産声が切り替えるスイッチ―肺血管抵抗の低下から始まる新生児循環
第106回医師国家試験 G問題 第28問
国試問題にチャレンジ
健常新生児で生後1週までに低下するのはどれか。
- a.左室拍出量
- b.肺血管抵抗
- c.肺静脈還流量
- d.大動脈拡張期血圧
- e.大動脈血酸素飽和度
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
出生後の循環変化の出発点は、第一呼吸による肺の拡張、酸素分圧の上昇、NOなどの血管拡張物質による肺血管抵抗の急激な低下で、その低下は生後数週にわたって続きます。その結果、肺血流量と肺静脈還流量が増えて左房圧が上がり卵円孔が閉じ、酸素分圧上昇とプロスタグランジンE2低下で動脈管も閉鎖して、肺循環と体循環は直列になります。左室拍出量、大動脈拡張期血圧、大動脈血酸素飽和度はいずれも出生後に上昇・増加します。この移行を理解しておくと、動脈管依存性心疾患へのプロスタグランジンE1投与、心室中隔欠損症の症状が生後数週で顕在化する理由、新生児遷延性肺高血圧症の病態を一貫して説明できます。
解答・解説
正解はbです
本問は、出生を境に起こる胎児循環から新生児(成人型)循環への移行を理解しているかを問う問題である。
胎児循環の特徴
胎児はガス交換を胎盤で行い、肺は液体で満たされて虚脱しているため、肺血管は強く収縮しており肺血管抵抗は非常に高い。右室から拍出された血液の大部分は肺を通らず、動脈管(肺動脈と大動脈をつなぐ血管)を通って大動脈へ流れる(右→左短絡)。また、胎盤から臍静脈・静脈管を経て戻った酸素化血は、右房から卵円孔を通って左房へ流れる。このため肺血流量はごくわずかで、左右の心室が並列に働いて全身へ血液を送っている。
出生後の変化
出生と同時に第一呼吸が始まると、肺胞が空気で拡張し、肺胞内酸素分圧の上昇によって低酸素性肺血管収縮が解除される。さらに一酸化窒素(NO)やプロスタサイクリンなどの血管拡張物質も働き、肺血管抵抗は急激に低下する。その後も肺小動脈の中膜平滑筋が徐々に薄くなることで、肺血管抵抗は生後数日から数週にかけてさらに下がり続ける。 一方、臍帯の結紮により低抵抗の胎盤循環がなくなるため、体血管抵抗は上昇する。肺血流の増加によって左房に戻る血液が増えて左房圧が右房圧を上回ると、卵円孔の弁が押しつけられて機能的に閉鎖する。動脈管は血中酸素分圧の上昇とプロスタグランジンE2(胎盤由来で、出生後は低下)の減少によって収縮し、正期産児では生後おおむね数日以内に機能的に閉鎖する。
考え方
以上の流れは「肺が膨らむ → 肺血管抵抗が下がる → 肺血流が増える → 左心系への還流が増える → 短絡路が閉じ、肺循環と体循環が直列になる」とまとめられる。この一連の変化の出発点で低下するのが肺血管抵抗であり、ほかの選択肢はいずれもその結果として増加(上昇)する指標である。
選択肢考察
- ×a. 左室拍出量
誤り。出生後は増加する。胎児期には左右の心室が並列に全身へ血液を送っており、左室が担うのは全体の一部にすぎなかった。出生後に短絡路が閉じると、体循環はすべて左室が担うことになる。加えて肺血流の増加により肺静脈から左房・左室へ戻る血液量(左室の前負荷)が増えること、出生直後は代謝亢進や体温維持のため酸素需要が大きいことも、左室拍出量増加の要因となる。
- ○b. 肺血管抵抗
正しい。第一呼吸で肺胞が膨らむと肺血管が物理的に広げられ、肺胞内の酸素分圧上昇により低酸素性肺血管収縮が解除され、NOなどの血管拡張物質も加わって、肺血管抵抗は出生直後から急激に低下する。その後も肺小動脈の壁が薄くなるにつれて抵抗は下がり続け、生後1週までに明らかに低下する。この低下が新生児循環への移行の起点となる。なお、新生児仮死・低酸素血症・胎便吸引症候群などでこの低下がうまく起こらないと、新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)を生じる。
- ×c. 肺静脈還流量
誤り。出生後は増加する。肺血管抵抗の低下によって、胎児期にはわずかだった肺血流量が大きく増える。肺を通過した血液は肺静脈から左房へ戻るため、肺静脈還流量も増加する。この還流増加が左房圧を上昇させ、卵円孔の機能的閉鎖をもたらす。
- ×d. 大動脈拡張期血圧
誤り。出生後は上昇する。動脈管が開いている間は、肺血管抵抗が下がるにつれて拡張期にも大動脈から肺動脈へ血液が流れ込む(左→右短絡)ため、大動脈の拡張期血圧は低めに保たれる。動脈管が閉鎖すると拡張期の流出路がなくなり、さらに臍帯結紮による体血管抵抗の上昇も加わって、大動脈拡張期血圧は上昇する。動脈管開存症で脈圧が大きくなる(拡張期血圧が下がる)ことの裏返しとして理解するとよい。
- ×e. 大動脈血酸素飽和度
誤り。出生後は上昇する。胎児期は胎盤で酸素化された血液が静脈血と混ざって体循環に入るため、大動脈血の酸素飽和度は低い。出生後は肺でガス交換が行われ、肺血流が増加し、卵円孔・動脈管を介した静脈血の混入もなくなるため、大動脈血酸素飽和度は上昇する。健常新生児では出生直後は60%前後から始まり、生後10分ほどで90%以上に達する。
胎児循環の3つの短絡路と出生後の変化
・静脈管(アランチウス管):臍静脈と下大静脈をつなぐ。臍帯結紮で血流が途絶えて閉鎖し、静脈管索となる。 ・卵円孔:右房から左房への通路。出生後、左房圧が右房圧を上回ることで機能的に閉鎖し、のちに癒着して卵円窩となる(成人の一部では癒着が不完全で卵円孔開存として残る)。 ・動脈管(ボタロー管):肺動脈から大動脈への通路。酸素分圧上昇とプロスタグランジンE2低下で収縮し、正期産児では生後数日以内に機能的に閉鎖、数週かけて器質的に閉鎖して動脈管索となる。早産児では閉鎖が遅れやすい。
出生後に変化する主な指標
低下するもの:肺血管抵抗、肺動脈圧、右室の相対的な負荷 上昇・増加するもの:体血管抵抗、肺血流量、肺静脈還流量、左房圧、左室拍出量、大動脈拡張期血圧、動脈血酸素分圧・酸素飽和度
臨床との関連
・動脈管依存性の先天性心疾患(左心低形成症候群、大動脈縮窄複合、肺動脈閉鎖など)では、動脈管の閉鎖により急激に状態が悪化するため、プロスタグランジンE1製剤で動脈管を開存させる。 ・肺血管抵抗の低下に伴い、心室中隔欠損症などの左→右短絡疾患では生後数週で短絡量が増え、心雑音や心不全症状が目立ってくる。 ・肺血管抵抗の低下が妨げられる病態が新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)であり、卵円孔・動脈管を介した右→左短絡による高度のチアノーゼを呈する。
POINT
・出生後の循環変化の起点は、肺の拡張による肺血管抵抗の急激な低下である。 ・その結果、肺血流量・肺静脈還流量・左房圧・左室拍出量・大動脈血酸素飽和度は増加(上昇)する。 ・卵円孔は左房圧上昇で、動脈管は酸素分圧上昇とプロスタグランジンE2低下で閉鎖する。 ・動脈管閉鎖と体血管抵抗上昇により大動脈拡張期血圧は上昇する。
