明できることが前提だから、言語発達の遅れが疑われる3歳児には向かない。
医学生医学生
標準型失語症検査は「言語」の検査なので、少し迷いました。
ドクタードクター
言葉に引っ張られやすい選択肢だね。SLTAは脳卒中や頭部外傷などで、いったん獲得した言語機能を失った成人の失語症を評価する検査だ。言語をまだ獲得している途中の幼児の「発達の遅れ」とは評価の前提が違う。「失った」のか「まだ育っていない」のかを区別しよう。
医学生医学生
MMSEは神経内科の実習で高齢の患者さんに実施しました。30点満点で、23点以下なら認知症を疑うんでしたよね。
ドクタードクター
その通り。見当識や記銘、計算などをみる成人・高齢者の認知症スクリーニングで、発達を遂げた人の認知機能「低下」をみる検査だ。3歳児の発達評価には使わない。
医学生医学生
整理すると、人格検査、成人の失語症検査、学齢期以降の知能検査、認知症スクリーニングはどれも目的か年齢がずれていて、乳幼児の多領域の発達を測れるのは津守・稲毛式だけ、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。周辺知識も押さえておこう。乳幼児の発達検査には他に、0〜4歳8か月が対象で6領域をみる遠城寺式、課題実施と観察で発達指数を出す新版K式、0〜6歳のスクリーニングであるDENVER IIなどがある。知能検査では2歳から使える田中ビネーも覚えておきたい。
医学生医学生
発達指数は発達年齢を生活年齢で割って100をかける、でしたね。
ドクタードクター
そう。一方、Wechsler系は同年齢集団の中での位置を示す偏差IQを使う点が違う。それから臨床で大事なのは、言語発達の遅れを見たら検査をして終わりにしないこと。聴力障害、自閉スペクトラム症、知的能力障害、養育環境の問題などを鑑別する必要がある。
医学生医学生
まず聴力を確認する、というのは小児科の先生も強調していました。聴性脳幹反応などで調べるんですよね。
ドクタードクター
その通り。聞こえていなければ言葉は育たないからね。発達検査で全体像をつかみ、原因の鑑別へつなげていく流れを意識しておこう。

まとめ

心理・発達・知能の検査は「何を測るか」と「対象年齢」の2軸で選ぶのが基本です。3歳児の言語と認知の発達評価には、0〜7歳を対象に養育者への質問で運動・探索・社会・生活習慣・理解言語の5領域を評価する津守・稲毛式発達検査が適しており、本人の協力が得にくい幼児でも実施できます。Rorschachテストは投影法の人格検査、SLTAは成人の失語症検査、WISCは学齢期の知能検査、MMSEは成人・高齢者の認知症スクリーニングであり、目的か対象年齢が合いません。乳幼児では遠城寺式、新版K式、DENVER IIなども用いられ、Wechsler系はWPPSI・WISC・WAISと年齢で使い分けます。言語発達の遅れでは聴力障害や自閉スペクトラム症などの鑑別も欠かせず、検査を適切に選ぶ力は小児の発達支援の出発点となります。

解答・解説

正解はbです

本問は、心理・発達・認知機能の検査をそれぞれ「何を測る検査か」「何歳が対象か」で整理できているかを問うものである。

対象者の条件

・年齢:3歳(幼児期) ・評価したい内容:言語と認知の発達の遅れ

考え方

3歳児の発達を評価するには、乳幼児を対象として標準化され、言語・認知を含む複数の発達領域を測定できる発達検査を選ぶ必要がある。3歳児は長時間の課題への集中や言語による複雑な応答が難しいため、養育者への質問(聞き取り)や短時間の観察で評価できる検査が実用的である。 選択肢のうち、乳幼児期(0〜7歳)を対象とし、言語領域を含む多領域の発達を評価できるのは津守・稲毛式発達検査(乳幼児精神発達診断法)のみである。他の選択肢は、人格検査(Rorschachテスト)、成人の失語症検査(SLTA)、学齢期以降の知能検査(WISC)、成人・高齢者の認知症スクリーニング(MMSE)であり、目的か対象年齢のいずれかが合わない。

選択肢考察

  1. ×a.  Rorschachテスト

    Rorschachテストは、左右対称のインクのしみでできた10枚の図版を見せ、それが何に見えるかを自由に答えさせ、その反応から思考過程・情緒・人格特徴などを推測する投影法の人格検査である。発達や知能の水準を測定する検査ではなく、しかも言語で反応を説明できることが前提となるため、言語発達の遅れが疑われる3歳児の発達評価には用いない。

  2. ○b.  津守・稲毛式発達検査

    津守・稲毛式発達検査(乳幼児精神発達診断法)は、0〜7歳の乳幼児を対象とした発達検査である。母親などの主な養育者に日常生活の中での子どもの行動について質問し、運動、探索・操作、社会、食事・排泄・生活習慣、理解・言語の5領域について、どの段階まで発達が到達しているかを評価する。子ども本人に課題を課す必要がないため、検査への協力が得にくい幼児や、発達に遅れがある児でも実施しやすい。領域ごとの発達年齢が得られるので、言語や認知の遅れがどの領域に偏っているかを把握でき、本例の評価に適している。

  3. ×c.  標準型失語症検査〈SLTA〉

    標準型失語症検査(SLTA:Standard Language Test of Aphasia)は、脳卒中や頭部外傷などにより、すでに獲得されていた言語機能が失われた成人の失語症を評価する検査である。聴く・話す・読む・書く・計算の側面について多数の下位検査で構成される。言語をまだ獲得している途中にある幼児の言語発達の遅れを評価するものではなく、本例には適さない。

  4. ×d.  Wechsler児童用知能検査〈WISCR-Ⅲ〉

    Wechsler児童用知能検査(WISC:Wechsler Intelligence Scale for Children)は、学齢期の児童・青年(日本版ではおおむね5歳〜16歳)を対象とする個別式知能検査で、全検査IQに加えて言語性・動作性(現行版では言語理解・知覚推理などの指標)に分けて知能の特徴を評価できる。対象年齢に3歳が含まれないため本例には用いない。同じWechsler系で幼児を対象とするのはWPPSI(Wechsler Preschool and Primary Scale of Intelligence)である。

  5. ×e.  Mini-Mental State Examination〈MMSE〉

    MMSEは、見当識、記銘、注意・計算、再生、言語(呼称・復唱・命令理解・読字・書字)、図形模写からなる30点満点の認知機能スクリーニング検査で、主に成人・高齢者の認知症の検出に用いられる(23点以下で認知症の疑いとするのが一般的)。すでに発達を遂げた成人の認知機能低下をみる検査であり、3歳児の発達評価には用いない。

小児の主な発達検査・知能検査

・遠城寺式乳幼児分析的発達検査:0〜4歳8か月。移動運動、手の運動、基本的習慣、対人関係、発語、言語理解の6領域。質問と観察で短時間に実施できる。 ・津守・稲毛式発達検査:0〜7歳。運動、探索・操作、社会、食事・排泄・生活習慣、理解・言語の5領域。養育者への質問で評価する。 ・新版K式発達検査:乳児から成人まで。姿勢・運動、認知・適応、言語・社会の3領域を、子どもへの課題実施と観察で評価し、発達年齢・発達指数(DQ)を算出する。 ・DENVER II(デンバー発達判定法):0〜6歳。個人-社会、微細運動-適応、言語、粗大運動の4領域で発達の遅れをスクリーニングする。 ・田中ビネー知能検査:2歳から成人まで。精神年齢から知能指数(IQ)を求める。 ・WPPSI:幼児を対象とするWechsler系知能検査。 ・WISC:学齢期(日本版ではおおむね5〜16歳)の知能検査。 ・WAIS:16歳以上の成人の知能検査。 ・K-ABC:2歳半〜18歳程度。認知処理能力と習得度を分けて評価する。

発達指数・知能指数

発達指数(DQ)=発達年齢÷生活年齢×100、知能指数(IQ)=精神年齢÷生活年齢×100(比率IQ)。Wechsler系では同年齢集団内での位置を示す偏差IQ(平均100、標準偏差15)を用いる。

3歳児の言語発達の目安と評価

3歳ごろには、自分の名前を言う、三語文程度の文を話す、簡単な質問に答えるなどが可能となる。言語発達の遅れを認めた場合は、発達検査に加えて、聴力障害(聴性脳幹反応や条件詮索反応聴力検査など)、自閉スペクトラム症、知的能力障害、養育環境の問題などを鑑別することが重要である。

その他の選択肢に関連する検査

・人格検査:投影法(Rorschachテスト、TAT、バウムテスト、SCTなど)と質問紙法(MMPI、Y-G性格検査など)。 ・認知症スクリーニング:MMSE、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R、30点満点で20点以下を認知症の疑い)。 ・失語症評価:SLTA、WAB失語症検査。

POINT

・検査は「何を測るか」と「対象年齢」で選ぶ。 ・乳幼児の発達評価:津守・稲毛式(0〜7歳、養育者への質問)、遠城寺式(0〜4歳8か月)、新版K式、DENVER II。 ・Wechsler系知能検査は年齢で使い分ける:WPPSI(幼児)、WISC(学齢期)、WAIS(成人)。 ・Rorschachテスト=投影法人格検査、SLTA=成人の失語症検査、MMSE=認知症スクリーニング。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。