運動後のコーラ色の尿―「潜血3+なのに赤血球がいない」が示す横紋筋融解症
第106回医師国家試験 C問題 第24問
国試問題にチャレンジ
38歳の男性。脱力を主訴に来院した。昨日,猛暑の中で1時間ジョギングをした。その後,下肢の疼痛と脱力とが出現して軽快しないため受診した。尿は昨夜から赤褐色を呈しているという。身長170 cm,体重72 kg。体温37.2℃。脈拍88/分,整。血圧136/80 mmHg。呼吸数14/分。尿所見:蛋白(±),潜血3+,沈渣に赤血球1~4 / 1視野。 病態として考えられるのはどれか。
- a.遊走腎
- b.尿路結石症
- c.坐骨神経痛
- d.横紋筋融解症
- e.下肢深部静脈血栓症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
尿潜血の試験紙はヘモグロビンのペルオキシダーゼ様活性を検出するため、ミオグロビンにも反応します。潜血強陽性なのに沈渣で赤血球がほとんどみられない場合は、真の血尿ではなくヘモグロビン尿かミオグロビン尿を考えます。猛暑下の運動などの誘因に筋痛・脱力と赤褐色尿が加われば横紋筋融解症によるミオグロビン尿が最も考えやすく、血清CKの著明な上昇で確認します。尿路結石や遊走腎では沈渣に赤血球が増え、坐骨神経痛や深部静脈血栓症では尿所見の異常は生じない点が鑑別の決め手です。横紋筋融解症では急性腎障害と高カリウム血症が重要な合併症であり、早期の十分な輸液が治療の基本となるため、尿検査の「乖離」に気づく力は救急・内科診療で直接役立ちます。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・38歳男性。猛暑の中で1時間ジョギングした後から、下肢の疼痛と脱力が続いている。 ・前夜から尿が赤褐色(コーラ色)になっている。 ・バイタルサインは概ね安定しており、体温37.2℃と軽度上昇がある程度である。 ・尿検査:潜血3+と強陽性だが、沈渣の赤血球は1~4/1視野(HPF:強拡大1視野)で、正常範囲(おおむね5個/HPF未満)にとどまる。
考え方のポイント
尿潜血の試験紙は、ヘモグロビンが持つペルオキシダーゼ様活性を検出する仕組みである。ミオグロビンもヘム蛋白で同じ活性を持つため、試験紙は赤血球(血尿)・遊離ヘモグロビン(ヘモグロビン尿)・ミオグロビン(ミオグロビン尿)のいずれにも反応する。 したがって「試験紙で潜血強陽性なのに、顕微鏡で赤血球がほとんど見えない」という乖離がある場合は、真の血尿ではなく、ヘモグロビン尿かミオグロビン尿を考える。 ヘモグロビン尿は血管内溶血(発作性夜間ヘモグロビン尿症、不適合輸血など)でみられる。一方、本例では「高温環境での運動」という筋損傷の誘因と、「下肢の筋痛・脱力」という筋症状がそろっており、骨格筋が壊れて筋細胞内のミオグロビンが血中から尿中に出たミオグロビン尿と考えるのが最も自然である。
診断
労作(運動)と高温環境を誘因とする横紋筋融解症である。確定には血清クレアチンキナーゼ(CK)の著明な上昇(一般に基準上限の5倍以上、しばしば数千~数万U/L以上)を確認する。
選択肢考察
- ×a. 遊走腎
遊走腎は、立位で腎臓が正常より大きく下方へ移動する状態で、やせ型の女性に多い。腎茎部の牽引や尿管の屈曲により、立位時の腰背部痛や、ときに顕微鏡的血尿をみることがある。血尿であれば沈渣に赤血球が多数みられるはずであり、本例の「潜血強陽性だが赤血球はほとんどない」所見と合わない。また、運動後の下肢の疼痛・脱力という症状も説明できない。
- ×b. 尿路結石症
尿路結石症では、結石が尿路粘膜を傷つけるため血尿が生じ、沈渣で赤血球が増加するのが典型である。本例は沈渣の赤血球が正常範囲であり、潜血反応との乖離がある点で合わない。また、尿路結石の疼痛は突然発症する激烈な側腹部~腰背部痛(疝痛)で、下腹部や鼠径部へ放散するのが特徴であり、両下肢の疼痛と脱力という本例の症状とは異なる。脱水は結石の誘因にはなりうるが、本例の病像全体を説明できない。
- ×c. 坐骨神経痛
坐骨神経痛は、腰椎椎間板ヘルニアなどによる坐骨神経(L4~S3由来)の圧迫・刺激で、殿部から大腿後面・下腿にかけての放散痛を生じる状態である。通常は片側性で、下肢伸展挙上(SLR)テストが陽性となる。神経の障害であって尿所見に異常は生じないため、潜血3+や赤褐色尿を説明できない。
- ○d. 横紋筋融解症
横紋筋融解症は、骨格筋細胞が壊れて、ミオグロビン、CK、カリウム、リン、尿酸などの細胞内成分が血中に流出する病態である。本例は、猛暑下での長時間の運動という典型的な誘因、運動後に続く下肢の筋痛・脱力、赤褐色尿、そして尿潜血強陽性にもかかわらず沈渣赤血球が正常範囲というミオグロビン尿を示す所見がすべてそろっており、最も考えやすい。ミオグロビンは腎尿細管障害を起こして急性腎障害(AKI)の原因となるため、早期の十分な輸液が重要である。
- ×e. 下肢深部静脈血栓症
深部静脈血栓症(DVT)は、下肢の深部静脈に血栓ができて、片側下肢の腫脹・疼痛・色調変化(発赤やチアノーゼ)などを生じる疾患である。長期臥床、手術後、悪性腫瘍、妊娠、長時間の座位などが誘因となり、健常者の短時間の運動は典型的な誘因ではない。尿潜血陽性や赤褐色尿は生じない。血栓が肺動脈に流れて肺血栓塞栓症を起こすと、突然の呼吸困難や胸痛をきたす点が重要である。
尿潜血陽性時の鑑別
・沈渣で赤血球が多数みられる(5個/HPF以上)→ 血尿(糸球体性、または腎盂・尿管・膀胱・尿道など非糸球体性) ・沈渣で赤血球がほとんどない → ヘモグロビン尿またはミオグロビン尿 ヘモグロビン尿:血管内溶血による。血漿が赤色調となり、血清ハプトグロビン低下、LD(乳酸脱水素酵素)上昇、間接ビリルビン上昇を伴う。 ミオグロビン尿:筋崩壊による。ミオグロビンは分子量が小さく(約17,000)血漿蛋白との結合も弱いため速やかに尿中へ排泄され、血漿の色は変わりにくい。血清CKが著明に上昇する。
横紋筋融解症の概要
・原因:過度の運動、熱中症、外傷・圧挫(クラッシュ症候群)、長時間の不動(意識障害で倒れていた場合など)、痙攣、薬剤(スタチン、フィブラート系薬など)、アルコール、低カリウム血症・低リン血症などの電解質異常、感染症、悪性症候群、悪性高熱症など。 ・症状:筋痛、筋力低下(脱力)、筋の腫脹、赤褐色(コーラ色)尿。 ・検査所見:血清CK著明高値、ミオグロビン高値、高カリウム血症、高リン血症、低カルシウム血症(障害筋へのカルシウム沈着による)、高尿酸血症、代謝性アシドーシス。 ・合併症:急性腎障害(ミオグロビンの尿細管毒性、尿細管内での円柱形成による閉塞、腎血管収縮による)、高カリウム血症による不整脈、コンパートメント症候群、播種性血管内凝固(DIC)。 ・治療:原因の除去と、大量の輸液による尿量確保が中心である。高カリウム血症や乏尿性の急性腎障害が高度であれば血液透析を行う。
POINT
・尿潜血強陽性なのに沈渣で赤血球が少ない → 血尿ではなく、ヘモグロビン尿かミオグロビン尿を考える。 ・運動・熱中症・外傷・薬剤などの誘因+筋痛・脱力+赤褐色尿 → 横紋筋融解症によるミオグロビン尿。 ・確認すべき検査は血清CKの著明上昇である。 ・合併症として急性腎障害と高カリウム血症が重要で、早期の十分な輸液が治療の基本となる。
