「満点」が語る安心―BPS 10点と胎児well-beingの見きわめ方
第106回医師国家試験 G問題 第25問
国試問題にチャレンジ
胎児が健全であることを示唆するのはどれか。
- a.羊水指数〈AFI〉1 cm
- b.胎児心拍数基線90 bpm
- c.臍帯動脈拡張期血流の途絶
- d.胎児心拍数基線細変動の消失
- e.BPS〈biophysical profile score〉10点
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
胎児well-beingは、胎児心拍数モニタリング、BPS、羊水量、ドプラ血流計測を組み合わせて評価します。BPSは胎児呼吸様運動・胎動・筋緊張・羊水量・NSTの5項目を各2点で採点する10点満点の指標で、8点以上が正常、10点は全項目正常で胎児の健全さを最も強く示します。一方、胎児心拍数基線110 bpm未満の徐脈、基線細変動の消失、臍帯動脈拡張期血流の途絶・逆流、AFI 5 cm未満の羊水過少は、いずれも低酸素や胎盤機能不全を示唆する警告サインです。急性の低酸素ではNSTや胎動などが先に失われ、羊水量の減少は慢性の胎盤機能低下を反映するという時間軸の違いも押さえておきましょう。各所見の正常範囲と病態的な意味を結びつけて理解することが、分娩時の適切な判断の土台になります。
解答・解説
正解はeです
問われていること
胎児の状態がよいこと(胎児well-being)を示す所見を選ぶ問題である。胎児の健康状態は、胎児心拍数モニタリング(CTG:cardiotocography)、超音波による羊水量や胎児の動きの観察、ドプラ法による血流評価などを組み合わせて判断する。
考え方
各選択肢に示された数値や所見が「正常範囲内か」「胎児の低酸素や胎盤機能低下を示すものか」を一つずつ確認すればよい。 ・羊水量の指標(AFI)の正常範囲は5 cm以上24 cm以下であり、1 cmは高度の羊水過少である。 ・胎児心拍数基線の正常範囲は110〜160 bpmであり、90 bpmは徐脈である。 ・臍帯動脈の拡張期血流の途絶は、胎盤側の血管抵抗が著しく高いことを示す。 ・基線細変動の消失は、胎児の低酸素・アシドーシスを疑う重要な警告サインである。 これらはすべて胎児の状態悪化を示唆する。一方、BPS(biophysical profile score)は5項目を各2点で評価する10点満点のスコアであり、10点は全項目が正常であることを意味する。したがって胎児が健全であることを示すのはBPS 10点である。
選択肢考察
- ×a. 羊水指数〈AFI〉1 cm
AFI(amniotic fluid index)は子宮内腔を4分割し、各区画で最も深い羊水ポケットの垂直径を合計した値である。正常範囲はおおむね5〜24 cmで、5 cm未満(施設により5 cm以下)を羊水過少、25 cm以上(24 cmを超えるもの)を羊水過多とする。1 cmは高度の羊水過少である。羊水の主な供給源は胎児尿であり、羊水過少は胎盤機能不全による胎児腎血流の低下(血流の再分配)、胎児の腎・尿路異常、前期破水などを示唆する。さらに臍帯圧迫を起こしやすく、胎児の状態悪化につながる。
- ×b. 胎児心拍数基線90 bpm
日本産科婦人科学会の分類では、胎児心拍数基線の正常脈は110〜160 bpmであり、110 bpm未満を徐脈(80 bpm未満は高度徐脈)、160 bpmを超えるものを頻脈とする(かつては正常を120〜160 bpmとしていた)。90 bpmは徐脈にあたり、胎児の低酸素状態や、母体の薬剤、胎児の完全房室ブロックなどを考える所見であって、健全さを示すものではない。
- ×c. 臍帯動脈拡張期血流の途絶
臍帯動脈は胎児から胎盤へ血液を送る血管であり、正常では胎盤の血管抵抗が低いため、心臓の拡張期にも前向きの血流が保たれる。胎盤の血管床が障害されて血管抵抗が高度に上昇すると、拡張期の血流が途絶(AEDV:absent end-diastolic velocity)し、さらに進むと逆流(REDV:reversed end-diastolic velocity)する。これは胎児発育不全(FGR)などでみられる重篤な胎児胎盤循環不全の所見であり、胎児死亡や予後不良のリスクが高く、娩出時期の検討が必要になる。
- ×d. 胎児心拍数基線細変動の消失
基線細変動は、胎児の自律神経(交感神経と副交感神経)が心拍数を細かく調節していることを反映する揺らぎであり、振幅6〜25 bpmの中等度が正常である。その存在は胎児の中枢神経系が低酸素に陥っていないことの目安となる。振幅が肉眼で認められない「消失」は、胎児の低酸素・アシドーシスによる中枢神経の抑制を示唆し、胎児機能不全(NRFS:non-reassuring fetal status)の最も重要な所見の一つである。特に一過性徐脈を反復する場合には急速遂娩を考慮する。なお、鎮静薬の投与や胎児の睡眠でも細変動は減少しうるが、「消失」は健全さを示す所見ではない。
- ○e. BPS〈biophysical profile score〉10点
BPSは超音波で観察する4項目(胎児呼吸様運動、胎動、胎児筋緊張、羊水量)とNST(non-stress test)の計5項目を、それぞれ正常2点・異常0点で採点する10点満点の評価法である。8〜10点は正常で胎児well-beingと判断される。10点満点は全項目が正常であることを意味し、胎児が健全であることを最も強く示す所見である。
BPS(biophysical profile score)の評価項目
30分間の観察で、各項目を正常2点・異常0点とする。 ・胎児呼吸様運動:30秒以上持続する呼吸様運動が1回以上 ・胎動:体幹や四肢の明らかな運動が3回以上 ・胎児筋緊張:四肢や体幹の伸展と屈曲(または手の開閉)が1回以上 ・羊水量:最大羊水ポケットが2 cm以上 ・NST:reactive(一定時間内に一過性頻脈を2回以上認める) 判定の目安は、8〜10点が正常、6点が境界域(再検や状況に応じた対応)、4点以下が異常(胎児の低酸素が強く疑われ、娩出を考慮)である。急性の低酸素ではNST、呼吸様運動、胎動、筋緊張の順に失われやすく、羊水量の減少は慢性的な胎盤機能低下を反映する。NSTと羊水量の2項目だけで評価する簡便法をmodified BPSという。
胎児心拍数モニタリングの基本用語
・基線:正常脈110〜160 bpm、徐脈110 bpm未満(高度徐脈80 bpm未満)、頻脈160 bpm超 ・基線細変動:消失(肉眼で認めない)、減少(5 bpm以下)、中等度(6〜25 bpm、正常)、増加(26 bpm以上) ・一過性頻脈:胎児の健常性を示す所見 ・一過性徐脈:早発・遅発・変動・遷延の4種。遅発一過性徐脈は胎盤機能不全、変動一過性徐脈は臍帯圧迫を示唆する。
羊水量の指標
・AFI:正常5〜24 cm程度、5 cm未満で羊水過少、25 cm以上で羊水過多 ・最大羊水ポケット:2 cm未満で羊水過少、8 cm以上で羊水過多
スコアの満点の比較
BPSとApgarスコアはいずれも10点満点、子宮頸管の熟化を評価するBishopスコアは13点満点である。混同しないよう整理しておくとよい。
POINT
・胎児well-beingの評価にはCTG(NST)、BPS、羊水量、ドプラ血流計測を組み合わせる。 ・BPSは5項目×2点の10点満点で、8点以上が正常である。 ・胎児心拍数基線の正常は110〜160 bpm、基線細変動の正常は6〜25 bpm(中等度)である。 ・基線細変動の消失、臍帯動脈拡張期血流の途絶・逆流、高度の羊水過少はいずれも胎児の状態悪化を示唆する。
