StudyMed医師国家試験

かゆみが黄疸に先立つとき―抗ミトコンドリア抗体が示すPBCとウルソの役割

第106回医師国家試験 D問題 第43問

国試問題にチャレンジ

第106回 D問題 第43問

64歳の女性。皮膚の黄染を主訴に来院した。5年前から肝機能異常を指摘されていたが,自覚症状がなかったためそのままにしていた。3週前から皮膚の痒みが出現し,1週前に皮膚が黄色いことに気付いたという。服薬歴に特記すべきことはない。輸血歴はない。飲酒は機会飲酒。身長163 cm,体重57 kg。眼球結膜に黄染を認める。右肋骨弓下に肝を4 cm,左肋骨弓下に脾を3 cm触知する。血液所見:赤血球335万,Hb 10.8 g/dL,Ht 35%,白血球3,300,血小板8.5万。血液生化学所見:総蛋白7.8 g/dL,アルブミン3.2 g/dL,総ビリルビン2.8 mg/dL,直接ビリルビン1.8 mg/dL,AST 186 IU/L,ALT 148 IU/L,LD 184 IU/L(基準176~353),ALP 559 IU/L(基準115~359),γ-GTP 253 IU/L(基準8~50)。免疫学所見:CRP 2.4 mg/dL。HBs抗原陰性,HCV抗体陰性。リウマトイド因子〈RF〉陰性,抗核抗体40倍(基準20以下),抗ミトコンドリア抗体80倍(基準20以下)。  治療薬として適切なのはどれか。

  1. a.テトラサイクリン
  2. b.インフリキシマブ
  3. c.インターフェロンγ
  4. d.5-アミノサリチル酸
  5. e.ウルソデオキシコール酸

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、長く放置されていた肝機能異常の末に黄疸が出てきた中年女性の治療薬を選ぶ問題だ。まず肝障害のパターンが「肝細胞型」か「胆汁うっ滞型」かを見極め、そのうえで原因を絞り込む。自己抗体の結果が決め手になるよ。
医学生医学生
AST・ALTも上がっていますが、ALPとγ-GTPの上がり方のほうが目立ちますね。
ドクタードクター
いいところに目をつけた。胆道系酵素が優位に上がり、直接ビリルビン優位の黄疸がある。しかも黄疸より先に皮膚のかゆみが出ている。これらは胆汁うっ滞を示す典型的な流れなんだ。かゆみは皮膚に沈着した胆汁成分などが関わると考えられている。
医学生医学生
胆汁うっ滞なら、まず総胆管結石や膵頭部癌のような閉塞性黄疸を考えてしまいます。
ドクタードクター
消化器内科の実習ではまず腹部エコーで胆管拡張を見る、と教わるよね。それは正しい手順だ。ただ今回は5年来の経過があり、肝腫大や脾腫もある。慢性の肝内胆汁うっ滞を考えたい。服薬歴なし、機会飲酒、B型・C型肝炎ウイルス陰性で、薬剤性・アルコール性・ウイルス性は否定的だね。
医学生医学生
そこで抗ミトコンドリア抗体陽性……CBTの勉強で「中年女性、かゆみ、AMA」とセットで覚えた原発性胆汁性胆管炎ですね。
ドクタードクター
その通り。旧称は原発性胆汁性肝硬変で、この問題文の時代はその名前だった。今は診断時に肝硬変まで至っていない例が多いことから「胆管炎」に改められている。病理では肝内の小葉間胆管が自己免疫的に壊される、慢性非化膿性破壊性胆管炎が特徴だ。
医学生医学生
脾腫や血小板減少、アルブミン低下もあるので、かなり進んでいるということでしょうか。
ドクタードクター
そう読める。脾腫と汎血球減少は門脈圧亢進による脾機能亢進、低アルブミンは肝の合成能低下を反映する。黄疸も出ているから、症候性で進行した段階と考えられる。では治療薬だ。第一選択はウルソデオキシコール酸。どう効くか説明できるかな。
医学生医学生
胆汁の流れをよくする利胆薬、というくらいしか覚えていません。
ドクタードクター
それも大事な作用だね。加えて、ウルソデオキシコール酸は親水性の胆汁酸で、細胞を傷つけやすい疎水性の胆汁酸と置き換わって肝細胞や胆管上皮を守る。免疫調節作用もあるとされる。よく反応した人では病期の進行が抑えられ、予後の改善が期待できるんだ。
医学生医学生
ほかの選択肢を見ると、インフリキシマブと5-アミノサリチル酸は炎症性腸疾患の薬ですよね。PSCと潰瘍性大腸炎の合併を連想させるひっかけでしょうか。
ドクタードクター
鋭いね。原発性硬化性胆管炎は若年男性に多く潰瘍性大腸炎を合併しやすいけれど、今回は中年女性でAMA陽性、腸の症状もない。抗TNF-α抗体のインフリキシマブは関節リウマチやクローン病などに、メサラジンは腸粘膜に局所的に効く炎症性腸疾患の薬で、どちらもPBCの治療にはならない。
医学生医学生
インターフェロンγは、肝炎の治療に使うインターフェロンと混同しそうでした。
ドクタードクター
そこは整理しておこう。ウイルス性肝炎に使われてきたのはインターフェロンα(とβ)、多発性硬化症の再発予防はβ。γはマクロファージを活性化するので慢性肉芽腫症の感染予防などに使う。今回はウイルス性肝炎も否定されているね。テトラサイクリンは30Sリボソームに作用する抗菌薬で、そもそも感染症ではないし、大量投与では肝障害を起こしうる。
医学生医学生
選択肢の薬それぞれの適応疾患を言えれば、消去法でも解けるんですね。
ドクタードクター
そう、薬の適応を疾患とセットで覚えておくと国試ではとても強い。発展知識として、ウルソデオキシコール酸で効果が不十分な場合、日本ではベザフィブラートの併用が広く行われてきた。海外ではオベチコール酸などの二次治療薬もある。ステロイドの有効性は確立していないけれど、自己免疫性肝炎の特徴を併せもつオーバーラップ症候群では使用を考える。そして黄疸が進み非代償性肝硬変になれば肝移植の適応になる。
医学生医学生
シェーグレン症候群や橋本病の合併も多いと膠原病内科で聞きました。
ドクタードクター
よく覚えているね。乾燥症状や甲状腺機能もチェックしたい。さらに胆汁うっ滞が続くと脂溶性ビタミンの吸収が落ち、骨粗鬆症が進みやすい。高コレステロール血症や眼瞼黄色腫も見られる。肝臓だけでなく全身を診ることが、PBCの患者さんを長く支えるコツだよ。

まとめ

中年以降の女性で、皮膚瘙痒感が黄疸に先行し、ALP・γ-GTP優位の胆汁うっ滞型肝障害と抗ミトコンドリア抗体陽性を認めれば、原発性胆汁性胆管炎(PBC、旧称 原発性胆汁性肝硬変)を考えます。病理は小葉間胆管が自己免疫的に破壊される慢性非化膿性破壊性胆管炎で、進行すると脾腫・汎血球減少・低アルブミン血症など肝硬変の徴候が現れます。治療の第一選択はウルソデオキシコール酸で、利胆作用と疎水性胆汁酸の置換による細胞保護により進行抑制が期待でき、効果不十分ならベザフィブラート併用、非代償期には肝移植を検討します。インフリキシマブや5-アミノサリチル酸は炎症性腸疾患、インターフェロンγは慢性肉芽腫症、テトラサイクリンは細菌感染症の薬であり、薬と適応疾患をセットで整理することが得点力に直結します。シェーグレン症候群などの合併や骨粗鬆症にも目を配る全身管理の視点も押さえておきましょう。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・中高年女性。5年前から肝機能異常を指摘されていたが無症状で経過し、3週前から皮膚瘙痒感、1週前から黄疸が出現した。 ・胆道系酵素(ALP 559 IU/L、γ-GTP 253 IU/L)が優位に上昇し、直接ビリルビン優位の高ビリルビン血症(総ビリルビン2.8 mg/dL、直接1.8 mg/dL)を認める。瘙痒感と合わせ、胆汁うっ滞を示す所見である。 ・肝腫大と脾腫、血小板8.5万の減少、白血球減少、貧血(汎血球減少)、アルブミン3.2 g/dLへの低下、総蛋白は保たれている(グロブリン上昇を示唆)。脾腫と汎血球減少は門脈圧亢進に伴う脾機能亢進、低アルブミン血症は肝合成能の低下を示し、病変が肝硬変に近い段階まで進行していることがうかがえる。 ・原因の検索:服薬歴なし(薬物性肝障害は考えにくい)、飲酒は機会飲酒(アルコール性肝障害は否定的)、HBs抗原陰性・HCV抗体陰性(B型・C型肝炎ウイルスによる肝疾患は否定的)。 ・自己抗体:抗ミトコンドリア抗体(AMA)80倍と陽性、抗核抗体も軽度陽性。

診断

中年以降の女性、瘙痒感で始まる胆汁うっ滞型の肝障害、AMA陽性という組み合わせから、原発性胆汁性胆管炎(primary biliary cholangitis:PBC、旧称 原発性胆汁性肝硬変)と診断できる。AMAはPBCの約90%で陽性となり、診断特異性が高い。鑑別として自己免疫性肝炎(AST・ALT優位、IgG高値、抗核抗体・抗平滑筋抗体陽性)や原発性硬化性胆管炎(若年男性に多く潰瘍性大腸炎を合併、MRCPで数珠状の胆管)が挙がるが、AMA陽性と胆道系酵素優位のパターンはPBCに合致する。本例は黄疸・脾腫・汎血球減少・低アルブミン血症を伴い、症候性PBCで進行した病期にあると考えられる。

設問の考え方

PBCの薬物治療の第一選択はウルソデオキシコール酸(UDCA)である。ほかの選択肢はいずれもPBCとは別の疾患に用いる薬であり、それぞれの適応疾患を思い出せれば消去できる。

選択肢考察

  1. ×a.  テトラサイクリン

    テトラサイクリン系抗菌薬は細菌のリボソーム30Sサブユニットに結合して蛋白合成を阻害する抗菌薬で、リケッチア症、クラミジア感染症、マイコプラズマ感染症などに用いる。本例は感染症ではなく自己免疫機序による胆管障害であり、適応はない。むしろテトラサイクリンは大量投与で脂肪肝などの肝障害を起こしうる薬剤であり、肝疾患患者では注意を要する。

  2. ×b.  インフリキシマブ

    インフリキシマブは腫瘍壊死因子α(TNF-α)に対するキメラ型モノクローナル抗体で、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、ベーチェット病、乾癬などに用いる。PBCに対する有効性は確立しておらず適応はない。投与に際しては結核やB型肝炎ウイルスの再活性化に注意が必要である。

  3. ×c.  インターフェロンγ

    インターフェロンγはマクロファージ活性化作用をもつサイトカインで、慢性肉芽腫症に伴う重症感染の予防や腎細胞癌などに用いられる。PBCの治療には用いない。なお、多発性硬化症の再発予防に用いるのはインターフェロンβであり、γではない。また、B型・C型慢性肝炎の抗ウイルス療法で用いられてきたのはインターフェロンα(およびβ)であり、本例はウイルス性肝炎も否定されている。

  4. ×d.  5-アミノサリチル酸

    5-アミノサリチル酸(メサラジン)は腸管粘膜に局所的に作用して炎症を抑える薬で、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患に用いる。潰瘍性大腸炎は原発性硬化性胆管炎(PSC)と合併しやすいが、本例はAMA陽性のPBCであり、腸病変を示唆する所見もない。5-ASAはPBCの治療薬ではない。

  5. ○e.  ウルソデオキシコール酸

    ウルソデオキシコール酸(UDCA)は親水性の胆汁酸製剤で、PBC治療の第一選択薬である。胆汁分泌を促進(利胆作用)するとともに、胆汁酸プール中の細胞障害性の強い疎水性胆汁酸を置き換えて肝細胞・胆管上皮を保護し、さらに免疫調節作用も示すとされる。投与により胆道系酵素が改善し、十分に反応した例では病期進行が抑えられ、生命予後の改善が期待できる。本例のように肝硬変に近い進行例でも、まずUDCAを開始したうえで、黄疸の進行や肝不全徴候に応じて肝移植を検討する。

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の概要

・肝内の小葉間胆管が自己免疫機序により慢性的に破壊される疾患で、病理学的には慢性非化膿性破壊性胆管炎(chronic non-suppurative destructive cholangitis:CNSDC)を特徴とする。胆管消失により胆汁うっ滞が持続し、線維化が進んで最終的には肝硬変に至る。 ・かつては「原発性胆汁性肝硬変」と呼ばれたが、診断時に肝硬変に至っていない例が大部分であることから、2016年に日本でも「原発性胆汁性胆管炎」へ名称変更された(略称PBCは同じ)。 ・中年以降の女性に多い(男女比はおよそ1:7〜9)。

臨床像

・無症候性PBC:肝機能異常のみで症状がない。診断例の多くを占め、予後は比較的良好。 ・症候性PBC:皮膚瘙痒感(しばしば黄疸に先行する)、黄疸、食道胃静脈瘤、腹水、肝性脳症などを呈する。 ・胆汁うっ滞に伴う所見:脂質異常症(高コレステロール血症)と眼瞼黄色腫、脂溶性ビタミン吸収障害による骨粗鬆症など。 ・合併しやすい自己免疫疾患:シェーグレン症候群、慢性甲状腺炎(橋本病)、関節リウマチ、全身性強皮症(とくに限局皮膚硬化型、CREST症候群)など。

検査所見

・ALP、γ-GTPなど胆道系酵素の優位な上昇。 ・抗ミトコンドリア抗体(AMA、特に抗M2抗体)陽性(約90%)。 ・血清IgMの上昇。 ・抗核抗体も約半数で陽性となり、抗gp210抗体陽性例は肝不全型に進行しやすいなど、予後予測にも用いられる。

治療

・第一選択:ウルソデオキシコール酸(UDCA)。 ・UDCAで効果不十分な場合:フィブラート系薬(日本ではベザフィブラートの併用が広く行われてきた)など。海外ではオベチコール酸やPPARアゴニスト(エラフィブラノール、セラデルパル)も二次治療薬として用いられている。 ・瘙痒感に対する対症療法、脂溶性ビタミンの補充、骨粗鬆症対策。 ・非代償性肝硬変に進行し、総ビリルビン高値が持続する例では肝移植の適応となる。 ・PBCでは副腎皮質ステロイドの有効性は確立していない(自己免疫性肝炎の特徴を併せもつオーバーラップ症候群では使用を考慮する)。

POINT

・中年女性+皮膚瘙痒感+胆道系酵素(ALP・γ-GTP)優位の上昇+抗ミトコンドリア抗体陽性 → 原発性胆汁性胆管炎(PBC)。 ・PBCの第一選択薬はウルソデオキシコール酸(UDCA)。効果不十分ならベザフィブラート併用などを考慮し、非代償期には肝移植。 ・旧称は原発性胆汁性肝硬変。病理は慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)。 ・シェーグレン症候群、橋本病、強皮症などの合併に注意。 ・インターフェロンβ=多発性硬化症、抗TNF-α抗体=関節リウマチ・炎症性腸疾患、5-ASA=炎症性腸疾患と、選択肢の薬の適応も整理しておく。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。