忙しさが終わった翌朝に―片頭痛が連れてくる「まぶしさ」と「吐き気」
第106回医師国家試験 G問題 第56問
国試問題にチャレンジ
20歳の女性。強い頭痛発作を主訴に来院した。最近の10日間は仕事で多忙であったが,2日前に一段落した。昨日の朝,目覚めたときから右側頭部が痛み始めた。痛みは急速に増悪して拍動性となり,約30分でピークに達して,立っていられなくなった。起き上がったり歩いたりすると痛みが増強した。その後,頭痛は徐々に軽減して数時間で消失した。同様の頭痛発作が3年前から年に2,3回出現するという。 この疾患の頭痛発作時に伴いやすいのはどれか。2つ選べ。
- a.鼻閉
- b.羞明
- c.悪心
- d.けいれん
- e.Horner症候群
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
若年女性で、片側性・拍動性・中等度〜重度の頭痛が日常動作で増悪し、数時間で消失する発作を繰り返す場合は片頭痛を考え、ストレスからの解放も典型的な誘因です。国際頭痛分類第3版では、発作中に悪心・嘔吐、または光過敏(羞明)と音過敏を伴うことが診断に必須であり、患者は暗く静かな場所で安静を好みます。一方、鼻閉・流涙・結膜充血・Horner症候群などの同側の自律神経症状は群発頭痛の特徴で、男性に多く、じっとしていられない点も片頭痛と対照的です。頭痛にけいれんを伴う場合は脳腫瘍や脳炎、脳静脈洞血栓症などの二次性頭痛を疑います。随伴症状と行動パターンから一次性頭痛を見分ける力は、日常診療で最も多い主訴の一つである頭痛に適切に対応するための基本となります。
解答・解説
正解はb, cです
所見の整理
・20歳の若年女性 ・仕事の多忙な時期が終わり、緊張から解放された後に発症している(ストレスからの解放は片頭痛の典型的な誘因で、いわゆる「週末片頭痛」と同じ構図である) ・起床時から右側頭部の片側性の痛みが始まり、拍動性(脈打つような痛み)となって約30分でピークに達した ・痛みが強く立っていられず、起き上がる・歩くといった日常的な動作で増悪した ・数時間で自然に消失した ・同様の発作が3年前から年に2~3回繰り返しており、計5回以上の反復がある ・発作に先立つ視覚異常などの前兆の記載はない
診断に至るプロセス
反復する発作性の頭痛で、発作間欠期には症状がないことから、一次性頭痛(脳腫瘍やくも膜下出血などの器質的疾患によらない頭痛)がまず考えられる。一次性頭痛の三大疾患は片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛である。 ・緊張型頭痛:両側性の締めつけ感・圧迫感が主体で、痛みは軽度~中等度、日常動作で悪化しない。本例の片側性・拍動性・動作で増悪する強い痛みとは合わない。 ・群発頭痛:20~40歳代の男性に多く、一側の眼窩部から側頭部にかけての激烈な痛みが15~180分続き、同側の流涙・結膜充血・鼻閉・鼻漏・Horner症候群などの自律神経症状を伴う。発作は群発期(1~2か月程度)にほぼ毎日、とくに夜間から明け方の決まった時間に起こる。痛みのため患者はじっとしていられず動き回る。本例は女性で、年2~3回の単発的な発作であり、動くと痛みが悪化して横になりたがる点も群発頭痛とは逆である。 ・片頭痛:若年女性に多く、片側性・拍動性・中等度~重度の痛みで、日常動作で増悪し、4~72時間持続する。本例の特徴はこれによく一致する。 したがって、前兆のない片頭痛と診断できる。なお、突然発症の「人生最悪の頭痛」ではなく、同じ型の発作を3年来繰り返していることから、くも膜下出血などの二次性頭痛の可能性は低い。
設問の考え方
片頭痛の発作中に随伴しやすい症状が問われている。国際頭痛分類第3版(ICHD-3)の診断基準では、頭痛発作中に「悪心または嘔吐」あるいは「光過敏および音過敏」の少なくとも一方を伴うことが必須項目とされている。この基準に含まれる症状を選べばよい。逆に、鼻閉やHorner症候群などの頭部自律神経症状は群発頭痛の特徴であり、両疾患を見分けるポイントになる。
選択肢考察
- ×a. 鼻閉
鼻閉は、痛みと同じ側に生じる頭部自律神経症状の一つで、群発頭痛に特徴的である。群発頭痛では鼻閉・鼻漏のほか、流涙、結膜充血、眼瞼浮腫、顔面の発汗などが発作側に出現する。片頭痛でもまれに軽い自律神経症状を伴うことはあるが、典型的な随伴症状とはいえず、診断基準にも含まれない。
- ○b. 羞明
羞明とは、光をまぶしく不快に感じる状態で、片頭痛の光過敏の表れである。片頭痛の発作中には光過敏・音過敏(普段は気にならない音がうるさく感じる)が高頻度にみられ、患者は暗く静かな部屋で横になりたがる。ICHD-3の診断基準でも「光過敏および音過敏」が随伴症状の一つとして挙げられている。光過敏は発作中に目立つが、発作間欠期にも軽度に残ることがある。
- ○c. 悪心
悪心は片頭痛発作に最もよく伴う症状の一つで、嘔吐に至ることもある(悪心のみで嘔吐まではしない例も多い)。三叉神経血管系の活性化が脳幹の嘔吐中枢周辺にも波及することや、発作中に胃の動きが低下することなどが関与すると考えられている。ICHD-3の診断基準でも「悪心または嘔吐」が随伴症状として挙げられている。発作中の胃内容排出の遅れは内服薬の吸収を悪くするため、制吐薬(メトクロプラミドなど)を併用することがある。
- ×d. けいれん
片頭痛の発作にけいれんは通常伴わない。例外的に、前兆のある片頭痛の前兆に引き続いててんかん発作が起こる「片頭痛前兆により誘発される痙攣発作(migralepsy)」という病態が知られているが、きわめてまれである。本例には前兆もなく、関係しない。頭痛にけいれんを伴う場合は、脳腫瘍、脳炎・髄膜炎、脳静脈洞血栓症、可逆性後頭葉白質脳症(PRES)などの二次性頭痛を疑うべきである。
- ×e. Horner症候群
Horner症候群は、眼に向かう交感神経の障害により、同側の縮瞳・眼瞼下垂・顔面の無汗を呈するものである。頭痛の文脈では群発頭痛の発作時に痛む側にみられる所見であり、片頭痛には伴わない。なお、頭痛・頸部痛に新たにHorner症候群を伴う場合は内頸動脈解離も鑑別に挙がる。
前兆のない片頭痛の診断基準(ICHD-3の要約)
A.B~Dを満たす頭痛発作が5回以上ある B.頭痛の持続時間は4~72時間(未治療または治療が無効の場合) C.以下の4項目のうち2項目以上を満たす 1.片側性 2.拍動性 3.中等度~重度の痛み 4.日常的な動作(歩行や階段昇降など)で悪化する、あるいは動作を避ける D.頭痛発作中に以下の1項目以上を満たす 1.悪心または嘔吐(あるいはその両方) 2.光過敏および音過敏 E.他の疾患によらない
前兆のある片頭痛
頭痛に先立って(あるいは頭痛と同時に)5~60分程度持続する可逆性の神経症状(前兆)が出現する。最も多いのは閃輝暗点(ギザギザした光が視野に現れて広がり、その後に暗点を残すもの)で、ほかに感覚障害(しびれ)、言語障害などがある。
片頭痛・緊張型頭痛・群発頭痛の比較
・片頭痛:若年女性に多い。片側性(両側のこともある)、拍動性、4~72時間。悪心・嘔吐、光・音過敏を伴う。動くと悪化し、安静・暗所を好む。誘因としてストレスやその解放、睡眠の過不足、月経、空腹、アルコール(赤ワイン)などがある。 ・緊張型頭痛:一次性頭痛で最も多い。両側性の締めつけ感・圧迫感、軽度~中等度で、日常動作で悪化しない。悪心は伴わず、光過敏か音過敏のどちらか一方はあってもよい。 ・群発頭痛:20~40歳代の男性に多い。一側の眼窩部を中心とした激痛が15~180分続き、群発期には連日、特に夜間~明け方に起こる。同側の流涙・結膜充血・鼻閉・鼻漏・Horner症候群などを伴い、じっとしていられず落ち着きなく動く。飲酒で誘発される。
片頭痛の治療の概要
・急性期治療:軽症~中等症ではアセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、中等症~重症ではトリプタン(セロトニン5-HT1B/1D受容体作動薬)を用いる。悪心が強ければ制吐薬を併用する。トリプタンは血管収縮作用があるため、虚血性心疾患や脳血管障害のある患者には禁忌である。 ・予防療法:発作が多い場合に行う。ロメリジン(Ca拮抗薬)、バルプロ酸、プロプラノロール(β遮断薬)、アミトリプチリンなどに加え、近年はCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)やその受容体を標的とする抗体製剤も用いられる。
POINT
・若年女性、片側性・拍動性の頭痛、日常動作で増悪、数時間~3日で消失、反復性 → 片頭痛 ・片頭痛の随伴症状:悪心・嘔吐、光過敏(羞明)・音過敏(診断基準の必須項目) ・流涙、結膜充血、鼻閉・鼻漏、Horner症候群などの同側の自律神経症状 → 群発頭痛 ・片頭痛は動くと悪化して安静を好み、群発頭痛はじっとしていられない ・頭痛にけいれんを伴うときは二次性頭痛を疑う
