StudyMed医師国家試験

その先端は本当に胃の中か―経鼻栄養チューブ位置確認の4つのチェックポイント

第106回医師国家試験 H問題 第20問

国試問題にチャレンジ

第106回 H問題 第20問

経鼻栄養チューブの模式図を重ねた正常胸部エックス線写真(①~⑤)を別に示す。  経管経腸栄養を開始するための挿入状態として適切なのはどれか。

第106回 H問題 第20問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、経鼻栄養チューブを入れたあと、栄養剤を流してよい状態かどうかを胸部エックス線写真で判断する問題だ。注目するのはただ一つ、チューブの先端がどこにあるか。そのために、チューブが体のどこを通って、どこで終わっているかを順にたどっていこう。
医学生医学生
挿入した長さが十分なら、だいたい胃に入っていると考えていいんじゃないでしょうか。
ドクタードクター
そう思いがちだけど、長さだけでは判断できないんだ。途中でとぐろを巻いたり、気管に入ったりしていても、挿入長そのものは十分に見えることがある。だから画像で経路と先端の位置を確認する。チェックポイントは4つ。食道に沿って正中をまっすぐ下りているか、気管分岐部の高さを越えているか、横隔膜を越えて腹部に達しているか、そして先端が左横隔膜下の胃泡の位置にあって途中で折り返していないか、だ。
医学生医学生
それなら、首のあたりで止まっている図と、縦隔の下のほうまで進んでいる図は、どちらも横隔膜を越えていないのでダメですね。
ドクタードクター
その通り。どちらも先端は食道内にある。この位置で栄養剤を注入すると、食道に溜まって咽頭へ逆流し、誤嚥や誤嚥性肺炎を起こす危険がある。特に縦隔下部まで進んでいる図は、気管に入っていないぶん安心しそうになるけれど、横隔膜より上ならまだ胃ではない。さらに進めて改めて確認が必要だ。
医学生医学生
気管分岐部のあたりで右下に逸れて、右の肺野に向かっている図もありますね。これは気管に入ってしまっている……?
ドクタードクター
そう、右気管支への誤挿入だ。なぜ右に入りやすいか、覚えているかな。
医学生医学生
解剖学の講義で、右主気管支は左より太く短くて、分岐角度が小さく垂直に近いから、異物が右に落ちやすいと習いました。
ドクタードクター
完璧だね。誤嚥した異物も挿管チューブの入れすぎも、まず右に行く。しかも意識障害や鎮静中、咳反射の落ちた患者では、気管に入ってもむせないことがある。この状態で栄養剤を入れれば重篤な肺炎や窒息を招くし、細いチューブでは気胸を起こすこともある。直ちに抜いて入れ直す必要があるよ。
医学生医学生
横隔膜のすぐ上でチューブがたわんで折り返している図は、長さ的には入っていそうに見えますね。
ドクタードクター
まさにそこが、長さだけでは判断できない典型例なんだ。食道内でたわんで反転しているので、先端は下部食道にとどまっている。いったん引き戻して挿入し直すべき状態だね。
医学生医学生
そうすると、正中を下りて横隔膜を越え、左上腹部の胃泡の位置で胃の弯曲に沿って曲がっている図が正解ですね。
ドクタードクター
正解。4つのチェックポイントをすべて満たしていて、先端が確実に胃内にある。これが経管栄養を開始してよい状態だ。
医学生医学生
臨床実習の病棟では、空気を入れて心窩部で気泡音を聴いて確認しているのを見ました。あれだけではダメなんですか。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。気泡音は、気管支内や食道内にチューブがあっても似た音が聞こえることがあって、単独では信頼性が低い。胃内容物を吸引してpHが酸性かを見る方法も補助にはなるけれど、制酸薬を飲んでいると判定しにくい。最も確実なのはエックス線撮影で、特に初回の注入前には撮影して先端位置を確認することが勧められている。誤挿入に気づかず注入した事故は、医療安全の分野で繰り返し注意喚起されているんだ。
医学生医学生
挿入する長さの目安はありますか。OSCEの練習で測り方を習った気がします。
ドクタードクター
鼻尖から耳朶、耳朶から剣状突起までを足した長さが目安で、成人では45〜55 cm程度になることが多い。挿入時は頸部を軽く前屈させると食道に入りやすい。そして留置後も、咳や嘔吐、体動で先端が食道に戻ることがあるから、注入のたびに鼻孔部のマーキング位置を確認する習慣が大切だ。
医学生医学生
そもそも、点滴ではなく経腸栄養を選ぶ理由も押さえておきたいです。
ドクタードクター
腸管が安全に使えるなら経腸栄養が第一選択だ。腸を長く使わないと粘膜が萎縮してバリア機能が落ち、腸内細菌が体内に入り込むバクテリアルトランスロケーションのリスクが上がる。経腸栄養のほうが生理的で、カテーテル関連血流感染も少ない。期間の目安としては、短期なら経鼻胃管、長期になるなら胃瘻や腸瘻を検討し、逆流や誤嚥のリスクが高ければ先端を幽門より先に置く方法も考える。
医学生医学生
チューブを入れること自体より、どこに入ったかを確かめることのほうが大事なんですね。
ドクタードクター
その通り。入れた感触や長さではなく、画像で先端を確かめてから流す。これを習慣にしておこう。

まとめ

経鼻栄養チューブで経管栄養を始める前には、先端が胃内にあることを確認しなければなりません。胸部エックス線写真では、チューブが食道に沿って正中を下行し、気管分岐部と横隔膜を越え、左横隔膜下の胃泡の位置に途中で反転せずに先端があることを確かめます。先端が食道内にあれば逆流・誤嚥、気管支内にあれば重篤な肺炎・窒息・気胸の危険があり、右主気管支は太く短く分岐角度が小さいため誤挿入されやすい点も重要です。気泡音の聴取やpH測定は補助にとどまり、最も確実なのはエックス線による確認で、留置後も注入ごとに固定位置をチェックします。腸管が使えるなら経腸栄養を優先するという原則とあわせて、チューブ位置確認は日常診療と医療安全の基本として身につけておきたい知識です。

解答・解説

正解はeです

経鼻胃管(経鼻栄養チューブ)を用いた経管栄養を始める前に、チューブの先端が正しく胃内にあることを胸部(~上腹部)エックス線写真で確認する問題である。

チューブ位置確認の読影ポイント

胸部エックス線写真で経鼻胃管の位置を確認する際には、次の点を順に確かめる。 1. チューブが気管・気管支に入らず、食道の走行に沿って縦隔の正中付近をまっすぐ下行している(左右の主気管支へ分岐していかない)。 2. 気管分岐部(カリーナ)の高さを正中で越えている。 3. 横隔膜を正中付近で越えて腹部に達している。 4. 先端が左横隔膜下(胃泡の位置)にあり、食道胃接合部から十分(目安として約10 cm)深く入っている。途中でとぐろを巻いたり反転したりしていない。

各図の見え方

①は頸部から上縦隔で止まっており、②は下縦隔まで進んでいるが横隔膜を越えていない。いずれも先端は食道内である。③は気管分岐部付近で右下方に逸れ、右肺野へ向かっている(右気管支内に迷入)。④は横隔膜の直上付近でチューブがたわんで折り返しており、先端は下部食道にとどまる。⑤は正中を下行して横隔膜を越え、左上腹部の胃泡に一致する位置で弯曲して胃内に先端がある。 栄養剤を安全に注入できるのは、先端が胃内にある⑤だけである。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    チューブの先端が頸部~上縦隔の食道内にとどまっている。挿入長が明らかに不足しており、このまま栄養剤を注入すると咽頭へ逆流して誤嚥や誤嚥性肺炎を起こす危険がある。胃内に達するまで進めて、改めて位置を確認する必要がある。

  2. ×b.  ②

    チューブは縦隔を正中に沿って下行しており気管には入っていないが、先端は横隔膜より上、すなわち下部食道にある。この位置で注入すると、食道内に栄養剤が貯留・逆流し誤嚥を招く。横隔膜を越えて胃内まで進める必要がある。

  3. ×c.  ③

    チューブが気管に入り、気管分岐部付近から右下方へ逸れて右気管支内に先端がある。右主気管支は左に比べて太く短く、気管からの分岐角度が小さく(より垂直に近い)ため、異物やチューブが迷入しやすい。意識障害や嚥下反射・咳反射の低下した患者では、気管内に入ってもむせないことがあり、見逃されやすい。この状態で栄養剤を注入すれば重篤な肺炎や窒息を起こすため、直ちに抜去して入れ直す必要がある。細径チューブでは気胸を起こすこともある。

  4. ×d.  ④

    チューブは食道内を下行しているが、横隔膜の直上付近でたわんで折り返しており(反転・コイリング)、先端は胃に入らず下部食道にとどまっている。挿入した長さだけを見ると十分に入っているように見えても、先端が胃内にあるとは限らない典型例である。このままでは注入した栄養剤が逆流するため、いったん引き戻して挿入し直す必要がある。

  5. ○e.  ⑤

    チューブが食道に沿って正中を下行し、気管分岐部の高さを越え、横隔膜を越えて左上腹部に達している。先端は胃泡に一致する位置で胃の弯曲に沿って曲がっており、胃内に確実に留置されている。途中での反転や気管への迷入もなく、経管栄養を開始するのに適切な挿入状態である。

経腸栄養と静脈栄養の選択

経口摂取ができない、または不十分な患者への栄養投与法には、消化管を使う経腸栄養(経管栄養)と、静脈から投与する静脈栄養(末梢静脈栄養・中心静脈栄養)がある。腸管が安全に使える(腸閉塞、消化管穿孔、大量の消化管出血などがない)場合は、経腸栄養を第一選択とする。腸管を長期間使わないと腸粘膜が萎縮して腸管のバリア機能が低下し、腸内細菌やその毒素が体内に侵入するバクテリアルトランスロケーションが起こりやすくなり、敗血症などのリスクが増すためである。経腸栄養の方が生理的で、カテーテル関連血流感染などの合併症も少なく、費用も安い。

投与経路の選択

・短期間(目安としておよそ4週間以内):経鼻胃管、経鼻十二指腸・空腸チューブ ・長期間:胃瘻(PEG:経皮内視鏡的胃瘻造設術など)、腸瘻 ・胃食道逆流や誤嚥のリスクが高い場合:先端を幽門より先(十二指腸・空腸)に置く方法を考慮する

経鼻胃管の位置確認

・挿入長の目安は、鼻尖から耳朶、耳朶から剣状突起までの長さを足した長さ(NEX法)で、成人では45~55 cm程度となることが多い。 ・胃内容物の吸引とそのpH測定(酸性であれば胃内の可能性が高い)は補助的な確認法である。ただし制酸薬の内服中などでは判定が難しい。 ・空気を注入して心窩部で気泡音を聴取する方法は、気管支内や食道内でも似た音が聞こえることがあり、単独では信頼性が低い。 ・最も確実な確認法はエックス線撮影であり、特に初回の栄養開始前には撮影して先端位置を確認することが推奨される。 ・誤挿入に気付かず栄養剤を注入すると、肺炎や窒息など重大な事故につながる。医療安全上の重要事項として繰り返し注意喚起されている。

挿入時の注意

・意識障害や鎮静下、嚥下・咳反射の低下した患者では、気管への誤挿入に気付きにくい。 ・頸部を軽く前屈させると食道に入りやすい。 ・留置後も、体動や嘔吐・咳でチューブが抜けかけたり先端が食道へ戻ったりすることがあるため、注入のたびに固定位置(鼻孔部のマーキング)を確認する。

POINT

・経鼻栄養チューブの先端は胃内(左横隔膜下、胃泡の位置)になければならない。 ・先端が食道内(挿入不足や反転)なら逆流・誤嚥の危険、気管支内なら重篤な肺炎・窒息の危険があり、いずれも入れ直しが必要。 ・右主気管支は太く短く分岐角度が小さいため、誤挿入されやすい。 ・位置確認はエックス線写真が最も確実で、気泡音の聴取だけに頼らない。 ・腸管が使えるなら静脈栄養より経腸栄養を優先する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。