StudyMed医師国家試験

膜を通れるか、通れないか―ホルモンの「性質」が決める受容体の居場所

第106回医師国家試験 E問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第106回 E問題 第8問

細胞膜の受容体に結合して作用するのはどれか。

  1. a.インスリン
  2. b.アルドステロン
  3. c.テストステロン
  4. d.プロゲステロン
  5. e.トリヨードサイロニン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、ホルモンが細胞のどこにある受容体に結合して働くかを問う基礎的な問題だ。着眼点はただひとつ、そのホルモンが水に溶けやすいのか、脂に溶けやすいのか。これが分かれば、受容体が細胞膜にあるのか細胞の中にあるのかが自然に決まるんだ。
医学生医学生
生理学の講義で「ペプチドは膜、ステロイドは核」と丸暗記した覚えがあります。でも理由までは説明できないかもしれません。
ドクタードクター
理由は細胞膜の構造にある。細胞膜は脂質二重層だから、脂溶性の分子はすり抜けられるけれど、水溶性で大きなペプチドやタンパク質は通り抜けられない。だから水溶性ホルモンは細胞の表面にある膜受容体に「ノック」して情報を伝え、脂溶性ホルモンは細胞の中まで入り込んで受容体に結合する、という分担になっているんだ。
医学生医学生
なるほど、通れないから外で受け取るしかないんですね。選択肢を見ると、ステロイドが3つ並んでいるのはすぐ分かりました。
ドクタードクター
いいね。アルドステロン、テストステロン、プロゲステロンはどれもコレステロールを原料に作られるステロイドホルモンで、脂溶性だ。細胞内に入って受容体と結合し、その複合体が転写因子としてDNAに結合して遺伝子の発現を調節する。アルドステロンなら腎集合管でENaCやNa+/K+-ATPaseを増やしてNa+再吸収を促す、という具合だね。
医学生医学生
テストステロンはそのまま作用するんでしたっけ。泌尿器科の講義で5α還元酵素の話が出た気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。テストステロンはそのままでも、あるいは5α還元酵素でより強力なジヒドロテストステロンに変換されてから、核内受容体であるアンドロゲン受容体に結合する。前立腺肥大症の治療薬に5α還元酵素阻害薬があるのはこのためだ。プロゲステロンも同様に核内受容体を介して、子宮内膜の分泌期変化や妊娠維持、基礎体温の上昇をもたらす。
医学生医学生
残りはインスリンとトリヨードサイロニンですね。トリヨードサイロニンはアミノ酸由来だから、水溶性で膜受容体かと思ったんですが……。
ドクタードクター
そこがこの問題最大のひっかけだ。甲状腺ホルモンはチロシンから作られるけれど、ヨウ素がついた芳香環を2つ持つ構造のため脂溶性が高い。細胞膜のトランスポーターで取り込まれたあと、もともと核内にある甲状腺ホルモン受容体に結合して転写を調節する。つまりステロイドと同じ核内受容体グループなんだ。
医学生医学生
アミノ酸由来でも、カテコールアミンは膜受容体でしたよね。同じチロシン由来なのに違うのが紛らわしいです。
ドクタードクター
その通りで、アドレナリンやノルアドレナリンは水溶性だからGタンパク質共役型の膜受容体に結合する。「原料」ではなく「性質」で考えるのがコツだね。そして残るインスリンが正解だ。膵島β細胞から分泌される、A鎖とB鎖からなるペプチドホルモンで、細胞膜を通れない。
医学生医学生
インスリン受容体は受容体型チロシンキナーゼでしたね。CBTの勉強で、GLUT4が細胞膜に移動する流れを図に描いて覚えました。
ドクタードクター
完璧だ。インスリンが結合するとβ鎖が自己リン酸化され、IRSからPI3K–Akt経路が活性化される。その結果、筋や脂肪ではGLUT4が細胞膜へ移動してブドウ糖を取り込み、肝ではグリコーゲン合成が進み糖新生が抑えられる。受容体自体が酵素活性を持つタイプだね。
医学生医学生
膜受容体にもいくつか種類があるということですか。
ドクタードクター
そう、整理しておこう。TSHやLH、ACTH、PTH、グルカゴン、バソプレシン、カテコールアミンはGタンパク質共役型でcAMPやIP3/Ca2+を使う。インスリンやIGF-1は受容体型チロシンキナーゼ。GHやプロラクチン、エリスロポエチンはJAK-STAT経路を使うサイトカイン受容体型。ANPやBNPはグアニル酸シクラーゼ型でcGMPを介する。
医学生医学生
作用の速さも違うんですよね。膜受容体はセカンドメッセンジャーですぐ効くけど、核内受容体は遺伝子の転写からなので時間がかかる、と。
ドクタードクター
その理解でいい。膜受容体系は秒から分単位、核内受容体系は時間単位で効果が現れるのが一般的だ。臨床でも、例えばステロイドを投与してから抗炎症作用が十分に出るまでに時間がかかる、といった感覚につながる。ちなみに核内受容体の仲間には、活性型ビタミンDやレチノイン酸も含まれるから一緒に覚えておこう。
医学生医学生
脂溶性はステロイド、甲状腺ホルモン、活性型ビタミンD、それ以外のペプチドとカテコールアミンは膜受容体、とまとめれば迷わなそうです。
ドクタードクター
それで十分戦える。受容体の種類を理解しておくと、薬理や内分泌疾患の病態を学ぶときにも、なぜその薬がその経路に効くのかが見えてくるはずだよ。

まとめ

ホルモンの受容体の場所は、ホルモンが脂質二重層である細胞膜を通過できるかどうかで決まります。インスリンなどのペプチドホルモンやカテコールアミンは水溶性で膜を通れないため細胞膜受容体に結合し、インスリン受容体は受容体型チロシンキナーゼとしてPI3K–Akt経路を介しGLUT4の膜移動などを起こします。一方、アルドステロン・テストステロン・プロゲステロンなどのステロイドホルモン、甲状腺ホルモン、活性型ビタミンDは脂溶性で細胞内に入り、核内受容体に結合して遺伝子転写を調節します。甲状腺ホルモンはアミノ酸由来でも脂溶性で核内受容体を介する点が頻出のひっかけであり、「原料」ではなく「性質」で考えることが重要です。受容体の分類と作用発現の速さの違いを押さえておくと、内分泌疾患の病態や薬理の理解の土台になります。

解答・解説

正解はaです

問われていること

ホルモンがどこにある受容体に結合して作用を発揮するか、つまり「細胞膜受容体」と「核内受容体(細胞内受容体)」の区別を問う問題である。

考え方

受容体の場所は、ホルモンが細胞膜(脂質二重層)を通り抜けられるかどうかで決まる。 ・水溶性ホルモン(ペプチド・タンパク質ホルモン、カテコールアミンなど):脂質二重層を通過できないため、細胞表面の膜受容体に結合する。結合の情報は、受容体自身の酵素活性(チロシンキナーゼなど)やGタンパク質とセカンドメッセンジャー(cAMP、Ca2+など)を介して細胞内に伝えられる。作用の発現は速い(秒〜分単位)。 ・脂溶性ホルモン(ステロイドホルモン、甲状腺ホルモン、活性型ビタミンD):細胞膜を通過して細胞内に入り、細胞質または核に存在する核内受容体スーパーファミリーの受容体に結合する。ホルモンと結合した受容体は転写因子としてDNAの特定配列に結合し、標的遺伝子の転写を調節する。作用の発現は比較的遅い(時間単位)。 選択肢のうち、ペプチドホルモンはインスリンのみである。アルドステロン、テストステロン、プロゲステロンはステロイドホルモン、トリヨードサイロニン(T3)は甲状腺ホルモンであり、いずれも核内受容体を介して作用する。したがって正解はインスリンである。

選択肢考察

  1. ○a.  インスリン

    インスリンは膵Langerhans島のβ細胞から分泌される、A鎖(21アミノ酸)とB鎖(30アミノ酸)からなるペプチドホルモンで、水溶性のため細胞膜を通過できない。標的細胞(肝細胞、筋細胞、脂肪細胞など)の細胞膜にあるインスリン受容体に結合する。インスリン受容体はα鎖2本とβ鎖2本からなる受容体型チロシンキナーゼで、インスリンの結合によりβ鎖が自己リン酸化され、IRS(インスリン受容体基質)のリン酸化を起点に PI3K–Akt 経路などが活性化される。その結果、筋・脂肪細胞ではGLUT4が細胞膜へ移動してブドウ糖の取り込みが促進されるほか、グリコーゲン合成や脂肪合成の促進、糖新生の抑制が起こる。

  2. ×b.  アルドステロン

    アルドステロンは副腎皮質球状層で産生される鉱質コルチコイドで、コレステロールを原料とするステロイドホルモンである。脂溶性で細胞膜を通過し、細胞質にある鉱質コルチコイド受容体(MR)に結合すると、複合体が核内へ移行して遺伝子転写を調節する(核内受容体)。腎集合管の主細胞では上皮型Na+チャネル(ENaC)やNa+/K+-ATPaseの発現を増やし、Na+再吸収とK+・H+排泄を促進する。細胞膜受容体を介して作用するホルモンではない。

  3. ×c.  テストステロン

    テストステロンは主に精巣Leydig細胞で産生される男性ホルモン(アンドロゲン)で、ステロイドホルモンである。細胞内に入り、そのまま、あるいは5α還元酵素によってより強力なジヒドロテストステロン(DHT)に変換されてから、核内受容体であるアンドロゲン受容体に結合し、遺伝子転写を介して男性化作用や蛋白同化作用を示す。細胞膜受容体を介するホルモンではない。

  4. ×d.  プロゲステロン

    プロゲステロン(黄体ホルモン)は主に卵巣の黄体と妊娠中の胎盤で産生されるステロイドホルモンである。主作用は核内受容体であるプロゲステロン受容体を介した遺伝子転写調節であり、子宮内膜の分泌期変化、妊娠の維持、基礎体温の上昇(体温上昇作用)などをもたらす。したがって細胞膜受容体を介して作用するホルモンとはいえない。

  5. ×e.  トリヨードサイロニン

    トリヨードサイロニン(T3)は甲状腺ホルモンで、アミノ酸(チロシン)由来だが、ヨウ素を含む芳香環構造のため脂溶性が高く、ステロイドホルモンと同様に核内受容体を介して作用する。甲状腺から主に分泌されるのはサイロキシン(T4)で、末梢組織で脱ヨウ素酵素によりT4から活性の高いT3に変換される。T3は細胞膜のトランスポーターで細胞内に取り込まれ、核内の甲状腺ホルモン受容体(TR)に結合して、基礎代謝の亢進や成長・発達に関わる遺伝子の転写を調節する。細胞膜受容体を介するホルモンではない。

ホルモンの化学的分類と受容体の場所

1. 細胞膜受容体を介するもの(水溶性) ・ペプチド・タンパク質ホルモン:視床下部ホルモン(TRH、CRH、GnRHなど)、下垂体前葉ホルモン(GH、ACTH、TSH、LH、FSH、プロラクチン)、下垂体後葉ホルモン(バソプレシン、オキシトシン)、膵ホルモン(インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン)、副甲状腺ホルモン(PTH)、カルシトニン、消化管ホルモン(ガストリン、セクレチン、コレシストキニンなど)、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)など ・アミン型ホルモンのうちカテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドパミン) 2. 核内受容体を介するもの(脂溶性) ・ステロイドホルモン:糖質コルチコイド(コルチゾール)、鉱質コルチコイド(アルドステロン)、性ホルモン(テストステロン、エストロゲン、プロゲステロン) ・甲状腺ホルモン(T3、T4) ・活性型ビタミンD(1,25-(OH)2D3) ・レチノイン酸(ビタミンA誘導体)

膜受容体の主な種類

・Gタンパク質共役型受容体(7回膜貫通型):TSH、LH、FSH、ACTH、PTH、グルカゴン、バソプレシン、カテコールアミンなど。cAMPやイノシトール三リン酸(IP3)/Ca2+をセカンドメッセンジャーとする。 ・受容体型チロシンキナーゼ:インスリン、IGF-1(インスリン様成長因子-1)など。 ・サイトカイン受容体型(JAK-STAT経路):GH、プロラクチン、エリスロポエチンなど。 ・グアニル酸シクラーゼ型:ANP、BNP(cGMPを介する)。

補足

核内受容体のうち、糖質・鉱質コルチコイド受容体やアンドロゲン受容体はホルモンが結合する前は主に細胞質にあり、結合後に核へ移行する。一方、甲状腺ホルモン受容体はもともと核内に存在する。いずれも「核内受容体スーパーファミリー」に属する。

POINT

・水溶性ホルモン(ペプチドホルモン、カテコールアミン)は細胞膜受容体に結合する。 ・脂溶性ホルモン(ステロイドホルモン、甲状腺ホルモン、活性型ビタミンD)は核内受容体に結合し、遺伝子転写を調節する。 ・甲状腺ホルモンはアミノ酸由来だが核内受容体を介する点が頻出のひっかけである。 ・インスリン受容体は受容体型チロシンキナーゼである。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。