エストロゲンはどこへ帰る?―視床下部へのフィードバックで読み解く性周期の司令塔
第106回医師国家試験 E問題 第20問
国試問題にチャレンジ
エストロゲンが主に作用する部位はどれか。
- a.視床下部
- b.下垂体後葉
- c.副甲状腺
- d.膵島
- e.副腎皮質
対話形式の解説
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ドクターまとめ
エストロゲンは卵巣の発育卵胞で産生され、子宮内膜・腟・乳腺・骨・肝臓などの末梢臓器に作用する一方、視床下部と下垂体前葉にフィードバックをかけてGnRHやゴナドトロピンの分泌を調節します。通常は負のフィードバックとして働きますが、卵胞期後期に高濃度のエストロゲンが持続すると正のフィードバックに転じ、LHサージから排卵が起こります。フィードバックの対象はゴナドトロピンを分泌する下垂体前葉であり、バソプレシンやオキシトシンを放出する後葉ではない点に注意が必要です。副甲状腺・膵島・副腎皮質はそれぞれ血中カルシウム、血糖、ACTHなどで主に調節され、エストロゲンの主な作用部位ではありません。視床下部-下垂体-卵巣系のフィードバックを理解することは、性周期や閉経後のホルモン変化、ホルモン製剤の使い方を考える基礎になります。
解答・解説
正解はaです
エストロゲン(卵胞ホルモン)は主に卵巣の発育卵胞(顆粒膜細胞)で産生されるステロイドホルモンで、代表はエストラジオール(E2)である。作用部位は大きく二つに分けて整理するとよい。 1. 末梢の標的臓器:子宮内膜の増殖、子宮頸管粘液の増量、腟上皮の角化・増殖、乳管の発育、骨吸収の抑制(骨量維持)、肝臓でのHDLコレステロール増加・凝固因子やSHBG(性ホルモン結合グロブリン)などの蛋白合成促進など 2. 中枢(内分泌調節系):視床下部および下垂体前葉へのフィードバック作用 本問の選択肢はすべて内分泌器官であり、このうちエストロゲンが主要な標的として作用するのは、視床下部-下垂体-卵巣系(HPO軸)の最上位に位置する視床下部である。視床下部から分泌されるGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)は下垂体前葉に作用してFSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体形成ホルモン)の分泌を促し、これらが卵巣に作用してエストロゲン産生が高まる。産生されたエストロゲンは視床下部(および下垂体前葉)に戻ってGnRH・ゴナドトロピン分泌を調節する。この仕組みを理解していれば、正解を選ぶことができる。
選択肢考察
- ○a. 視床下部
視床下部は間脳の最下部に位置し、GnRHを分泌して下垂体前葉のゴナドトロピン(FSH・LH)分泌を制御する。エストロゲンは視床下部にフィードバックをかける。通常の濃度では負のフィードバックとしてGnRH・ゴナドトロピン分泌を抑制するが、卵胞期後期に高濃度(おおむね200 pg/mL以上)のエストロゲンが一定期間(約2日間)持続すると正のフィードバックに転じ、LHサージを誘発して排卵が起こる。したがって視床下部はエストロゲンの主要な作用部位である。
- ×b. 下垂体後葉
下垂体後葉は神経下垂体とも呼ばれ、視床下部の室傍核・視索上核で産生されたバソプレシン(抗利尿ホルモン)とオキシトシンを軸索輸送で受け取って貯蔵・分泌する部位である。エストロゲンがフィードバック作用を及ぼすのは下垂体「前葉」(ゴナドトロピン分泌細胞)であり、後葉はエストロゲンの主な作用部位ではない。オキシトシンは子宮収縮や射乳に関わるが、これは後葉ホルモン側の作用であって、エストロゲンが後葉に作用するわけではない。
- ×c. 副甲状腺
副甲状腺(上皮小体)は甲状腺の背面に通常上下2対計4個存在し、主細胞から副甲状腺ホルモン(PTH)を分泌する。PTHは骨吸収促進、腎での Ca 再吸収促進・リン排泄促進、活性型ビタミンD産生促進により血中カルシウム濃度を上昇させる。副甲状腺の分泌は主に血中 Ca 濃度によって調節されており、エストロゲンの主な作用部位ではない。なおエストロゲンは骨に直接作用して骨吸収を抑えるが、これは副甲状腺への作用ではない。
- ×d. 膵島
膵島(Langerhans島)は膵臓内に島状に散在する内分泌細胞の集塊で、α細胞(A細胞)がグルカゴン、β細胞(B細胞)がインスリン、δ細胞(D細胞)がソマトスタチン、PP細胞が膵ポリペプチドを分泌する。膵組織の大部分は消化酵素を分泌する外分泌腺であり、膵島はそのごく一部を占める。膵島の分泌は主に血糖値や消化管ホルモン、自律神経によって調節されており、エストロゲンの主な作用部位ではない。
- ×e. 副腎皮質
副腎皮質は中胚葉由来で、外側から球状層(鉱質コルチコイド:アルドステロン)、束状層(糖質コルチコイド:コルチゾール)、網状層(副腎アンドロゲン:DHEA など)の3層からなり、主に下垂体前葉のACTHやレニン-アンジオテンシン系によって調節される。副腎は性ステロイドの一部を産生する側ではあるが、エストロゲンが主に作用する標的臓器ではない。なお副腎髄質は外胚葉(神経堤)由来でカテコラミンを分泌する。
視床下部-下垂体-卵巣系(HPO軸)のまとめ
・視床下部:GnRHをパルス状に分泌し、下垂体門脈系を介して下垂体前葉に届ける ・下垂体前葉:FSH・LHを分泌 ・卵巣:FSHの作用で卵胞が発育し、顆粒膜細胞のアロマターゼによって莢膜細胞由来のアンドロゲンがエストロゲンに変換される。LHサージにより排卵が起こり、その後の黄体からはプロゲステロンとエストロゲンが分泌される ・フィードバック:エストロゲンは視床下部・下垂体前葉に負(通常時)または正(排卵前の高濃度持続時)のフィードバックをかける。卵巣からのインヒビンは下垂体前葉のFSH分泌を選択的に抑制する
エストロゲンの主な作用
・子宮内膜の増殖(増殖期)、頸管粘液の増量・透明化(牽糸性の増加) ・腟上皮の増殖・角化、乳管の発育 ・骨吸収抑制(閉経後の骨粗鬆症はエストロゲン欠乏による) ・脂質代謝:LDL低下・HDL上昇 ・肝での凝固因子・SHBG・甲状腺ホルモン結合グロブリン(TBG)などの産生増加(エストロゲン製剤で血栓症リスクが上がる理由) ・ゴナドトロピン分泌の調節(視床下部・下垂体前葉)
POINT
・エストロゲンは末梢(子宮内膜・乳腺・腟・骨・肝など)と中枢(視床下部・下垂体前葉)に作用する ・視床下部へは通常は負のフィードバック、排卵前の高濃度持続時には正のフィードバックとなりLHサージを起こす ・エストロゲンがフィードバックをかけるのは下垂体「前葉」であり、後葉(バソプレシン・オキシトシン)ではない
