StudyMed医師国家試験

押すとへこむ、夕方にむくむ―心不全の浮腫は「静水圧」で読み解く

第106回医師国家試験 G問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第106回 G問題 第15問

うっ血性心不全で認められる浮腫の特徴はどれか。

  1. a.圧痕を認める。
  2. b.顔面に初発する。
  3. c.体重減少を伴う。
  4. d.左右差を認める。
  5. e.頸静脈の虚脱を伴う。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、うっ血性心不全でみられる浮腫の特徴を問う問題だ。暗記で片付けることもできるけれど、「なぜ心不全でむくむのか」という成り立ちから考えると、選択肢はすべて自然に判断できる。まずは浮腫の定義から確認しよう。浮腫とは何だったかな。
医学生医学生
間質、つまり細胞と細胞の間に水分が過剰にたまった状態ですよね。生理学の講義でスターリングの法則と一緒に習いました。
ドクタードクター
その通り。毛細血管と間質の水のやりとりはスターリングの法則で決まる。浮腫の原因は大きく4つ、毛細血管の静水圧上昇、血漿膠質浸透圧の低下、血管透過性の亢進、リンパ流の障害だ。心不全はこのうちどれに当たると思う?
医学生医学生
心臓のポンプが弱って血液が静脈側に渋滞するので、静水圧の上昇でしょうか。
ドクタードクター
正解。もう少し補うと、心拍出量が落ちると腎血流が減り、交感神経やレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が活性化する。すると腎臓がナトリウムと水をため込み、循環血液量が増える。そこに右心系の機能低下で中心静脈圧が上がり、それが全身の毛細血管の静水圧上昇として伝わる。結果、水分が間質へ押し出されるわけだ。
医学生医学生
なるほど、水分が主体の液体がたまるなら、指で押すとくぼみが残るのは当然ですね。
ドクタードクター
まさにそれが正解の選択肢、圧痕を認める、だ。蛋白の少ない水分は押すと周囲へ逃げるから、脛骨前面や足背を数秒押すとくぼみが残る。これが圧痕性浮腫だね。逆に圧痕を残さない浮腫の代表は何か知っているかな。
医学生医学生
甲状腺機能低下症の粘液水腫です。内分泌のCBT対策で出てきました。
ドクタードクター
よく覚えているね。粘液水腫ではムコ多糖類が間質にたまって水と結合するから、押してもへこまない。慢性化して線維化したリンパ浮腫も圧痕を残しにくい。では、顔面から始まるという選択肢はどうだろう。
医学生医学生
心臓が全身に関わるので、顔からむくんでもおかしくない気がしたんですが……。
ドクタードクター
そこは成り立ちを思い出そう。静水圧の上昇は重力の影響を強く受ける。だから立って過ごす人では下腿や足背から出て、夕方に悪化する。寝たきりの患者さんなら背中や仙骨部に出るんだ。顔面、特にまぶたから始まる浮腫は、急性糸球体腎炎やネフローゼ症候群といった腎性浮腫の特徴だよ。
医学生医学生
腎臓内科の実習で、朝起きたらまぶたが腫れていたという患者さんを担当しました。眼瞼は皮下組織が疎で水がたまりやすいと教わりました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。次に体重だ。体重減少を伴う、という選択肢はどう考える?
医学生医学生
ナトリウムと水をため込むのだから、むしろ体重は増えますよね。
ドクタードクター
その通り。しかも目に見える浮腫が出る前に、すでに数kgの水がたまっていることが多い。だから心不全の患者さんには毎日の体重測定をお願いするんだ。数日で2kg前後増えたら増悪を疑う目安になる。なお、重症の慢性心不全では心臓悪液質でやせることもあるけれど、それは浮腫の特徴ではない。
医学生医学生
左右差については、心不全は全身の病態なので両側対称に出る、ということでいいですか。
ドクタードクター
そう。片側だけむくんでいたら、深部静脈血栓症、リンパ節郭清後のリンパ浮腫、蜂窩織炎のような局所の原因をまず考える。最後に頸静脈の虚脱はどうかな。
医学生医学生
中心静脈圧が上がるなら、頸静脈はつぶれるどころか怒張するはずです。虚脱は脱水や出血のときの所見ですね。
ドクタードクター
完璧だ。半坐位45度で胸骨角から頸静脈拍動の頂点まで3〜4.5cmを超えれば頸静脈圧の上昇と判断する。腹部を圧迫すると怒張が増す腹部頸静脈逆流も参考になる。OSCEの身体診察でも頸静脈の観察は大事なポイントだから、練習しておくといい。
医学生医学生
ちなみに、左心不全だけでも足はむくみますか。
ドクタードクター
左心不全単独なら主に肺うっ血が前面に出て、呼吸困難や起座呼吸が目立ち、全身の浮腫は目立たないことが多い。全身の浮腫や頸静脈怒張、肝腫大、腹水は右心系のうっ血、つまり右心不全や両心不全のサインだ。臨床では、浮腫を見たら圧痕の有無、分布、左右差、体重、頸静脈をセットで確認すると、心性・腎性・肝性・局所性の鑑別がぐっと進む。治療の中心は塩分制限とループ利尿薬による体液量の管理で、体重の推移が効果判定にも役立つよ。

まとめ

うっ血性心不全の浮腫は、腎でのナトリウム・水貯留と中心静脈圧上昇による毛細血管静水圧の上昇で生じ、水分主体であるため圧痕性浮腫となります。重力のかかる下腿・足背(臥床時は仙骨部・背部)から両側対称に出現し、体重増加と頸静脈怒張を伴うのが特徴です。顔面・眼瞼から始まる浮腫は腎性浮腫、片側性の浮腫は深部静脈血栓症やリンパ浮腫などの局所原因、非圧痕性浮腫は粘液水腫、頸静脈虚脱は循環血液量減少を示唆します。浮腫を成因から理解し、圧痕・分布・左右差・体重・頸静脈を組み合わせて評価する姿勢は、日常診療での浮腫の鑑別と心不全管理の基本になります。

解答・解説

正解はaです

浮腫とは、組織の間質(細胞と細胞の間の空間)に水分が過剰にたまった状態である。毛細血管と間質との水分のやりとりはスターリングの法則で決まり、浮腫の成因は主に次の4つに整理される。 (1) 毛細血管内の静水圧の上昇(心不全、静脈閉塞) (2) 血漿膠質浸透圧の低下(低アルブミン血症: ネフローゼ症候群、肝硬変、低栄養) (3) 血管透過性の亢進(炎症、アレルギー) (4) リンパ流の障害(リンパ浮腫) うっ血性心不全では、心拍出量が低下すると腎血流が減る。それに加えて、交感神経系やレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が活性化するため、腎臓でナトリウム(塩分)と水が再吸収され、体内にため込まれる。その結果、循環血液量が増える。さらに右心系の機能低下により中心静脈圧が上がり、それが毛細血管の静水圧上昇として全身に伝わる。こうして間質に水分が漏れ出し、浮腫が生じる。 したがって、心不全の浮腫には次の特徴がある。 ・間質にたまるのは水分主体の液体で、指で押すとくぼみ(圧痕)が残る。 ・重力の影響で身体の低い部位(下腿、足背、臥床患者では背部・仙骨部)から出現する。 ・両側性・対称性である。 ・体液の貯留により体重が増える。 ・右心系の圧上昇を反映して、頸静脈が怒張する。 以上から、「圧痕を認める」とする a が正しい。

選択肢考察

  1. ○a.  圧痕を認める。

    正しい。うっ血性心不全の浮腫は、静脈圧の上昇と体液量の増加により、蛋白の少ない水分が間質に増えることで生じる。水分は指で押すと周囲へ移動するため、脛骨前面や足背を数秒間圧迫するとくぼみが残る。これを圧痕性浮腫(pitting edema)という。一方、圧痕を残さない非圧痕性浮腫(non-pitting edema)の代表は、甲状腺機能低下症による粘液水腫である。粘液水腫では、ムコ多糖類(グリコサミノグリカン)が間質にたまり、水分と結合するため圧痕を残さない。慢性化して線維化したリンパ浮腫も、圧痕を残しにくい。なお、圧痕の戻りが速い(おおむね40秒未満)浮腫は低アルブミン血症を、戻りが遅い浮腫は心不全などの静水圧上昇を示唆するとされる。

  2. ×b.  顔面に初発する。

    誤り。心不全の浮腫は、静水圧の上昇と体液の貯留によるもので、重力の影響を強く受ける。そのため、立位や座位で過ごす患者では下腿前面や足背から出現しやすく、夕方に増悪する。臥床している患者では背部や仙骨部にみられる。顔面、特に眼瞼(まぶた)から始まる浮腫は、急性糸球体腎炎やネフローゼ症候群などの腎性浮腫に特徴的である。これは、眼瞼の皮下組織が疎で水分がたまりやすく、臥床中の就寝後に目立つためである。

  3. ×c.  体重減少を伴う。

    誤り。心不全ではナトリウムと水が体内に貯留するため、体重は増加する。肉眼で浮腫がはっきりわかる前に、数kgの体液が貯留していることが多い(顕性の浮腫が出現するには、間質液が数L増加する必要があるとされる)。そのため、日々の体重測定は心不全の悪化を早く見つけるための重要な指標である。短期間(数日)で2 kg前後の体重増加があれば、増悪を疑う目安とされる。なお、重症の慢性心不全では、骨格筋や脂肪が減少する心臓悪液質をきたすことがある。しかしこれは浮腫の特徴ではない。

  4. ×d.  左右差を認める。

    誤り。心不全は全身の静脈圧が上がる全身性の病態であるため、浮腫は両側性で、左右対称に出現する。片側だけの浮腫や明らかな左右差がある場合は、局所の原因を考える。例えば、深部静脈血栓症などの静脈の閉塞、腫瘍や手術(リンパ節郭清)によるリンパ管の閉塞(リンパ浮腫)、蜂窩織炎などの炎症、下肢静脈瘤などである。

  5. ×e.  頸静脈の虚脱を伴う。

    誤り。全身の浮腫をきたすのは、右心不全(左心不全に続いて起こる両心不全を含む)で体静脈がうっ血する場合である。このとき中心静脈圧が上昇し、頸静脈は怒張する。半坐位(45度)で胸骨角から頸静脈拍動の頂点までの高さが3~4.5 cmを超えれば、頸静脈圧の上昇と判断される。腹部を圧迫すると頸静脈の怒張が増強する腹部頸静脈逆流(hepatojugular reflux)も参考になる。頸静脈の虚脱は、脱水や出血などによる循環血液量の減少を示す所見である。なお、左心不全単独では、主に肺うっ血(呼吸困難、起座呼吸)をきたし、全身の浮腫は目立たない。

浮腫の鑑別の整理

・全身性浮腫: 心性(心不全)、腎性(ネフローゼ症候群、急性糸球体腎炎、腎不全)、肝性(肝硬変)、栄養障害性(低アルブミン血症)、内分泌性(甲状腺機能低下症)、薬剤性(カルシウム拮抗薬、NSAIDs、グリタゾン系薬、ステロイドなど)、特発性浮腫。 ・局所性浮腫: 深部静脈血栓症、静脈瘤、リンパ浮腫、炎症(蜂窩織炎)、血管性浮腫(クインケ浮腫)。

性状による鑑別

・圧痕性浮腫: 心不全、腎疾患、肝硬変、低栄養、静脈性浮腫など、水分が主体の浮腫。 ・非圧痕性浮腫: 甲状腺機能低下症(粘液水腫)、慢性期のリンパ浮腫など。

部位による鑑別

・下腿・足背(臥床時は仙骨部・背部)から始まる → 心不全など、静水圧の上昇によるもの。 ・眼瞼・顔面から始まる → 腎性浮腫(急性糸球体腎炎、ネフローゼ症候群)。 ・腹水が目立つ → 肝硬変(門脈圧の亢進と低アルブミン血症)。

心不全の徴候の整理

・左心不全(肺うっ血・低心拍出): 労作時の息切れ、起座呼吸、発作性夜間呼吸困難、湿性ラ音、III音、低心拍出による易疲労感・四肢の冷感。 ・右心不全(体静脈うっ血): 頸静脈の怒張、下腿浮腫、肝腫大、腹水、胸水、体重増加、食欲不振(消化管のうっ血)。 心不全による浮腫の治療の中心は、塩分制限とループ利尿薬などによる体液量の管理である。

POINT

・心不全の浮腫: 圧痕性、両側性・対称性、重力のかかる部位(下腿・足背、臥床時は仙骨部)から出現、体重増加、頸静脈の怒張を伴う。 ・非圧痕性浮腫の代表は甲状腺機能低下症(粘液水腫)である。 ・顔面・眼瞼から始まる浮腫は腎性浮腫を考える。 ・片側性の浮腫は局所の原因(深部静脈血栓症、リンパ浮腫、炎症)を考える。 ・頸静脈の虚脱は循環血液量の減少(脱水・出血)を示す。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。