結果から原因へさかのぼる―症例対照研究の骨格をコホート研究・RCTと比べて理解する
第106回医師国家試験 C問題 第12問
国試問題にチャレンジ
症例対照研究について正しいのはどれか。
- a.結果が出るまでの観察期間が長期にわたる。
- b.症例群と対照群とに無作為に割り付ける。
- c.症例群と対照群との情報を収集する。
- d.交絡因子の影響を受けない。
- e.寄与危険度を計算できる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
症例対照研究は、疾患をもつ症例群ともたない対照群を研究者が選び出し、両群の過去の曝露情報を収集して比較する後ろ向きの観察研究です。発症を待つ必要がないため短期間・低コストで行え、まれな疾患や潜伏期の長い疾患に適していますが、無作為割り付けは行わないため交絡の影響を受け、思い出しバイアスや選択バイアスにも注意が必要です。集団の罹患率が得られないので相対危険度や寄与危険度は直接求められず、オッズ比で関連の強さを評価し、疾患がまれな場合にはオッズ比が相対危険度の近似となります。長期追跡と相対危険度・寄与危険度の算出はコホート研究、無作為化による交絡の制御はRCTの特徴であり、三つのデザインを対比して理解することが、論文を批判的に読む力の基礎になります。
解答・解説
正解はcです
問われているテーマ
疫学研究デザインのうち、症例対照研究(case-control study)の特徴を問う問題である。症例対照研究は、コホート研究・ランダム化比較試験(RCT: randomized controlled trial)と対比して整理しておくと理解しやすい。
症例対照研究の基本構造
症例対照研究では、まず「すでにその疾患にかかっている人(症例群)」と「その疾患にかかっていない人(対照群)」を研究者が選び出す。そのうえで、両群について過去にさかのぼり、原因と疑われる要因(曝露)があったかどうかを面接・質問票・診療録などで調べ、曝露の頻度を比較する。時間の流れとしては「結果(疾患)から原因(曝露)へ」と逆向きにたどるため、後ろ向き研究の代表である。
考え方
研究者が曝露を割り付けない(介入しない)観察研究であること、結果がすでに出ている人を集めるので短期間・低コストで行えること、罹患率そのものは求められないこと、の3点を押さえれば、各選択肢の正誤は判断できる。本問では、症例群と対照群の両方から曝露に関する情報を集めるという、デザインの根幹を述べた選択肢が正しい。
選択肢考察
- ×a. 結果が出るまでの観察期間が長期にわたる。
誤り。長い追跡期間が必要なのは、曝露の有無で分けた集団を将来に向かって追いかけ、疾患の発生を待つ前向きコホート研究である。症例対照研究では、すでに発症した患者を集めて過去の曝露を調べるので、発症を待つ必要がなく、比較的短い期間で結果が得られる。発生までの潜伏期間が長い疾患やまれな疾患の研究に向くのはこのためである。
- ×b. 症例群と対照群とに無作為に割り付ける。
誤り。無作為割り付け(ランダム化)を行うのは介入研究であるRCTであり、対象者を介入群と対照群にくじ引きのように振り分ける。症例対照研究では、疾患の有無という既に決まっている条件で人を分類し、研究者が症例群と対照群をそれぞれ選び出す(対照群は性・年齢などを症例にそろえるマッチングを行うことが多い)。疾患の有無を無作為に割り付けることは原理的にできない。
- ○c. 症例群と対照群との情報を収集する。
正しい。症例対照研究では、疾患をもつ症例群と、もたない対照群の双方について、過去に要因へ曝露していたかどうかの情報を集める。そして曝露者の割合(曝露オッズ)を両群で比べ、オッズ比を算出して要因と疾患の関連の強さを評価する。対照群の情報がなければ、症例群での曝露頻度が高いのか低いのかを判断できないため、両群の情報収集が研究の骨格となる。
- ×d. 交絡因子の影響を受けない。
誤り。交絡因子とは、曝露と疾患の両方に関連し、両者のあいだに見かけ上の関連を生じさせたり、真の関連を隠したりする第三の因子である(例: 飲酒と肺癌の関連を調べる際の喫煙)。症例対照研究は無作為化を行わない観察研究であるため、交絡の影響を受ける。対策として、計画段階でのマッチングや限定、解析段階での層別解析・多変量解析(ロジスティック回帰など)が用いられる。なお、既知・未知の交絡因子を両群に均等に分散させられるのは、無作為割り付けを行うRCTである。
- ×e. 寄与危険度を計算できる。
誤り。寄与危険度(attributable risk、リスク差)は「曝露群の罹患率 − 非曝露群の罹患率」で求める指標であり、罹患率が必要である。症例対照研究では症例と対照の人数を研究者が決めるため、集団における罹患率を直接求められず、寄与危険度も相対危険度も直接計算できない。代わりにオッズ比を算出し、疾患がまれな場合にはオッズ比が相対危険度の近似値となる。寄与危険度や相対危険度を直接算出できるのはコホート研究である。
主な疫学研究デザインの比較
・症例対照研究: 観察研究。疾患の有無で群を選び、過去の曝露を調べる(後ろ向き)。短期間・低コストで、まれな疾患や潜伏期の長い疾患に向く。複数の要因を同時に検討できる。指標はオッズ比。思い出しバイアス(症例は自分の病気の原因を熱心に思い出そうとするため曝露を多く申告しやすい)や、対照の選び方による選択バイアスが生じやすい。 ・コホート研究: 観察研究。曝露の有無で群を分け、将来の疾患発生を追跡する(前向きが基本。過去の記録を用いる後ろ向きコホート研究もある)。罹患率を求められるので相対危険度・寄与危険度を算出できる。時間的前後関係が明確で、一つの曝露による複数の疾患を検討できる。一方、長期間・大規模・高コストで、まれな疾患には不向き。追跡からの脱落が問題となる。 ・RCT: 介入研究。対象者を無作為に割り付けることで、既知・未知の交絡因子を群間で均等化でき、因果関係の証明力が最も高い。倫理的に有害な曝露を割り付けることはできない。
指標の整理
・相対危険度(リスク比)= 曝露群の罹患率 ÷ 非曝露群の罹患率 ・寄与危険度(リスク差)= 曝露群の罹患率 − 非曝露群の罹患率 ・オッズ比 = (症例群の曝露者数 × 対照群の非曝露者数)÷(症例群の非曝露者数 × 対照群の曝露者数)。まれな疾患では相対危険度に近似する。
交絡への対処
計画段階: 無作為化(介入研究のみ)、限定(対象を特定の条件に絞る)、マッチング。 解析段階: 層別解析、多変量解析。
POINT
・症例対照研究は疾患の有無で群を選び、過去の曝露を比べる後ろ向きの観察研究である。 ・短期間・低コストで、まれな疾患に向く。 ・罹患率が得られないため、相対危険度・寄与危険度は直接求められず、オッズ比を用いる(まれな疾患では相対危険度の近似)。 ・無作為割り付けはRCTの特徴。観察研究は交絡の影響を受ける。 ・長期間の追跡が必要なのはコホート研究。
