胃から肺へ―帯グラフが映す日本人男性のがん死亡40年の変化
第106回医師国家試験 E問題 第68問
国試問題にチャレンジ
我が国における男性の悪性新生物死亡数割合(部位別)の推移を下に示す。 ①と④の部位の組合せで正しいのはどれか。 ① ④ a 胃 膵臓 b 胃 大腸 c 胃 肺 d 膵臓 胃 e 膵臓 大腸 f 膵臓 肺 g 大腸 胃 h 大腸 膵臓 i 大腸 肺 j 肺 胃 k 肺 膵臓 l 肺 大腸

- a.胃膵臓
- b.胃大腸
- c.胃肺
- d.膵臓胃
- e.膵臓大腸
- f.膵臓肺
- g.大腸胃
- h.大腸膵臓
- i.大腸肺
- j.肺胃
- k.肺膵臓
- l.肺大腸
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
我が国の男性のがん死亡では、かつて胃癌が4割以上を占めて首位でしたが、食塩摂取の減少、ヘリコバクター・ピロリ感染率の低下、検診による早期発見などにより割合は大きく低下しました。代わって、過去の高い喫煙率と高齢化を背景に肺癌が増え続け、1993年に胃癌を抜いて男性のがん死亡の第1位となりました。肝癌はC型肝炎ウイルス感染者の高齢化により1990年代まで増加したのち減少し、大腸癌は一貫して増加して近年は男性の第2位、女性では第1位となっています。がん死亡数の増加の主因は高齢化であり、年齢調整死亡率はむしろ低下傾向にある点も重要です。部位ごとの推移をその背景にある危険因子や予防策と結びつけて理解することは、統計問題を解く力だけでなく、禁煙指導や検診の意義を患者さんに説明する力にもつながります。
解答・解説
正解はcです
グラフの読み取り
図は1970年(昭和45年)から2008年(平成20年)までの、我が国の男性の悪性新生物(がん)死亡数に占める部位別の割合を帯グラフで示したものである。 ・①:1970年には40%を超え圧倒的な第1位であったが、一貫して大きく減少し、2008年には約16%まで低下している。 ・④:1970年には約10%にすぎなかったが、一貫して増加し、2008年には20%を超えて最も大きな割合を占めている。 ・②③⑤:いずれも10%前後以下で、①④ほど大きな変化はない。
考え方
我が国の男性のがん死亡について押さえるべき事実は次のとおりである。 1. かつて日本人のがん死亡の中心は胃癌であり、男性では1970年当時がん死亡の4割以上を占めていた。その後、割合は大きく低下した。 2. 肺癌は高齢化と喫煙の影響で増加を続け、1993年に胃癌を抜いて男性のがん死亡の第1位となり、現在もその座にある。 これを図に当てはめると、1970年に首位で大きく減少している①が胃、1970年には少なかったが増え続けて2008年に首位となった④が肺である。よって①胃・④肺の組合せが正しい。 残る②③⑤については、2008年時点の男性のがん死亡は多い順に肺、胃、肝臓、大腸、膵臓であり、肝癌はC型肝炎ウイルス感染者の高齢化により1990年代まで増加したのち減少に転じたこと、大腸癌は一貫して増加してきたこと、膵癌は割合は小さいが緩やかに増えていることから、②が肝臓、⑤が大腸、③が膵臓に当たると考えられる。ただし本問で問われているのは①と④であり、「最も大きく減った部位」と「最も大きく増えた部位」を見抜けば解答できる。
選択肢考察
- ×a. 胃膵臓
①を胃とする点は正しい。しかし膵癌は男性のがん死亡の数%程度を占めるにすぎず、1970年の約10%から2008年には20%を超えて首位となった④には当たらない。誤りである。
- ×b. 胃大腸
①を胃とする点は正しい。大腸癌は増加傾向にあるが、2008年時点の男性の割合は約1割であり、20%を超えて首位となった④には当たらない。誤りである。
- ○c. 胃肺
①は1970年に40%以上を占めて首位だったものが大きく減少しており、胃癌の推移と一致する。胃癌死亡の割合低下には、冷蔵庫の普及などによる食塩・塩蔵食品の摂取減少、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)感染率の低下、胃がん検診(X線・内視鏡)の普及と診断技術の向上による早期発見・早期治療が寄与している。④は約10%から増え続けて2008年に首位となっており、肺癌の推移と一致する。肺癌の増加には人口の高齢化と、過去の高い喫煙率の影響が大きい。よってこの組合せが正しい。
- ×d. 膵臓胃
膵癌が男性のがん死亡の40%以上を占めたことはなく、①には当たらない。また胃癌は割合が減少しており、増加し続けて首位となった④にも当たらない。①と④の性質がともに合わず誤りである。
- ×e. 膵臓大腸
膵癌は1970年に40%以上を占めた①ではなく、大腸癌も2008年に首位となった④ではない。いずれも誤りである。
- ×f. 膵臓肺
④を肺とする点は正しいが、①を膵臓とする点が誤りである。1970年に男性のがん死亡の4割以上を占めていたのは胃癌であり、膵癌の割合は数%程度にすぎない。
- ×g. 大腸胃
大腸癌は増加傾向にある部位であり、1970年に首位で大きく減少した①には当たらない。胃癌は減少している部位であり、増加して首位となった④にも当たらない。増減が逆で誤りである。
- ×h. 大腸膵臓
大腸癌は1970年に40%以上を占めた①ではなく、膵癌も2008年に20%を超えて首位となった④ではない。いずれも誤りである。
- ×i. 大腸肺
④を肺とする点は正しいが、①を大腸とする点が誤りである。大腸癌は食生活の欧米化などを背景に増加してきた部位であり、1970年に首位で以後大きく減少した①の推移とは逆である。
- ×j. 肺胃
①と④を入れ替えた組合せである。1970年に首位で大きく減少したのが胃(①)、増加を続けて2008年に首位となったのが肺(④)であり、逆になっているため誤りである。
- ×k. 肺膵臓
肺癌は1970年時点では約1割であり、4割以上を占めた①には当たらない。膵癌も④ほど大きな割合を占めることはない。いずれも誤りである。
- ×l. 肺大腸
肺癌は増加し続けた部位であり、大きく減少した①には当たらない。大腸癌も増加傾向ではあるが、2008年時点で首位となった④ではない。誤りである。
我が国のがん死亡の概要
・悪性新生物は1981年以降、我が国の死因の第1位である。がんによる死亡数・罹患数が増え続けている主な要因は人口の高齢化であり、年齢構成の影響を除いた年齢調整死亡率は1990年代半ばをピークに低下傾向にある。
男性の部位別がん死亡の推移
・胃癌:かつての首位。食塩摂取の減少、H. pylori感染率の低下、検診による早期発見などにより、割合・年齢調整死亡率とも大きく低下した。 ・肺癌:1993年に胃癌を抜いて男性の第1位となり、現在も第1位である(男女計でも第1位)。喫煙が最大の危険因子である。 ・肝癌:主因はC型・B型肝炎ウイルスの持続感染である。C型肝炎ウイルス感染者の高齢化を背景に1990年代まで増加したが、その後は減少している。近年は非ウイルス性(アルコール性、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患など)の割合が増えている。 ・大腸癌:食生活の欧米化などを背景に増加してきた。近年の男性の部位別がん死亡では、肺に次ぐ第2位となっている。 ・膵癌:早期発見が難しく予後不良であり、死亡数は増加を続けている。
参考:女性
女性の部位別がん死亡の第1位は大腸癌であり、肺、膵臓、乳房、胃がこれに続く。女性で最も罹患の多いがんは乳癌である。
POINT
・男性のがん死亡で、かつての首位は胃癌であり、その割合は大きく減少した。 ・肺癌は1993年に胃癌を抜いて男性のがん死亡の第1位となった。 ・「大きく減った部位=胃」「大きく増えて首位になった部位=肺」と読めれば解ける。 ・がん死亡数の増加の主因は高齢化であり、年齢調整死亡率はむしろ低下傾向にある。
